シンと静まり返った試験会場や、重要なプレゼンテーションなど、緊張の糸がピンと張り詰める空気は、人生で少なくない回数経験したことがあると思う。そこでふと思い至ったことはないだろうか、「デカい声出したい」と。満員電車などもそうだ。スーツを着た陰鬱とした表情の人間たちに囲まれ、独特の環境音に包まれて運ばれる車内、めちゃめちゃにしたいという破壊衝動に駆られたことはないだろうか。いや車内だけではない、車窓から眺めるこれから向かうビル群や学校など、隕石が降ってきて木っ端微塵になってくれればと考えたこと、誰しも一度や二度、考えたことがあるはずだ。

そのような「破壊衝動」を発揮したくとも、現実にはなかなか難しく、溜め込んでしまう。それは我々が社会に属した「人間」という生き物であり、その立場や未来など、考慮すべきことが多すぎて、「破壊」という一歩を踏み出すことができない。


ではエイリアンになろう

そんな、「人間」として生活しているとフッと湧いてくる「やっちゃいけないことをしたい破壊衝動」を、「エイリアン」になって炸裂させることができる。それが『デストロイ オール ヒューマンズ!2 – リプローブド』というアクションゲームだ。アホになることが難しいこの世の中に差す一筋の光となってくれる。


デストロイ オール ヒューマンズ!2 – リプローブド』は、2006年に海外PS2/Xbox向けに発売された『Destroy All Humans! 2』のリメイク版である。オリジナル版では海外向けにのみ発売されていたが、リメイク版である『リプローブド』は日本語字幕に対応し、THQ Nordic Japanが国内向けに、PS5向けパッケージ版PS5/PC(Steam)/Xbox Series X|S向けにダウンロード版を発売している。

続編という立ち位置ではあるが、冒頭でエイリアンがなぜ地球を侵略しているのかなどの解説をするトレーラーがしっかりと挿入されるうえ、前作が強調されるようなシーンはないので、心配は不要だ。実際に筆者は前作を未プレイだが、口の悪いエイリアンになりきって地球侵略に勤しむことができた。


改めて本作を紹介すると、エイリアンの「クリプト138」がKGBに母艦を爆破され、復讐のために1960年代の地球で、個性豊かな武器を使って人間の脳みそを抽出したり、アナルをほじくったり、建造物を破壊しまくったりと、ハチャメチャの限りを尽くすアクションゲームだ。

本作は基本的に物語を辿っていくものであり、60年代のSF映画よろしく、クラシックなビジュアルのエイリアンや、暗躍する女スパイなど、ベタな要素が盛り込まれている。また、「コジラ」との戦いや、街中の展覧会でクリーチャーが暴れまわるなど、トンデモナイ展開もみられ、物語を活気づかせている。

物語の合間には、街中の脳みそを回収してクリプトをパワーアップしたり、人間の愛車を破壊するなどのサイドクエストに挑んだりと、自由に遊ぶことができる。複数の国をモチーフにした箱庭型のフィールドでは、街を破壊すれば警察や軍が駆けつけるなど、破壊すればするほど破壊しがいのあるようなデザインになっているのも特徴のひとつだ。

では実際にトンデモ武器を使って破壊衝動を満たしてくれるのか、本稿ではその一部を紹介する。翻訳ミスを疑うトンデモっぷりを少しでも味わっていただけたら幸いだ。

CEROレーティングは「Z」であり、ゴア表現もおかまいなしだ。


文字通りすべてが踊りだす「フリーラブ」

まず驚いたのが、物語の序盤に手に入る「フリーラブ」だ。愛の光線で敵を混乱させ、強制的にダンスをさせるこの武器は、敵(というか周囲の人間すべて)を踊らせるものであり、KGBエージェントだろうが、ヒッピーだろうが、愛の光線を受ければ踊りだす。もっと言うと、周囲にあるクルマや戦車、クリプトを攻撃してくる自動タレットも踊りだす。敵に囲まれて四面楚歌の状況も、人間の脆弱な脳みそに付け入ることで、パーティー会場に早変わりするのだ。

