大ヒット中世都市づくり『Manor Lords』の“じっくりアプデ方針”を巡りゲーム業界人の議論白熱。早期アクセス中のアプデは急ぐべきか否か

『Manor Lords』について、業界人により「リリース直後のアップデートが少ないため、早期アクセス作品として失敗例である」といった意見が投じられ、注目されている。

パブリッシャーのHooded Horseが4月28日に早期アクセス配信開始した『Manor Lords』について、業界人により「リリース直後のアップデートが少ないため、早期アクセス作品として失敗例である」といった意見が投じられ、注目されている。一方でHooded HorseのCEOであるTim Bender氏が反論し、同氏の考える“持続可能な開発方針”が示されている。海外メディアVG247が報じている。

本作は、14世紀のドイツ・フランケン地方をモチーフにした世界を舞台にする都市建設・戦略ゲームだ。ポーランドの開発者Greg Styczeń氏の個人開発により発足した作品であり、現在は同氏を中心としたチームで開発されているとみられる(関連記事)。本作にてプレイヤーは中世を生きる領主となり、未開の地を開拓。土地ごとの特徴にあわせていくつもの集落を築き、活気ある街へと発展させていく。


『Manor Lords』では中世の町や村の歴史を参考にしたというシステムが採用されている点が特徴。たとえば家の建設においては実在した土地区画制度に従っているという。また、本作にはほかの地域との交易といった外交要素も用意。領土をめぐって戦争が勃発することもあり、プレイヤーはリアルタイムで展開する戦略バトルを制することになる。

本作は早期アクセス配信開始直前までにウィッシュリスト数300万件を突破する非常に高い前評判を獲得。そして4月28日に早期アクセス配信が開始され、5月16日には、売上が200万本を突破したことが発表されている。Steamユーザーレビューでは本稿執筆時点で約4万3000件中88%が好評とする「非常に好評」ステータスを獲得。早期アクセス時点で高い人気と評価を獲得している作品だ。


大人気ゲームを“失敗例”とする業界人意見

一方でそんな本作について、人気雪山サバイバルゲーム『The Long Dark』の開発元Hinterland のCEOを務めるRaphael van Lierop氏は“早期アクセス作品の失敗例”といった見方を示している。ビジネス向けSNSであるLinkedInへの投稿において、まず同氏は『Manor Lords』をじっくりとプレイしているとしつつ、内容も非常に高品質であると称賛。しかし、ゲームの基礎となる部分は高品質ながらもコンテンツが不足しているとの考えを伝えている。

Lierop氏は、本作のようにシステムに重きが置かれた作品では、幅広いマップやゲームモード、自動生成要素などが新鮮さを保つために必要であるとの見解を説明。一方で本作ではゲーム序盤のスタート条件がほぼ同じであり、5ゲーム~10ゲームもプレイすればやることがなくなるとしている。


Lierop氏は続けて、そうした課題は頻繁なアップデートで新システム実装やコンテンツ拡張をおこなえれば解消されるとの考えを述べた。本作でも早期アクセス配信開始後アップデートは実施されてきたものの、不具合修正やバランス調整中心の小規模アップデート、およびベータブランチ向けのアップデートであった。同氏はこの点についてアップデート不足であるとしつつ、同時接続プレイヤー数も急落しているとコメント。たしかに早期アクセス配信直後は最大で17万人以上を記録していたSteam同時接続プレイヤー数は、直近では連日ピーク時約1万人と落ち着きを見せている(SteamDB)。

Lierop氏は、早期アクセス配信後の同時接続プレイヤー数急落については、本作に限った現象ではないとも説明。最近では多くの早期アクセス作品で、プレイヤー数が配信開始後すぐに激減する傾向もあるようだ。しかし同氏は、本作が高い前評判を獲得していた点に触れて、もっと開発者とパブリッシャーは(リリース後のアップデートの)準備をしておくべきだったとの意見も述べている。つまりリリース後に大きなアップデートを続けていれば、もっとプレイヤーベースを維持できたとの見方だろう。

Lierop氏は投稿の最後に、期待作を早期アクセスとして配信する場合、はじめの3か月については明確なアップデート計画を立てるべきとの持論を説明。そして3か月以内に新コンテンツや新機能を含む大型アップデートを2回~3回リリースする必要があるとしている。同氏自身の開発経験や、最近の業界の傾向を見た考えなのだろう。同氏の投稿には賛否入り混じる反応が寄せられている。


パブリッシャーのCEOが直々に反論

そしてLierop氏の投稿には、『Manor Lords』のパブリッシャーを務めるHooded HorseのCEOであるTim Bender氏も直々に反論している。Tim氏はまず、本作が先月6月にさらに売上を25万本上乗せしたことを報告。さらに、先述のとおり本作がSteamのユーザーレビューにて「非常に好評」ステータスを記録していることに触れつつ、プレイ時間の中央値もひとりあたり8時間48分と、幅広いユーザーに長めに遊ばれていることを伝えた。プレイヤーの満足度は高いと考えているそうで、かつパブリッシャーとしても非常に喜ばしい成果をあげているとのこと。それでも早期アクセス作品として“失敗例”だという、Lierop氏の意見に反対しているようだ。

またTim氏は続けて、本作の開発者に向けてリリース前にある助言をしていたという。同氏は、リリース後に「望まれるようなスピードでアップデートできずにチャンスを逃した」といったさまざまな意見が寄せられるであろうことを、前もって開発者に伝えていたそうだ。そして早期アクセスの道のりは長いため、そうしたユーザーからの期待をくれぐれもプレッシャーにしないよう、開発者自身のビジョンに集中するようにアドバイスしていたとのこと。


Tim氏のこうした考えの背景には、「持続可能な開発姿勢」を目指す方針があるようだ。たとえば同氏は、成功によって新たな成長への期待のハードルを上げ続けてはならないと説明。また、あらゆるゲームに“いちかばちか(boom or bust)のライブサービス”のような成果を求めるべきでもないと説いている。同氏としては、開発者が精神的あるいは肉体的な健康を損なうような運営を余儀なくされる、どんどん激化していく開発をパブリッシャーとしておこなわせるつもりはないようだ。

早期アクセス開始直後から大きな成功をおさめている『Manor Lords』のアップデート姿勢を巡るふたつの意見の対立。いずれも実績ある業界人の意見であり、それぞれの経験に基づく考えが反映されているのだろう。とはいえTim氏としては、Lierop氏の説くような「リリース後も急いでアップデートが必要」といった意見が寄せられることは織り込み済みだった様子だ。少なくとも現状の『Manor Lords』では、パブリッシャーであるHooded Horseの方針どおりに開発が進められているのだろう。今後正式リリースに向けて、どのように『Manor Lords』の展開が続けられていくかも注目されるところだ。

『Manor Lords』はPC(Steam/GOG.com/Microsoft Store)向けに早期アクセス配信中だ。PC Game Pass向けにも提供されている。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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