高評価ADV『シュレディンガーズ・コール』の感想、胸にそっと秘められがち問題。でも開発者は感想を発信してほしい、ネタバレなしインタビュー

『シュレディンガーズ・コール』の開発チームとプロデューサーにインタビューを実施。もっと感想を発信してほしいらしい。

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集英社ゲームズが5月28日に発売した『シュレディンガーズ・コール』は、世界最後の話し相手としてさまよう魂たちの心残りに応える、ノベルアドベンチャーゲームである。対応プラットフォームはNintendo Switch/PC(Steam)。Metacriticでは「Must-Play」に選出され、「2026年上半期ベストゲームにて」第1位を獲得。日本のタイトルでありながら、言語の壁を越えた高い評価を受けている作品だ。

今回、弊誌では『シュレディンガーズ・コール』の開発チームのAcrobatic Chirimenjakoメンバーと、集英社ゲームズの林プロデューサーにインタビューを実施。発売から2か月が経過した心境を伺いつつ、「本作の感想の言語化の難しさ」と「それでも語ってほしい」という思いの狭間に立つ、開発者たちのジレンマを訊いてきた。なお本稿は作品のネタバレを避けた内容となっているため、プレイ中の方や未プレイの方も安心して読み進めてほしい

――自己紹介をお願いします。

Achabox氏:
Acrobatic Chirimenjako(以下、アクチリ)でディレクションとアートを担当しています、Achaboxです。よろしくお願いします。

入交星士(以下、入交)氏:
メインシナリオ、サウンド、映像、演出プログラムのほか、日本国外向けの情報発信を担当しています、入交です。よろしくお願いします。

ame氏:
エンジニアリングとサブシナリオを担当しています、ameです。よろしくお願いします。

集英社ゲームズ 林真理(以下、林)氏:
集英社ゲームズシニアプロデューサーの林です。本作のプロデューサーを務めております。

さまざまな人の「大事な1本」になった『シュレコ』

――『シュレディンガーズ・コール』が発売されて2か月ほどが経ちました。プレイした方々からはどのような反響が届いていますか。

Achabox氏:
リリースする前は人を選ぶゲームなのではと心配だったのですが、自分たちが思っていた以上に良い形で受け止めてもらえているという印象です。「泣いた」「感動した」「自分ごとのように感じた」というようなメッセージをいただくこともあって、率直にホッとしています。

――どんな反応が多いと感じますか?

Achabox氏:
ありがたいことに、「自分にとって大事な1本になった」と言ってくださる方が多いですね。それだけ心に残るゲームにできたのかなと思うとすごく嬉しいです。

――個人的にも、プレイしていてすごく勇気づけられる作品だと感じていました。そうした感想が出てくることは、制作中も想像していましたか。

Achabox氏:
制作にあたっては自分が辛いときに誰かに励まされた経験が根幹にあったので、人に寄り添えるゲームを作りたいという思いがありました。そういう意味では、プレイヤーが登場キャラクターたちに寄り添ったり励ましたりする側になる一方で、それが自分自身に返ってくるようであれと願って作ったゲームですので、感想やお手紙とかで「自分も救われました」という声をいただくと、良かったなぁと思います。

ame氏:
『シュレディンガーズ・コール』は人に寄り添うということを第一に考えたゲームです。そのために何が必要かを突き詰めて尖らせたので、プレイした人が内容をポジティブに捉えるかネガティブに捉えるか読めませんでした。むしろ、どちらかといえばネガティブに受け止められる可能性が大きいのではないかとも思っていました。

しかし、蓋を開けてみると欧米でかなり高い評価を受けていて、Metacriticでも歴代ビジュアルノベルで3位くらいのスコアを叩き出しているんですね。そこまで高い評価をいただいているのは意外でしたし、すごく光栄でありがたいことだとも思いました。

――海外でも高い評価を得ていますよね。『シュレディンガーズ・コール』のどんな部分が評価に繋がっていると感じますか。

ame氏:
ビジュアルノベルっぽくないビジュアルノベルゲームであるところでしょうか。そこがユーザーに刺さったのではないかと思います。コンセプチュアルすぎないけれどもコンセプトが強い作品であり、重要なことを伝えるための明確な体験がある部分を評価してもらえたんじゃないかと思います。

