海外アーティストがUnreal Engine 5(以下、UE5)にて、極めてリアルな「日本の駅」を作り上げたようだ。UE5の新ライティングシステムと職人技により、不気味さを感じさせるほどのリアルさを実現している。
UE5は、Epic Gamesにより今年4月に正式リリースされた次世代ゲームエンジンだ。比較的負荷を軽減しつつ、緻密な環境光描写などを可能にする「Lumen」や、大量の高精細3Dモデルなどの描画を助ける「Nanite」などの新機能を盛り込んでいる。同エンジンによる制作も盛んになっており、開発中新作のエンジンをUE5に移行するとしたスタジオも現れ、ユーザーによる試験的な作品の制作などもおこなわれている(関連記事1、関連記事2)。そして5月7日、海外アーティストが目を見張る作品を公開した。日本の富山県に実在する駅「越中大門駅」を、UE5上にて見事に再現したのだ。
リアルな“バーチャル越中大門駅”を制作したのは、Lorenzo Drago氏。イタリアを拠点とし、3D環境/プロップアーティストとして活動する人物だ。Drago氏は今回の制作にあたり、植物を除く3Dモデルやテスクチャなどをすべてひとりで手がけたという。実際に映像を見てみると、まず一目ではCGであると見抜けない仕上がりだ。照りつける日差しはごく自然に反射し、現地の空気の香りさえ感じそうな環境が構築されている。筆者などは「ただ駅をスマホで撮っただけではないのか」と何度も見返したほどである。
違和感といえば、3Dモデルの縁のディザリング(ギザギザ)や、壁面のやや不自然な光沢などだろうか。ただ、CGと知らなければ実写だと思いこんでいたかもしれない。また、バーチャル駅が突如として夜に切り替わるのも、CG的演出だろう。無人駅というシチュエーションも手伝い、リアルすぎて不気味だ。このようなVRホラーゲームがあったら気絶するかもしれない。
本作品のArtStationページによれば、このバーチャル駅にはLumenが用いられている一方、Naniteは利用されていないという。そのため、極端なハイポリゴン制作ではなく、通常の“ローポリゴン”ワークフローにて3Dモデルを制作。ディティールテクスチャなどを除き、ほとんどのテクスチャは自ら描いたという。また、カスタムマテリアルを作り、頂点ペイントやマスクテクスチャを利用して、テクスチャの「繰り返し感」を取り除いたとのこと。同氏はフォトリアリズムを追求して、バーチャル駅の制作に当たったそうだ。つまりこの極めてリアルな駅は、Lumenの機能性とDrago氏自身の職人芸によって仕上げられたわけだ。
また、スマートフォンで撮影したかのようなカメラワークやライトの動きは、VRデバイスを利用したトラッキングによって実現したとのこと。しかし、これだけリアルに作り込んでおきながら、Drago氏は越中大門駅どころか富山に行ったこともないという。同駅を題材にしたのは「日本の田舎の駅が気に入ったから」とのこと。同氏はWeb上の資料を参考にして、今回の作品を作り上げたそうだ。実際の越中大門駅との差異がどれほどかは、実物と見比べなければわからない。しかし、現地に行かずして、これほど説得力ある作品を作り上げられてしまう技術も驚きに値するだろう。この作品は国内外で注目を集めている様子。
正式リリースからわずかの間に、多くのクリエイターがその可能性を試しているUE5。今回のバーチャル越中大門駅のような描画クオリティのゲームが出る日も、そう遠くないかもしれない。
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