バンダイナムコエンターテインメントが2023年11月14日にリリースした『アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism』(以下、『シャニソン』)。2Dでの育成ゲームだった『アイドルマスター シャイニーカラーズ』(以下、『シャイニーカラーズ』)のキャラクターを3D化し、リズムゲームやMVが実装されたファン待望のタイトルである。

そんな『シャニソン』には、音声最適化ミドルウェア であるCRI ADXや、高圧縮高画質のムービーミドルウェアCRI Sofdec、音声解析およびリアルタイムリップシンクミドルウェアのCRI LipSyncが利用されている。CRI・ミドルウェア製の技術は、28人のアイドルたちの飛躍を描くためにどのように使われたのか、ゲームメーカーズと共同でインタビューを実施した。CRI・ミドルウェア製の技術を用いた、最適化やリップシンクに関するゲーム制作現場の最前線の様子をお届けしたい。なお、CRI・ミドルウェアへの問い合わせはこちらから可能だ。


なお、本インタビューは別のゲームメディアであるゲームメーカーズと共同で展開している。同メディアではより開発者向けの観点の記事が掲載されているので、そちらもチェックしてみてほしい。


―― まずは自己紹介をお願いいたします。

高山 祐介氏(以下、高山氏):
バンダイナムコエンターテインメントで、『シャニソン』のプロデューサーをしております、高山です。本作の企画の方向性の統括であるとか、ビジネス上の予算管理をしております。『シャイニーカラーズ』というIPの作品でもありますので、IPとしての表現や方向性も見させていただき、全般を俯瞰するような立場でタイトルに関わっております。


下野 昌隆氏(以下、下野氏):
テクニカルアーティストの下野です。基本的には3D周りの指示と、イラストチームからのフィードバックをいろいろな現場に落としていくような仕事をしております。


石川 哲彦(以下、石川氏):
サウンドチームの石川です。クレジット表記で使っているLindaAI-CUE……と名乗る方がしっくりくるかもしれません。サウンドチームは現在4人体制で動いていまして、私はそのリーダーとしての進行の管理と、各パートからの問い合わせ対応、それからトラブルが起きたときのトラブルシュートが主な仕事です。初めのうちは自分でもアセットを作っていましたが、途中からは専門のスタッフに作業をお願いし、自分はその制作進行チェックやコンセプト確認をする担当に落ち着いています。


―― 本作を知らない読者向けに、ゲームの概要や特徴を教えてください。

高山氏:
『シャニソン』は『アイドルマスター』シリーズの最新アプリかつ、『シャイニーカラーズ』というブランドの2作目のタイトルになります。アイドルたちを育成するプロデュースパートと、育成したアイドルをステージで輝かせてリズムゲームを楽しむライブパートに分かれているのが特徴です。これまでの『アイドルマスター』シリーズと同様に、プレイヤーの皆さんは「プロデューサー」となってアイドルたちを育成し、ライブステージに立たせて、リズムゲームでスコアを稼いでいくというゲームになっております。

―― プロデューサーの高山さんから見た、本作の一番の推しポイントはなんでしょうか。

高山氏:
『アイドルマスター』シリーズでは、アイドルの魅力をプロデューサーの皆さんに感じていただくことを第一と考えています。『シャイニーカラーズ』では「283プロダクション」という事務所に所属する28人のアイドルたちが魅力的に生き生きと描かれている、というのが一番の推しポイントです。開発陣も一番にこだわってきたポイントでもありますので、今まで2Dだったアイドルたちを3Dで、今までと違う新鮮なアングルからも魅力を十二分に楽しむことができるという点が『シャニソン』の一番のポイントです。


―― 『シャニソン』は『アイドルマスター』シリーズの中でもゲームデザイン面で新しいチャレンジをしているように感じます。その点はプロデューサーである高山さんのご意向なのでしょうか。

高山氏:
『シャニソン』のゲームデザインの根本でいうと、企画を始めた当初は『アイドルマスター』シリーズの中だけでも、『シンデレラガールズ スターライトステージ』(以下、『デレステ』)や『ミリオンライブ! シアターデイズ』(以下、『ミリシタ』)、『SideM LIVE ON ST@GE!』(以下、『エムステ』)など、リズムゲーム体験を提供しているタイトルが多数ありました。

