Global Sites
人気の“中国宮廷死にゲー”実写ADV『盛世天下:女帝への道I&II』開発者に訊く、「バッドエンド100種類以上」でも萎えない工夫。制作3年・撮影期間100日で磨き上げたリアリティとエンタメのバランス
『盛世天下:女帝への道I』および『盛世天下:女帝への道II』の開発元に、制作における裏話やこだわりの部分などをうかがった。

セガおよびNew One Studio、Arielより発売中の『盛世天下:女帝への道I』および『盛世天下:女帝への道II』は中国の唐の時代を舞台とする実写インタラクティブアドベンチャーゲームだ。対応プラットフォームはPC(Steam)/iOS/Androidで、セガよりNintendo Switch向けにも2026年に発売予定となっている。
本作は中国史上唯一の女帝となった後の武則天となる女性である武元照を主人公としている。物語の始まりは640年頃、唐の太宗・李世民の後宮に入るところから始まり、その中で同僚達との権力争いに加えて、李世民の後継者争いも勃発しているという陰謀うずまく大河ドラマが繰り広げられる。実写による高いクオリティのドラマと数多く設けられている選択肢を1つ間違えると簡単にゲームオーバーとなってしまう点などが話題となり、既に全世界で500万本を販売している。
弊誌では今回、本作のプロデューサーを務めるDemi氏にメールインタビューをする機会を得た。実写の撮影の裏話や現代とは価値観の異なる時代を描く際の工夫などをうかがった。

――お名前と、本作における役職を教えてください。
Demi氏:
New One StudioのDemiと申します。『盛世天下:女帝への道』シリーズのプロデューサーを務めております。このたび、日本のユーザーの皆様とお話しできる機会をいただき、大変光栄に思っております。
――本シリーズの見どころについて教えてください。
Demi氏:
『盛世天下:女帝への道』は、中国の伝統文化をモチーフとし、架空の古代宮廷を舞台に実写で撮影されたインタラクティブドラマ作品です。本作の最大の魅力は、3つのキーワードで表現できます。
1つ目は「選択と結果」です。プレイヤーは決められた物語をただ観るのではなく、主人公の視点に立ち、自らの決断によって運命を切り拓いていきます。すべての選択が、あなただけの物語を形作っていきます。
2つ目は「人間性の描写」です。あらゆるキャラクターやストーリーは、「その人物が何者で、どのような境遇にあり、何を大切にし、何によって変化するのか」を起点に設計されています。作中に登場するキャラクターは単なるストーリー進行の道具ではなく、それぞれが独自の感情と立場を持った存在として描かれています。
3つ目は「実写ならではのクオリティと表現の密度」です。衣装、礼儀作法、美術セットから時代考証の細部に至るまで、画面を構成するすべての要素が「物語を語る」役割を果たせるよう作り込んでいます。
プレイヤーにとっての最大の醍醐味は、「ひとつのドラマを鑑賞しながら、同時にそのドラマの世界を生きている」かのような、唯一無二の没入体験にあります。
――準備に1年、台本は30万字、撮影には100日かかったことが語られています。言える範囲でもっとも大変だった撮影やシーンなどあればお聞かせください。
Demi氏:
実際には、『盛世天下:女帝への道I』と『盛世天下:女帝への道II』はひとつの企画としてスタートしました。
シリーズ全体を通して最も困難だったのは「大掛かりなスペクタクルシーン」ではなく、一見静かでありながら感情の密度が極めて高い対峙シーンでした。
実写とアニメやCGとの最大の分かれ目は、キャストの演技、照明、カメラの立ち回り、アングル、衣装、ロケ地など、すべての条件が同じ一瞬に完璧に揃わなければならない点にあります。どれか一つでもズレが生じれば、カット間の感情の繋がりが途切れてしまうのです。例をひとつ挙げるなら、『盛世天下:女帝への道I』における「主要キャラクターが重大な決断を下す」いくつかのシーンは、特に心血を注いだ場面です。役者は極めて短い時間の中で、感情や思考の複雑な変化を表現しなければなりません。同時に私たちは、プレイヤーがこれから行う分岐選択(選択肢)をカメラワークによってしっかり成立させる必要がありました。そのため、これらのシーンでは何度もリハーサルと調整を繰り返すことになりました。シリーズ全体における約3年という制作期間の中でも、こうした「一見軽やかに見えて、実は最も重みのある」カットに、多くの時間を費やしていました。

――宮廷を舞台にした、物語の世界観を組み立てる際にこだわった部分について教えてください。
Demi氏:
『盛世天下:女帝への道』は中国の伝統文化をモチーフとした架空の世界ですが、この世界観を構築するにあたり、特に2つの点にこだわり抜きました。
1つ目は、「文化的な空気感のリアリティ」です。私たちは歴史・文化の専門家をお招きし、アートスタイル、服飾制度、礼儀作法から日常生活の細部に至るまで、徹底的な時代考証に耐えうるものに仕上げました。例えば、「叉手礼(さしゅれい)」や朝廷での審議プロセス、後宮での行儀作法なども、決して適当に作ったものではありません。