踊りだした愚かな人間の身体は隙だらけで、彼らの身体をスナッチ(乗っ取る)こともできる。エイリアンの姿では通報されてしまう場所でも、変装して侵入することができるわけだ。また、仮に通報されてしまったとしても、警察官にスナッチして電話ボックスから「異常ナシ!」と報告すれば、警戒は解除される。人間の愚かさは無限大であることがよくわかる。


アナルからDNAを抽出「ケツ圧マキシマイザー」

「アナルプローブ」という武器が存在する。決して誤字ではない。これは人間の直腸に入り、内部から破壊するだけでなく、脳みそを抽出するスグレモノだ。人間に射出することで彼らはお尻を押さえながら滑稽な走り方で逃げ惑い、最終的にはスポンと心地よい音を立てて脳みそが抽出される。

アナルプローブをはじめ、クリプトの持つ武器は、物語のクリアやロケーションで集めることができるアイテム「フロテック」を使って、グレードアップすることができる。アナルプローブは「ケツ圧アンプリファイアー」、「ケツ圧マキシマイザー」とダメージをアップさせることができ、最終的には、倒した周囲の敵にアナルプローブが連鎖し、人間たちが一斉にお尻を押さえて走り出すという、地獄のような攻撃も可能だ。

人間に恐怖を植え付ける「メテオストライク」

クリプトにかかれば、隕石だって操ることができる。「メテオストライク」はレーザーポインターで指定した場所に隕石を降らせることですべてを焼き尽くすという武器だ。人間が密集しているところに放つのも良いし、建物や戦車など、ちまちま壊すのが面倒な時は一気に破壊し尽くすことができるので便利な武器でもある。ただし、隕石の降ってくる方向を考慮する必要があるので使い所は限られる。トンデモ武器を振り回すエイリアンが題材のゲームだが、そういう部分はしっかりしている。

前述の通り、メテオストライクも例に漏れずグレードアップすることが可能であり、最終的には「メテオストライクが降ってくる場所にいる人間にそれを警告し、人生最後の刻に圧倒的な恐怖を与える」という趣味の悪い攻撃へと進化する。怯え恐怖に慄く人間らを眺めるのが好きな人には打ってつけの武器である。


また、これらのグレードアップは消費したアイテムを払い戻すことでダウングレードすることもできる。アップグレードに必要な素材は物語を進める段階では不足しがちなので、気に入らないグレードアップをノーリスクでやり直すことができるのは嬉しいし、なにより気軽にトンデモ武器を強化できるのは楽しい。

この他にも、弧を描く電撃で敵を感電させる「ザップ・O・マティック」や、小さな追尾タレットが自動で敵を攻撃する「ガストロガン」など、個性豊かな武器が登場する。トンデモ武器ではありながら、どれもが実用性のあるもので、面白可笑しく敵を倒すことができるのが本作のバトルの魅力で、物語上では早く敵と戦いたいと思わせてくれる。


宇宙船を操って街を燃やし尽くす

本作はエイリアン、つまり宇宙人を操るゲームである。ということは当然、宇宙船に乗り込むこともできる。各ロケーションには宇宙船の「着陸ゾーン」がいくつか設けられていて、宇宙船に乗って街に繰り出すこともできる。宇宙船はクロークをまとうことで隠れて移動したり、破壊光線で街を焼き尽くしたり、人間を吸い込んでDNAを採取したりと、クリプトの活動を力強く助けてくれる、本作の重要な要素のひとつである。

特に、対象を焼き尽くす「破壊光線」では、街中の建造物を破壊して更地にすることもできる。街を焼き尽くせば、ジュール・ベルヌの「宇宙戦争」のような一幕も実現できてしまう。そのほか、「アブダクション」のように物や人間を浮かせてふっ飛ばすものや、一定の地面にある物をすべて浮遊させて地面に叩きつける「反重力フィールド」など、小学生のころ思い描いた宇宙船に備わる武器はたいていあると考えて良い。