市場にもリズムゲームがたくさんあり、同じようにリズムゲームを出しても新鮮な体験を提供できないのでは、というところがありました。ですので『アイドルマスター』シリーズが持っている「二人三脚のアイドル育成」という魅力と、キャッチーで受け入れやすいリズムゲームというのを、やはり1本にまとめたいというところがスタートでしたね。

『シャイニーカラーズ』3D化の経緯

―― R&D(研究開発)がスタートしたのがそのあたりの時期だったということでしょうか。市場を振り返ると、確かに巷にリズムゲームは溢れていましたよね。

高山氏:
『シャニソン』は、本格的な開発をはじめる前に企画検討の時期がありまして。「『シャイニーカラーズ』は2Dで評価いただいているけれど、バンダイナムコスタジオが持っている3Dの強みを掛け合わせたときに、イラストがそのまま動いているような3Dモデルは作れるのだろうか」というところからスタートしました。

―― 3Dモデル制作の企画が立ち上がって、R&Dを始めてから最初の1キャラクターが出来上がるまでは、どのくらいの期間だったのでしょうか。

高山氏:
3か月くらいでしょうか?

下野氏:
はい、顔と身体を作って、何かしらのモーションを入れて、揺れものが入るかな、くらいの時期に試作が終わりましたよね。真乃をビヨンドザブルースカイ(283プロダクションの全体衣装)で踊らせたのが最初になります。

真乃を選んだのは『シャイニーカラーズ』のセンターキャラクターだからというのもあるのですが、デザインとして一番難しいのが彼女かなと思いまして。イラストではちょっとタレ目のニュアンスで描かれていて、角度によっても印象が違う子なので。今までの『アイドルマスター』のセンターにあまりいない雰囲気が真乃の面白いところでもあるので、まず彼女をちゃんと作れたら他の子もできるだろう、というところがありました。


―― なるほど。試作開始から3か月ほどで真乃のモデルが揺れものまで含めて完成したと。その後サウンドチームが加わった形でしょうか。

石川氏:
はい、下野さんから「テストケースを作っているからボイスを乗せたいので、データの整理をお願いします」という依頼が来て、それが最初に関わった作業だったことを覚えています。

―― そのタイミングでもうすでに、CRI ADXは使用されていたのでしょうか。

石川氏:
いえ、そのときはまだでしたね。ADXの本格投入があったのは、依頼をもらってから数か月後ぐらいだったと思います。正式に制作を始めるにあたってエンジニアが集まり始めて、ミドルウェアをどうしようかっていう議論があった時期ですね。

下野氏:
リップシンクを先にやりたいなと思ったんです。音楽に合わせてというよりは、イベントパートなどで大量のセリフが来るのはわかっていたので、個別に手付けでフェイシャルモーションをつけていると作業が膨大になってしまうなと。当時、社内ではまだ全然使っていないツールでしたが、採用を決めた形です。同時に、石川さんにもお手伝いをお願いしました。

石川氏:
今回のメインBGMを担当している大木さんと一緒に参加しました

―― 最終的な開発人数はどれくらいだったのでしょうか。

高山氏:
最終的には100人を超える規模で開発を行っています。

下野氏:
内部でアセットを作っている人、エンジニアのスタッフを含めて、全体会議をZoomで開くと、参加者はかなりの大人数になります。

高山氏:
内訳はアセットが4割、エンジニアが5割、リーダーや企画陣が1割というくらいだと思います。

「イラストがそのまま動いているように」作る

―― enza版『シャイニーカラーズ』や、『アイドルマスター』シリーズの他ブランドとの差別化について、初期の構想・コンセプトなどを含めて教えてください。

高山氏:
『シャニソン』のゲーム体験コンセプトとしては冒頭に申し上げたとおりで、プレイヤーがプロデューサーとなってアイドルないしアイドルユニットの行動やスケジュールを選択していき、彼女たちを教え導いて能力を高め、そうして育て上げたアイドルたちをライブステージに立たせたときにそのステージが感慨深く映る、というところが『シャニソン』が目指した体験価値です。