2つ目は、「構造としての納得感(解釈のしやすさ)」です。世界観を組み立てる際、私たちは常に「この制度やルールは、そこに生きる人々にどんな影響を与えているのか?」という問いから出発しました。すべての権力闘争や策略の配置が、登場人物それぞれの境遇や動機に結びつくよう配慮しています。
プレイヤーの皆様には、単なるストーリーの二転三転だけでなく、各キャラクターが「なぜそうせざるを得なかったのか」という深い背景を感じ取っていただければと思っています。これを突き詰めて初めて、権謀術数が単なるストーリー展開の仕掛けではなく、「その時代に生きる人間のリアルな境遇」として立ち現れてくるのです。
――現代とは異なる文化を表現する際に難しかったところもあったと思います。そういった場面をプレイヤーに見せるうえで工夫したり調整したりした部分があればお聞かせください。
Demi氏:
仰る通りです。古代と現代のへだたりは、「知識の量」ではなく「感覚が通じ合えるかどうか」にあります。
冕服(めんぷく)、朝儀(ちょうぎ)、後宮制度といった専門用語は、インターネットで検索すれば誰でも調べられます。しかし、現代のプレイヤーが「なぜ古代の宮廷に生きる人間が、たった一言の言葉に涙し、ひとつの地位のために命を懸けるのか」を心から理解できるようにすること——それこそが最も難しい課題でした。
私たちは主に3つのアプローチでこの問題に取り組んでいます。
その1:「人間」を通じて描写し、「女帝を目指す野心」を自発的な目標へと変える
本作はナレーションのような解説文で文化を説明することを極力避けました。「この礼儀にはどんな意味があるか」「この官職がどれほど偉いか」を途中で解説し始めた瞬間、プレイヤーは現実へと引き戻されてしまうからです。キャラクターがその場の状況の中で自然に礼儀作法や称号、ルールを使う姿を描くことで、プレイヤーがその世界の仕組みを自然と理解できるようにしました。文化とは「紹介されるもの」ではなく「生きる中で作られるもの」だからです。
そして、このアプローチにおいて最も注力したのが、プレイヤーの中に「女帝を目指すという目的意識と信念」をいかに構築するかでした。これは単に「あなたの目標は皇帝になることです」と言葉で示すだけでは成り立ちません。プレイヤー自身が「そうありたい」と強く望む必要があるのです。そのため、主人公の置かれた境遇そのものにその種を蒔きました。彼女は最初から野心家であるわけではなく、後宮に入ったばかりの、いつ押し潰されてもおかしくない最も無力な「才人」としてスタートします。
物語を進めるにつれ、プレイヤーは身をもって知ることになります。——「この世界では、上に登り詰めなければ大切な人を守ることも、他人の陰謀から逃れることもできない」のだと。出会いと選択を通じて、「なぜ上を目指さなければならないのか」という動機をプレイヤー自身の感覚に委ねたのです。
その2:古代のシチュエーションを、現代人が一瞬で共感できるものに訳す
例えば、「我が子を権力者の元へと押しやり、あえて距離を置く母親の葛藤」——これは現代の親であっても一瞬で共感できる心情です。すべてのシーンを書く際、まず自らに問いかけました。「華麗な衣装や称号を取り払ったとき、この瞬間の感情を、現代のプレイヤーは共感できるだろうか?」と。このアプローチができていれば、古代という時代背景は「距離感」ではなく、むしろ作品に華を添える「新鮮な魅力」へと変わります。
その3:一人称視点によって「鑑賞」を「体験」へと変える
通常の映像作品では、視聴者は常に「傍観者」であり、古代の人々が古代の出来事を行う姿を外側から見るため、どうしても距離感が生じてしまいます。しかし、インタラクティブドラマでは一人称視点で物語に入り込みます。プレイヤーは「ストーリーを理解している」のではなく、「今まさにその世界の住人になっている」のです。自ら選択を下し、その結末を目の当たりにしたとき、古代と現代の時間差は消滅します。これこそが、通常の映像作品に対するインタラクティブドラマの絶対的な強みです。文化理解のハードルを「知識」から「体験」へと引き下げてくれるのです。画面から離れたとき、プレイヤーに残るのは「歴史の授業を受けた」感覚ではなく、「たった今、もう一つの人生を駆け抜けた」という実感であってほしい。その実感さえ生まれれば、古代の礼儀や制度は障壁ではなくなり、むしろ物語の最も魅力的な要素へと姿を変えるのです。

――物語において、壮大な展開を作りながらも、全体の辻褄がおかしくならないような細かな配慮が散りばめられていると感じました。こういった調整は、どのようにして作り上げていったのでしょうか。
Demi氏:
このような細やかな観察と評価をいただき、大変感謝しております。この部分は、私たちが開発現場で最も注力した部分です。壮大なスケール感と細部の精密さは、どちらが先かという関係ではなく「表裏一体」のものです。ストーリーデザインにおいて、私たちは「まず骨組みを立て(立骨)、その後に網を編み込んでいく(織網)」という手法を取りました。
