『妖怪ウォッチ2 真打』で、「えんえんトンネル」を“99万9999m”走る狂気のチャレンジ。ヤンデレ車掌にギャンブル爆死、ドラマチック暗闇マラソン

 
Image Credit : バベル

妖怪ウォッチ2 真打』にて、「えんえんトンネル」を延々と走るチャレンジが敢行されているようだ。同作は、2014年12月にレベルファイブから発売された『妖怪ウォッチ』シリーズナンバリング作品。同年7月に発売された『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』の拡張バージョンとなる。本作では新たに、映画と連動した追加エピソードを収録。新ダンジョンやストーリーなども追加され、妖怪とのバトルや友情を描く物語がパワーアップして描かれている。 

「えんえんトンネル」とは、『妖怪ウォッチ2 元祖/本家』にて初登場した新マップのひとつだ。ケマモト村のおばあちゃんの家から北へ進み、山へ向かう分かれ道の右側へ進むとたどり着くことのできる廃トンネルである。その入口には、「危険!!」と書かれた立て看板が存在。書かれている注意書きのとおり、トンネル内では日記をつける(セーブする)ことが不可能である。さらに一方通行となっており、一度中に入ると後戻りができなくなる。そして最大の特徴は、「入るたびに長さが変わる」という点だ。 

さらにえんえんトンネルは、1日1回だけ入ることのできる特殊なマップ。出口に到達するたびにイベントが発生し、6回イベントをこなすとボス妖怪とのバトルが発生する。撃破すればイベント達成だが、えんえんトンネルにはその後も引き続き挑戦可能。1日1回挑戦するごとに、トンネルの距離は1000mずつ伸びていく。 
 

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トンネル距離が2万mを突破すると、距離の伸び率はエスカレート。後述する「距離変動イベント」を使いこなせば、大幅にトンネルを伸ばすことができるようになる。ここで重要なのは、トンネルの距離が伸びるほど、レア妖怪やレアアイテムの出現率が高くなるということだ。4万2000mを超えるとSランクレア妖怪が数多く出現するようになり、入手アイテムも希少価値が高いものに。すなわち、えんえんトンネルは長く走れば走るほど“おいしい”マップなのだ。7年前のゲーム発売当初には、放課後の暇な時間を費やし、レア妖怪を求めて延々とトンネルに潜っていた諸氏もいるかもしれない。 

そんなえんえんトンネルだが、はたして長さに限界はあるのか。その解答にたどり着いたユーザーが、2016年のニコニコ動画に存在している。動画内では、1分9秒ごろにトンネルのメートル表示がストップ。その長さ、99万9999mである。同地点にたどり着いた時点で、トンネルの出口が現れ強制的に脱出。このとき得られる報酬アイテムは「金の手形」一つと、いまひとつ物足りない結果だ。ともあれ、この終わらないトンネルにも限界があることを、先人が証明している。 

そして令和のこの時代、限界にふたたび挑戦している猛者がいる。チャレンジャーは、YouTube投稿者のバベル氏。『妖怪ウォッチ』『ドラゴンクエスト』『ポケットモンスター』『モンスターハンター』といったシリーズの動画を多数投稿する人物だ。RTAから検証動画まで幅広いジャンルを手がけており、編集が巧みで視聴者を飽きさせない。メインチャンネルの登録者数は14万人を超える人気投稿者である。バベル氏は5月7日より、「えんえんトンネル99万9999mまで走る」と題した配信を開始した。基本的に毎日配信し、合計90時間程度での完走を目標にしているという。平均で1日3時間程度、毎日ひたすらトンネルを走り続ける配信である。 
 

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ひたすらまっすぐな道を90時間走り続けるという、気の遠くなるような挑戦。しかしその道のりは決して単調なものではなく、ドラマチックな展開に満ちあふれている。その要因が、道中に登場するさまざまな「距離変動イベント」の数々だ。えんえんトンネルには、なぜかときどき不思議な人間たちが登場する。一見すると、廃トンネルの真ん中で出会うにしては不自然なキャラクターたち。彼ら・彼女らは主人公に話しかけ、何らかの問いかけをしてくることがある。会話に出現する選択肢を選ぶことによって、アイテムがもらえたり、バトルが始まったりすることも。 

