『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』は「初代好きの強火オタク」的には愛とモヤモヤが残る。欠けたピースがもたらす成長と寂しさ

『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』レビュー。本作はシリーズ初代作である『ライフ イズ ストレンジ』の直接的な続編は、愛と寂しさに満ちている。

超能力で謎を解くアドベンチャーゲーム『ライフ イズ ストレンジ』シリーズの最新作として、『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』が発売された。本作はシリーズ初代作である『ライフ イズ ストレンジ』の直接的な続編となっており、初代作で主人公を務めたマックスの新たな物語が描かれる。

続編や派生作品が展開されているシリーズにおいて、旧作の主人公が新作の主人公に返り咲くのは初めてのことだ。『ライフ イズ ストレンジ』では高校生だったマックスが、本作では大学講師になっていることに興味を惹かれた人もいるのではないか。

結論からすると、本作は『ライフ イズ ストレンジ』らしさをもち、ならではの体験を提供してくれる。しかし、マルチエンディングだった初代作の続編であるために、前作の取り扱いにすっきりとしないところがあるのも否定できない。続編としての良さもあれば「モヤモヤ」するところもある。ストーリーの核心部分のネタバレは伏せる。

リアルな学校生活が舞台の原点回帰した世界観

シリーズ初代作の『ライフ イズ ストレンジ』が名作と謳われる理由の1つとしては、アメリカの高校生活をリアルに描いたところが大きい。スクールカーストで固定化された生徒の格付けによっていじめが発生してしまう危険性など、同作は現実のアメリカ社会で起こり得る問題に正面から向き合った。学内にさまざまなグループが存在し、どこに所属しているかに応じてそのキャラクターの考え方や発言が変わってくる。つまり、人間関係のリアルさが、物語に厚みをもたらしていたのだ。

その濃厚な人間関係の描写は本作でも健在だ。作中では現実と同じようにSNSが普及しており、各キャラクターが投稿した内容を読むことでその人となりを知ることが可能。SNSの投稿にはほかのキャラクターからの返信が付いていることもあり、主人公がいないところでもキャラクター同士が関係を育んでいる様子をうかがい知れる。キャラクターたちが悩みを共有し、意見を言い合うところはリアルな人間関係を表現する助けとなっている。

本作では舞台が大学になったことで、学園生活ものだった初代の世界観に原点回帰した。違うところは主人公が学生ではなく教員になったことだ。大学講師として同僚の教員と親しくすることはもちろん、学生たちとの関係も描かれていく。初代作で日陰者だった主人公が写真家として成功し、周囲から慕われている姿を見られるのが感慨深い。大人になった主人公は上司に冗談を言って場を和ませたり、「才能あるよ」と落ち込んでいる生徒を励ましたりする姿を見せてくれる場面もあった。

 


主人公のマックスが精神的に成長できたのは、前作での出来事があったからだ。思い返せば、高校時代の主人公は自分に自信が持てない鬱々とした日々を送っていた。そんなマックスの悩みを共有し、前に進む力を与えたのがクロエというキャラクターだ。マックスとクロエによる友情とも恋愛とも呼べる2人の少女が紡ぎ出す前作のストーリーは、ひたすらに尊いものだった。

前作はマルチエンディングを採用しており、主人公は最後に重要な選択を迫られた。その選択は二者択一で、どちらを選んでも主人公は大きな喪失感を覚えるものだった。本作ではその究極ともいえる前作の結末を、序盤の選択肢でプレイヤーが決めることができる。選択がキャラクターの運命を左右する、本作の醍醐味は健在だ。

しかし、その人間模様については、本作における前作のキャラクターの扱いによって釈然としないところが出てきている。初代作であれほど固く誓いを結びあったのに、マックスとクロエの遠く離れた距離感に「モヤモヤ」する。つまり、新たな物語は興味深くできあがっているものの、本作は前作と地続きであり、それゆえに前作『ライフ イズ ストレンジ』でいた人間関係模様のコアとなるクロエが不在なので、煮えきらないのである。プレイヤーの選んだ前作の結末によってはクロエが本作に登場する余地がなくなるのは理解できる。しかし、登場してもおかしくない方を選んだときでもクロエはマックスと疎遠になってしまっている。

一応の理由は語られるが、前作に思い入れがあればあるほどモヤモヤした気持ちになってしまう。大学講師になった主人公の新たな青春が描かれているのに、主人公のもっとも大切な人だったクロエとの交流する描写が足りていないゆえに、前作ファンとして満ち足りない気持ちになる。これは、クロエがいなくなってしまった世界でも同様のことがいえる。クロエの代わりに故郷の人々の様子がSNSなどでわかるが、現在のマックスとの直接的な交流はない。マックス自体はクロエや故郷の人々を嫌っているわけではないので、SNSだけでもいいから仲良くしているところをもっと見たかったというのが正直なところだ。

 


相棒不在の孤独感募るストーリー

本作の舞台となるのは、アメリカのバーモント州北部にあるカレドン大学。真冬の雪に覆われた大学のキャンパスは外部から隔絶した雰囲気を持つ。主人公のマックスはこの土地で新しい友人を得ている。冒頭で登場するのは、詩人を志す女性のサフィというキャラクターだ。マックスとサフィは廃墟のボーリング場に忍び込み、写真撮影に興じる。2人は天文学を専攻するモーゼスとも仲が良く、星が見える夜には天体観測に繰り出す。

