ある名作ストラテジーゲーム公式、なんと「オリジナルのソースコード」を複数作分どどんと公開。当時の開発者の“妙なコード”や不穏な記述も赤裸々に

Electronic Arts社(以下、EA)は2月28日、同社公式Git Hubページにて『Command & Conquer』(以下、C&C)シリーズから一部作品オリジナルのソースコードを公開した。同時に開発関係者の投稿を通して公開経緯とコミュニティサポートの展望が発表された。
『Command & Conquer』は、アメリカのデベロッパーWestwood Studiosが開発したリアルタイムストラテジーゲームだ。ゲームの舞台となるのは、架空の国家や空想上の歴史、近未来的なテクノロジーが存在する世界。プレイヤーは、歩兵や戦車、製造・研究施設など多彩な要素を開発・指揮して、敵対勢力の壊滅を目指し、戦闘を繰り広げていく。
シリーズ第一作が1995年に発売されて以来、オリジナルのC&Cナンバリングタイトル、同名を冠しつつもバックストーリーが異なる「Red Alert」シリーズなど、これまでに数多くの作品を展開。全世界でシリーズ累計3000万本以上を売り上げたとされる。同シリーズのファンコミュニティは海外を中心に醸成され、2025年現在でもMOD開発やオンライン世界大会が催されるなど根強い人気を持った作品だ。

オリジナルのC&Cを手がけたWestwood Studiosは2003年、親会社のEAに吸収されるかたちでEA Los Angelesへと統合。その後もシリーズの開発を継続するも、2010年リリースの『C&C 4 Tiberian Twilight』を最後に、新規のシリーズ作開発は断念。その後は多数のプラットフォームへの移植版、リマスター版のリリースを経て今日にいたっている。
太っ腹なソースコード公開&オープンソース化
そんな『Command & Conquer』シリーズのブランドを保有するEAは2月28日、同社公式のGit Hub リポジトリにて『C&C』シリーズから一部タイトルのソースコードを公開したと発表。公開された以下のタイトルは、GPLライセンスのもとで利用可能なOSS(オープンソースソフトウェア)となった。
本発表に寄せて、シリーズ開発プロデューサーの“Jimtern”ことJim Vessella氏(以下、Jimtern氏)からは、ファンコミュニティに向けた感謝の言葉が送られている。さらに新たな開発メンバーとして、『C&C』シリーズ20年来のファン、“CCHyper”ことLuke Feenan氏(以下、CCHyper氏)が参加することを報告。今後同氏は、EAと正式な業務契約を結び、関連プロジェクトに携わっていくことが明かされた。

Jimtern氏の投稿によれば、CCHyper氏は『C&C』シリーズのファンコミュニティ代表者とも言うべき人物で、その造詣の深さから『C&C Remastered Collection』および『C&C The Ultimate Collection』の制作にも協力していたという。CCHyper氏本人からのメッセージでは、OSS化実現に向けて尽力してきたEAの開発関係者、プレイテスター、そしてファンコミュニティに向けた深い感謝の意を表明。今回の発表にいたった経緯、コミュニティサポートに関する展望などが語られている。
まずCCHyper氏は、『C&C』シリーズにおいて公式によるソースコード公開は今回が初めてではないことに言及。『Remastered Edition』がリリースされた2020年に、公式コミュニティサポートの一環として収録作品向けDLLファイルが公開。これにより、高画質化されたリマスター版向けMod制作が可能となり、当時のファンたちが大いに喜んだことは想像に難くない。また、この取り組みに対する反響はシリーズファンの間に留まらず、次第にゲーム業界内からも称賛の声が寄せられたことにも言及された。「ビデオゲーム作品の保全とゲームコミュニティのサポート」を理念とするCCHyper氏の活動と、同シリーズを愛したファンたちがあってこその出来事だったのだろう。
その後も同氏は開発関係者らと連携し、『C&C The Ultimate Collection』を世に送り出し、オリジナルソースコードの復旧に尽力。こうした長年の努力が晴れて実を結び、OSS化/ソースコード公開にいたったことが明かされた。第一作のリリース1995年から数えて30年目を迎えようとする年に、まさかの事態である。

