『バイオハザード ヴィレッジ』は、完成間近まで主人公が「サンドバッグ状態」だった。開発陣のせめぎあい明かすメイキング映像公開

Image Credit : CAPCOM
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今月5月8日に発売された『バイオハザード ヴィレッジ』。発売日のSteam同時接続数は10万を超え、シリーズ最高記録となった(関連記事)。しかしながら、同作リリースまでの道行きは平坦なものではなかったようだ。『バイオハザード ヴィレッジ』開発終盤に起きた、クオリティに関する波乱を物語る動画が、『バイオハザード』公式YouTubeチャンネルにて公開されている。 
 

 
今回公開されたメイキング動画は、サブタイトルとして「The Internal Struggle(内部闘争)」と銘打たれている。その言葉の通り、動画では品質管理部と開発チームのせめぎあいについて、開発陣が語っている。普段ゲーマーが目にすることのない、ゲームバランス調整の裏側を明かす興味深い内容だ。 
 

焦点は戦闘のバランス 

『バイオハザード ヴィレッジ』ディレクターの佐藤盛正氏は、同作には開発初期から「死に物狂い」というコンセプトがあったと語る。開発初期においては、そのコンセプトを具体化するために、敵の勢いと恐ろしさに力を入れて取り組んでいたそうだ。 

一方で、調整前の同作について「相当しんどい内容になっていた」と語るのは、品質管理部長の小林周太郎氏だ。開発段階では、製品版と比較して敵の数が多く、攻撃的で、弾薬も少なかったそうだ。同氏曰く、戦闘のバランスが「これはまずいな」という状態だったとのこと。 

動画の中では、その当時のゲーム画面も公開されている。たしかに、『バイオハザード ヴィレッジ』製品版と比較して、ライカン(敵キャラクター)の数が多い印象だ。数えてみると、10体ほどの敵が画面内に存在する。同作製品版において、これだけの数の敵が一気に責めてくる場面はまれだ。 
 

Image Credit : CAPCOM

 

強い「不利感」と難易度を両立させる工夫

筆者は『バイオハザード ヴィレッジ』をプレイ済みだ。今回の動画を踏まえて同作のプレイ体験を思い返せば、調整の成果は確かに現れていたように思う。ディレクターの佐藤氏が動画内で語った、「緩急」が効果的に使われている、と感じた場面もあった。 

たとえば、今回頻繁に遭遇する敵キャラクター、ライカンはゾンビのように単純な動きをしない。「屋根の上からじっとプレイヤーを狙っている」など、知性を感じる不気味な振る舞いをする。うかつに発砲したり、屋内に逃げ込もうとしたりすれば雄叫びをあげ、集団で襲い来るのだ。 
 

 
ただ、多数の敵が出現しても、理不尽に寄ってたかって“サンドバッグ”にされるようなことはない。基本的に攻撃してくるのは、複数のうち1,2体になっている。そして敵の攻撃を食らうとイーサンに硬直時間が発生し、その間はほかの攻撃が止む。また、食らいモーションからの復帰後には、敵の攻撃の手がしばし緩むようになっている。プレイヤーが立て直し、反撃する時間を与える調整だろう。 

そのようにして多対一の不利な戦闘でも対処可能な、“ちょうどいい”間を作っている。かといって、待機中の敵も棒立ちはしていない。プレイヤーを威嚇してきたり、じわじわ後ろに回り込んで来たりと恐怖を煽る行動をする。まさに、知性のある獣に群れで襲われている感覚だ。 
 

 
ほかにも、敵が多数出現するケースにおいて、敵の出現のさせ方にも工夫が見られる。「敵の出現にインターバルを設ける」、「マップ内に一定数以上の敵が発生すると、新たな出現が止まる」などの処理だ。プレイヤーの手に負えない数の敵が出ないように、という配慮だろう。しかしながら、敵はプレイヤーの左右や背後、時には上下からも縦横無尽に出現するようになっている。そのため、「目の前の敵の処理に追われていたら背後に迫られていた」ということが頻発する。雄叫びなどの音響も相まって、実際の敵の数は少なくとも、包囲されている感覚は非常に強い。 

あえてプレイヤーから遠くに大量の敵を出して、対処の余裕を与えてくれるシチュエーションもある。とはいえ、「ほらほら、来ているぞ」と焦りを煽るような見せ方だ。これもプレイヤーに与える危機感や恐怖と、難易度とのバランスを取るための趣向だろう。これら一連の調整は、プレイヤーが常に不利であると感じさせ、“死に物狂い”を演出する工夫の一端ではないだろうか。 
 

 
今回の動画から垣間見えたのは、納期と戦いつつもゲームの品質を上げんとする、品質管理部と開発チームの葛藤だ。本稿執筆時点の『バイオハザード ヴィレッジ』Steamユーザーレビューは、2万7000件中95%が好評の「圧倒的好評」ステータスとなっている。もしも水際での調整がなければ、本作の評価はもっと違うものになっていた可能性もある。

極限までクオリティを追求するゲーム制作陣の、葛藤やせめぎあい。ゲーマーたちが普段見ない部分であるだけに、今回の動画は非常に興味深いものではないだろうか。本記事で紹介した内容以外の開発経緯についても、開発陣の口から詳しく語られているので、気になる方は視聴してみてほしい。

『バイオハザード ヴィレッジ』はPS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One/PC(Steam)向けに発売中だ。

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