新しい場所での生活にも慣れた頃、平和な大学に突如として殺人事件が発生する。もはや親友といえるほど仲の良かったサフィが死んでしまった。サフィの死を目撃した主人公は、並行世界に移動する不思議な力に目覚める。殺人事件の真相を追うなかで、平和に思えた大学ではさまざまな問題が隠れていたことを主人公は知る。

 


サフィが生きている世界とサフィが死んでしまった世界を行き来して、主人公は殺人事件を解き明かしていく。初代の時間を巻き戻す能力は本作では使えない。超常的な力を使っても結局大勢の人々を苦しめてしまったことが、主人公には深いトラウマとなっている。そうした失敗を経てもなお、サフィの死の謎を解こうとする主人公の姿は力強い。その強さはクロエに影響を受けた部分があることが示唆されており、前作の経験が無駄ではなかったと感じさせる。

大学講師として決して孤立しているわけではないが、超能力を使った殺人事件の調査という観点では主人公は孤独だ。前作のクロエのように秘密を共有できるようなキャラクターは、当初は存在しない。超能力を使えるということを他人に話しにくいことは事実だが、そのぶんすべてを受け入れてくれたクロエとの友情はエモーショナルだった。秘密を共有できるパートナーとの関係性を育んでいくことは初代の大きな魅力の1つだったので、すべてを受け入れてくれたクロエにいてほしかったという気持ちが際立つ。

厳密には主人公の超能力の秘密を共有できるキャラクターは存在するが、それは後半から出てくる。疑心暗鬼に駆られた人々は本心を語ってくれないことも多く、誰を信じればいいのかわからない。そうした環境でも信頼できる人間関係を構築できるかが、前作とは違う大きなテーマになっている。前作の絶望を知っていながら、主人公がさらに人々と関係を深めることができるのかについて本作が向き合ったことは評価したい。

 


超能力を使ったテンポのいい謎解き

本作で主人公が目覚めた超能力は、サフィが生きている世界とサフィが死んでしまった世界を行き来することができるというものだ。この能力の派生したものとして、同じ場所の別世界の様子を覗くことができる能力や、物体をある世界から別の世界へ持っていく能力も使用可能。それぞれの世界だけではできなかったことを実現する主人公の能力はダイナミックなもので、能動的に事件の真相に迫る感覚にあふれている。

2つの世界は様子がまったく異なっており、サフィが生きている世界は楽しげなBGMが流れ、サフィが死んでしまった世界は悲しげなBGMが流れる。それぞれの世界で統一された雰囲気づくりが見事だ。人間関係もそれぞれの世界での関係に依存しており、ある世界でマックスに敵対しているキャラクターでも、もう1つの世界では親身になってくれることがあった。

 


時間を巻き戻すという前作の能力に比べると本作の能力は複雑だが、謎解きの難易度はほどほどなので進めやすい。これはテンポのいいストーリーを表現することにつながっており、超能力で事件を解決していく主人公は特別な存在だと実感させてくれる。超能力を使わない謎解きも存在し、そちらはパズルを解くような発想が求められる。


初代作の直接的な続編から見る本作の価値

アドベンチャーゲームの名作として知られる『ライフ イズ ストレンジ』の直接的な続編として、本作への期待は高かった。前作がマルチエンディングであるため、それらを反映したストーリーテリングは難しかったのは間違いないだろう。プレイヤーの選択によって前作の結末を決めることが可能で、選択後の展開も若干異なる。前作プレイヤーの信じる『ライフ イズ ストレンジ』を反映させることのできるシステムについては評価をしたい。実際のところ慣れない土地で友好関係を育めるようになったマックスの成長度合いは著しいものだ。

であるからこそ、前作のキャラクターたちともっと深く会話できたはず。前作がマルチエンディングだった制約もあって、それを十全に体験できないのが惜しい。とりわけマックスとクロエのコンビは強固なものであり、それが叶えられなかった本作のストーリーは物悲しさが漂う。そうした感覚がもやとなって、本作の誠実さを正しく評価できないジレンマを抱えている。


続編ならではの主人公の成長が感じられるところは、本作の長所といっていいだろう。過ちを繰り返さないために、何ができるのかを考え続けるマックスに共感した。孤独を抱え続けることなく、人に助けを求めることができるようになったところはマックスが成長した証拠だ。美しい思い出とともに成長し続けるマックスは、『ライフ イズ ストレンジ』シリーズの主役を張るのにふさわしい。それは間違いない。


『ライフ イズ ストレンジ ダブルエクスポージャー』は、PS5/Xbox Series X|S/PC(Steam)向けに発売中。Nintendo Switch版は後日発売予定となっている。

Ryuichi Kataoka
Ryuichi Kataoka

「ドラゴンクエストIII」でゲームに魅了されました。それ以来ずっとRPGを好んでいますが、おもしろそうなタイトルはジャンルを問わずにプレイします。

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