入交氏:
Metacriticの評価に関してはスコアもですが、件数の方も見てもらえると嬉しいです。20件もレビューをいただいているのですが、欧米圏で無名のインディーデベロッパーが20件のレビューを獲得するには相当な努力が必要です。その20件のレビューを全部見ているんですが、基本的にみなさんゲーム性を超えた箇所について評価してくれていると感じます。読んでみると、まるで映画や文学作品のレビューのような内容が多いのですが、制作時に国や文化を意識しないユニバーサルなものを作ろうという狙いでやってきたので、その結果が出たかなと思っています。

林氏:
ブラジルのgamescom Latinで2部門にノミネートされたことには驚きましたね。僕らがアピールをしたわけではなく、急にポッとノミネートされていたんです。すごくビックリしましたし、作品が世界中を駆け回ってくれているんだということを強く実感しました。

――Metacriticに限らず、印象的だったレビューや感想、コメントなどはありますか。

入交氏:
僕にとって良いレビューというのは、自分の言葉に置き換えて語ってくれるものだと思っています。Metacriticのレビューでは自分の言葉に咀嚼して表現してくれているものが多くて、そういうことをしてもらえるのはそれだけいい作品が作れたんだなと思います。また、SNSなどで直接感想のDMをいただくこともあるんですが、ジェンダーや障害など、自分のアイデンティティに悩んでいる人からの反響が地域問わず多いですね。

Achabox氏:
メアリや登場人物達の人生は、まるで自分ごとのように感じられて勇気をもらえた、みたいなメッセージが来ますよね。

入交氏:
作品自体がアイデンティティをテーマにしていて、「私は誰?」という問いかけを繰り返しやっているので、同じく「私は誰?」と普段から考えている方々からの反応は多くなるんでしょうね。

林氏:
海外の退役軍人のセラピー用としてこのゲームを紹介してもいいか、という問い合わせが来たこともありました。軍事活動で心に傷を負った人たちをサポートする団体からそういう使用目的で紹介したい、と。そういうセラピー的な効果を『シュレディンガーズ・コール』に感じている人は多いのかもしれないですね。

――逆に、開発元として意外だったプレイヤー反応はありましたか。

Achabox氏:
低評価のレビューで「このゲームは素晴らしい!でもこのキャラクターだけはどうしてもどうしても許せないのでBAD!◯◯(キャラクター名)!」みたいなことが書いてあったのは印象的でした。それだけキャラクターに共感して怒ってくれたんだと思うと、低評価レビューなのに微笑ましく感じられました。

入交氏:
もっと作品の評価は賛否分かれると思っていたので、そもそもそんなに高評価がもらえるとは思っていなかったのが意外だったところですね。

――個人的には、キャラクター単位より「何章が好き」という感想をよく見る気がします。物語とキャラクターが高いレベルで融合しているので、キャラ軸での語りは少ないのかもしれないと感じていますが、いかがですか。

Achabox氏:
たしかに、章について語る人は多いですね。一方で、ファンの方からキャラクターの背景をもっと知りたいという声も届いています。作中では、物語を電話だけで進めるので、相当な情報を削ぎ落としています。家族構成などキャラクターの背景設定はあるけれど、それがゲームからは全然わからないように作っているので、ユーザーの方から「二次創作をもっとしたいから情報をくれ!」という要望をいただいたりしてます。今後はそういうことをもうちょっと出していきたいなと思ったりしました。

今はキャラクターの好きなものなどをまとめた資料を1人ずつ出していけるよう制作中です。ユーザーさんからは「物語の裏ではこういうことが起こっていた」みたいなマンガも描いてほしいと言われていて、そういうこともちょっとずつ検討していけたらと思っています。

――いろいろと設定を出して、世界観を広げていけたら面白そうですね。ゲームの時点では情報を削ぎ落としていたのは、やはり話をコンパクトにするためですか。

Achabox氏:
そうですね。メインストーリーに関係ないことが挟まってくると情報の優先度の高さがわからず混乱してしまうと思って、かなりシンプルにしています。感情移入するうえで必要な情報のみを残しています。

入交氏:
プレイヤー視点だと、ゲームって操作に集中してしまうぶんストーリーが細切れに受け取られて繋がりにくいんです。特に過去の話は印象に残りにくい。このゲームは設定が多くてわちゃわちゃしてしまっていたのであえて出す量は削っていて、あるけどゲームプレイ上には出てこない設定情報はたくさんあります。

――つまり、今後も『シュレディンガーズ・コール』の新情報に期待してもいいんでしょうか。

林氏:
集英社ゲームズは今後も本作をプッシュしていくので、いろいろなことを伝えていきたいと思っています。『都市伝説解体センター』は小説やオーディオドラマなども作るかたちになりましたし、『シュレディンガーズ・コール』もそんな風に横に広げていけたらなと思っています。