ビジュアル的な部分で言うと、『シャイニーカラーズ』でユーザーの皆さんに評価いただいているイラストやアートワークの魅力を、3D……特にライブステージというところで十二分に出せるのかというところが一番のポイントでした。イラストがそのまま動いているように、『シャイニーカラーズ』の持つ繊細さや線の細い色彩感を3Dで表現するという点も狙いでした。


――「イラストがそのまま動いているように作ってください」という発注をしたと。

下野氏:
そうですね、企画書などの資料には毎回その旨を最初に書いています。イラストが美しすぎるので、正直まだまだ全然足りていないと思うのですが……。

石川氏:
サウンドの最初の打ち合わせを僕は今でも覚えていて、BGMを劇伴として作っていくのか、メロディーラインは強くするのか弱くするのか、シナリオ立たせるのかメロディーで雰囲気を作っていくのか、というところも最初に話をしました。その辺りが、実はほかの『アイドルマスター』との大きな差別化ポイントなんじゃないかと思っていました。

BGMのメロディーラインが立ちすぎていたら非常にガチャガチャしたものになるだろうというのは、最初から危惧していたところでした。それは先ほどお話しした大木さんもかなり強く意識していて、バックグラウンドとして役立つものを作りたいという強い意志のもとに制作しています。

プロデュースパートやメインのホーム画面など、さまざまな場面でBGMを流す場面はありますが、共通して考えているのは「距離感を大事にすること」です。シナリオであれば音楽は情景の後ろ側に行って、あくまでもストーリーをメインに置いています。ホーム画面では逆にわかりやすさを優先する作りになっていて、それが場面のメリハリにもなっています。

―― ちなみに楽曲数はどれくらいなのでしょうか。

石川氏:
運営開始時点で70曲近くはありましたね。BGMとしてはだいたい60~90秒で終わるものが多いのですが、一部仕様の関係で例外もあります。

たとえばどうしても曲のダイナミズムが欲しいので、楽曲としては2~3分程度まとまった時間が欲しいときがあります。そういう曲を、ダイナミズムを意識しながら作りつつ、ゲームとしても使えるように、曲の途中から再生できるようマーカーを付ける機能の追加をCRIさんにお願いしました。大きな1曲のなかの一部をループさせている感じですね。

リズムゲームを邪魔しない3Dにする

―― 本作のリズムゲームパートにおける音や映像について、どんなテーマをもって制作していたか教えてください。

下野氏:
「リズムゲームを邪魔しない」という1点につきますね。いっそのこと3Dを切って2D背景でやるという方もいると思うんですが、それをされちゃうと僕らも悔しい部分がありまして。基本的にはやっぱり3Dを見ながらリズムゲームを遊んでほしいので、フレームレートを維持することを第一に考えています。特にMASTER譜面などは一瞬でもカクつくとそこでプレイの阻害になってしまいます。リズムゲームは下手をするとアクションゲームよりもフレームレートがシビアなので、そこを死守するためにエンジニアもアセットも頑張っています。

実はMV視聴画面とリズムゲームパートでは異なる映像を利用していて、フレームレートを維持するという面でリズムゲームパートではエフェクトを軽量化したり、影や反射の表現をライトなものにしたり、見た目的に大きな差異はないようにしつつも工夫してフレームレートを担保しています。細かいところでは、リズムゲームの譜面関連のUIと3Dモデルの動きのフレームレートを別で管理できるようにして、処理落ちする場合は先に3Dのフレームレートを落とすようなこともやっています。処理の高速化もリリース後も続けてまして、バージョン1.2.0でもちょっと早くなっています。

―― 60fpsを維持するのはもう、マストという感じなのでしょうか。

下野氏:
はい、リズムゲームなのでそこはこだわっています。さまざまなスペックの端末があるなかで、60fpsを維持するのは難しいので、細かくオプション項目を設定できるように進めていって、パフォーマンス優先で出来る限りたくさんの端末でリズムゲームが遊べるように気を配っています。

