広大な世界に降り立ち、気ままに探索できるオープンワールドゲーム。なかにはNPCキャラクターたちとの関わり合いが楽しめる作品もあり、その体験はひとときだけ味わう「第2の人生」とも呼べるのではないだろうか。『ELEX II』も、そうした体験ができる作品だ。プレイヤーの決断を通じて人々からの印象や、勢力との関係性さえも変化するオープンワールドゲームである。ただ、本作では八方美人は通用しない。誰に味方し、誰を優先するのか。行動には必ず結果が付きまとう。人々との関係性の酸いも甘いも味わえる作品なのだ。

今回はTHQ Nordic Japan株式会社に、『ELEX II(エレックス2)』の世界に飛び込む機会を頂いた。本作はPS4PS5パッケージ版/PS4・PS5ダウンロード版/Xbox One・Xbox Series X|Sダウンロード版/Steam版が発売中だ。筆者はSteam版にて、自分の直感と欲望のままに行動し、人間関係が絡み合う世界で送る「第2の人生」に挑戦した。そのなかで感じた、失敗も後悔も楽しめてしまう、本作の懐の広さを感じるプレイ体験をお伝えしていく。

『ELEX II』紹介

体験談の前に、『ELEX II』についてご紹介したい。本作はオープンワールドゲーム『ELEX』の続編だ。開発を担当するのは、『Risen』シリーズや『Gothic』シリーズで知られるPiranha Bytes。三人称視点のアクションRPGとなっており、広大な世界を自由に探索しつつ、多彩な文化をもつ人々との交流も楽しめるゲームシステムだ。

本作の舞台となるのは、隕石が衝突して文明が崩壊した惑星「マガラン」。世界観は、ポストアポカリプスとSFおよびファンタジーが融合した様相を呈している。高度なテクノロジーやエネルギー兵器を操る勢力もいれば、大自然と魔法に頼り生き抜く人々もいる。本作には、そうしたさまざまなイデオロギーをもつ5つの派閥が登場する。マガランを統治する政府などはなく、基本的にはそれぞれがお互いを警戒しあっている情勢だ。

プレイヤーの分身たる本作の主人公は「ジャックス」と呼ばれる男だ。彼は前作『ELEX』でも主人公を務めており、目覚ましい活躍を見せた。一方本作では人里離れた場所に住んでおり、新たな侵略者である「スカイアンド」の到来を受けて冒険の旅に出ることになる。ジャックスは新たな脅威からマガランを救うため、5つの派閥に働きかけ「第6の勢力」を作り上げる使命を帯びるのだ。しかし、考え方の違う派閥たちをまとめ上げるのは一筋縄にはいかない。プレイヤーの選択はキャラクターや派閥との関係性にも影響し、ひいては物語の展開などにも波及していく。最良の結果を得るには、人々を理解して慎重に決断する必要があるのだ。

『ELEX II』は“自己中”でも楽しめるのか

そこで筆者は、慎重さが求められる『ELEX II』にて、あえて自分の感情に正直にプレイしてみようと決断した。というのも、普段の筆者といえばわりと小心者であり「できれば誰にも嫌われたくない」と常々思っているタイプだからである。なればこそ、ゲームの中くらいでは人の気持ちを考えず、自己中心的に振る舞いたい。また、失敗すると取り返しのつかない決断も求められる『ELEX II』が、気楽にプレイしても楽しめるのかどうか確かめたい意図もあった。結果として本作は、「失敗すらも楽しめる」懐の広いゲームプレイを提供してくれた。

初手で自宅がブッ壊れる

本作の冒頭は、獲物を仕留めたジャックスが住処に戻るシーンから始まる。落ち着いた雰囲気に筆者はてっきり「これからスローライフなパートで操作を覚えて、物語が展開していくのかな」と思ったものの、そうは問屋がおろさない。落ち着ける我が家は非情にも、突如飛来した隕石によって粉々にされてしまうのである。冒険は待ってはくれない、向こうからやって来るのだ。しかも隕石からは、頭に紫色のビー玉を抱えたような危険生物がどんどん湧いてくる始末。追い立てられ一撃を食らったジャックスは崖から転落し、気絶してしまう。


意識を取り戻したジャックスを助けたのは、アダムなるキャラクター。彼はマガラン共通の脅威である、新たなる侵略者スカイアンド(頭がビー玉の一派)に対抗を企てている。そのための人類の砦となる第6勢力の設立を、かつての英雄であるジャックスに提案してくれた。そして、ジェットパックをジャックスに預け、「北の拠点で待っている」と伝えて去っていった。早速、室内でジェットパックをふかしてみたところ、当然ながら天井に坊主頭をゴリゴリとぶつけることになった。

