人気TikToker、「俺のバズり動画の声を勝手に宣伝に利用した」としてゲームメーカーに損害賠償を要求した模様。話がややこしすぎる

 

Activision Publishing(以下、Activision)は7月24日、あるストリーマーからの“権利侵害の訴え”に対し、侵害の事実がないことの確認を求める訴訟を提起した。Activisionは6月にTikTokにアップした動画について、当該ストリーマー側から音声の無断利用によって権利を侵害されたという主張を受けていたようだ。Activision側は動画を削除した一方で、裁判所に提出した文書内ではTikTokの利用規約などにより権利侵害には当たらないという見解を示している。

Activisionに対して権利侵害を訴えていたのは、音楽評論家・ストリーマーのtheneedledropこと、Anthony Fantano氏。本稿執筆時点でYouTubeのチャンネル登録者数276万人、TikTokのフォロワー数130万人を擁するインフルエンサーだ。同氏は2021年に、TikTokにてひたすらスライスされ続けるピザに対して絶叫する19秒間の動画を投稿。本稿執筆時点で約570万いいねを獲得するなど大いに“バズり”、海外を中心にネットミーム化した過去がある。

@theneedletok

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♬ original sound – Lu we


Activisionが カリフォルニア州中央地区連邦地方裁判所に提出した訴状によると、今回問題になったのはそのピザ動画の音声について。Activisionは今年6月、TikTokに『クラッシュ・バンディクー』シリーズのコラボスニーカーの宣伝動画を投稿(現在は削除済み)。その動画に、Fantano氏のピザ動画の音声が使用されていたという。これを見たFantano氏は弁護士を通じてActivisionに接触。Activisionが宣伝動画に同氏の音声を使用したことで、Fantano氏がActivisionの広告に関わっているような誤解が生じ、それによって損害を被ったと主張。また、個人の事前の同意を得ることなく商品やサービスの宣伝への名前や声などの利用を禁じたパブリシティ権保護の規定に違反したとして、動画の削除と金銭の支払いを求めたという。


Activisionは動画の削除には応じたものの、権利侵害の事実がないため賠償責任は存在しないとして、金銭の支払いを拒否。結果として、Activision側が先手を打つような形で、裁判所に「宣言的救済(declaratory relief)」を求める訴訟を提起することになったようだ。

Activision側が裁判所に提出した文書においては、動画にFantano氏の音声を使用したことで、同氏がActivisionの広告に関わっているような誤解を生じる恐れはないと反論されている。また、Fantano氏のピザ動画は、同氏自身の手によりほかのクリエイターが二次利用しやすいように音声のみを切り出して別途アップロードされている点を指摘。さらに同音声はTikTokの商用音楽ライブラリに登録されており、無数のコンテンツに利用されている。フリー素材のネットミームと化している同音声を無加工で使用したところで、Fantano氏がActivisionと関わりがあると誤解を抱くことは考えられない、というのがActivisionの主張だ。

またActivision側は、パブリシティ権の侵害については、そもそもTikTokの利用規約により、TikTokに投稿されたユーザーコンテンツはパブリシティ権を含むあらゆる権利が放棄されていると述べている。そしてコンテンツの第三者による利用・改変も認められており、権利侵害は成立しないとしている。Activision側はさらに、Fantano氏は一方では自分の創作物の二次利用を推進しつつ、他方では企業などに標的を定めて権利侵害に基づく損害賠償の要求をおこなっていると主張している。

さらに文書では、Activisionが問題となった動画を取り下げた後もFantano氏の弁護士は引き下がらず、6桁ドル(日本円で数千万円)の賠償金を要求してきたとされている。Fantano氏の弁護士はほかの企業も似た金額を支払っているとして価格交渉などには応じず、Activisionが支払いを断ると法的措置をほのめかしてきたとのことだ。


以上の経緯はActivision側が提出した訴状を基にしている点には留意したい。今後Fantano氏側から反論がおこなわれる可能性もある。いずれにせよ、TikTok動画の音声の利用について、裁判所からどのような判断が下されるのか。判決によっては、今後少なくとも米国のTikTok上のコンテンツの扱いに影響を及ぼすかもしれない。今後の動向を注視したい。