―― 3Dライブシーン制作はどのように進められたのですか。ワークフローやコンセプトのルックの方向性がどんなものだったのか教えてください。

下野氏:
まずは楽曲のコンセプトや方針を伺って、その内容に合わせた演出の流れやステージデザインをある程度固めてから高山さんに見ていただきます。OKが出たらそこから衣装デザインやモデル制作がスタートして、いつも振り付けを作ってくださっている振付師の先生と相談しながらモーションキャプチャーをしていきます。そこからモーションのブラッシュアップやカメラ制作をしてライブシーンを組み立て、リップシンクや、エフェクトが入ったら完成という流れです。

―― 完全に曲が先なんですね。

高山氏:
そうですね。まずはCDを作っていただいているバンダイナムコミュージックライブさんと相談をしつつ、楽曲から作っています。そのうえで『シャニソン』で使われる前提の新曲は、例えば「リズムゲームを難しめにしたい」みたいな話もミュージックライブさんにすることもありますね。そこからさらに、技術的な相談を下野さんや石川さんにしています。

―― 高山さんは全体の監修をしているような感じなのですね。ちなみに、制作を担当されているお二人(下野氏・石川氏)がそれぞれ特に気に入っている楽曲やライブ演出はありますか。

下野氏:
やはり直近のMVが一番いいなと常に思っています。表情演出やエフェクト、カメラなどもどんどんレベルアップしていくんですよね。制作順でいくと「ハナムケのハナタバ」が最新(※インタビュー実施時点)ですので、いまの一番のお気に入りです。クオリティ的にも一番高いのではないかと。


高山氏:
やっぱりどんどんMVは進化していっていますね。フォーメーションとかも、「ハナムケのハナタバ」では3人が交差するような複雑なフォーメーションなんかも作れるようになりました。動きをカメラでしっかり捉えたりとか、振り付け側も「ここまでしていいんだ」と気付けたりとか、そういった相乗効果も生まれています。今後も下野さんには攻めた表現を期待しています。

下野氏:
エフェクターも数人いるので、競い合いながらやっていると「こいつこんなことやりやがった!こっちはもっとすごいことをやるぞ!」と切磋琢磨し合う流れができるんです。いいMVができると士気が上がってやる気に繋がるので、そういう感じで盛り上がっていければいいなと思っています。

―― リズムゲームパートにおいて、譜面はどなたが作成されているのですか。

下野氏:
譜面は譜面担当者が制作しています。プランナー側のスタッフですね。

石川氏:
担当者の方から、自分に問い合わせが来ることはありますね。「どこの楽器やフレーズを軸に譜面を作ったらいいでしょうか」という感じで。

下野氏:
ずっとリズムゲームの譜面を担当されてきたプロの方が制作しています。譜面には遊びもたくさん入っていますね。「SOS」の譜面にSOSの文字が入っていたり、「夢咲きAfter school」の「No.1」のところで数字の1の形のノーツが出てきたりといった感じですね。


モチベーションは「最新の3Dモデルに負けたくない」

―― 『シャイニーカラーズ』の3D化はファンの悲願でもあったと思いますが、どのように制作が進められていったのでしょうか。

下野氏:
最初は「これ、いけるのかな」と不安はあったんですよね。 恋鐘の髪型とか、どれだけポリゴン数いるんだろうという……(笑)

―― enza版のスチルは2Dならではの表現といった感じで、美しいですしね。

下野氏:
未だに勝てるとは思っていないです(笑)

開発当時のスマホでは動かないけど、後継機種なら動くだろうという感じで開発していました。ぶっちゃけてしまうと、PCで動けばいいくらいのスタートだったんです。そうして開発をしていたら、高品質なモデルのゲームがどんどん出てきたり、複雑なモデルのVTuberなんかが登場してきました。それらのモデルを見て、その表現に負けたくないという強い気持ちがありました(笑)