■「骨」を立てる
『盛世天下:女帝への道』で最初に着手したのは、以下の3つの「骨組み」を確定させることでした。
「時代の骨組み」:『盛世天下:女帝への道II』の骨格として、「興亡」「権力闘争」「国家と家」という3つの主軸を固定しました。
「人間の骨組み」:まず各キャラクターの信念と立場をしっかりと打ち立て、その上で物語の展開によって彼らに選択と葛藤を迫るようにしました。
「運命の骨組み」:すべての重要な選択肢が、キャラクターの行く末に直接影響を与えるように設計しました。
この骨組みがしっかり立って初めて、壮大に描いてもストーリーが破綻しなくなるのです。
■「網」を織り上げ、血肉を宿す
骨組みを支えとし、そこに肉付けをしていく上で最も重要だったのは、「映像脚本家」と「ゲーム脚本家」によるコラボレーションです。2つのチームがそれぞれ「ドラマ性」と「インタラクティブ性」を担当しました。
映像脚本家がシーンの演出や感情の波、人間ドラマの深みを作り込み、ゲーム脚本家がそれを「分岐」「やり直し」「後々に影響する選択」といったゲーム構造へ落とし込んでいます。この両者が互いに高め合うことで、「観て面白く、遊んで楽しい」ストーリーが生まれました。「映画的だけど置いてけぼり」や「選択肢はあるのに感情移入できない」といった事態を防いでいます。
さらに、私たちは2つの道具を用いて物語の密度を限界まで高めました。
【カラー・スクリプト】
感情、伏線、分岐点、CGカット、BGMの切り替わりなどを異なる色で色分け・明記し、制作陣全体が全く同じ読解軸(座標)を共有できるようにしました。
【独自開発のリアルタイム・エディター】
ストーリー、演出、分岐ロジック、コードを同一の環境下でプレビュー・イテレーションできるシステムです。どこか1箇所を変更した際、それがストーリーライン全体にどう波及するかを即座に確認できます。
この一連の制作プロセスがあったからこそ、妥協することなく脚本を磨き上げることができたのです。
――日本語字幕でプレイさせて頂きましたが、まったく違和感なく楽しめたばかりか、ゲームオーバーを迎えた際にもテキストに遊び心があり、楽しめました。日本語ローカライズにおいて気を付けた点などありましたらお聞かせください。
Demi氏:
そのように言っていただけてありがたいです!これこそが、ローカライズチームにとって何よりの励みになります。日本語ローカライズを進めるにあたり、私たちは3つの明確な方針を掲げていました。
1つ目は、「翻訳物だと感じさせないこと」です。単なる直訳ではなく、日本語としての語感やニュアンスを調整しました。皇室用語の格付けや後宮内での呼び方の関係性、朝廷における敬語・謙譲語の使い分けに至るまで、日本のプレイヤーの皆様が「宮廷時代劇」に抱くイメージや直感に限りなく寄り添う表現を追求しています。
2つ目は、「バッドエンディング(Bad End)における絶妙な軽やかさ」です。本作には100種類以上のバッドエンディングが存在します。失敗するたびに冷たい「GAME OVER」が表示されるだけでは、プレイヤーは挫折してしまうでしょう。そのため、テキスト表現には適度なテンポ感と遊び心、時にはちょっとした「自虐のユーモア」を込め、「失敗すること自体も楽しいエンタメ体験の1つ」となるよう工夫しました。
3つ目は、「プレイヤーの想像力にお任せする」です。日本語は、言葉の余韻や終助詞、感情の表現が極めて繊細な言語です。そのため、すべてを言葉で語り尽くすのではなく、あえて「余白」を残すローカライズを行いました。テキストの持つ余韻と画面上の演出が互いに響き合い、より深い味わいを生み出せるようにしています。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
Demi氏:
まずは、『盛世天下:女帝への道』にご注目いただき、ご体験くださった日本のメディアの皆様、そしてプレイヤーの皆様に心より感謝申し上げます。インタラクティブドラマというジャンルは、まだ誕生して間もない若いコンテンツ形式ですが、ドラマ本来が持つ強い感情の揺れ動き(ドラマチックな緊張感)を保ちながら、「プレイヤーの選択」を加えて、映像表現の新たな可能性を切り拓こうと挑戦を続けています。
私が皆様にお伝えしたいのは、「物語は画面の中で紡がれ、人生は画面の外で輝く」ということです。作中の物語で至らない点がありましたら温かい目で見守っていただけますと幸いです。ストーリーには十人十色の受け止め方があります。どうぞ皆様も、ご自身の現実の人生において、誰よりも自分らしく輝く「最高の主役」であってください。
――ありがとうございました。
『盛世天下:女帝への道I』および『盛世天下:女帝への道II』はPC(Steam)/iOS/Androidで発売中。Nintendo Switch向けにも2026年に発売予定だ。
この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。


