『Overwatch』チートツール販売元を著作権侵害で運営側が提訴、不正蔓延の影に暗躍する専門業者の闇


Blizzard Entertainment(以下、Blizzard)は1日(ロサンゼルス)、チーム対戦型FPS『Overwatch』(オーバーウォッチ)用のチートツールを開発・販売する独企業、Bossland GmbH(以下、Bossland)を、著作権侵害および不正競争の理由で提訴した。『Overwatch』の発売以降、利用者数が爆発的に伸びる一方で、外部プログラムを利用した不正行為の報告が相次いでいた。こうしたチーターの蔓延には、必ずと言っていいほど不正行為を可能にする専用ツールの供給者が暗躍している。Bosslandは、以前から複数のBlizzardタイトルを対象としたチートツールを販売しており、コミュニティ運営への悪影響は計り知れない。Blizzardは、被告側が不正ツールの販売で多額の収益を得たと主張すると共に、同社が被ったユーザーからの信用の失墜と売上の損失に対して、賠償を請求している。

 

チーターを食い物にする“武器商人”たち

『Overwatch』は、6人ずつのチームに分かれて計12人でオンライン対戦が楽しめる一人称視点のMOBA系アクション・シューティング。BlizzardがWindows/PlayStation 4/Xbox One向けにリリースした十数年ぶりの完全新規タイトルである。未来の地球を舞台に、多種多様な武器や装備、特殊能力を操るヒーローが登場するのが特徴で、キャラクターによって得意分野や役割分担が大きく異なる。5月24日のサービス開始から僅か2週間足らずで、累計プレイヤー数が1000万人を超えたことでも、さらなる脚光を浴びた。一方で、プレイヤー人口の増加に伴い、外部プログラムを利用した不正行為の存在も顕著になってきている。先日には、中国だけでもすでに1572件のアカウントが規約違反で永久停止に処されたと報告されていた。

専用チートツール「Watchover Tyrant」
専用チートツール「Watchover Tyrant」

著作権に関する情報を扱う海外メディアTorrentFreakによると、Blizzardが訴訟を起こすきっかけとなったのは、Bosslandが販売する「Watchover Tyrant」という外部プログラム。障害物の向こう側にいるプレイヤーの位置や残り体力といった、通常の仕様では見えない情報を可視化できるツールで、『Overwatch』におけるチート行為が短期間で広く蔓延する要因になったという。これまでに数千人のプレイヤーによる使用が報告されている。なお、Bosslandは、このほかにも『World of Warcraft』『Diablo III』『Heroes of the Storm』『Hearthstone: Heroes of Warcraft』といった、複数のBlizzardタイトルに向けたチートプログラムを販売している。これを受けてBlizzardは、複数のケースにおける著作権侵害、不正競争、およびデジタル・ミレニアム著作権法に基づく迂回商行為活動の禁止条項に抵触するとして、カリフォルニア連邦地方裁判所に訴訟を申し立てた。

告訴状(リンク先はPDF)の中で、Bosslandが提供したチートプログラムによって多くの正当なプレイヤーがゲームを台無しにされ、結果として売上に与えた影響は計り知れないと、Blizzardは主張。損失の賠償を要求している。「米国における被告のハックツールの販売と流通は、Blizzardにとって何百・何千万ドルという収益の損害をもたらし、業務の信用および風評に対する取り返しのつかないダメージを被る原因となりました。加えて、Overwatch発売の僅か数日後にチートプログラムをリリースしたことで、ゲームが完全に普及する機会を得る前にも関わらず、被告は本作を台無し、あるいは取り返しがつかないほどの害を及ぼそうと企てています」。特筆すべきは、これまでBlizzardが何千件もの不正行為に対処してきた傍らで、Bossland側は一貫してツールの検出をより難しくする意向を示してきた点だ。つまり、EULA(End-User License Agreementの略、ソフトウェア使用許諾契約のこと)を意図的に破っていることになる。

実は、BlizzardがBosslandを相手取って訴訟を起こしたのは、これが初めてではない。BosslandのCEO、Zwetan Letschew氏は、TorrentFreakの問い合わせに対し、次のようにコメントしている。「すでにドイツで10件以上の訴訟合戦が繰り広げられています。Blizzardは、今度はアメリカでも挑みたいようです。どうして以前の2011年ではなくて、今なのかについては疑問が残りますが。何故、Rod Rigole氏(Blizzardの次席法務顧問)は、わざわざミュンヘンまで遠路はるばる足を運んで、2人の弁護士を連れて380kmも離れたツウィッカウへドライブしたんでしょうね。どうして5年前にアメリカ本土で我々を提訴しなかったのか」。また、Letschew氏は、米国と関わりがない同社に対して、カリフォルニア連邦裁判所に司法権はないと主張している。ちなみに、今年はじめにドイツ国内で起こされた『Heroes of the Storm』のボットをめぐる訴訟ではBosslandが勝訴しており、原告のBlizzard側は弁護士費用を含めた法的費用の一切を負担するよう裁判所から命じられた。

Blizzardは、『Overwatch』における不正行為について、チートツールにみなされる外部プログラムの使用が判明したユーザーは、文字どおり永久追放に処するという対応方針を徹底している。一度でもアカウントの無期限停止処分を受けると、新たなアカウントでゲームを買い直したとしても、再犯の有無にかかわらず、再びBANされる事例が報告されている。広く普及しているからといって、軽率に「Watchover Tyrant」のような不正ツールに手を出してしまえば、二度と『Overwatch』をプレイできなくなるだろう。また、Bosslandが提供している外部プログラムについては、以前にも『Hearthstone』のチートツールに潜むスパイウェアの脅威を報じた際、対戦を自動化するボット「Hearthbuddy」を取り上げたことがある。「ノートン インターネットセキュリティ」で知られるSymantec Corporationの専門家が、サードパーティー製ハックツールの使用はトロイの木馬の侵入を許す要因になると、実際の検出例を挙げて警鐘を鳴らしていた。不正行為で優越感に浸るチーターこそが、実際は業者やクラッカーの好餌にされているのではないだろうか。