―― ちなみに、『シャニソン』のモデルはどういったレギュレーションで制作されているのでしょうか。

下野氏:
衣装によっても変わってきますし、5人ユニットと2人ユニットでの配分も違うのですが、だいたい顔と髪が合わせて1万5000ポリゴンくらい、ヘアアクセサリーが3000ポリゴンくらい、衣装が3万ポリゴンくらい、といった割り振りで制作しています。テクスチャは2048ピクセル四方のものを2~4枚、1024ピクセル四方のものが4~5枚、512ピクセル四方のものが4~6枚、その他に数キロバイト程度のテクスチャを使用しています。テクスチャは主に衣装に割いていますね。


―― シナリオ終わった後のイベントパートでコミュのパートの映像も出てくるのは、それらをあらかじめ読み込ませているのでしょうか。

下野氏:
そうですね。プロデュースが終わった後のメモリアルMVの中では、ライブシーンにプラスして挿入されるカットシーンが結構な数あるので、すべてロードしておかなければいけません。

そこがメモリサイズの制限に繋がっていて、ユニットのメンバー数に依存するのはまさにその部分が影響しています。5人ユニットの場合はそれぞれ衣装を5つと私服5つとジャージが必要で、それらすべてロードしておかなければいけません。それを踏まえて各キャラの実行サイズを決めています。2人ユニットであるシーズは他ユニットよりも余裕は持たせられるんですが、リズムゲーム部分で処理落ちさせてもいけないので、そんなに潤沢に使えるというわけでもありません。

―― 最初の仕様から最後まで変わっていないというのは印象的ですね。

下野氏:
開発中の軽量化であったり、現在も継続中ではありますが、結果的にはクオリティにこだわって制作ができたのはよかったです。


CRI製品の使用感

―― ここからはミドルウェアについてお話を聞かせてください。『シャニソン』で使用されたCRI製品群について、使用箇所と採用意図を教えてください。

下野氏:
サウンド関係全般はCRI ADX、ムービー周りはCRI Sofdecを使用しています。リップシンクは CRI LipSyncですね。『アイドルマスター』シリーズの過去の資産を使うところもあったので、これらのミドルウェアを導入した方がサウンドのフローがやりやすかったというのが一番大きかったです。

―― CRI ADXは相当長く利用されていますよね。

下野氏:
そうですね。サウンドの実装担当者とエンジニアから見ても使いやすいのは間違いないですし、長年使ってきたノウハウ蓄積もあります。『シャニソン』は運営型なので、メンテナンス性に難があるとどうしても躓いてしまいます。なので、実績のあるミドルウェアを使おうというのも思想としてあります。

石川氏:
サウンドの方では、CRI Atom Craft※のプロファイラー機能が非常に役に立ちました。プロジェクト開発中に足りない素材が発覚することはよくあるのですが、プロファイラー機能はサウンドが理解できる画面デザインなのもあって、特にプロジェクト後半のデバッグのタイミングで役に立ちました。

※CRI Atom Craftは、CRI ADX専用のオーディオオーサリングツールの名称

下野氏:
導入していなかったら、開発期間も伸びていたんじゃないでしょうか。 リップシンクには、CRI LipSyncを使用しています。コミュなどのアドベンチャーパートやアイドルの配信などはリアルタイムで音声を解析するLipSync Libraryを、ライブパートでは事前に音声を解析するLipSync Toolsですね。

高山氏:
確か、星井美希のリアルタイム配信のときにリアルタイムのリップシンクを使いたいということになって、そこで『アイドルマスター』シリーズとしては初めて導入したはずです。

下野氏:
ああ、それがかなりの試金石となったところはありますね。

―― CRI LipSyncを活用せず、口のモーションを手付けしている部分はあるのでしょうか。

下野氏:
ゼロから大きな手付けをしたことはないですね。ですが、フェイシャルモーション自体は解析したままではありません。初期の頃は解析したままでやっていたのですが、キャラクターによっては解析しづらいものもありました。 CRI LipSyncの調整機能などを使いこなせればもっと良くなったかもしれませんが、まだこちらも機能を把握しきれていない頃だったので、Unity上で解析したものを一旦Mayaに持っていって調整をしていました。


