『Dance Central Spotlight』 Kinectの確実に痩せる音ゲー、再臨

 

『Dance Central Spotlight』(以下『Spotlight』)はHarmonixによるXbox One向けのリズムアクションだ。Kinect専用作品『Dance Central』シリーズ最新作であり、国内向けとしてはローンチタイトルにあたる。価格は1080円だが、Day Oneエディションには無料で同梱されている。

 


前置き

 

筆者は妻とともに初代『Dance Central』をそれなりにやりこんだ。アジア版と国内版を購入、大半の曲を最高評価で埋め、一部は振り付けも完全に記憶した。それゆえか『2』以降はやや冷めてしまい、『3』にいたっては購入してすらいない。つまり、事実上数年ぶりのプレイであり、その間にあったシリーズの進化については把握できていないことはあらかじめお伝えしておかなければならない。

 


順当進化

 

本作のおおまかなゲーム内容は過去作品と大差ない。同じくDay Oneについてくる『Kinect スポーツ ライバルズ』のように、開始数分後に新Kinectの能力をアピールするようなこともない(せいぜいがUIまわりでグリップモーションを強要してくるくらいだ)。

Kinectでダンスといえば『Dance Evolution』もあるが、どちらかといえば「音ゲー」色が強い。要所要所で提示される決めポーズをとるのみであり、かならずしもダンス全体を習得する必要はない。一方の『Dance Central』は、その名の通りダンスをテーマとしている……というより、むしろシミュレートしているとすらいえる方向性だ。もちろんゲーム的な簡略化はあるものの、基本的にはすべてのムーブをある程度記憶する必要がある。突きつめればただそれだけのゲームだが、じつはこれだけで相当楽しい。ほかの説明が不要なくらいだ。

無粋を承知でもうすこし掘りさげるならば、とてもプリミティブな「体を動かす快感」をゲームの枠内で実現するのは容易ではなく、現時点で広く普及しているデバイスに限定するならばKinectなくしては語れない。そしてKinectの価値を十二分に引き出したタイトルは多くない。なによりも単純な快楽を、ダンスという骨組みで、そしてKinectで。だから『Dance Central』はゲームとして楽しい。

さて、そんな本シリーズが『Spotlight』でどう変わったか。一言で言ってしまえば、ほとんどなにも変わっていない。根幹部分はシリーズをほぼ完全に踏襲している。新Kinectでダンスの幅が広がったような実感は感じられない。せいぜいがグラブ(手を握る)モーションくらいだ。「新作をプレイしている」より「新曲でプレイしている」という印象である。

しかし、改善された部分もある。プラクティス周りだ。独立した別のモードとしてではなくなっている。プレイ中「どうしてもこの動きがわからない」となったとき、コントローラー操作から特定のパートだけを集中的に練習する状態へと移行できる。

『1』をやりこんだ筆者からすると、これはじつに嬉しい変更点だった。わかりきったムーブを飛ばして、必要な部分だけを集中的に学べる。すこしでも「あれ?」と思ったら即座に練習モードへと移行できるのも良い。ただ、どうしても"仕様上"ということになってしまうのかもしれないが、ムーブ4つ単位までしかしぼりこめないのは少々残念だった。

また、コレクション要素も良い。最高評価を取れた振り付けがひとつひとつ「カード」となり、集められてゆく。これまでは最終成績と実績くらいしか達成度の目安がなかったが、そこにあらたに一つ、より明確な基準がもうけられた形だ。同じ曲を飽きずにプレイさせる、単純ながらも有効な要素といえる。

 

カード集めのために一つ一つのムーブを真剣にやれる。 煮詰まっていない段階ならば、スコア以外の強い動機となる。
カード集めのために一つ一つのムーブを真剣にやれる。煮詰まっていない段階ならば、スコア以外の強い動機となる。

 


これは痩せる

 

先日、ゲームでダイエットなる記事を書いた。ローラー台が結論などとうそぶいておきながら手のひらを返すようで申し訳ないのだが、運動強度という一点にだけフォーカスすると、じつは文句なしのトップクラス――いや本当にトップかもしれない――が『Dance Central』シリーズである。『Spotlight』でもそのDNAを確実に継承している。

頭の天辺からつま先までお手本をトレースする必要はなく、手を抜こうと思えば抜けるのはあいかわらずだ。だが、その境地に至るまでには相応の"本気"の練習が求められる。だから、結局のところ常時全力で体を動かすことになる。

