『アサシン クリード ヴァルハラ』クリエイティブ・ディレクターが降板、ファンとの不倫疑惑を受けて。ゲーム業界にて告発運動が再熱中

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アサシン クリード ヴァルハラ』のクリエイティブ・ディレクターAshraf Ismail氏は6月24日、同作の開発から降りることを発表した。同氏を巡っては6月21日、既婚者であることを隠してファンと交際していた疑惑が浮上。作品のファンであり、同氏と付き合っていたと主張するTwitch配信者のMatronedea氏が、会話履歴の画像付きツイートを投稿したことで明るみに出た。さらに追い打ちをかけるように、Ismail氏が「(投稿を)削除してくれないか。きちんと事情を説明するから。お願いだ」とMatronedea氏に懇願する会話内容まで暴露され、窮地に立たされていた。その後、別の人物からも不倫の疑いがかけられている。

Ismail氏はツイッター上で、「私が愛情を注いできたプロジェクトから降りることを決意しました。私生活上の問題と、適切に向き合うためです。私は、私自身と家族の生活を粉々にしてしまいました。傷つけてしまったすべての方々にお詫び申し上げます」と謝罪。さらに「皆様に素晴らしい体験を届けようと励んでいる、何百人もの才能と情熱あふれるスタッフがいます。彼らは、このような問題と結びつけられるという罰を受けるに値しません」とし、開発チームからは距離を置くと伝えた(現在はアカウント削除済み)。

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*Ismail氏が出演していた、『アサシン クリード ヴァルハラ』開発者コメンタリートレイラー

Ismail氏はUbisoftに10年以上在籍しているベテランであり、過去には『アサシン クリード IV ブラック フラッグ』『アサシン クリード オリジンズ』のゲームディレクターを担当。今年5月に正式発表された『アサシン クリード ヴァルハラ』では、クリエイティブ・ディレクターを担当していた。Ubisoftが海外メディアのPC GamerVentureBeatに伝えたところによると、同氏は現在休職中であるという。Matronedea氏の告発が事実であると認めているわけではないが、プロジェクトから降りなくてはならないと判断するだけの問題は抱えていたのだろう。

告発運動の始まりは、元Obsidianの著名開発者

『Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2』

現在、海外のゲーム業界ではセクシャルハラスメントやパワーハラスメントなど、「権力の濫用」に関わる告発運動が活発化している。Ismail氏の一件も、そうした運動の一環として出てきたものである。発端となったのは、Chris Avellone氏の性的暴行およびセクシャルハラスメント疑惑である。Avellone氏は、Obsidian Entertainmentの共同創設者であり、『Planescape: Torment』『Fallout 2』『Fallout: New Vegas』『Pillars of Eternity』といった人気RPGのデザイナー/ライターとして名を馳せた人物。2015年にObsidian Entertainmentから離脱してからも、フリーランスとして『Prey』『Divinity: Original Sin II』『Star Wars Jedi: Fallen Order』など多数の作品に関わるという、業界で引っ張りだこの人気者であった。

しかしながらAvellone氏は自身の影響力を武器に、ゲーム業界を目指している女性をターゲットに性的関係を強要してきたと、今年6月に入ってから複数の女性から告発された(Gamasutra)。Avellone氏ははっきりと否定はしておらず、告発者本人に謝罪したいがブロックされているとツイート。また「何も言うことはありません。もっとちゃんと接するべきでした。でも、あなたのことを大切に想っていたのはたしかです。私たちは最初に出会ってから何年も関係を続けていましたし、後悔はありません」と、告発者の友人に向けて謝罪している。

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Avellone氏が謝罪した相手は、告発せず静観していた女性である。静観していたのに巻き添えを食らう形となったRooster TeethのJackie氏は、たしかに一時期交際していたと説明。何も言ってなかったのに巻き込むのはやめてほしいと依頼したが、応じてくれなかったと述べた。これほど多くの成功作に関わってきたライターなのに、謝罪文の書き方もわからないのかと、静かに怒りをぶつけている(TwitLonger)。被害者の素性を暴露して「ごめんなさい」と公に書くのは謝罪ではなく、犬笛を吹いているだけだと主張。Avellone氏は性的暴行疑惑を受けただけでなく、事後対応にも批判が集まっている。

なおAvellone氏は現在進行中のプロジェクトにもいくつか関わっていたが、暴行疑惑が浮上してからは、Avellone氏と手を切ったとの声明を各社が出している。『Dying Light 2』のTechlandは、告発を受けて同氏との協力体制を解除したと発表。『The Waylanders』のGato Studioも、Avellone氏との契約を終了したと発信している。また『Vampire: The Masquerade – Bloodlines 2』のParadox Interactiveも、同作にてAvellone氏が貢献した箇所は使用されないと発表。そもそもAvellone氏は開発初期の短期間のみ関わっていたそうで、告発の有無を問わず使用される予定はなかったという(GameSpot)。こうしてAvellone氏のキャリアは一気に傾きつつある。

昨年夏に起きたゲーム業界MeTooムーブメントの再来

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』

「権力の濫用」を中心とした、海外ゲーム業界内でのハラスメント告発運動は、昨年の夏にも続出していた。発端となったのは、『スカイリム』や『ギルドウォーズ』シリーズなど、数々の著名作品でコンポーザーを務めてきたJeremy Soule氏の性的暴行疑惑。その後、無数のゲーム業界関係者のセクシャルハラスメントあるいはパワーハラスメント疑惑が浮上していった(関連記事)。そのうち『ナイト・イン・ザ・ウッズ』の開発に関わったAlec Holowka氏は、虐待告発を受けたのち死去(関連記事)。当時の告発ムーブメントも、支持が寄せられる一方で、事実関係がはっきりしない疑惑の段階でエスカレートする告発の嵐に、警鐘を鳴らす意見があった。