最適化にあたって工夫したこと

―― 『シャニソン』のキャラクターのリップシンクはDemo版から大きな改善が見られました。どのような工夫改善があったのでしょうか。

下野氏:
一番わかりやすいところでは、24fpsで作っていたものを60fpsに作り直しています。リアルタイムのキャラクターが24fpsで動くっていうこと自体に、自分たちが思っていた以上に違和感があったようで、60fpsで作り直すために処理負荷もガッツリ下げました。リップシンクを60fpsにすると、24fpsと比べてリップシンクの解析結果があまりにも違ったので、その結果を載せられるように下地を全部整え直してっていう作業もやりました。

ロードも今はとても速くなっています。これもエンジニアがバックグラウンドでダウンロードできるよう頑張ってくれました。映像のコーデックもVP9に変更したことで、ダウンロード時間がかなり短くなっています。容量は3分の1くらいにはなったんじゃないでしょうか。SofdecがVP9に対応していたため、コーデックの変更もスムーズに行えました。

高山氏:
MVもかなり作り直しています。たとえばカット割の細かすぎる部分とか、カメラワークの早さであるとか、あとアイドルの顔がゆっくり見えない部分とか、あとは全体のカラーリングとかMVでのアイドルの見やすさなど、アイドルの魅力を楽しむ部分については下野さんを初めとするMVチームがすごく研究をして、結局はほぼ全部手を入れ直して作り直してくださいました。

下野氏:
モデルに関しても全員ブラッシュアップしています。プロデューサー目線でアイドルを見たときは、見下ろす角度になるので、enza版では正面から見ている印象と齟齬が出ないように、後頭部と顔のバランスなどを調整しています。

―― そうした軽量化作業について、手法やノウハウがあれば教えてください。

下野氏:
モデルのリダクションなどはしていないのですが、テクスチャを結構減らしています。細かいところでは、アイドル全員の肌のテクスチャがあったのを、システムで色を設定どおりに変えられる仕組みを入れて、1枚にまとめられたのが大きかったですね。

―― なるほど。高山さまはプロデューサー目線で、圧縮最適化において譲れないクオリティラインなどはありましたか。

高山氏:
モバイルアプリはやりたい機能にすぐ到達できるのが最重要なので、そこは担保しているという前提で、たとえばアドベンチャーとかであれば、それこそアイドルたちの表情を見ながらシナリオに没入するために必要な見た目・クオリティというのがあると考えています。逆にリズムゲームパートではノーツに集中しているので、影やエフェクトを軽減してもMVほどは気にされません。プレイヤーがそのときどきで何を期待しているのかによって、差異はつけていいのではないかと思っています。

下野氏:
グラフィックに関しては、最適化内容を細かく高山さんに共有して、思わぬところにツッコミがきたらそこも直して、というやりとりは密にしていましたね。天井の照明がちょっとカクカクしているのが気になると言われて直したり、事務所のキッチンに置いてあったお皿の上のクッキーが、ペラペラしているだとか、そういった細かいところまでですね。

―― ありがとうございます。最適化においてはリアルタイムとプリレンダの切り分けも重要になってくるかと思いますが、『シャニソン』における判断基準を教えてください。

下野氏:
ガシャ画面とオープニング映像はプリレンダで作っています。ガシャは手軽に回していただきたいので、できるだけ読み込み時間が短くなるようにプリレンダで映像を作っています。リアルタイムでやると、アセットをいっぱい読み込むことになるので時間がかかってしまうというのが一番大きな理由ですね。

オープニングもロード速度の問題はあるんですが、あれだけの数のカットを、しかも全員のアイドルを出して、となるとデータ量の問題があって、プリレンダムービーにするしかありませんでした。ですが、各カットは全部リアルタイムで作っていて、それをUnity上で高画質でレンダリングしたものを編集しています。


ライブシーンサウンドはミドルウェアと連携して完成した

―― ライブシーンについてもお聞かせください。歌い分けのパートや全体曲など、シーンのサウンドデザインはどのように制作されていったのでしょうか。

石川氏:
そんなに凝ったことはしていないんですけど、データの持ち方をどうしようという点はエンジニア陣と試行錯誤しました。最初は1つのキューシートに全部を突っ込んじゃおうかと思ったんですが、そうすると容量が洒落にならないことになってしまいます。そこで、基本的にはボーカルトラックそれぞれのキューシートに分けて、キャラクター編成が決定されたときに、必要分だけロードできるように作りました。

