インタラクティブホラー『Until Dawn』が見せる“極上のB級ドラマ体験”と“ビデオゲーム史上最悪の規制例”


2015年8月末、国内外にてホラーゲーム『Until Dawn』がPS4向けにリリースされた。開発はイギリスのスタジオSupermassive Gamesが 担当。当初はPS Moveと連携するPS3向けインタラクティブホラーゲームとして発表されていたタイトルだが、のちにプラットフォームをPS4へ移行し、プレイヤーの選 択によりゲームが細かに分岐する「バタフライエフェクト」システムを前面に押し出し開発が進められていった。

※本レビューにはネタバレを含む説明やシーンが掲載されています。未プレイの方はご注意ください。

『Heavy Rain』のひな形を使用したホラーゲーム

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お色気シーンはそこまで期待しない方がいい

『Until Dawn』の物語は本編の1年前から始まる。とある雪山のコテージに集まった大学生10人のグループは、その中の1人「ハンナ」に対し、彼女が片思いをす る男性を利用し、たちの悪いイタズラを仕掛けてしまう。泣きながらコテージの外へと飛び出す「ハンナ」、双子の妹「ベス」が後を追いかけたが、2人は事故 で崖から一緒に滑落し行方不明となった。2人が発見されぬまま1年が経ったころ、双子の兄「ジョッシュ」はあの夜のメンバーをふたたび集め、同じコテージ でもう一晩を過ごそうと呼びかける。

1年前の出来事を払拭するために集まった8人は、1人また1人と何者かに襲われ消えてゆく。このコテージ周辺で何が起きているのか。あの叫び声と人 影の正体は。そして犯人は誰なのか。さまざまな謎が交錯するなか、プレイヤーは頭を悩ませつつ8人を操作して物語を進めてゆかなければならない。若者たち がバケーションを楽しんでいると殺人事件や怪奇現象に巻き込まれるという、海外では定番の”ティーンホラー”が描かれる。

プレイヤーは場面ごとに8人の大学生のうち1人を操作し、マップを移動して証拠やアイテムを集めたり、時おり挿入されるQTEをクリアしてゆく。 ゲーム中にはさまざまな選択肢が存在しており、さらにゲームの進行はオートセーブされてゆくため、物語はプレイヤーごとに大きく異るというのが本作の売り だ。『Until Dawn』はインタラクティブドラマゲームであり、Quantic Dreamの『Heavy Rain』や『Beyond: Two Souls』とほぼ同じひな形を使用していると考えてよい。

「偽りのバタフライエフェクト」と「B級ドラマ」

謳い文句とは異なり、本作は蓋を開けてみるとそれほど大きな分岐というものは存在せず、基本的なストーリーは1本道だ。ゲームのエンディングに大き く影響するのは8人の生死だけ。彼らがどこで死ぬか、クリア後にどのような感情を抱いているかという変化はあるが、それ以外の選択肢は小さな物語の変化し か生まない。「バタフライエフェクト」とは、蝶の羽ばたきが遠い地で竜巻を発生させるといった、ほんの小さな出来事がのちに大きな現象を引き起こすという 考えである。確かに8人のキャラクターを生存させるには細かなフラグ管理が必要なのだが、残念ながら『Until Dawn』にはこの例のようなダイナミックな分岐は存在していない。

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“初見なら焦る”というシーンは多数存在する

一方で『Until Dawn』は、偽りの「バタフライエフェクト」を全面に押し出してアピールすることで、プレイヤーの選択肢に緊張感を持たせることに上手く成功している。 ゲーム中には所狭しとさまざまな選択肢が用意されており、7割か8割ほどは物語に影響を与えないのだが、そんなことを知らない初見のプレイヤーは「この決 断でどんな影響が発生するんだ」とビクつきながらプレイを進めることになる。

