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日本のデベロッパーTeam Ladybugによるアクションゲーム『Touhou Luna Nights』は2月26日、Ver1.0アップデートによりステージ4、5を追加し、正式リリースを迎えた。『Touhou Luna Nights』は「東方Project」の二次創作2D探索型アクションゲーム──いわゆるメトロイドヴァニアだ。昨年8月の早期アクセス公開以来、Steamのユーザーレビュー“圧倒的に好評”Steam 250に掲載された、2019年リリース作品のSteamレビュー評価ランキングでは、現時点で『Slay the Spire』『バイオハザード RE:2』に次ぐ3位にランクインしている。本稿では、そんな高い評価とコミュニティの熱い支持を得てきた本作の魅力に迫っていく。

Steamのユーザーレビュー多くがゲームの難易度に言及しているように、本作の持ち味は絶妙な難易度に設定されたメトロイドヴァニアであることだ。メトロイドヴァニアの特徴は、2D横スクロール視点であったり、未知のエリアの探索、隠し通路や強化アイテムの発見、定期的なボス戦といった要素にある。本作にはそういったメトロイドヴァニアの楽しさが、あますところなく詰め込まれている。

以前、別のゲームのレビューでも書いたのだが、筆者は決してアクションゲームが得手ではない。むしろ、平均より下手であると自覚している。『Touhou Luna Nights』には、そんなアクションゲーム初心者から上級者まで楽しめる仕掛けがふんだんに盛り込まれている。

まず、本作の物語を簡単に説明しよう。メイド姿の主人公十六夜咲夜は、主人であるレミリア・スカーレットにより幻想郷を元に再現された“魔の空間”に転送される。咲夜は“時を止める能力”を制限されたまま、魔の空間に用意されたお嬢様の試練を乗り越えていくことになる。

 

救済手段としてのグレイズシステム

ゲームは咲夜が“魔の空間”に転送されたところからはじまる。咲夜がエリアを進んでいくとジャンプやナイフの投げ方、時間の流れを緩やかにする(いわゆるバレットタイムの)方法についての説明を受けることになる。説明は読み飛ばすこともできるが、すぐに斜め下の敵への攻撃、時間を緩やかにしての関門通過といった仕掛けがあるため、読んだほうが無難だろう。筆者のようにアクションゲームが苦手というプレイヤーでも、このエリアで存分に操作方法に慣れることができる。

続くエリアでは、本作でとても重要な“グレイズ”の仕組みが説明される。グレイズとは、敵や敵の放つ弾に接近することで敵からHPやMP、TIMEを奪い、自分のものにできる能力のことだ。本作では、MPやTIMEは時間経過とともに自動的に回復する。しかしHPだけはグレイズか、館内に隠された自動販売機で回復することになる。そのためHPが減少したプレイヤーは、あえてリスクを冒し、自ら敵に接近することでHPを回復する必要に迫られることになる。

グレイズの仕組みは、一見すると初心者には難しいようにもみえる。しかし、プレイしてみるとわかるが、グレイズの本質はHPが減りがちな初心者への救済手段である。

本作では一定量の敵を倒すたびに咲夜のレベルが上昇する。レベルが上昇すればゲーム攻略容易になるが、敵を倒さないと攻略できないわけではない。絶対に倒さなければならないのは、基本的にはボスだけだ。その他の敵は、無視して先に進んでもよい。その際、敵をぎりぎりで避けて通過することでHPやMP回復する仕組みが、グレイズなのだ。エリアによっては、時間を止めたり緩やかにして駆け抜けるだけでHPやMPが完全回復することもある。

敵に接近するのはリスクでもあるが、リスクに見合う報酬もある。腕が上がるに従って、敵の動きを紙一重で見切って最小の攻撃で倒せるようになると、力がついたことが実感できて満足度もひとしおだ。初心者はグレイズをうまく使うことで、ゲームを無理なく攻略することができるだろう。

 

咲夜を手助けする記録係と商人、そしてマップ

チュートリアルを終えてゲームを進めると、稗田阿求という記録係のキャラクターが出現する。本作では、舞台となる館に点在する緑色の公衆電話がセーブポイントになっており、そこから彼女に電話をかけることで進行状況がセーブされる。「公衆電話ってなに?」というスマホ世代の皆さんは、そのスマホで各自「公衆電話」を検索していただきたい。また本作では公衆電話だけでなく、エリアをワープする門も館内に複数隠されているため、発見すると攻略がより容易になる。

稗田阿求の次に出会う重要な登場人物が、河城にとりだ。にとりは名前だけ聞くと家具屋のようだが、不要になった宝石を高価買取してくれるなど、質屋に近い商人だ。宝石と引き換えにさまざまなアイテムを入手することができるのだが、ひとまずこの時点では宝石は必要ない。咲夜は、にとりからアイテムを受け取ることで制限されていた“時を止める能力”が使用できるようになる。時を止める能力は、本作最大の特徴といっていいだろう。後ほど詳述するが、咲夜は時を止めることで敵を倒すのはもちろん、さまざまなトラップを通過できるようになる。