―― ライブのサウンドに関しては、まるごと全部ではなく、選ばれたキャラクターのキューシートだけを持ってくるようになっているのですね。ライブ中に効果音を入れるなどの処理は、どのようにコントロールされているんでしょうか。

石川氏:
基本的にはタップに合わせて効果が出る、非常にスタンダードな作り方になっています。皆さんのプレイスキルと好みに合わせて、5種類の音が鳴らせるように仕込んであります。これに関しては皆様の反応を見つつ、どこかのタイミングで新しい追加ができればいいなと思っています。

―― インタビュー序盤、曲の途中から再生できるようマーカーを付ける機能に実装してもらったというお話がありましたが、CRIの技術があったからこそできた音演出の事例は何かありますか。

石川氏:
マーカーの件もそうですし、ホーム画面のBGMでは場面が変わるごとに鳴っている音をちょっとずつ入れ替えたりっていうのをやっています。『ミリシタ』でも使っている技術で、シナリオに合わせてBGMをナチュラルに切り替えられるよう丁寧に作っています。

―― 今回、『シャニソン』ではSonicSYNCを導入されていますが、どういった経緯で採用されたのでしょうか。

石川氏:
以前から弊社サウンドチーム宛に何度かプレゼンしていただいて、デモを遊んでみても遜色ないと思っていたんですが、実際に使うかどうかは未定といった状態でした。ですが、エンジニア陣から、SonicSYNCを使ってみようという話が持ち上がって、試しに使ったうえで採用に至りました。

下野氏:
個々の機能として使えるミドルウェアはあっても、それを包括的に提供してくれるミドルウェアはCRIさんだけなんですよね。それから、やっぱり過去のノウハウが蓄積されているというのは大きいです。新しいツールを使うとなると、そこからエンジニアは使い方を覚え直すことになってしまいますので。


―― すべてのツールがまとめて1社から出ていて、しかも日本語のサポートがあるというのは安心ですよね。

下野氏:
はい、問い合わせにきちんと対応していただける点でも助かっています。

石川氏:
質問をしたときの打ち返しの速さや、できる・できないの返答の確かさが良かったです。ミドルウェア側ですぐに対応はできないけれど、いつのタイミングならできるのかという返答をいただけたのが一番大きかったですね。プロジェクト内でも回答を共有して、開発的にこのタイミングで導入できますよという話ができたので、非常に仕事を進めやすかったです。

―― CRI製品を使用した際の感想などを率直に教えてください。

下野氏:
サウンド側のフローが各種機能、各種機種で統一できているのはすごいと思っています。正直、アプリが落ちるときにCRIさんのミドルウェア部分で落ちることって結構あるんですよね。おそらくこちらもちゃんとCRIさん側が意図した形で機能を使えていない部分もあるのかもしれないので、逐一報告をさせていただいています。そういうときにサポートから情報も出してくださって、すごく助かりました。問い合わせ対応も速く、対応できない場合でも「これぐらいなら対応できます」と期間をお知らせいただけるのでありがたいですね。

石川氏:
それから、拡張性の高さにも助けられています。作業効率を向上させるためにAtom Craftのスクリプト機能を用いて、弊社内部で作業速度を向上させるツールを作っています。

高山氏:
振り返ってみると、実はさまざまな現場でCRIさんの製品を使わせていただく経験が多かったのですが、その背景にあるのは、長らくお世話になっているというところかなと。開発者目線でもツールに慣れているスタッフが多いので、開発をスムーズに進められるのが利点です。これからも使い続けていきたいなと思っています。

―― ありがとうございました。


『アイドルマスター シャイニーカラーズ Song for Prism』は、PC(DMM GAMES)/iOS/Android向けに配信中。なお、CRI・ミドルウェアへの問い合わせはこちらから可能だ。


[聞き手:Daiki Kamiyama]
[執筆・編集:Aki Nogishi]
[写真・編集:Ayuo kawase]