この緊張感を上手く増幅しているのが物語のプロットだ。ゲームの序盤、『Until Dawn』ではさまざまなジャンルの怪奇現象が発生する。この作品は映画「SAW」のような殺人パズルホラーなのか、それとも霊能現象に怯えるジャパニー ズホラー的な内容なのか、謎の殺人鬼に追われるスラッシャー物なのか。プレイヤーをとことん迷わせるプロットは、偽りの「バタフライエフェクト」と重複 し、プレイヤーを大いに混乱させることになる。

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『Until Dawn』は非常に海外B級ドラマ的だ。謎が交錯するストーリーの序盤と中盤では、視聴者たちは「早く次のエピソードを!」と続きを気にするが、終盤には 物語は尻すぼみに終ってゆく。『Until Dawn』も同様で、謎だらけのストーリーはよくある定番ホラー映画の味付けに終わり、一度クリアすればバタフライエフェクトもさして物語に影響を与えな かったことを理解する。だがその分、1回目の初見プレイは極上の体験である。やや肩透かしな後味を感じながらも、選択肢を選ぶ際には真剣に悩み、QTE シーンでは手に汗を握りながら成功させようと必死になる。その体験は間違いなく「楽しかった」と言える。

現状、ホラー風味の『Heavy Rain』が楽しめるのは『Until Dawn』だけ、というのも本作の価値を押し上げているだろう。名作ではないが良作だ。少なくとも値下げされた後なら、ホラーファンでなくとも北米版などを買ってみるといい。

また細かな点としては、本作は”史上もっとも美しい三人称視点のホラーゲーム”の名を冠してもよいぐらい、グラフィックや雰囲気が作り込まれてい る。特にチャプター9で山奥の療養所を「マイク」が訪れるシーンは素晴らしく、俗っぽくはなるが「まるで実写」のように思えたし、これで『バイオハザー ド』や『Dead Space』のように自由に行動できて銃を撃てたらとも感じた。キャラクターのアニメーションやボイスアクトなど、ビジュアル面やオーディオは総じてクオ リティが高い。

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カットシーン、ではなくゲームプレイシーン

日本語版における史上最悪の規制

さて、日本語版『Until Dawn』については、すでにAmazonのレビューなどで騒動になっているように”表現規制”が存在する。ほとんどはキャラクターの死亡シーンに関わるもので、人体が真っ二つに切り裂かれたり、頭が身体から引きちぎられるシーンなどはすべて規制されている。

この『Until Dawn』の規制対象は、過去のさまざまな作品でも規制されてきた「人体の分離欠損」に類するものだ。ホラー映画なら人物の死亡シーンをカットすることな どあり得ないし、ホラーファンとしても至極残念に思うが、残念ながら日本の市場とCEROの状況を考慮すれば、規制するのはまだ理解できる。できるのだ が、日本語版『Until Dawn』において酷いのは、そのゴアシーンを「すべて暗転させる」という力技でカットしてしまった点だ。カットしたシーンを上手く繋いで編集したり、グ ラフィック表現を変更したりといったことはなく、ただただ馬鹿らしい暗転がすべてを覆い尽くしゲームの雰囲気をぶち壊してしまう。前後の会話などを見れ ば、物語がまったくわからないということはほぼないが、これにはゴアシーン好きな諸兄諸姉でなくとも首をひねるだろう。

さらにたちが悪いことに、これらの規制内容は公式サイトやストア上の商品ページでは通達されてない。

『Gears of War』シリーズでは人体の切断やヘッドショットによる頭部破損が規制された。『Dying Light』ではローンチしてからしばらく、ゾンビの血が赤色から緑色に変更されていた。しかし『Until Dawn』の暗転シーンは、ゲームの雰囲気をぶち壊すという意味において、残念ながら日本のビデオゲーム規制における史上最大の効果を発揮してしまってい るように思う。開発リソースが足りなかったのか、スケジュールが詰まっていたのか。追加で北米版を購入したり、YouTubeで暗転シーンを見るといった 熱心なプレイヤーでない限り、日本語版『Until Dawn』の購入はおすすめできないと言わざるを得ない。