心にしまわれた感想を表に出してもらう難しさ

――本作は露悪性がなく、プレイヤーの心の奥の部分に関わってくるところがあると思います。だからこそ感想を自分の胸の中だけにしまっておきたくなるところがあると感じているんですが、チームとしてはどう思いますか。

Achabox氏:
「感想は胸にしまっておこう」というコメントはよく見かけますね。本当は考察をするためにもう一回やりたいんだけど、このゲームは2周目をやるべきではない……みたいに。キャラクターたちと向き合った体験が強く心に残って、そしてそれを言葉にして安っぽくなってしまわないように……と、そんな空気は感じています。

林氏:
販売する側からすると「心に秘めないで! SNSで呟いて!」と思うんだけどね(笑)

Achabox氏:
秘めるのも素敵なことですけどね(笑) 感想や反応をいただくと、あ!ちゃんと届いているんだな!と感じて、ユーザーさんの日々の発信にとても励まされています。

――すごく共感性が強いゲームなので、感想を言おうとすると自分語りのようになりやすいのも大きいのかもしれないですね。

Achabox氏:
たしかにそうかもしれませんね。各章にそれぞれのテーマがありますが、人によって刺さる章が全然違うんだなと感じています。それはプレイヤー皆さんの過去の経験から来ているところなのかなと思います。

ame氏:
言葉というのは自分の中ではなく社会の側にあって、人と重ね合わせてコミュニケーションを取るツールですよね。でも、いざ言葉にした後に違う意味になってしまって、「こんなはずじゃなかったのに」と思ったときには、もう自分の感情が思い出せなくなってる。

感想を言ううえで、そうした自分の言語との微妙なズレが気になるタイトルと気にならないタイトルはあると思うのですが、『シュレディンガーズ・コール』はズレが気になりがちな作品だと思うんです。映画や小説でも良いものを見ると逆に語りにくくなる現象はありますが、僕はこの現象は言葉の性質に起因していると思っています。本作もそこにぶち当たってしまったかなと。みんなに語ってほしいと思っているのですが……!(笑)

入交氏:
感想はどんどん発信してほしいです! というか、このゲームをネタにしていろいろ喋ってもらうことが一番の目標ですね。ゲームのプレイは1時間で終わっても、会話のほうに10時間というのが理想だと思っています。

Achabox氏:
アート面でお世話になったヴァンパイア株式会社のかとうさんは、語れる相手を見つけては「ちょっと『シュレコ』のことを語ろうぜ!」と捕まえてくれていましたよね(笑)

ame氏:
そういえば海外のユーザーから「兄さんの誕生日パーティーに参加する全員にこのゲームをプレゼントしたい。クリエイターのコメントがついているとパーティーが盛り上がるから、一言くれないか」と言われて、文化の違いを感じて面白かったことがありました(笑) この人の場合はちょっとスケール感が大きいですが、自分も『シュレディンガーズ・コール』は身近な人にやってほしくなるゲームだと思っています。

入交氏:
感想を言いたい人には2種類いると思うんですよ。感想を自分だけが見える場所に書く人と、お酒飲みながら誰かとああだこうだ語る人。『都市伝説解体センター』は後者が多かったですが、『シュレディンガーズ・コール』は前者の語り方をする人が多いのかなと。

――本作は感想を話すとなると自分の心の奥底について語り合うことになるので、気の置けない友人とじゃないと難しいですよね。心理的安全が保障されたうえで話したくなるという点では、『シュレディンガーズ・コール』の世界観と似たものはある気がします。

『シュレディンガーズ・コール』のジャンルって何?

――そういえば、『シュレディンガーズ・コール』を友達にオススメするときに「どういうゲームなの?」と聞かれると、どう説明をすれば興味を持ってもらえるかわからないんですよね。「疑似カウンセリングする/されるゲーム」と言ってみたら、友達は余計に混乱していました。

入交氏:
ジャンル性がわかりにくいですよね。ミステリーとかホラーならジャンルで語れるけど、なんのジャンルで語っていいかわからない。

Achabox氏:
ゲームを操作することでしか体験できないものを作ったがために、ジャンルをうまく言語化できないという現象が起きている気はします。

林氏:
誰にでも一瞬でわかる「とにかくわかりやすいゲーム」が流行るこの時代で、その真逆にあるゲームですよね。うちのマーケティング担当もこの作品をどうわかりやすく説明するかにすごく頭を悩ませていて、最終的に出てきたのが「大人が読む絵本」でした。「読んだ後にぐっと来るけど、その感覚をなんと言い表したらいいかわからない絵本」という感じです。「絵本のようなゲーム」と言いますか。