脳みそを採取しDNAをブレンド

クリプトは、いつでも人間のジューシーなDNAを求めている。人間は愚かな生き物として扱われる本作ではあるが、時にはそのDNAを集め、ブレンドすることも大切だ。とはいえ、人間からひとりずつ脳みそを引っこ抜いていてはいくら時間があっても足りない。そんなときは、「スラープマスターV8」を使えば簡単だ。これは宇宙船へ人間を吸収し、必要なDNAを自動で回収してくるというものであり、筆者が宇宙船の武器の中でもっとも気に入っているものだ。


人間が密集している場所へ行って彼らを吸収する爽快感は素晴らしく、軍事拠点など、こちらへ銃を向けてくる兵士たちをもれなく吸い込んでいくさまは、普通のゲームではとても味わうことができない独特のものがある。

回収したDNAは、ブレンドしてクリプトの能力アップに使用する。各ロケーションの指定したDNA(警官や兵士、黒忍者や白忍者)をブレンドすることで、クリプトのフリーラブ(ダンスパーティ)の速度を早めたり、人間をスナッチするだけで周囲の人間を気絶させたりと、クリプトが強くなり、ゲームプレイがより楽しく、便利になる。


ヘンテコ日本をフォトモードで撮り尽くせ

クリプトの冒険はアメリカから始まり、イギリス、ソ連など、さまざまなロケーションを飛び回ることになるが、その中には「日本」も存在する。「タコシマ」と呼ばれるその島では、東京タワーと思わしき電波塔や、桜、寺院のようなものなどが存在する。


もはやひとつのジャンルとして確立されつつある「ヘンテコ日本」は色濃く、やたら近所にある富士山(のような山)を背にそびえる東京タワー(と思わしき電波塔)など、観光地としての見どころは多い。また、街を歩く人間も、制服の女子学生やサラリーマン、ヤクザや三度笠をかぶった人など、「外国人の想像する日本」がこれでもかと詰め込まれている。なかには白忍者・黒忍者といった謎の勢力も存在し、クリプトと忍者が何故か協力関係を築くなど、しっかりと(?)物語に関わってくるのも、エイリアンが日本にいるヘンテコと、ヘンテコ日本が重なってヘンテコが渋滞している。


魅力的なロケーションを探索するときに便利なのが「フォトモード」だ。決して多くの設定項目があるわけではないが、視野角やロールなど最低限の要素はあるので、ヘンテコ日本を探索するにはうってつけであり、そのシュールさを際立たせるような写真を撮影するのも楽しく、本作の魅力のひとつとなっている。


紹介してきた通り、本作はとにかくトンデモないことを平然と行う、ヘンテコなゲームであり、それがひとつの魅力の中枢を担っていることは間違いなく、もっとも目を引く部分ではある。しかし同時に、アクションゲームとしての楽しさもしっかりと備えていることも強く感じた。人間の脳を引っこ抜く「キュポッ」という心地よい音や、やたらカッチョいいギターを使ったBGMが流れるダンスパーティなど、サウンドも抜かりなく、ゲームプレイに爽快感を生み出している。また、高低差をもろともないジェットパックや、スケートのように高速で移動することのできるダッシュなど、移動もストレスを感じさせないゲーム全体の手触りの良さも、ひとつのポイントであり、ヘンテコな魅力を気持ちよく楽しめるような内容になっている。

また、破壊を重ねれば重ねるほどに警察や軍の反撃が激しくなっていき、更に破壊の対象が増えていくゲームプレイは、脳みそを引っこ抜かれた人間のように、ただただ破壊を楽しむことができる。ヘンテコなDNAを抽出してお伝えしてきたが、アクションゲームとしての楽しさもしっかり兼ね備えた作品である。シュールな武器を手にとって破壊の限りを尽くし、日々の鬱憤を晴らしてみてはいかがだろうか。

デストロイ オール ヒューマンズ!2 – リプローブド』は、PS5向けパッケージ版PS5/PC(Steam)/Xbox Series X|S向けにダウンロード版が発売中だ。
【UPDATE 2022/9/27 15:35】
対応プラットフォームについて修正