「ゲームを殺すな運動」EUでの法案化は見送りに。運動の代表者は“想定内の結果”として、次の一手へ

欧州委員会は6月16日、欧州市民イニシアチブ「Stop Destroying Videogames」について、現段階では同イニシアチブが求める内容について立法提案をおこなわないことを発表した。

欧州委員会は6月16日、欧州市民イニシアチブ(ECI)「Stop Destroying Videogames(ゲームを壊すな)」について、現段階では同イニシアチブが求める内容について立法提案をおこなわないことを発表した。同イニシアチブは、市民団体「Stop Killing Games(ゲームを殺すな)」(以下、SKG)が主導してきたもので、ゲーム企業に対して、オンラインゲームのサービスを打ち切る場合に、プライベートサーバーの解放といった代替手段を用意するよう求めていた。GamesRadar+などが報じている。

SKGはゲームがオンラインサービスを終了したあとも、購入者がゲームを引き続きプレイできるような対応を企業に義務付けることを求める市民団体だ。同団体は、オフラインの代替手段など、公式サポート終了後も何らかの形でゲームを機能させる手段を用意するように求めてきた。ヨーロッパでの活動のほかにも、SKGが支持する法案が現在カリフォルニア州議会で審議されており、すでに下院を通過。これからは上院での審議が予定されている(関連記事)。

そして欧州市民イニシアチブとは、欧州の加盟国7カ国で100万人以上の署名を集めることで、欧州委員会に対し立法を提案することができる制度。署名の収集期間は1年間と限定されており、SKGは2024年7月末から「Stop Destroying Videogames」とされる署名運動を開始。最終的に目標署名数を大幅に超える約145万件の署名を集め、129万件以上が有効署名として認められた(関連記事)。2026年1月には有効署名数が必要数の100万筆を超えたことを所轄官庁が確認。署名は欧州委員会に提出され、4月には欧州議会で公聴会が開かれた。さらに5月には本会議で討論がおこなわれていた。

そうした背景のなか、欧州委員会は6月16日、商業的に提供が終了したゲームについて、引き続き遊べるように法律で義務付けることは現段階では提案できないとする回答を発表した。その理由として知的財産権の保護を挙げており、EUの著作権法では、権利者は自身の創作物に対して排他的権利が認められると説明している。さらに、ビデオゲームには著作権のほかにも、作品のビジュアル・技術を保護するさまざまな知的財産権が含まれている可能性があり、こうした権利との兼ね合いも懸念点だとした。

くわえてイニシアチブがゲーム事業者に求める責任は「比例性を欠く(would not be proportionate)」と言及。知的財産の懸念に加え、企業の機密情報、パブリッシャーのコスト、およびゲームのサポート終了後のサイバーセキュリティや安全性に対するリスクがあると伝えている。

また欧州委員会は、EU消費者法にはすでに消費者の経済的利益を保護するための仕組みが整備されていると説明。ビデオゲーム事業者は利用者がサービスに登録する前に契約期間や解約条件を通知する義務があり、さらに提供されたコンテンツやサービスが、消費者の合理的な期待に沿わない場合には、現行の消費者法に基づいて返金などの救済措置を受けられるとした。このような既存の消費者保護法を積極的に運用することで、事業者が長い寿命をもつビデオゲームを提供する動機付けになりうるという見解を示した。

そのうえで欧州委員会は、2026年末までにビデオゲーム業界および消費者代表者との意見交換を開始し、ビデオゲームを“終了”する際にどのように管理するのかを定める「業界行動規範」の起草を目指すと伝えている。さらに消費者団体や関係当局と協力して、消費者権利の意識を向上させていくことも伝えた。既存の消費者権利の積極的な運用で、ビデオゲームのサービスの延長や、サービス終了時の解決策を模索する効果が期待できるとの考えを示している。

こうした欧州委員会の発表に対しては、SKG支持者の間で不満の声が広がっている。特に批判されているのが、6月3日におこなわれた、ヨーロッパのビデオゲーム業界団体VGE(Video Games Europe)と欧州委員会との会合についてだ。

同会合はVGE主催の招待制で実施されており、UbisoftのCEOであるYves Guillemot氏が参加した一方で、SKGは招待されていなかった(GamesRadar+)。ちなみにUbisoftはSKG設立のきっかけとなった『ザ クルー』のパブリッシャーでもある。こうした背景もあり、業界団体による欧州委員会への働きかけが今回の決定につながったのではないかと疑問視する声も見られ、支持者らは批判の声を上げている。

その一方で、SKGは今回の欧州委員会の発表について「想定内(not unexpected)」だとするコメントを発表した。同団体によれば、この結果はあらかじめ予想していたものであり、すでに次の段階に向けた活動の準備を進めているという。 現在は欧州議会議員に対し、自らの理念をデジタル公正法(Digital Fairness Act:DFA)へ盛り込むよう働きかけているとしている。

DFAとは、欧州委員会が策定に向けて動いている、デジタル分野の消費者保護を目的とする新法案だ。ユーザーを特定の行動へ誘導するダークパターンや、不公平なパーソナライズドマーケティング、インフルエンサーを使った誤解を招く広告などの規制が検討されている。この度の欧州委員会の判断により、SKGが欧州市民イニシアチブ(ECI)を通じて目指していた立法化の実現は見通しが立たなくなったものの、今後は消費者保護を切り口として活動を続けていくのだろう。

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

Kousetsu Taguchi
Kousetsu Taguchi

レトロゲームショップに入ると真っ先にセガサターンのコーナーを確認するタイプです。

記事本文: 129