――絵本のようなゲーム。なんだか一周回った感じがしますね。

Achabox氏:
私は人にお伝えするときは、「滅亡してしまった世界で、誰かの最後の話し相手になって寄り添っていくゲームだよ」と話していますね。友人にはビジュアルノベルを遊んだことがない人でも最後まで遊べるノベルアドベンチャーゲームだよ!とおすすめしています。

ユーザーさんが表現していて面白いなと思ったのは「カウンセリングミステリー」ですね。私たちは『シュレディンガーズ・コール』をミステリーとして作ったわけではないんですが、謎がどんどん解明されていくというところはありますし、ちょっと面白いワードだなと。「なにそれ!ちょっと面白そう」という興味が湧きますよね。

入交氏:
英語圏・中国語圏はもっとシンプルな表記ですね。英語は「ビジュアルノベル」で、中国では「視覚小説」です。たくさんのテキストを読むものはまとめてそういうジャンルに固定される風潮は、日本よりずっと強いと感じます。そのなかでも、「イマーシブ・没入型」なビジュアルノベルだと言われていることが多くて、「イマーシブビジュアルノベル」とか「シネマティックビジュアルノベル」みたいな表現をされていますね。

――最後に改めて、本作が気になっている読者に向けてのコメントをお願いします。

林氏:
最後までプレイすると当初の印象とはだいぶ変わるゲームだと思うので、ぜひ最後まで遊んでみてください。また月並みですが、このゲームが終わった後に大切な誰かや身近な人に電話を1本かけて、声を聞きながら何か話をしてほしいなぁと思っています。

ame氏:
実況などを見ているとメアリと自分の名前を間違える人もいたりして、没入型の体験にこだわって作り込んだことが伝わっていて嬉しいなと思っています。そしてその結果として、遊んだ後に「あの人にやってほしい!」という感想を持つようなゲームになっていると思います。漠然といろいろな人に向けて感想を拡散するのとはちょっと違うタイトルかもしれませんが、最後まで遊んだら勧めたい相手の顔が浮かんでくるゲームだと思います。ぜひ勧めてみてください。パーティーで配るのもいいと思います(笑)

入交氏:
『シュレディンガーズ・コール』はビジュアルノベルです。ビジュアルノベルというのは、文字を読むような感覚で誰でも遊べるジャンルです。そして「初めてこのジャンルに挑戦してみたけれど、ちゃんと最後まで行けた」という声もかなり聞いています。欧米圏ではビジュアルノベルのレビューではなかなか掲載されにくいのですが、王道のゲームを取り上げているレビューメディアにも取り上げてもらって高い評価を得ています。没入型ビジュアルノベルとしてぜひ試してみてください。

Achabox氏:
私や星士さんはクリアしたビジュアルノベルの本数が決して多くはない人間です。むしろ最後までできない人たちです。そういう人たちが初めてビジュアルノベルに取り組む人や、普段ゲームをあまりプレイしない人でもクリアしやすいように考えて作ったので、PVなどを見てちょっとでも気になったのであれば怖がらずにやっていただけたら嬉しいと思っています。

林氏:
2026年は上半期だけでSteamには12000~15000本のゲームがリリースされているんですが、その中のトップ20に選ばれているわけですよ。それも欧米でアウェイと言われるビジュアルノベルで。なので、みなさんに遊んでもらって、いろいろ感想を書いてほしいです。

Achabox氏:
SNSやイベントなどで、ユーザーさんが「我々は『シュレコ』がもっと売れる方法を考えています!」「もっと知られてほしい!」と言ってくれるのを嬉しい気持ちで聞いています。日本のユーザーさんからすると、日本のゲームなのに国内ではあまり知られてなくて、逆に海外で高い評価も受けているゲーム、という認識もあるみたいで。それはちょっと悔しいので、みんなでたくさん感想を投稿してもらって、一緒に盛り上げていけたらと思います!!

――ありがとうございました。

シュレディンガーズ・コール』は、Nintendo Switch/PC(Steam)向けに発売中だ。

©Acrobatic Chirimenjako / SHUEISHA, SHUEISHA GAMES

[執筆:Kei Aiuchi]
[編集:Aki Nogishi]
[聞き手:Ayuo Kawase]

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