ローラー台メソッドと比較して本シリーズが圧倒的に優位なのは、「手を抜けない」の一点につきる。心拍計などでみずから縛りを課したとしても、結局のところ自分の意志力と運動強度(=ペダルを踏む速度は)は比例関係にある。だが、『Dance Central』は真面目に体を動かすことをゲーム自体が強制してくる。そこにサボりはない。真剣にゲームに挑めば、カロリー燃焼は約束される。

過去作にもフィットネスモードはあったが、『Spotlight』はさらに一歩踏み込み、露骨といっていいほど身体的負荷の大きい振り付けを集めたモードも用意されている。こちらは痩せるどころか一歩間違えれば身体に悪いレベルなので、ほどほどにしたほうがよいだろう。

動きのバリエーションが増え、プレイのモチベーションを向上させるゲームシステムも用意された。そしてゲーム自体が面白く楽しいことは言うまでもない。筆者は、本作のためにKinectを買ってもいいとすら考えている。

ただ、いきなりダンスだKinectだと声高に叫んだところで、伝わるものも伝わらない。だから、筆者は本作をひとまずこう説明したい。「世界で一番痩せるゲームの最新作だ」と。

 

このスクリーンショットのものはまだマシだが、なかには"殺しにかかってくる"動きもある。 騒音をたてないよう注意。
このスクリーンショットのものはまだマシだが、なかには"殺しにかかってくる"動きもある。騒音をたてないよう注意。

 


明白な難点

 

『Spotlight』は、国内のXbox One発売、Day Oneを象徴するタイトルだとすら思える。弊誌が始まって以来、筆者が8.0を超えるスコアをつけたのは本作が初めてだ。しかし、それがゆえにわずかな粗でもかなりめだつ。2つある。

まず、ローカライズの雑さ。もはや誤字脱字レベルに怪しい日本語が散見される。日本語ネイティブが書いたとは思えないような水準だ。ここまでひどいと、リズムアクションとはいえ世界観がくずれかねない。すくなくとも興は削がれる。それにともない、ボイスアクターのセリフも珍妙だ。ゲームとしてみれば格下であろう『Kinect スポーツ ライバルズ』ががんばっていた部分だけに、なんとも切ない気持ちになる。

もうひとつが、曲購入の導線だ。有料追加コンテンツとして大量の楽曲が用意されていることはいっこうに構わない。ただ、「買ってみよう」と思わせてくれないのだ。おそらくは、すでにその曲やアーティストを知っている人への「ああ、この曲があるんだ、じゃあ買おう」の流れしか想定されていない。

筆者は洋楽を積極的には聞かないほうだが、初代『Dance Central』をプレイし、それをきっかけに多くのアーティストの存在を知り、CDを買った。そう、ゲームを通じて未知のめくるめくサウンドに出会いたいのだ。

しかし『Spotlight』でそれは難しい。原因はいくつかあるが、サムネイル表示してからサンプルが流れ始めるまでに微妙なタイムラグがあることが一番大きい。良し悪しがあるところかもしれないし、システム的な都合もあるかもしれない。だが個人的には減点対象である。3秒ずつ聞いてフィットしそうなものを探す、この作業が苦痛となる。DLC購入もCD購入も辞さない構えだけに、よけいつらい。愛せる曲をもっと気軽に探させてほしかった。

ちなみに過去作品の収録楽曲をインポートできないことにもいささか不満を感じたが、こればかりはしかたないだろう。いつの世も音楽関係は権利がややこしいものだ。

 

ローカライズは本当にどうにかしていただきたかった。まともなのはカードのネーミングくらいか。メニュー画面についてはなかば破綻すらしている。
ローカライズは本当にどうにかしていただきたかった。まともなのはカードのネーミングくらいか。メニュー画面についてはなかば破綻すらしている。

 


それでもなお名作

 

文句をつらつらと垂れ流してしまったが、それでも『Spotlight』は確実に名作の部類であり、Xbox Oneと新Kinectを代表すると断言しても過言ではない。Xbox Oneについて「ローンチタイトルでやりたいものがない」とするゲーマーが周りにいたら、「『Spotlight』がある」と返すべきだ。実績と実質を積み重ねてきたシリーズの最新型がここにある。ゲーム的なイノベーションの不足すら瑣末な事柄だ。

もしあなたのゲーム部屋にKinectを運用するだけのスペースがあるのならば、本作の購入を躊躇するべきではない。敵は日本の住宅事情だけだ。

 

痩せるゲーム部屋、最新の状態。カーペットの隅をめくりあげ、なんとかプレイスペースを確保している。
痩せるゲーム部屋、最新の状態。カーペットの隅をめくりあげ、なんとかプレイスペースを確保している。

(画像出典: 公式サイト