続けて、Steam Workshopにおけるサポート対象に複数のタイトルを追加。さらに、ミッションエディター、ワールドビルダーといったMod製作ツールもアップデートされ、今後は作成したマップをSteam Workshopへ直接アップロード可能になるという。同氏はこのサポートが多くのファンから熱望されていたことに触れ、今後Steam Workshopをマップ制作者たちが集える恒久的な公開スペースとする意向を語った。新たにSteam Workshopでサポートされたタイトルは以下の通りだ。
- C&C Renegade
- C&C Generals + Zero Hour
- C&C 3 Tiberium Wars + Kane’s Wrath
- C&C Red Alert 3 + Uprising
- C&C 4 Tiberian Twilight
さらに、公式サポートとして“C&C Modding Support”パックのリリースを発表。SAGE Engineを採用した各作品で使用されるxmlやscriptなど各種データが同梱されたファイルで、こちらもEA公式Git Hub上で公開されるとのこと。こうした発表をうけ、にわかに信じがたい知らせだとファンコミュニティは大盛況。シリーズ作品をプレイした当時の思い出、特定タイトルへの思い入れなど、それぞれの思い出話に花を咲かせている。また長らく本作に関わってきたコンテンツクリエイターの中には、喜びのあまり涙を流す反応もみられる。
赤裸々になる“妙なコード”
その一方では、早速ソースコードを読み漁っていくファンも存在。実行される処理のみならずコメントアウトされた記述にも興味深い内容が発見され、注目を集めているようだ。例えば、ある乱数生成処理に修正を加えたとみられる箇所には「数学的根拠は無いけど経験上これでだいぶマシになる」というコメントが添えられ、続くコードでは「poo(うんち)」「silly(ばか)」という変数名が宣言・使用されている。
また、他の行末には「Kludge.(応急処置)」と簡潔な説明があったり、とあるコードが担う処理の概要記載欄には「訳あって文字列を定数(const)として返す。いじったらきっと良くないことが起きる。警告はした。」と不吉な記述も発見されている。文量や表現はさまざまながらいかにも人間味に溢れるコメントで、開発当時の情景を思い描かせる残り香のようなものが感じられる。このほかにもファンの心をくすぐるような記述が多数発見されている模様。実際に自分の目で直接確かめたい人は、上述したリポジトリを参照してみると良いだろう。

とはいえ、こういったプログラムの内側については、通常はユーザーが目にするものと想定されない部分でもある。上述したような内容が長い年月を経てプレイヤーらの目に留まることは、当時の開発者にとって予想だにしない事態かもしれない。一部、上品とは言いがたい語彙を用いたコメントも見られるものの、きっと当時の開発環境/体制においては、多少くだけた表現を用いるほうがコミュニケーション上、より効率的な情報伝達が可能だったのかも知れない。なお、こうした発見に関してもシリーズファンからの反応は好意的なものが大半。いわゆるイースターエッグ的な要素として発掘・共有が楽しまれているようだ。
こうして和やかに喜びを分かち合う『C&C』シリーズファンコミュニティの在り方には、開発者とプレイヤーが四半世紀を超える紆余曲折を経て築き上げてきた、強い信頼関係が垣間見えるようである。今回発表されたシリーズ過去作品のOSS化、おびSteam Work Shopサポートタイトル追加を通して、今後の同コミュニティが益々発展していくことを祈りたい。
シリーズ作品を網羅した『Command & Conquer The Ultimate Collection』はPC(Steam/EA Play)にて配信中。現在Steamストアにて3月14日まで『Command & Conquer』シリーズセールを実施中だ。上述の『The Ultimate Collection』バンドルが70%オフの税込675円、 『Remastered Collection』が70%オフの税込870円で購入可能となっている。EA Playではタイトル購入のほか、サブスクリプション加入でもプレイ可能だ。