外へ出た筆者はとりあえず南へ向かった。アダムのなんとなく怪しげな風貌が気に入らなかったのである。また、せっかく手に入れたジェットパックを試したくもあった。ジェットパックは探索中にいつでも発動でき、素晴らしい速度でかなりの高度に達してくれる。南の岩壁をスイスイと乗り越えると、スカイアンドの一団が待ち構えていた。さきほどの復讐とばかりに殴りかかったところ、猫パンチのような軽い一撃で体力の半分以上をもっていかれた。ほうほうの体で逃げた筆者は、小さな小屋にて体力回復の1泊。序盤から自由に行動できるものの、それなりのリスクが伴うシステムだ。


最低の父親

向こう見ずな放浪に反省した筆者は、アダムの待つ北へ。しかし、道中には何やら気になる廃墟などが点在している。探索してみるとアイテムが存在している場合も多く、ジェットパックを駆使しての寄り道に夢中になってしまった。また、高所からうっかり落下すると膝をしたたか強打してダメージを食らう。回復のためにアダムほったらかしで3泊ほどしたため、彼は「あいつはいつ来るんだ」と思ったかもしれない。

改めて北へと歩を進めると、ジャックスの配偶者であるカジャと遭遇。彼女は現在、魔法と自然を信奉する勢力「バーサーカー」でかなりの地位についているようだ。夫婦なはずなのだが、話してみるとやけにとげとげしく、どうやらジャックスにはあまり良い感情をもっていない様子。いろいろ相談した結果、ふたりの息子であるデックスを保護する流れとなった。


デックスとも首尾よく合流し、彼を引き連れてふたたび北を目指す旅路へ。しかし、道中デックスが目撃した父親の姿は、廃墟はおろか、下手をすれば人が住んでいる民家でひたすら物品をかっぱらう背中であった。強めのモンスターに遭遇した際には、筆者すなわち父親に囮にされかける始末である。これではジャックスがカジャに嫌われても仕方ないというものだ。盗みでは同行NPCに嫌われることはないものの、父親が盗みを働く姿を無言で見つめる息子はかなりシュール。また、会話イベントでは同行者が性格に応じて口をはさむこともあり、さまざまなシチュエーションをさらに面白くしてくれる。

待たせたなアダム


旅と探索にかまけているうちに、気づけばゲーム内時間で1週間近くアダムを待たせていた。待ち続けた彼は「あいつもう来ないんじゃないかな」と思ったかもしれない。彼と合流してみると、ストーリーの軸となる「5つの勢力と交渉する」旨のクエストが出現した。回り道を経てやっと本作の物語が動き出す。また、探索するうちに前述のカジャがしぶしぶながら仲間に。親子3人旅となったわけだが、やる事は相変わらず民家に侵入しての窃盗。泥棒一家である。

あまりジャックスと仲良くないカジャであるが、仲間としては素晴らしい働きをしてくれる。彼女は魔法使いであるが故に、火力の高い魔法で援護してくれるのだ。というより、序盤ではカジャの方が戦闘力が数段高く、基本的には彼女を囮にして逃げ回るだけになるのだ。嫌われて当然である。また、カジャには気難しい面もある。訪れたバーサーカーの拠点の門番を腕力で脅迫した際には、一気に嫌われた。そのほか、筆者のちょっとした言動のひとつひとつでどんどん心証が悪くなっていく。一方で、多少嫌われてもそのまま旅路にはついてきてくれる。夫婦仲というのは複雑なものである。


また、本作ではカジャ以外の人々も冷たい対応が多い印象だ。文明が崩壊している上に、派閥同士でいがみ合っていれば当然とは思うものの、やはりカチンと来たりうっかり脅迫してしまう時もある。その度に、「あ、失敗したかな」と思う好感度の低下やペナルティがあるものの、ゲーム進行への影響はキツすぎない調整だ。ただ、協力してもらえたはずのシーンで断られてしまうなど、因果応報をしっかり感じるよいバランスだと感じた。

また、ゲームの中での体験とはいえ、思ったことをそのまま口にするのは新鮮だ。ガンガン嫌われようとも自分の心のままに行動するプレイも、十分許容されるシステムとなっている。また、本作にはオートセーブ機能のほかにもマニュアルセーブもあるため、どうしても失敗したくないシーンでは保険をかけてみるのもアリだろう。筆者のプレイ中には、腹の立つ衛兵にうっかり殴りかかる寸前に理性が働き、セーブのおかげで進捗を失わずに済んだシーンもあった。衛兵たちはべらぼうに強かった。

RPGの醍醐味「能力強化」で失敗

人間関係をエンジョイする傍ら、楽しみとなるのが主人公の能力強化だ。本作ではレベルアップやアイテムの使用により、主人公の各種ステータスを強化する「AP」と、アビリティ習得やジェットパック強化に使う「LP」が手に入る。ステータスは「筋力」「体格」「敏捷」「知恵」「狡猾」の5種類があり、さまざまな影響をゲームに与える。具体的には、遠距離武器の装備には敏捷が、重たい武器の装備には体格が必要になり、どちらも筋力を一定備えていなければならない。これはアビリティ習得にも影響し、たとえばハッキング能力を得るには素早さと狡猾さが要求されるなど、ゲームプレイに大きく影響する。