ところで、筆者がゲームを進めていくうえで、もっとも悩んだのがボスの不在だった。ボスの不在と書くと格好いいのだが、要するに道に迷ってボスがどこにいるのかわからなくなってしまったのだ。本作には、そういった初心者に向けた、優れた救済策が用意されている。──マップだ。すでに発見したエリアだけでなく、未発見のエリアに通じる道表示されるため、冷静にマップを確認さえしていれば迷うことはない。アクションゲーム初心者の方は、迷ったらまず、冷静にマップを見ていただきたい。

マップにある隠しエリアには、投げられるナイフの数が増加したり、止められる時間が増加するなど、初心者にとってありがたいスキルアップ・アイテムが用意されている。そういったアイテムをとり逃すことなく身に着けていけば、アクションゲームが苦手なプレイヤーも、着実に先のステージへ進むことができるだろう。

 

初心者でも上級者でも楽しめる難易度

『Touhou Luna Nights』を一言で評価するならば、初心者から上級者まで楽しめるメトロイドヴァニアとなるだろう。メトロイドヴァニア初心者のための入門ゲームでありながら、上級者にも楽しめるようにつくられているからこそ、本作はコミュニティから高く評価されているのだ。そしてその高い評価を支えているのが、本作の難易度設定だ。

主人公の咲夜はナイフを武器に、待ち受ける多くの敵を倒しながら館の中を探索していくことになる。館内で待ち受けるキャラクターたちは文字通り「待ち受け」が基本で、積極的に咲夜を攻撃してくることはほとんどない。敵が「受け身」であるということは、プレイヤーにとっては、敵の動き出すタイミングや攻撃のパターンをある程度観察できるということでもある。つまり、敵の配置を観察しながら、ゴリ押しするか、スキルを使って慎重に進むか選択することが可能なのだ。

もちろん敵が手ごわそうだと感じた場合は、前のエリアに戻るという選択も用意されている。ただし、前のエリアの敵はリスポーンしているので、判断は慎重に行う必要がある。簡単に通過できたエリアでも、進行方向が逆になるだけで難易度が一変することもある。『Touhou Luna Nights』にはさまざまな攻略法が存在し、プレイヤーのプレイスタイルによって難易度が違ってくるのだ。

『Touhou Luna Nights』の難易度が初心者にも上級者にも適切なのは、この攻略法の多彩さによるところが大きい。たとえば、エリアを通過するためにプレイヤーが選択できるプレイスタイルを具体的に列挙すると、次のようになる。

 ・敵を無視して、交戦せずに次のエリアへ通過する。
 ・敵にあえて接近し、青グレイズでHPなどを回復しつつ、交戦せずに次のエリアへ通過する。
 ・敵にあえて接近し、青グレイズでHPなどを回復しつつ、交戦して倒す。
 ・敵にあえて接近し、時間を止めるなどのスキルを使って、赤グレイズで少量のMPTIMEを回復しつつ、交戦せずに次のエリアに通過する。
 ・敵にあえて接近し、時間を止めるなどのスキルを使って、赤グレイズで少量のMPTIMEを回復しつつ、安全に敵を倒す。
 ・敵と適度な距離をとりながら、交戦し倒す。
 ・敵と適度な距離をとりながら、尚且つスキルを使って安全に倒す。

青グレイズというのは通常のグレイズで、赤グレイズというのは時間を止めた状態での容易なグレイズのことだ。時間を止めた状態であれば簡単に敵に接近できるが、HPは奪えず、MPTIMEの回復量も青グレイズに比べて少ない。大きなリスクを冒すほど、より大きなリターンが得られるフェアな仕組みになっている。

本作ではHPを回復するグレイズや時間を止める能力がゲームを進めるうえで重要なスキルになっているが、それらは上級者にとっては必ずしも不可欠なものではない。必要に迫られないかぎり、スキルを使わずに、エリアを突破する選択肢もあるのだ。では上級者にとって、本作の特徴である時間を止める能力が無駄なのかというと決してそんなことはない。上級者にとっても時間を止める能力は、エリア内に待ち受けるトラップを回避する手段として、本作の面白さに大きく寄与している。

もちろん初心者にとってグレイズや時間を止める能力は、敵を倒すためにも頼れるスキルとなる。初心者は、たびたび時間を止めながら慎重に歩みを進めることで、エリアを攻略することが可能なのだ。いわゆる情け容赦のない難易度のゲームが多い中、本作が初心者でも手ごたえを感じながらクリアできる絶妙な難易度になっている理由が、ここにある。 

