“戦闘なし”終末世界冒険ゲーム『Caravan SandWitch』は、当初「ド派手ロボットバトルゲーム」だった。なぜ「戦闘なしゲーム」になったのか、日本語対応理由やウィッシュリスト集め方などいろいろ開発者に訊いた
パブリッシャーのDear Villagersは9月12日、『Caravan SandWitch』を配信開始した。対応プラットフォームはPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch/PS5で、ゲーム内は日本語表示に対応している。
『Caravan SandWitch』はバンに乗って惑星を探検するSFアドベンチャーゲームだ。主人公のソージュは故郷の星を出て都会で暮らしていたが、6年前に失踪した姉の宇宙船より、ある日遭難信号を受信する。突然の受信に驚いたソージュは、信号の発信元である故郷の星、シガロに向かう。そうして久しぶりの地元の友人との再会を楽しみつつ、行方不明の姉を捜して冒険を繰り広げる。
本作には戦闘要素やゲームオーバーが存在せず、平和的に探索を楽しむことができる。舞台となる星シガロは、フランス・プロヴァンス地方がモデルになっており、緑豊かなエリアがある一方で、過剰開発により砂漠化してしまった地域なども存在。現在は開発も放棄され、かつての残骸が放棄されている。プレイヤーはこうした土地を、相棒となるバンに乗りつつ探検。スクラップを集めて、アンテナやグラップリングフックなどバンの機能を強化し、ストーリーを追っていくことになる。
このたび弊誌は、本作の開発を手がけたStudio Plane Toastにメールインタビューを実施。当初は“激しいボス戦”が存在していたという本作から戦闘要素がなくなったわけや、プロヴァンスで育ったという開発陣が同地について抱く思いなどを伺うことができた。以下にその内容を紹介する。
──自己紹介と、スタジオの紹介をお願いします。
開発チーム:
Studio Plane Toastです。『Caravan SandWitch』の開発を手がけています。当スタジオはフランス南部のプロヴァンスに拠点を置いており、地中海沿岸に存在する同地の空気が感じられるような、リラックスして遊べるゲームの開発に取り組んでいます。
スタジオの共同設立者であるAdrien LucasとÉmi Lefèvreは、高校からの友人同士です。当時からふたりで、小さなゲームをいっしょに制作していました。本作『Caravan SandWitch』は、そんなふたりが高校時代からアイデアを温めていた作品です。高校卒業から5年の時を経て、AdrienとÉmiは当スタジオを立ち上げました。パブリッシャーと契約を結び、スタッフを雇って15人ほどのチームを結成し、学生時代のアイデアを現実のものにすることにしたのです。
日本語対応は、日本人気を見て決めた
──Steamでウィッシュリスト登録数が10万件を超えるなど、本作は発売前から大きな注目を集めています。開発チームでは、本作のどこがユーザーを惹きつけていると考えていますか。作品の認知度を高めるうえで、どのような活動をおこなわれたのでしょうか。
開発チーム:
本作『Caravan SandWitch』は初めて発表したときから、とても好意的な反応を得ることができていました。本作のアートスタイルとゲームプレイが相乗効果を発揮し、ユーザーに鮮烈な印象を与えることができたようです。またさまざまなゲームイベントに積極的に参加したことにより、より幅広い層のプレイヤーに本作を知ってもらうことができました。
本作の認知度を高めるうえでもっとも効果を実感した活動は、今年6月のSteam Next フェスに参加したことですね。2000人以上のプレイヤーにデモ版を遊んでいただき、イベントのプレイヤー数ランキングで25位にランクインすることができました。プレイヤー数だけでなく評判もよかったので、とても誇らしい気持ちになりましたね。またそのほかにも、Wholesome DirectやAG French Direct、Future Game Showといったゲームイベントに参加したことは、本作の周知に極めて効果的だったと感じています。
──日本のユーザーからの反応はいかがでしょうか。
開発チーム:
日本のプレイヤーからは大きな反響が得られています。ウィッシュリスト登録数も多く、日本からの注目は各国でもトップクラスですね。発表当初から日本のプレイヤーは本作に興味を示し、X(旧Twitter)などSNSでたくさん語ってくれました。またAUTOMATONを含む日本の複数のゲームニュースサイトが、本作の紹介記事を書いてくれました。日本からこれほど反応を得られるとは予想していなかったので、嬉しいサプライズでした。こうした日本からの大きな注目により、パブリッシャーのDear Villagersは本作を日本語へローカライズすることを決めました。
