セガとColorful Paletteの協業により開発・運営する『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)。2020年9月にサービス開始し、有名VOCALOIDクリエイターが楽曲を提供するモバイル用リズム&アドベンチャーゲームの本作だが、楽曲だけではなくストーリーや演出表現にも力が込められたタイトルだ。
『プロセカ』のストーリーパートのキャラクターモデルは2Dアニメーション制作ミドルウェアである「Live2D Cubism」によって制作されており、キャラクターの強い感情や揺れ動く心情の表現に一役買っている。数ある2Dアニメーション技術のなかから、『プロセカ』はなぜLive2Dを選択したのか。『プロセカ』リリース当時からアニメーションチームで活躍し、現在はアニメーションディレクターを務めるColorful Paletteの藤本 誠人氏に話を伺ってきた。
なお、「Live2D Cubism」は恒久的に無料で利用できるFREE版と、単月2288円から利用できるすべての機能が使えるPRO版が存在している。
―― 自己紹介をお願いします。
藤本 誠人氏(以下、藤本氏):
『プロセカ』のアニメーションチームでディレクターをしております、藤本です。2019年にColorful Paletteに入りまして、『プロセカ』リリース前からLive2Dのディレクションやストーリーシーンの演出を監修しています。
―― 『プロセカ』内のLive2Dアニメーション制作にずっと関わってきたお立場ということですね。『プロセカ』ではストーリーパートのキャラクターグラフィックにLive2Dが使用されていますが、完成まではどのようなプロセスを踏まれるのでしょうか。
藤本氏:
『プロセカ』では、最初にシナリオベースで素材出しを行います。シナリオチームがまずシナリオの叩き台を作り、登場するキャラクターやユニットを決め、シナリオが固まったのちに素材出しをします。制作物が決まったあとは、イラストチームがデザインから着色までを行い、完成した立ち絵を元に、アニメーションチームと一部外注さんでパーツ分けからモデリングを担当します。 シナリオ本文が完成した段階で、本番想定のセリフや細かい描写を踏まえて、再度アニメーションとストーリースクリプト班で素材だしを行い、必要なモーションや表情を内製で作成しています。3チームで連携し、シナリオの内容を精査しながら必要なモーションや表情を作っています。
―― 3つのチームが並行して作業を行っているんですね。
藤本氏:
そうですね。会話の内容が固まってくると、「こういう表情が欲しい」「既存モーションがあるけれど、もっと盛り上がる演出をつけたい」といった要望がシナリオ側から発生することもあります。そういうときはモデルを動かす段階になって、追加のアセットを洗い出すこともあります。
―― 追加アセットが後から発生するのはあるあるですね……。とはいえ後からの素材追加はなるべく減らしたほうが良い部分だと思います。追加アセット発注を減らすために気をつけていることはありますか?
藤本氏:
追加素材の発注や制作を検討するときは、本当に描き起こさないといけないものなのか、既存のアセットでどうにか工夫できないか、という部分は重要視しています。イラストチームにお願いしなくともできる調整や簡単な素材であれば、アニメーター側で用意することもありますね。
ストーリーシーンにおけるキャラクターの心情表現へのこだわりはプロセカにおいて欠かせないもので、会社としても大事にしている部分なので、熱意をもって相談すればみんな前向きに検討してくれていつも助かっていますね。
―― 作品愛のあるスタッフが集まっているからこその連携ですね。
藤本氏:
Colorful Paletteではシナリオレビューや全体デバッグ会などを行っていて、特定のセクションだけでなく皆で意見を出し合っていく文化もあります。そういう場で各キャラクターを推している人に意見を聞くことで、 キャラクターを好きでいてくださるユーザーの皆さんに喜んでもらえるような、モーションや表情づくりを目指しています。
―― そうして完成したモデルをUnityに組み込んで、『プロセカ』のストーリーパートが完成すると。
藤本氏:
追加のモーションや表情をアニメーションチームで作成し、モデルと一緒にUnityへ組み込んでアセット化します。アセット組み込み後はストーリースクリプトチームがそれを利用して、実際のストーリーシーンを制作していきます。
Live2Dを採用した理由