 

決して無敵ではない時間静止能力

ところで、時間を止める能力というのは、漫画やアニメでも究極のチート能力とされることでお馴染みだ。そんな能力があれば、ゲームのクリアは簡単に思えるかもしれない。しかし本作では、時間を止める能力が無敵になってしまわないよう、細かい調整が加えられている。

調整の一つとして、まず静止できる時間の制限が挙げられる。咲夜が静止できる時間は、ゲーム中のTIMEゲージで表される。TIMEの総量はきまっているため、それを過ぎてしまうと敵も動き出す。TIMEが尽きてしまうと、それを超えて時間を止めることができないのだ。

また、時間静止を連続して使えないように制限も設けられている。一旦TIMEゲージが空になってしまうと、TIMEが回復するまでの間は、時間を止めることができなくなるのだ。

くわえて時間静止中は咲夜を動かすごとに、その運動量に従ってTIMEの量が急速に減少する。静止した時間の中で、咲夜だけが自由に動き回ることはできない絶妙なルールになっているといえるだろう。時間を止める能力は決して無敵ではないのだ。

限界量が定められているのはTIMEだけではない。咲夜がナイフを投げられる数を示すMPにも同じく限界量が定められている。MPがなくなってしまうと咲夜はナイフを投げることができなくなり、なすすべなく逃げ回るしかなくなってしまう。MPもTIMEと同じく時間経過とともに回復するが、前述のとおりグレイズによって回復させることも可能なため、腕に覚えのあるプレイヤーはリスクを冒してあえて紙一重で逃げ続けるという選択肢もある。これらの細かい調整が、『Touhou Luna Nights』を初心者でも上級者でも手ごたえを感じられる絶妙の難易度に着地させているといえるだろう。

ゲームはまだ正式リリースを迎えばかりなので、チュートリアル後の展開について詳述するのは控えるが、第2ステージからは時間を止めたり、時間の流れを緩やかにするといったギミックを有効に使うことでクリアできる、アクションパズル的なエリアが多く登場する。ただ敵を倒すだけでなく、身に着けたスキルを駆使してトラップを回避するのも本作の楽しみの一つなのだ。特に正式リリース時に追加されたステージには滑空やスライディング、時を止めたり緩やかにする能力、投げたナイフを足場にしたジャンプなど身に着けたスキルを駆使しなければ進めない難関エリアが待ち受けている。どのエリアも、一見すると通過不可能に見えるが、スキルをタイミングよく使うことで通過できる。緻密なレベルデザインに舌を巻く思いだ。

敵や動く足場、トラップの絶妙な配置も、本作の魅力を語るうえで欠かせない要素のひとつだ。致命的な刃物や電流のトラップが、咲夜の前に立ちふさがる。最終ステージともなると、一見しただけではどうやって通過したら無傷で済むのか見当もつかないエリアも多い。黄色のオーラを放つ物体は時間静止中は時間が逆に流れるなど、独自のギミックも用意されている。しかし、それらの罠もプレイヤーが頭をひねり、スキルを駆使することで乗り越えていくことができる。本作はただのメトロイドヴァニアに留まらず、アクション・パズルゲームとしても秀逸なのだ。

筆者がどうしても無傷で進めなかった難関。どうやって進むべきか、皆さんならわかるだろうか?

筆者が特に面白いと感じたのが、時間が動いているときと止まっているときで、本作がまるで別のゲームになってしまうことだ。時間が動いているときには、敵を攻撃して倒していくメトロイドヴァニアなのだが、時間を止めるとマリオのような障害物を避けて足場をジャンプして進んでいく、いわゆるプラットフォーム・ゲームに変身するのだ。例えば敵の放った弾丸は、時間を止めると咲夜が避けなければならない障害物になるし、落下してきたシャンデリアがジャンプするための足場に変わる。

最後に挙げておきたい本作の魅力が、ボス戦だ。本作のグラフィックは総じて美しいのだが、ボス戦は特にそれが際立っている。敵の攻撃には迫力があるし、歯ごたえもある。手ごわい敵でありながら、各ボスに合った攻略法も用意されている。「東方Project」の弾幕系シューティングの要素もありつつ、アクションゲームのボス戦のお手本のような歯ごたえのあるプレイを楽しむことができる。倒した後には、気持ちの良い達成感を感じることができるだろう。

本作は「東方Project」の二次創作ではあるが、筆者のように特に「東方Project」の知識がないプレイヤーでも存分に楽しめるアクションゲームに仕上がっている。「東方Project」の豊かな世界観が、緻密につくりこまれたメトロイドヴァニアに、一層豊かな彩を添えているのだ。

『Touhou Luna Nights』は、現在Steamにて1840円で販売中だ。

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