そんな慎重さを求められる能力値配分において、筆者の判断を狂わせた要素がある。ジェットパックだ。本作のジェットパックは気持ちがいい。ボタンひとつで離陸すれば、基本的にはすぐ安全圏に離脱可能。危険なシチュエーションでいつでも使える切り札として役立ってくれる。また、移動や探索でも頻繁に利用する。正直にいって、旅のお供としての筆者からの好感度は、カジャよりジェットパックの方が上なくらいである。そこで筆者は最序盤、ジェットパックの強化に必要な「知恵」にポイントをバンバン振ってしまったのだ。

するとどうだろう、ステータスが足らず新しい武器が装備できない。すなわち、口はでかくて知恵もあるものの、戦闘は味方に頼りきりの貧弱ジャックスが仕上がってしまった。一方で、後悔は長くは続かなかった。求めたジェットパック機能は、戦闘力を犠牲にするに値したからだ。フィジカルを犠牲にして得た、猛スピードの水平飛行を可能にするスプリントブースターは、快適な探索のほか敵を翻弄するのにも役立った。「やっちまった」と一瞬後悔するようなステータス配分も、長所をしっかり活かせば何らかのかたちで冒険に役立ってくれる仕組みだ。

取り返しのつかない失敗も面白い


本作をプレイしていると、多くの出来事が起こる。その顛末も多彩で、まったく無関係と思っていたクエストでの決断が、別のクエストで咎められる場合もあるのだ。例としては、子供に親切にしたばかりに衛兵に怪しまれ、後の行動を妨害された一幕があった。カチンときて斬りかかろうとしたものの、衛兵の強さを思い出して剣を納めた。しかし、何気ない選択にも重みがあり、後に思わぬ影響を与える点は、まるで人生のようで楽しくもある。

また、直ちに重大な結果をもたらす選択も登場する。ある日ジャックスと一行は、目的地に通ずる地下鉄駅を訪れた。しかし、そこには派閥からあぶれた流浪者たちが住み着いていたのだ。最初は友好的に接してくれた流浪者たちだったものの、彼らのリーダーと会話したところ態度が一転。通してほしければ、ゲスト的なクエスト同行者を売れというのだ。

その時同行していたゲストキャラクターは、正直いって印象の悪い男だった。しかし、ニコニコと招き入れておいて脅迫する男はもっといけ好かない。すっかり頭に血がのぼった筆者は、「じゃあいいです、遠回りをします」との気持ちで即座に断った。しかし、会話を続けるうちに雲行きはどんどん怪しくなっていき、ピリピリとした緊張感が高まっていく。緊張感に耐えかねた筆者は、ほかにも選択肢があったにも関わらず「俺の蹴りをお前のケツにぶっ刺してやる」と威勢よく啖呵を切り、全面戦争を選択してしまった。


襲いくる流浪者の軍団。戦の口火を切った当人こと筆者は、全力で空中を逃げ回る。降りた瞬間死んでしまうからだ。筆者の悲鳴と剣閃が止んだ後には、流浪者たちの死体が累々と横たわっていた。幸いにも仲間たちの奮戦によって、勝利を得たのだ。しかし、地下鉄駅に住んでいた多数の流浪者たちは無残にも全員死亡することとなった。あまりにも多くの命が失われた惨状に、筆者は強い憐憫の情を感じ「どうしてこんなことに……」とつぶやいた。筆者がキレたせいである。しかし、怪我の功名といおうか、安心して流浪者たちの持ち物や物資をかっさらえたので御の字だ。


人生の味わい

筆者は『ELEX II』にて、ほかにも大量の失敗をしてきた。一方で、強気な態度が功を奏する場合もあった。また、どれだけしくじろうと、いわゆる「詰み」のような状態になるのは稀。配偶者に嫌われようと、選択ミスで悲劇が起きてしまおうと、ジャックスとしての人生は続いていく。


筆者ことジャックスが成してきた失敗や暴挙の数々は、現実で起きてしまえばシャレにならない。しかし、ゲームの世界ならば受け入れて笑い話にできる。『ELEX II』は小心者の筆者に、わがままに行動する楽しさとそのリスクを体験させてくれた。酸いも甘いも盛り込んだ、「第2の人生」の味わいを楽しめる作品となっている。

また、本作には難易度選択もあり、筆者はノーマルモードにてプレイした。もっと簡単な難易度としてはイージーとストーリーモードが用意されており、プレイ中いつでも変更可能だ。戦闘が苦手な方でも、気楽にジャックスとしての人生を楽しめるようになっている。失敗したくない慎重タイプの方も、直感を信じる成り行き任せの方も、それぞれの楽しみ方で『ELEX II』の世界を生き抜いてみてほしい。あなただけの冒険譚、あるいは珍道中のストーリーが待っている。


『ELEX II』は、 PS4PS5パッケージ版/PS4・PS5ダウンロード版/Xbox One・Xbox Series X|Sダウンロード版/Steam版が現在発売中だ。