しかし重要なのは、特定の会話によって「トンネルの長さが変動する」ということだ。プレイヤーが選択した回答により、トンネルの出口が近づくこともあれば、遠ざかることもある。これが、えんえんトンネルロングランにおいてもっとも重要なテクニックとなる。単純にトンネルを走り続けているだけでは、やがていつかは出口にたどり着いてしまう。しかし、道中に登場するNPCに話しかけ、正確に「出口を遠ざける」選択肢だけを選び続ければ、はるかに距離を伸ばすことが可能なのだ。 
 

Image Credit : バベル

 
とはいえ、ことはそう単純ではない。中には、トンネルが伸びるか縮むかランダムに決まるギミックも存在している。ときおり壁に現れる「スイッチ」が代表格だ。一見何の変哲もない、普通の電気スイッチ。これを押すことによりトンネルの出口の位置が変動し、「すこし近くなった」「すこし遠くなった」「とんでもなく近くなった」「とんでもなく遠くなった」のいずれか4つのうちの結果が出る。うまくいけば出口までの距離を一気に伸ばして99万9999mまで近づくことができるわけだ。しかし、失敗すれば出口が近づいてしまい、チャレンジが強制終了してしまうおそれもある。そこで、トンネル内にスイッチが登場するたびに、バベル氏は押すべきか押さざるべきかの判断を迫られるのである。 

本配信は、バベル氏による音声はオフでストリーミングしている。それゆえ、同氏が正確に何を考えているかは推しはかるよりほかない。しかし、選択肢を目の前にしたバベル氏の感情が操作キャラクターににじみ出るところに妙味がある。スイッチを前に、ぐるぐるとその場を回るケータ。選択肢の「押す」「押さない」の上をしばらく逡巡していると、コメント欄からも「押せ!」「やめておきなよ」といった野次が飛んでくる。そして、見事「とんでもなく遠くなった」を引き当てたときには、歓声の嵐。バベル氏も、わざわざ画面上のケータをこちら側に向かせて無言の“ドヤ顔”を見せつける。逆に、うっかり「近くなった」を引き当ててしまえば配信はお通夜ムード。しばらく壁に向かって歩き続けるケータの背中が万感の思いを視聴者に伝えてくる。 
 

*2時間49分15秒ごろ、ギャンブルに出るバベル氏。 

 
配信では、トンネルに出現するさまざまな要素が視聴者の間でミームと化している。代表的なものは「親切な車掌」だ。トンネル内を走っていると、突然奥から画面いっぱいの列車が走ってくることがある。あわやひかれる、というところで列車は停止し、中から人当たりのよさそうな車掌が登場。列車に乗りこんでいくかどうかをプレイヤーに尋ねてくる。いったいどうして廃トンネルを列車が走っているのかはさておき、本イベントはプレイヤーのトンネル内位置を変動させる内容だ。列車に乗りこむと、ランダムでトンネルの奥へ連れていってくれるか、手前まで引き戻されてしまうことになる。 

当然手前に戻されるとふたたび同じ距離を走りなおしとなり、二度手間のリスクがある。しかしそれ以上に、バベル氏の見立てによれば列車イベントは、進むにしても戻るにしてもトンネルの総距離を縮めてしまう疑惑があるという。過去の挑戦からの推測であるといい、同氏はなるべく列車に出会っても乗りこまない方針で今回のチャレンジを開始した。1日目の挑戦では、開始2分で早々に列車が登場。バベル氏が乗車を拒否すると、車掌は「あなたを置いてけぼりにして 汽車は まもなく出発いたします」と、若干の塩対応となった。 

