『原神』がThe Game Awardsユーザー投票部門で大躍進。しかし“ご祝儀期待”や不正嫌疑など、意義を問う声集まる


開催が目前に迫ったゲームの祭典「The Game Awards 2022」。そのユーザー投票部門において、『原神』が大躍進を見せた。急激な得票数上昇がユーザーらの注目を浴び、「“ご祝儀石”のためでは」などの推察も浮上。「不正投票である」と糾弾する者まで出現し、同イベント主催者側が否定する一幕があった。


The Game Awards(以下、TGA)は、年末に開催されるゲームの祭典だ。ジャーナリスト/司会者のGeoff Keighley氏が創設し、同氏がプロデューサーおよび司会を務めている。Game of the Yearをはじめとして、音楽・アート・インパクトなどを評価する多彩な部門が存在。ここ1年の間に登場した珠玉のタイトルたちにさまざまな栄誉が贈られる。また、新作発表の場にもなっており、昨年は『Alan Wake 2』『野狗子: Slitterhead』といった注目作がお披露目。世界中のゲーマーたちが息を呑んで見守るイベントとなっている。

そんなTGAのユーザー投票部門である「Players’ Voice」部門では、プレイヤーら自身が、公式ページを通じてゲームに投票可能。『エルデンリング』や『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』といった本年GOTY部門ノミネート作品のほか、『マインクラフト』『原神』など長く遊ばれている作品も対象となり、ユーザーたちの投票を受け付けている。そして同部門にて、『原神』が急激な得票数の伸びを記録。この現象がユーザーらの注目を集め、さまざまな反響が寄せられているのだ。

ユーザーらの観測によれば、『原神』の躍進が見られたのは現地時間12月1日の投票第2ラウンドのことだ。同部門ページでは、その時点での各タイトル得票割合がユーザーにも開示されている。上述のツイートでは、ある時点まで『ソニックフロンティア』が全体の25%の票を占め、1位を獲得している様子が示されている。しかしその後、5%の得票数に留まっていた『原神』が一気に票を稼ぎ、『ソニックフロンティア』を追い抜いて1位に躍り出たのだ。なお、筆者も『ソニックフロンティア』の1位と『原神』の追い上げを目撃している。

こうした得票数の動きを受けたユーザーらの反応もさまざまだ。たとえば、上述のユーザーは得票数の上昇について、「『原神』がアワードを取れば、原石が配布されるからではないか」と分析している。『原神』には祈願と呼ばれるガチャ要素があり、その抽選などに利用できるのが原石だ。この原石は課金のほか、通常のゲームプレイでも入手機会はある。ただ、原石はいくらあっても困らない同作ファン垂涎のゲーム内通貨だ。そして、『原神』では同作のアワード入賞などの折に触れて、原石の配布がおこなわれるのが通例。先日にも「PlayStation Partner Awards 2022 GRAND AWARD」受賞祝いとして、原石合計800個の配布が実施されていた。こうした、いわば“ご祝儀石”を求めるファンが、『原神』にアワードを取らせるため投票したとの見方がなされているわけだ。

実際に、Redditの『原神』コミュニティでもPlayers’ Voice部門の得票数は話題になっていた。このトピックを扱うスレッドでは、無料原石への欲望をあらわにするコメントも散見される。貴重な原石を求めて1票を入れたユーザーもいることだろう。

一方で、なかには「投票でなんらかの不正がおこなわれているのではないか」と判断し、主催者側を詰問するユーザーもあらわれた。ユーザー投票アワードそのものの意義を揺らがしかねない指摘だろう。TGAの立役者であるKeighley氏は12月3日、RedditにてAMA(Ask Me Anything/なんでも聞いてね)企画を実施。ユーザー質問が寄せられるなか、とあるユーザーが「Players’ Voice部門では明白な贈収賄と、BOTによる自動投票がおこなわれている」と断言し、どう対策を講じていくのかとKeighley氏に詰め寄った。つまり、『原神』の得票数の増加は不正であり、対処が必要だとの主張だろう。

一方、Keighley氏は「投票が自動によるかはわからない」として自身の見解を返信。「おそらくファン主導による投票活動か、運営側による投票の呼びかけが理由ではないか」と分析している。また、同氏はTGAのメイン部門群にファン投票ベースの部門がないのは、こうしたファン主導や企業呼びかけで表が動きやすい傾向があるためだと説明した。Keighley氏は不正がおこなわれた可能性に否定的な見解を示しつつも、なんらかの変更が必要か検討する姿勢も示している。


なお、「贈収賄」については、前述の“ご祝儀石”自体をユーザーに対する賄賂(bribe)と解釈する意見もあるようだ。たしかに、垂涎のアイテム配布が見込める分、『原神』が投票で有利になる側面はあるだろう。また、Players’ Voice投票第2ラウンドでは複数のタイトルに投票が可能だった。『原神』はそもそもファンベースが巨大であり、「とりあえず入れよう」と1票投じたユーザーだけでも相当数にのぼるだろう。『原神』の票の躍進が「ご祝儀への期待」なのか、そしてその是非はともかく、『原神』運営側が意図して不正を働いたと断言するには根拠を欠いているのは確かである。一方で、ユーザーベースが大きな作品のファンが、“自分が報酬をもらいたいがため”に組織的な投票をするとなれば、ユーザー投票アワードの意図するものとは違うバイアスがかかることになる。こうした動きは誰かが抑制することはできないので、非常に難しい問題である。

The Game AwardsのPlayers’ Voice部門は3ラウンド制。現地時間12月5日より、最後となる第3ラウンドが公式投票ページにて開始予定だ。自分のこれぞと思う作品に投票するのがよいだろう。