日本からの反応でとりわけ印象に残ったのが、とあるストリーマーによるデモ版の実況動画です。当時デモ版は日本語に対応しておらず、そのストリーマーはストーリーを理解するのに苦労していたようでした。しかし彼はそれでもデモ版を楽しんで遊んでくれて、またアートスタイルについて称賛してくれました。製品版は日本語に対応していますので、彼が改めて本作をプレイし、ストーリーも含めて『Caravan SandWitch』のすべての要素を楽しんでくれたらと思っています。
──そのデモ版についてですが、全体としてプレイヤーの反応はいかがだったでしょうか。デモ版のフィードバックを受けて、製品版で取り入れた要素などはありますか。
開発チーム:
デモ版の反響は素晴らしいもので、我々の想像をはるかに超えるものでした。合計でおよそ4万人ものプレイヤーがデモ版を遊び、フィードバックを寄せてくれたのです。残念ながらデモ版の公開から本作の発売まで2か月ほどしかなかったため、要望を受けて実際に導入できた機能は一部だけでしたが、それでもいくつかの機能を実装できました。一例をあげると、マップの好きな位置にマーカーを設置できるのは、プレイヤーの要望を受けて取り入れた機能です。またバンに乗ったとき画面が暗転するのが奇妙だといった声があったため、修正をおこないました。そのほかフィードバックのおかげで、多くのバグを修正することもできました。
戦闘要素がない理由
──本作には戦闘要素がありませんが、なぜ平和な冒険ゲームを作ろうと思われたのでしょうか。本作の開発経緯について教えてください。
開発チーム:
実は開発の初期段階では、本作には戦闘要素が存在していました。ロボットのボスと激しい戦いを繰り広げるような、アクションバトルを試験的に実装したのです。しかし開発を続けていくと、そうしたバトル要素は本作の目指す方向性に合っていないと感じるようになりました。
本作の中心となるコンセプトは、穏やかでストレスがなく、自分のペースでのんびり探索できるゲームというものでした。激しいボス戦というのは明らかに、そうしたコンセプトに反しています。結局、戦闘要素はすべてカットすることにしました。本作本来の魅力である探検とストーリーという要素に集中することで、戦闘なしでもゲームを面白くできると考えたためです。
──戦闘要素がないことに加え、本作では高いところから落ちてもダメージなどはありません。ゲームオーバーになることがないシステムと言えると思いますが、狙いはなんでしょうか。
開発チーム:
戦闘要素をカットすると決めた時点で、プレイヤーがゲームオーバーを経験する可能性はほぼなくなったのですが、まだ落下という危険は存在していました。開発初期のバージョンではやはり高い所から落下することでダメージを受けていたのですが、ゲームの面白さに貢献している要素だと思えなかったので、思い切って体力ゲージごと削除しました。バトルをカットしたのと同様に、本作のコンセプトを突き詰めた結果です。
どんなに高いところから落ちてもなんともない、というのは奇妙にも見えますが、プレイヤーはきっとすぐに慣れると考えました。ゲームオーバーを排除したことで、本作はより気軽に楽しめ、幅広いプレイヤーに楽しんでいただける作品になったと思います。
──本作では、バンを運転して惑星を冒険することになります。車の挙動についてこだわったところなど教えてください。
開発チーム:
車の挙動に対するゲーマーの好みは人それぞれ差が大きいと感じており、快適さとリアルさのあいだで意見が分かれるところだと思います。本作『Caravan SandWitch』はカジュアルなゲームプレイを目指していたので、バンも気軽に動かせることを心がけました。プレイヤーの操作には機敏に反応しつつも最高速度は控えめで、コントロールしやすい運転にするのが目標でした。
ただ軽快さを保ちつつも、一定のリアルさも感じられるよう調整はおこないました。すべてのプレイヤーに満足してもらうのは難しいかもしれませんが、我々自身としては本作のバンの挙動はとても気に入っています。車はやっかいな荷物ではなく、役に立つ道具だと感じられる仕上がりになっていると思います。
開発チームの故郷・プロヴァンスから大きな影響
──本作の舞台となる星「シガロ」はフランスのプロヴァンス地方がモデルになっているそうですね。開発スタジオもプロヴァンスにあるとのことですが、具体的にどのような場所を参考にしましたか。
開発チーム:
当スタジオの共同創設者であるAdrienとÉmiは、ふたりともプロヴァンスで育ちました。昔住んでいた家や村、周りにあった自然など、ふたりが育った環境がそのまま本作のインスピレーションの源となっています。ただチームのなかにはプロヴァンスについて詳しくないスタッフもいたので、開発の初期段階ではみんなでハイキングをしたりして、プロヴァンスの空気感を共有していきました。
また同地の田舎だけでなく、工業地帯も参考にしています。プロヴァンスには古い工場などが存在するほか、ITER(国際熱核融合実験炉)という巨大施設も存在しているのです。ITERにおける核融合研究プロジェクトの存在は、本作の物語へも大きな影響を与えています。
──シガロは多くの住民たちが移住して出ていき、さびれた星となっています。残った住民も、仕事の少なさなどで苦労しているようです。現実のプロヴァンスもこうした問題を抱えているのでしょうか。