ところが、走り去る列車をバベル氏が見送り、ふたたび走り出してからわずか10秒後。何と、今発車したばかりの列車がふたたび画面奥から戻ってくるではないか。素知らぬ顔で、先ほどとまったく同じように乗車を促してくる車掌。バベル氏はまたもこれを拒否し、すげなく走行を再開する。しかし、こともあろうに15秒後、みたび列車が出現してしまう。いちいち冷たい対応で去りながら何度も戻ってくる車掌の様子に、コメント欄からは「ツンデレ車掌」とのニックネームが与えられることとなった。しかし、その後も列車の出現率は異様な高レートをキープ。開始から21分10秒を記録するころには登場回数はゆうに10回目に到達してしまう。その執着心に狂気を感じ取った視聴者らにより、以降の車掌と列車は「ヤンデレ車掌」「ヤンデ列車」として親しまれる(?)こととなった。ちなみにバベル氏は25回目の遭遇でようやく列車に乗りこむも、しっかり手前に戻されている。 
 

*1分50秒ごろ、ヤンデレ車掌と初遭遇。 

 
またバベル氏のえんえんトンネル配信において、「サニキ」の存在を欠いて語ることはできない。事件の起こりは、配信開始2日目のことだ。配信総時間は5時間に近づき、すでに走破記録は6万9000mを突破していた。そこで現れたNPCが、「トンネル作業員」なる男である。安全ヘルメットにつなぎ姿の、いかにも土木作業員といった風体の人間だ。同キャラクターは、えんえんトンネルマラソンにおいて重要なポジションを占める人物。というのも、彼と会話し、「このトンネルは もっと短くするべき? それとも もうちょっと長くするべき?」との質問に「長くすべき」と答えることで、トンネルの長さを確実に伸ばすことが可能なのだ。スイッチと異なり結果を操作することができるため、出会ったら必ず話しかけておきたい人物だ。 

ところが、ここで悲劇が起きてしまう。長らくの配信により、操作もルーチン化してきていたバベル氏。おそらくボタン連打で会話を進めてしまったのだろう。作業員に対し、うっかりトンネルを「短くすべき」と答えてしまったのだ。実は作業員は、確実に距離を伸ばせるキャラクターでもある一方、裏を返せば大きなリスクのある人物でもある。うっかりトンネルを「短く」するように伝えてしまうと、トンネルは大幅に縮小。すぐ目の前に出口が出現してしまうのだ。はたして、無情にもバベル氏の前には、光に満ち溢れた出口が姿をあらわした。これにて1回目のチャレンジは強制終了。記録は6万9127mで打ち止めとなり、チャレンジは始めからやり直しとなった。衝撃的な出来事に、コメント欄は悲鳴の嵐。視聴者は口々に「#作業員を許すな」と叫ぶこととなった。 
 

*1時間51分31秒ごろ、作業員の悲劇。 

 
しかし、いちどは悲劇の原因となった作業員とはいえ、正しく使えば確実にトンネルの長さを伸ばせるボーナスキャラであることも事実。徐々にコメント欄にも「#作業員と仲直り」「#作業員は親友」といった融和的な声が見られるようになる。特に先述のスイッチによるギャンブル失敗で出口が「とんでもなく近く」なってしまったときは、誰もが「作業員来てくれ!」と祈るようにまでなった。徐々に作業員は「危なくなったときの救世主」としてのポジションを確立。やがて、頼れる“作業員の兄貴”こと“サニキ”と呼び慕われるようになった。 

山あり、谷ありのえんえんトンネル配信も、5月26日には14日目を迎えた。すでに走行距離は58万mを突破し、チャレンジも後半戦。総配信時間は50時間を超過している。画面としては単調な配信ではあるが、ときおり起きる劇的な出来事からついつい目が離せなくなる不思議な放送。コメント欄でバベル氏の動向に一喜一憂するうちに、視聴者間で奇妙な連帯感が生まれてくるのも本チャレンジの魅力だろう。7年前のゲームが同時接続数1万人を超える人気配信となっていることも興味深い。はたしてケータのマラソンはいつ終わるのか。今後も要注目である。