Avellone氏の一件が引き金となった今回の告発運動は、昨年よりも規模が大きく、ハラスメントの種類もさまざま。個人単位ではなく、企業規模で指摘されるケースも散見される。またゲーム開発者に限らず、ゲームメディア関係者、ゲーム配信者も告発の対象になっている。

UbisoftやInsomniac Gamesのケース

『Marvel’s Spider-Man』

ここ一週間、規模の大きいゲームスタジオを対象とした告発が目立っており、ブルガリアのUbisoft Sofiaに対しては、身体的・精神的暴力や人種差別、同性愛者嫌悪な職場文化が指摘されることに。性的暴行疑惑を受けた『ウォッチドッグス』シリーズのブランドマネージャーAndrien Gbingie氏は容疑を否定したものの、TwitchのアンバサダーであるHannah Rutherford氏が「似たような体験をしたと証言する女性を複数知っている」と追撃(VICE)。Ubisoft側は、Gbingie氏に停職処分を下し社内調査を始めたと発信している。

『Marvel’s Spider-Man』や『ラチェット&クランク』で知られるInsomniac Gamesを巡っては、テクニカル・ディレクターとして2016年から2020年まで同社に在籍していたSol Brennan氏が(現Unity勤務)、退社したのは性差別的な文化が原因だったと発言。優秀な女性のキャリアを絞り、辞めるしかない状態を作り出していると述べた。その後、複数の現従業員・元従業員が、Brennan氏の言葉は事実であると同調していった(GameSpot)。Insomniac Gamesは、以下のように調査を進めているとの声明を出している。

ゲームメディア内の圧政

『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』

海外メディアのIGNは2014年、『アンチャーテッド』シリーズで知られるAmy Hennig氏がNaughty Dogを去ったのは、『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』のゲームディレクターBruce Strailey氏と、クリエイティブ・ディレクターNeil Druckmann氏が彼女を追い出したからだと記す記事を掲載した。Naughty Dogは報道内容を否定する声明を出したものの、Druckmann氏を批判するユーザーがいまだに当時の話を持ち出すほどには、後を引いている。

この記事を担当していた元IGN(現在はEAのMotive Montreal勤務)のMitch Dyer氏は6月24日、当時の上司Tal Blevins氏(IGN共同創設者)とSteve Butts氏の圧力により、Dyer氏の意に反して噂話を記事にねじ込まれたと告白した。同じく元IGN(現GameSpot勤務)のKallie Plagge氏も、長文に渡り両者の圧政ぶりを伝えている。なおBlevins氏とButts氏は、すでにIGNを退職済み。

同サイトを巡っては、元IGNのTina Sanchez氏が、外見を理由にカメラの前に立たせてくれなかったと報告。他の女性スタッフにバストアップブラと化粧をしろと言ってきた男性を怒鳴ったことがあるとも投稿している。また『ダークソウル』シリーズのレビューを担当していた元IGNのChloi Rad氏は、ビデオレビューのボイスオーバー収録を拒否されたと告白。理由は『ダークソウル』には男らしい声がふさわしいからだと説明されたという。いずれも元従業員の証言。上述したDyer氏のように、現在の職場環境は改善されていると補足する者は多い。

容疑を断固否定するケースもある

TwitchやYouTubeで活動するインフルエンサー陣にも多数の疑惑がかけられている。著名レビュアーのAngry JoeことJoe Vargas氏を巡っては、彼が自身の影響力を活かして性的関係を迫ろうとし、暴力を振るわれたと、女性ストリーマーのWookieMonsterことAshley Marku氏が告発した。Vargas氏はすぐさま容疑を否定し、法的措置を取ると発信。Marku氏との間に何が起きたのか、Vargas氏側の見解を記述した上で、性的暴行は深刻な告発であり、もしも彼女が暴行を受けたと信じているのであれば、警察に報告し、入念に調査してもらうべきだと伝えている。そうすれば、Vargas氏は潔白を証明できると。

だがMarku氏は法に基づく適正な手続きを取るのではなく、虚偽の主張を公に流したことで、Vargas氏の評判、キャリア、ブランド、友人、家族、彼が雇っているスタッフを傷つけた。その事実を深刻に受け止めているとし、弁護士を通して法的措置を取っていくと示した。このような捏造は、実際にハラスメントや暴行を受けている被害者に失礼だと、想いを記している(TwitLonger)。Vargas氏の声明を受けてMarku氏は、暴行を受けたとは言っていないと供述を翻し、Twitterから距離を置くと述べて去っていった。

そのほかにも、海外では列挙しきれないほど告発が相次いでいる。昨年の騒動時にも記載したように、告発の多くは、ゲーム業界において一定の権力を持つ人物に向けられたもの。虚偽の告発と判断されればキャリア上のダメージも大きいと思われ、覚悟を持っての発言であると思われる。ただ、告発の性質上、被害を主張する側の見解だけが出回っている状態で、疑惑の域を出ていないものも多い。Ismail氏やAvellone氏のように謝罪の意を示しているケースもあれば、Joe Vargas氏のように断固否定しているケースもあるのが現状だ。

【UPDATE 2020/06/25 2:30】最終小見出しと、最終段落を加筆修正。

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