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UE5ゲーム開発者が直面した「画面チラつき問題」に、ベテラン開発者がこぞってアドバイス。『Doom』の生みの親など、世界の開発者がレンダリング談議
著名プログラマーをはじめ、海外のベテラン開発者たちが次々とアドバイスを寄せている。

ゲーム開発者の素朴な気づきを発信したポストが国内外で注目を集めている。著名プログラマーをはじめ、海外のベテラン開発者たちが次々とアドバイスを寄せている。
ポストを発信したのは、個人開発者のトの字氏だ。同氏は2023年にソウルライク剣戟アクション『巫兎 – KANNAGI USAGI –』を無料でリリース。フロム・ソフトウェアが手がけた『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』のボス戦のみを抽出したようなゲームプレイが好評を博し、Steamユーザーレビューにて7071件中98%もの好評率で「圧倒的に好評」ステータスを獲得している。現在は大鎌使いの少女が主人公を務める高難易度アクションゲーム『Gothic Scythe』を開発中だ。

一瞬のチラつき
そんな『Gothic Scythe』の開発画面と見られる映像とともに、トの字氏はXにとある現象について投稿している。同氏によると、屋内のマップで画面が一瞬チラつく不具合が発生しているという。映像を見ると、カメラが部屋から廊下に出た瞬間、視界から壁に隠れていたオブジェクトが表示されると同時に、一瞬白くチラついていることが分かる。同氏はこの現象が「オクルージョンカリング」という機能に起因するものだと知り、最適化の必要性を感じていたそうだ。
オクルージョンカリングとは、カメラの視界内にはありながら遮蔽物の裏に隠れているオブジェクトを描画しないようにする技術だ。実際には見えておらず描画する必要のないオブジェクトを選択的に計算対象から除外できるため、負荷の低減にも繋がる。特にオブジェクトの多い3Dゲームにおいては、重要な最適化手法の一つだ。
トの字氏の投稿には、おもに海外のゲーム開発者たちから多くのコメントが寄せられた。たとえば、Raven Softwareにて『コール オブ デューティ』シリーズのアートに携わるJohn Kinzel氏も返信。同氏によれば、こうしたチラつきはUnreal Engineのよく知られている問題であるという。Unreal EngineのオクルージョンカリングではまずGPUによって、カメラにオブジェクトのメッシュが映るかどうかを判定。それをレンダリングの処理を受け持つCPUに伝えるのは次のフレームになるため、一瞬遅れてオブジェクトが表示されたりするとのこと。
そのためKinzel氏は、見えているかの判定に使われるメッシュのBoundsを大きくすることで、実際にオブジェクトがカメラに映るよりも早く描画し始めるようにするというテクニックの利用を推奨した。
また、レンダリングエンジニアのSebastian Aaltonen氏もポストに反応している。Aaltonen氏はUbisoftでシニアリードプログラマーを務めていた際、『レインボーシックス シージ』や『アサシン クリード ユニティ』向けにGPU駆動型のレンダリングパイプラインを開発したと説明。このレンダリングパイプラインの開発した背景には、オクルージョンカリングによるチラつき問題を解決するという目的もあったそうだ。GPUとCPUを往復する処理には遅延が伴うため、GPUのみで可視性の判定を完結させることで、チラつきが起こりづらくなるという設計のようだ。
別の“レンダリング談話”も
ちなみにこの話題には、id Softwareの共同創設者であり、『Doom』や『Quake』といった名作ゲームのリードプログラマーを務めたJohn Carmack氏も反応を寄せている。Carmack氏は、他のユーザーによる「二分空間分割(以下、BSP)がなぜロストテクノロジーと見なされているのか」という発言に対して返信をおこなった。
BSPとは、空間を平面で2つに分割することを再帰的に繰り返し、BSP木と呼ばれる木構造を作る手法だ。CG研究の中で発展したこの手法は、ゲームの分野では1990年代の3Dゲームを中心に採用され、Carmack氏が携わった『Quake』では、各レベルを巨大な3DのBSP木として扱い、描画順序の決定や衝突判定のほか、今回扱っている可視性の判定などに活用した代表的な作品として知られる。

Image Credit: IGDB
Carmack氏は、今日の空間分割においては任意平面で区切るBSP木よりも、座標軸に沿った分割をおこなうKD木のほうが一般的に優れた選択肢であるとの見方を示した。同氏いわく『Quake』は、レンダリングジオメトリと分割ジオメトリが便利なことに一致していた時代の末期の作品だとしている。当時の作品では、壁や床などの描画用のメッシュが、空間分割に用いるための平面としても機能していたという意味で、BSDが効果的だったのだろう。
国内ゲーム開発者の悩みをきっかけに、海外のベテラン開発者たちがレンダリング話に花を咲かせる一幕も見られた。今日ではXで生成AIによる自動翻訳が実装されたこともあり、幅広い言語圏に情報が発信されるようになったといえる。ゲーム開発で浮かんだ疑問などをこうしたSNSで発信すると、意外な広がりを見せることもうかがえる事例といえそうだ。
なお今回報告されたオクルージョンカリングによるチラつきについては、製品版ゲームでもよく見られ、必ずしも問題視されていないとして複数のユーザーが反応を示している。ただ「神は細部に宿る」とはこのことか、細かな修正まで突き詰めるこだわりこそがユーザーの良質なゲーム体験に繋がるのかもしれない。トの字氏はさっそく寄せられたコメントを参考に対策に取り組んでいるそうで、細かなところまで気を配り、丁寧に作り上げられている『Gothic Scythe』に期待したい。
『Gothic Scythe』はPC(Steam)向けに、2026年内にリリース予定だ。
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