開発チーム:
プロヴァンスはさびれてはいませんが、それでも特有の問題があります。活気があり、多くの人々がこの地の太陽と海を楽しみにやってくる一方で、古くからの村の住民は貧困に苦しんでいるのです。こうした村々は眺めるぶんには美しく、多くの観光客が訪れるのですが、地元の住民は仕事を見つけて日々を生きていくのに苦労しています。こうしたプロヴァンスの二面性について、同地で育った我々は深く心を痛めています。本作『Caravan SandWitch』では少し違うかたちで、そうした田舎の光と影について描きました。
──本作を制作するうえで、影響を受けたものを教えてください。
開発チーム:
もっとも大きく影響を受けたのは、やはりプロヴァンスという土地そのものです。ですがもちろん、多くのフィクション作品からも影響を受けています。たとえば『Alba: A Wildlife Adventure』は、地中海の島の空気の描き方について、多大なインスピレーションを与えてくれました。またグラフィック面では『Firewatch』からも影響を受けました。ストーリーにおいては『Mutazione』『Night in the Woods』にインスパイアされましたし、ゲームプレイでは『Beyond Good & Evil』『DEATH STRANDING』『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』からの影響が大きいです。またゲーム以外でいうと、「天空の城ラピュタ」など映画作品のアートも参考にしましたね。
──本作の開発で苦労したところを教えてください。
開発チーム:
本作は、我々Studio Plane Toastにとって初めての作品です。何をどうしたらゲームが完成に至るのか、我々は真の意味で理解していなかったため、開発は大変な道のりでした。それに本作の開発を率いたÉmiとAdrienは、パブリッシャーと契約を交わした時点ではまだ22歳で、いろいろな経験が不足していました。苦労は多かったですが、我々は素早く適応して成長し、最終的には15人からなるチームにより、本作に命を吹き込むことができました。
チームは一緒に働くうえで素晴らしいメンバーが揃っていましたが、それでも制作上では大きな課題にいくつも直面しました。特定の分野における人手不足や、ゲームデザイン上の問題などに直面し、ゲームの規模を縮小することを余儀なくされたり、またチーム内で意見が対立したこともありました。しかし我々はプロらしく、対話を通して問題を解決するよう努めました。開発全体を通して、チーム内の誰もが自由に発言し、考えを共有できるようなスタジオの雰囲気を保ってきました。
──本作は映像酔い軽減モードなど、アクセシビリティオプションが充実している印象です。アピールしたいアクセシビリティ要素を教えてください。
開発チーム:
アクセシビリティは、とても重要なトピックだと感じています。オプション設定にとどまらず、アクセシビリティについては開発プロセス全体を通して、常に考慮してきました。たとえば本作は、特定の色を見分けられなくてもプレイに支障が出ないように設計されています。またボタンを押しっぱなしにする操作が難しい方もいるため、長押しは必要としないようにしています。
さらに軽度の視覚障害をお持ちの方でもプレイしやすいよう、操作可能なオブジェクトに近づいた際は分かりやすく表示し、また視覚のほか音響でもオブジェクトを認識できる、スキャン機能も実装しています。またいわゆるゲーム酔いされる方のためにカメラの揺れを軽減するモードを搭載し、またキーボードとゲームパッドの双方向けに、キーの配置を自由にカスタマイズできるオプションを盛り込みました。
こうしたアクセシビリティの盛り込みにより、多くの方に本作を楽しんでいただけたら嬉しく思います。将来的にはアップデートにより、さらにアクセシビリティのオプションを追加していけたらと考えています。
──日本のプレイヤーに向けてメッセージをお願いします。
開発チーム:
皆さんこんにちは!Studio Plane Toast初の作品となる『Caravan SandWitch』をサポートしていただき、誠にありがとうございます。我々は本作の開発に、精いっぱい打ち込んできました。そんな本作が日本のプレイヤーから多くの注目を集めているのは感動するような出来事で、本当にありがたく思っています。皆さんが本作で、平和で穏やかなひとときを楽しんでくださったら嬉しいです。『Caravan SandWitch』があなたの心に語りかけ、プレイし終えた後には郷愁の念とともに振り返れるような、そんな作品となることを願っています。
──ありがとうございました。
『Caravan SandWitch』はPC(Steam/Epic Gamesストア)/Nintendo Switch/PS5向けに配信中だ。Steamでの価格は税込2950円で、ゲーム内は日本語表示に対応している。また現在各ストアではリリース記念セールがおこなわれており、定価の10%オフで購入可能となっている。