ある新作大規模MMORPG、開発初期の荒々しい「アセットまんま」状態を堂々と公開。“クソみたい”と言われるの承知で率直に見せる
Fantastic Pixel Castleは4月5日、『Ghost』というプロジェクト名で開発中の新作MMORPGの開発状況を公開した。開発初期段階のゲーム内画像のほか、開発進行のあれこれが惜しげもなく紹介されている。海外メディアGamesRadar+が伝えている。
『Ghost』は、ファンタジー世界を舞台とするMMORPGだ。プレイヤーは“忘れ去られた黙示録(an apocalypse lost to memory)”の生存者となり、世界の再建を目指して冒険を繰り広げるという。街にリソースを持ち帰り、派閥を支援して成長させるといった要素が用意されるとのこと。また現代的なファンタジー(modernized fantasy)作品となることが掲げられており、典型的なファンタジー作品とは異なる世界観が構想されているようだ。たとえばエルフやオークといった種族は本作には登場しないとのこと。
開発を手がけるFantastic Pixel Castleは、Greg Street氏が率いるスタジオだ。同氏はBlizzard Entertainmentにて『World of Warcraft』にリードシステムデザイナーとして携わっていたほか、Riot Gamesでは『League of Legends』のリードゲームデザイナーを担当。その後Riot Gamesでは『League of Legends』の世界観をもつ新作MMOゲームの開発に携わったものの(関連記事)、2023年3月に同社を退職した。
その後NetEaseのサポートを受ける新スタジオFantastic Pixel Castleが設立。Greg氏はスタジオ責任者を務めており、ディレクターとして『Ghost』を開発してきた。なお本作はAAA級の大規模開発ゲームになるといい、ゲームエンジンにはUnreal Engine 5が用いられている。
最初の「マイルストーン」
『Ghost』は昨年11月に発表。そして今回、最初の開発者ブログとして、ここ数か月間で進められてきた開発の状況が細やかに報告されている。開発者ブログではまず、ゲーム開発におけるプロセスを紹介。これによると、一般的なゲーム開発においてスタジオはマイルストーン(milestone)として、できるだけ達成可能な目標を設けた期間を設定するそうだ。またマイルストーンにおける目標は細分化され、sprintという2~3週間の期間を定めて取り組まれていくという。
そして報告によると、『Ghost』は第1マイルストーンを達成したばかりだそうだ。第1マイルストーンは基礎となるゲームプレイ、およびRed Zones・Blue Zonesと呼ばれる2種類のフィールドを用意することが目指されたとのこと。またゲームプレイとは別に、世界観やストーリーも構想が進んでいるという。第1マイルストーンでは世界観の土台となる、ストーリーの出発点が設けられたそうだ。
アセットそのままの状態公開
さらに、開発中のゲーム画面も披露されている。ただし公開されたゲーム画面は環境、敵、プレイヤーキャラに至るまで、すべてUnreal Engineのマーケットプレイスから導入した仮アセット(3Dモデルなど)だという。またUIについても仮置きのもの(placeholder)だそうで、チーム内でプレイテストや開発作業をおこなうための状態とのこと。披露された画像ではRed Zonesとされるフィールドにて戦闘をおこなう様子や、経験値(XP)を得るシステムなどが動作していることが確認できる。敵をターゲットしたり、2種類のクラスを切り替えたり、進行状況をセーブしたりといった機能も実装されているそうだ。ボスとの戦闘や、死んで復活するシステムも動作しているとのこと。ゲームとしてベーシックな機能ではあるものの、実装の過程が示されるのは興味深い。
さらにRed Zonesからは先述のBlue Zonesへのワープも可能だそうだ。ポータルを潜り抜け、Blue Zonesに移動する様子も紹介されている。Blue Zonesはフィールドが自動生成されるシステムが用意されるそうで、現時点では木や馬などがまばらに配置されるように実装されているとのこと。将来のマイルストーンでは、モンスターやリソース、クエストといったさまざまなモノが配置されることが目指されるという。
このほか世界観の制作状況としては、3種類のコンセプトアートが披露。街並みや敵のほか、UE5で描画された実験段階のアートスタイル例も紹介されている。ライティング、コントラスト、スカイボックスといった要素を調整して、どのようなアートスタイルがよいかを模索しているそうだ。
なお先述のGreg氏によると、開発状況をあえて披露した背景には、開発にまだまだ時間がかかることを謝罪することなく、本作が開発初期段階にあることを明示する意図があったという。かなり簡素に見えるプロトタイプ段階のゲーム映像を公開して、一部ユーザーから“クソみたい(looks like ass)”だと言われることも、承知の上とのこと。また開発者ブログを見るに、ゲームプレイを見せられないほどの初期段階から“共に歩めるプレイヤー”たちとの交流をおこなう狙いもあるようだ。 ちなみに今後開発が進む中では調整のすえボツになるアイデアも生じうることが伝えられており、今回紹介された要素も例外ではないだろう。
大規模開発作品においては、開発初期段階の内容が惜しげもなく明かされるのは珍しい。特にグラフィック品質を売りのひとつにするゲームでは、イメージを損ないうる未完成状態のゲームを公にすることが一般的に避けられる傾向はあるだろう。一方で今回の『Ghost』では、開発初期のゲームの状態や進捗が堂々と明かされたかたち。大規模開発の裏側が垣間見える内容で、今後もそうした情報が明かされていくかどうかは興味深いところだろう。
ちなみに、過去には「ゲーム開発にあたりグラフィックは最初に完成されるか否か」との議論が巻き起ったことがある。その際には、「仮アセット」によるゲーム開発初期の簡素なグラフィックが、開発者らから多数共有されていた。本作でも開発初期バージョンにマーケットプレイスのアセットがそのまま用いられている点を見るに、「グラフィックは後回し」事例の貴重な資料のひとつといえそうだ(関連記事)。
『Ghost』はFantastic Pixel Castleにより開発中だ。