―― 2Dアニメーションソフトはさまざまなものがありますが、そのなかでもLive2Dを採用している理由を教えていただけますか。
藤本氏:
イラストの印象を崩さず、やりたい表現を実現できるツールだからですね。表情の細かい変化やモーションの細かな変形を、最初のセッティングさえクリアしてしまえばかなり繊細に作ることができます。技術検証の段階でさまざまなツールを試しましたが、パラメータによる表情の細かい制御に一番手応えがあったのがLive2Dでした。
―― なるほど。他社の2Dアニメーションツールも併用されているとのことでしたが、どういった使い分けをされているのでしょうか。
藤本氏:
『プロセカ』にはデフォルメキャラクターが登場する「エリア会話」というものがありまして、そこのキャラクターは他社2Dアニメーションツールを使って動かしています。ここは普段のキャラクターのさりげない会話を見せたい部分だったので、他社2Dアニメーションツールを採用しています。
『プロセカ』のエリア会話
―― やりたい表現に合わせてツールを使い分けているということですね。
藤本氏:
『プロセカ』らしさを表現するにあたって、Live2Dは目や口などのパラメータを0.1単位で調整できるので、本当に繊細な感情表現ができるんです。キャラクターがボロボロ泣いたり、激怒したり、そうした感情表現をするのに適したツールなのでストーリーパートで採用しています。『プロセカ』ではキャラクターの笑顔だけでも何種類もの数がありますが、パラメータを掛け合わせるだけで表情パターンがすぐに作れるのもポイントですね。
―― なるほど、目や口、眉毛などが別々のパラメータだからこそ、組み合わせて新規表情が作りやすいと。
藤本氏:
はい。『プロセカ』ではイベントごとに新規の表情を追加することも多く、既存素材を使ってメッシュで数ピクセル単位で変化を付けてもいます。さらにそこからパラメータの掛け合わせることで、表情は無限に作れます。後から素材の追加もしやすい。そういった点で使いやすいツールだと感じています。
―― 「Live2Dとはどんなツールか」と聞かれたら、藤本様はどのようなツールだと説明されますか。
藤本氏:
「クリエイターの創意工夫を発想力次第で何でも実現できるツール」です。あまり決まり切った表現の仕方がないので、工夫と作り方次第でなんでもできる。もちろん負荷の問題はありますが、やりたい表現が100通りあったとしたら、100通りのこだわりが実現できるツールですね。
――ゲーム制作とはレギュレーションが異なりますが、VTuberモデリングでも発想力と根性でクオリティを上げている方が多い印象です。
藤本氏:
ゲーム制作においてはゲームエンジンとの兼ね合いなどもあるので、工夫のやり方はそれぞれ別のアプローチが必要になると思いますが、VTuberさんのモデルと共通する点としては拡張性の高さも魅力のひとつだと思います。新衣装だったり、新モーションだったり、追加したい表現を実現しやすいですね。創意工夫することで、Live2D内で完結することができるのも嬉しい部分です。
SDKアップデートとともに新モデルへ
―― モデル制作についても話を聞かせてください。『プロセカ』では、ゲーム内モデルのレギュレーションはどのようになっているのでしょうか。
藤本氏:
メッシュのポリゴン数は1万前後に収めるようにしています。デフォーマも元の素材を用意していて、それをベースに基準を設けています。とはいえ、あくまで基準であって、超える際は要相談という形で厳格にNGにはしていません。
―― 表現したいものがあれば、それを優先して構わないスタンスということですね。
藤本氏:
そうですね。『プロセカ』のリリースは2020年ですが、レギュレーションについてはその時点で負荷検証をした結果の仕様がベースになっています。レギュレーションとしてはポリゴン数やデフォーマ数はある程度余裕を持った数字にしており、複雑な衣装や髪形などのデザインをしていても、負荷的に大丈夫なところを基準として置いています。
また、当時は同画面に表示するモデルは2人まででないと負荷的に厳しいなどの制限もつけていたんですが、運営を続けていく中で部分的にアップデートも行っており、現在は3人までに制限を拡張しています。業界的に端末水準も上がってきていることもあり、改めて都度負荷検証を行いながら、ストーリーシーンの品質向上のために定期的にレギュレーションは更新を行っております。
―― 端末水準が上がってきたことで表現の幅が広がってきたとも言えますね。似たようなケースとして、Live2D側のアップデートによって『プロセカ』側の表現の幅が広がったケースはありますか?
