ファーストインプレッション『Lilly Looking Through』 – 古典ポイントアンドクリックと躍動感あるアニメーション

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[PLAYISM よりゲームソフトの提供を受けています]

PLAYISM で配信中のインディーゲームのインプレッションをお届けします。毎週火曜更新予定。

第2弾となる今回は、ポイント・アンド・クリックアドベンチャーゲーム『Lilly Looking Through』をご紹介します。開発元は GEETA GAMES。開発を実質的に指揮していると思われる Steve Hoogendyk 氏の肩書きはゲームデザイナー/プログラマー/クリエイティブディレクター。映画業界で6年、ゲーム業界では10年以上のキャリアを持ちます。

本作は Kickstarter での資金集めにも成功しており、目標金額1万8000ドルに対し集まったのは3万3516ドル(出資者1623名)。3万6000ドルの「iOS/Android版リリース」ストレッチゴールにはわずかに届かなかった形です。

  • プレイ時間: 約3時間
  • プレイ状況: 1周クリア済み

 

 

 

 

『Lilly Looking Through』はきわめてオーソドックスなポイント・アンド・クリックタイプのアドベンチャーゲームです。複雑な操作はまったくなく、マウスと左クリックのみで完結します。

 

 

ストーリーとしては、主人公”リリー”が謎の赤色マフラーに連れ去られた(?)弟”ロウ”を助けるべく、過去を見通すゴーグルを活用しながら進むと いうもの。ただし、ゲーム中では説明的な描写が一切なく、ごくわずかなボイスが挿入されるのみ。事実上のノンバーバル作品です。

そのため、リリーやロウがいったいどういう状況下にあるのか、マフラーの目的は何なのか、ゴーグルが一体どういう能力なのか等、いろいろとわからな いことだらけのままゲームが始まります。ネタバレを回避するために詳述は避けますが、少なくとも序盤ではリリーとロウの関係は明示されず(カップルか何か に思える)、またマフラーが挙動不審な赤い布切れにしか見えず、またゴーグルが「過去を見るもの」という説明はありません。

いずれにせよ、本作の物語性は具体性や意外性に富むものではなく、どちらかというとプレイヤーに想像をふくらませることを要求してくるタイプです。まずこの点で好みが分かれるかもしれません。

 

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スクリーンショットやトレイラームービーから『スキタイのムスメ』あたりを想像する方がいらっしゃるかもしれませんが、本作はどちらかといえば 『MYST』タイプです。移動できる場所は決められています。到達後になにがしかのアクションを起こすか、もしくはゴーグルをかぶって過去と現在を移動す るか、大雑把に区別するとプレイヤーができるのはこの2つです。さらに、ポイントでインタラクトできる場所はマーカーで明示されるため、画面全体をクリッ クしてまわる必要はありません。

ギミックとして最大の存在はやはりゴーグル。AR 的に「過去を見通せる」のではなく、過去に直接干渉し、自由に行き来する能力を持ちます。この説明だけでだいたいのことを想像できてしまうゲーマーもい らっしゃるかと思いますが、つまりはそういうことです。過去で何かを仕込んで現在に戻ったり、その逆をしたり。

 

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アドベンチャーあるいはパズルとしての難度はきちんと段階的に上昇してゆく味付け。最序盤は適当に左クリックを連打していてもクリアできますが、途中からはある程度頭を使うことになります。

また、本作はいわば”面クリア型”の構成を採用しており、原則的に1画面ですべてのパズルが完結します。オプション項目から面を選ばないかぎり、ス テージを横断することはできません。これにより、「今自分がスタックしているのはここの謎解きを解決できていないからだ」と言外に認識することができま す。『MYST』シリーズなどでしばしば発生した「解くべき謎の場所がわからない」という悲劇はありません。

注意したいのは、『ICO』のような2人の男女が試練を立ち向かうタイプではないということ。ゲーム開始時にリリーとロウが二人がかりでギミックを動かすシーンがあるため何となく連想してしまいそうですが、ロウは直後にマフラー的ななにかに誘拐されます。

言葉を選ばずにいえば、本作のゲーム部分は地味です。高純度なポイント・アンド・クリック・アドベンチャーであるからこそ、そうした淡白な味わいになることも必然です。逆に解釈すると、そうしたジャンルのファンにとってはけっして悪くないでしょう。

 

いきなり連れ去られてしまう。
いきなり連れ去られてしまう。

 

グラフィックは見てのとおり、ファンタジックで淡い色彩が特徴的です。このタッチは終始ブレません。ただし常時優しげなわけではなく、過去と現在を 渡り歩いたときのギャップ、退廃感や終末感も表現されています。ゴーグルを着想した瞬間ぎょっとなるようなシーンもあり、時間跳躍大好きっ子にはたまらな いことでしょう。

好印象なのはキャラクターのアニメーションです。一枚だけ切り出せば雑な塗りですが、これは多彩なモーションを製作することに主眼をおいた結果と推 測されます。リリーのあらゆる動きには躍動感と個性があり、各ギミックごとに用意されたそれはまったく違和感を感じさせません。ぬめぬめと動く様は『プリ ンス・オブ・ペルシャ』や『アウターワールド』あたりを想起させます。

使い回しの印象も少なく、リリーが画面の中で生きているのを感じられます。歩く・よじ登る・ジャンプする等など、あらゆる動作が各シーンごとにマッチするよう工夫が凝らされているのはすばらしいことです。

ただし、ゲームとあわせて厳しいところが1点あります。それは、ゲームスピードが遅いこと。キャラクターの息遣いを重視しすぎたから、ボタンを押し たりレバーを引いたりするモーションがいちいちスローモーなのです。頭を使うパズルゲームなのですから致命的とまではいえませんが、「もうどうしようもな いから総当りしよう」がゲームスピード的に許されないのは評価に困るところです。意図的に設計されたものだとすれば、すこし敷居が高いかもしれません。

 

リリーさんの豪腕ではラペリングもお手の物。
リリーさんの豪腕ではラペリングもお手の物。

 

『Lilly Looking Through』は、繰り返しますが古典的なポイント・アンド・クリックです。ゆえに、肩肘張ってプレイするのは望ましくありません。リリーを愛でなが ら、まったりと接するべきです。絵と動きを鑑賞しながら、なんとなく謎を解く。落ち着いた心境で数時間を楽しむ、映像作品の1つです。

 


プレゼントのおしらせ(終了)

 

最後に、読者の皆さまへプレゼントです。

本記事に言及する Tweet をしてくださった方のなかから1名様へ本作の PLAYISM 用コードをさしあげます。@GamersGeoJP (注: 本アカウントは@AUTOMATONJapanへ変更されています)をフォローしていただいた上で、ご応募の旨と弊誌 URL を明記しつぶやいてください。「もう持っているけど布教用にもう1つ欲しい」「ポイント・アンド・クリックが好きだ」「とにかく時空を渡り歩ければそれで 満足だ」等、一番いいツイートをしてくださった方にお渡しします。締め切りは12月1日です。当選者の発表はコードの配信をもって代えさせていただきま す。

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