昨年末より、大量発生している謎の肺炎。中国にて存在が報じられたのち、そのほか5か国にて感染が確認され、今年に入って「新型コロナウイルス」であると正式に報告された。大規模な感染症であるとされており、感染者は1月22日時点で500人以上、死亡者は9人以上。人から人へ感染する可能性が高いという証拠が集まりつつある。WHOからも警鐘が鳴らされ、いよいよ世界で厳戒態勢が敷かれている。一方で、この感染症が報告されてから、中国にてとあるゲームの人気が沸騰しているようだ。そのゲームとは、“感染ゲーム” 『Plague Inc.』である。
『Plague Inc.』では、プレイヤーは危険な病原体を作り出し、世界を滅亡させることを目指す。伝染病のタイプや感染国を選び、惨事を引き起こす。こっそりと感染を進めたり、病原体を進化させたり特性を変化させたりと、うまくワクチン開発から逃れながら、頭をひねらせて全人類の感染を果たす。同作は、アンチワクチン派向けのシナリオ開発が公言されたり、フェイクニュースシナリオが導入されたりと、時事ネタを使っての風刺アップデートを定期的におこなっている。そんな中、中国ユーザーの間でゲームが注目を集めているようだ。
1月21日に入り、『Plague Inc.』が中国のApp Storeで有料アプリカテゴリの中で首位を獲得しているとWeiboユーザーらが報告。大量のユーザーが同作を遊んでいるようだ。その理由はというと、今回の新型コロナウィルスの感染現象がまさしく『Plague Inc.』のようだとされているからだろう。最初はなかなか発見されず、その後加速的に病原が広まっていく光景は、ゲームを遊んだプレイヤーなら見慣れたもの。Weiboでは「笑っちゃいけないけど、テレビ見てたら『Plague Inc.』かと思った」という投稿などが寄せられている。Steamでもプレイヤー数は大きく増加しており、このタイミングで人気を博しているのは間違いなさそうだ。
中国政府は、新型コロナウィルスの最初の患者が報告された時点では、この事実を公表しなかったと報道されていた(JBPress)。最終的に、中国政府は武漢を出発する全ての旅客機および旅客鉄道の営業を一時的に停止。武漢市内の観光地やホテルは大きな催し物を延期すると指令しているという(BBC)。中国政府はウイルスを隠蔽していたのではないかと一部メディアは指摘している。爆発的な感染、隠蔽による危機管理意識の低下、後手対応といったセットもまた、『Plague Inc.』のシナリオにありそうな要素なのだ。
一部の中国ユーザーは『Plague Inc.』を利用したコラージュ画像を作成。画像では、ゲームに新たな難易度「白痴」を追加し、同難易度では「患者が医者を攻撃する」「市民が頻繁に大規模な集会をする」「マスクの価格が急騰する」「患者は隔離を拒否する」といった記述が確認でき、今回の騒動を皮肉っている。なお前述の要素は、いずれも現在中国の武漢で報告されているものである。一方でインフルエンサーの游戏君氏は、「このゲームからは人々が疫病とどう対面するかを学ぶことができる」としており、学習教材とみなす人々もいるようだ。好奇心、皮肉、勉強。さまざまな理由で中国ユーザーは『Plague Inc.』に夢中なのかもしれない。
なお『Plague Inc.』と新型コロナウィルスのシチェーションがかぶって見えるという認識は全世界共通のようで、r/gamingでも中々感染が始まらないグリーンランドやNobodyミームを絡めてジョークが展開されている。開発元のNdemic Creationsもこのネタにコメント。「最近よくコロナウィルスについて尋ねられますが、WHOが素晴らしい情報を載せているのでそちらを」とリンクを貼り反応している。
なお『Plague Inc.』だけでなく、その続編である『Rebel Inc.』もランキング急上昇中。両作はモバイル/PCなどでプレイ可能だ。
【UPDATE 2020/1/26 10:10】 ※追記にあわせて本文内容も調整
Ndemic Creationsは今回の騒動を受けて、声明を出している。まず『Plague Inc.』は現実的で教育的な意義があり、実生活の深刻な出来事をセンセーショナルにするためのものではいとコメント。それは疾病予防管理センターCDCなど世界的機関に認められているとも。一方で『Plague Inc.』はゲームであるとも強調。科学的なモデルではなく、新型コロナウイルスは多くの人々に影響を及ぼしている深刻な感染症であると言及。(『Plague Inc.』を参考にするのではなく)保健機関などから正しい情報を得てほしいと呼びかけている。
Steamでの同時接続数では過去最大の数字を記録している『Plague Inc.』だが、開発元は新型コロナウイルスは実際の深刻な問題であり、プレイヤーにはゲームと切り分けて正しい姿勢で取り組むよう願っているようだ。状況は刻一刻と変化しており、日本へ本格上陸する可能性は決して捨てきれない。ゲームではなく実際の情報を追い、適切な予防を備えておこう。