藤本氏:
ゲーム開発ではSDKのバージョンもあるため、ミドルウェアのアップデートに常に対応していくのはなかなか難しい問題です。『プロセカ』では3周年のタイミングでSDKのバージョンアップデートを行っています。3周年でUIなども刷新して新しい体験を届けるタイミングで、ストーリーシーンも今後の新しい表現にチャレンジしていくため、エンジニアスタッフとも相談して導入を決めました。
―― 思い切ってアップデートに踏み切ったと。アップデートをして良かった点を教えてください。
藤本氏:
キャラクターにポーズを取る際に、以前のバージョンだと可動域に少し限界を感じていました。「Live2D Cubism 4 SDK」にアップデートすればアートパス機能やマスクの反転機能が使えるということで、可動域をはじめとした表現力の向上につながったと思います。『プロセカ』のベースの思想に「やりたい表現があった時に必要な機能であれば導入を検討する」というものがあるのですが、SDKのアップデートはまさにこの思想に基づいたものですね。
―― 一方で、大変だった部分はありますか。
藤本氏:
とにかく大変なところだらけでしたね。モデルを新バージョンで書き出してみて、エディター上では大丈夫そうに見えても、実機に持っていったら瞬きのタイミングがおかしくなってしまうなど、細かなトラブルがたくさんありました。それらの問題点の洗い出しがかなり大変で、3周年前の2か月くらいはずっとモデルに手を入れてはアタフタしていました。
―― 『プロセカ』にはたくさんのモデルが実装されていますから、ひとつひとつ新バージョンで動くかをチェックしていくのは途方もないことだと思います。SDK更新のタイミングで、モデルもすべて刷新されたんですか?
藤本氏:
『プロセカ』では3周年タイミングでキャラクターたちが進級しました。全キャラクターのベースとなる衣装が変わることは決定していたので、その新衣装のモデルを新バージョン用のベースにしていくことにしました。旧モデルに手を入れてしまうとそれ用に組んでいた演出が崩れてしまうので、既存のストーリーは既存のストーリーで保持できるようにして、次から作っていくものをアップデートバージョンにしていく方針になりました。
―― なるほど、既存のモデルとの兼ね合いもあるとなると、なおさらバージョンアップは大変だったことと思います。
藤本氏:
『プロセカ』では細かな変化にも気づいてくださるファンの皆さんに喜んでもらえるものになるよう、なるべく印象を崩さないように頑張りました。X(旧Twitter)で反応を見ていると気付いている方もいらっしゃって、よく見てくださっているな、と感じましたね。
『プロセカ』で込めた細部へのこだわり
―― Live2Dのアニメーションを制作するうえで、『プロセカ』ならではのテクニックやこだわりなどはありますか。
藤本氏:
全体的にポーズ遷移のブレンド値を遅めに設定しているのもあり、動きの最後に余韻を持たせるようにすべての手に指先の稼動がつけられるようにしています。たとえば頬に手を当てるような柔らかい動きは最後にそっと指だけ動かしてみたり、逆に手を握り締めるような力強い動きのときはグーの指先をグッと握り締めたりなど。この辺は感情表現とも合わせて最後にひと演技できるような作りにしています。
―― 「神は細部に宿る」という言葉がありますが、指先の動きはまさにそれだなと感じました。そうした表現を研究するにあたって、参考にしているものはありますか。
藤本氏:
リアルタイムトラッキングと映像的表現の違いはありますが、VTuberさんのモデルはLive2D的に一番綺麗に見える表現の参考になりますね。あとはLive2DクリエイターさんがX(旧Twitter)に公開している作品や、一般の映像作品なども参考にしています。あとは「Live2D JUKU」(Live2D公式オンライン講座)も役立つ情報が多く助かっています。
先ほどもお話しましたが、Live2Dは「クリエイターの創意工夫を発想力次第で何でも実現できるツール」です。研鑽のためにはまずインプットが大切だと思うので、流行の映像作品などは何でも見るようにしています。
―― なるほど。そういった技術研鑽は個人でも積極的にされている方が多いかと思うのですが、チームとして行っていることは何かあるのでしょうか。
藤本氏:
Colorful Paletteではモデラーとアニメーターで担当を分けておらず、基本的にLive2Dに関わる人はモデリング、モーション、組み込みまで一貫してフローを経験するようにしています。それから、頻度は多いわけではないですが、同じサイバーエージェントグループ内で知見の共有や困った時に質問を投げ合うこともありますね。
―― ありがとうございます。それでは最後に、『プロセカ』のLive2Dをユーザーにどのように楽しんでほしいか、メッセージをお願いします。
藤本氏:
今後、キャラクターたちの成長やそれぞれのユニットの歩みの中で葛藤や喜び、さまざまな感情を表現するシーンもたくさん登場してきます。Live2Dでどういった工夫をしているか、目立った部分は少ないかもしれませんが、細かい表情や動きの変化、演出にも注目してもらえるとまた、普段と違った観点で楽しめるかもしれません。今後も様々なセクションで連携して、素敵なストーリーやキャラクターたちをお届けできるように頑張りますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
―― ありがとうございました。
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』はiOS/Android向けに配信中。そのストーリーパートを支える「Live2D Cubism」は恒久的に無料で利用できるFREE版と、すべての機能が使えるPRO版が単月2288円から利用可能だ。
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