ゲーム開発者のハラスメント告発が続出。『スカイリム』『ナイト・イン・ザ・ウッズ』関係者の性的暴行疑惑など、ゲーム業界版MeTooムーブメントに


『スカイリム』や『ギルドウォーズ』シリーズなど、数々の著名作品でコンポーザーを務めてきたJeremy Soule氏。業界の著名人である彼に性的暴行疑惑が浮上し、複数の海外メディアにて報道されている。だが事態はSoule氏の暴行疑惑にとどまらず、ゲーム業界人を対象としたハラスメント告発運動へと発展していった。本稿では、Soule氏に対する告発を発端とした一連のムーブメントの現状を伝える。

 

『スカイリム』コンポーザーの性的暴行疑惑

ことの発端となったのは、『Tetrageddon Games』『Everything is Going to be OK』を開発したNathalie Lawhead氏によるブログ投稿。長文にわたり、Soule氏から性的暴行を受けたこと、そして彼にキャリアを邪魔されたことをつづっている。Soule氏と知り合ったのは2008年。Lawhead氏は当時カナダに移住したばかりで、ビザの手続きが難航することを恐れて警察に被害届けを出さなかったとのこと。

Lawhead氏は、Soule氏からキャリアを積む手助けをされる形で親しくなり始めたが、次第に性的関係を求められるようになっていったという。何度も断ったが一向に引かず。またSoule氏はLawhead氏に対し「異性関係において女性に裏切られてばかりいる」と嘆いていたが、よくよく聞いていると「医療費を払ってあげたのに関係を拒否された」といった、権力や財力を使って女性に強くアプローチする傾向にあると気づいたという。なおSoule氏は、セックスは音楽をつくる上でのインスピレーションであり、不可欠なものだと彼女に説いていたともつづられている。

Lawhead氏の『Everything is Going to be OK』

Lawhead氏がブログを公開した8月26日、同じくSoule氏と仕事上のつながりがあったボーカリストのAeralie Brighton氏も、彼から被害を受けたと公表した。Brighton氏はいまでこそ『オリとくらやみの森』『LawBreakers』といった作品に関わりキャリアを積んでいるが、最初はやはり立場的に弱く、Soule氏に関係を迫られたという。そして仕事上の関係にとどめたいと伝えたところ、彼女が参加するはずだったプロジェクトから外されたと語っている。またSoule氏はBrighton氏に、自慰中のビデオを送りつけてきたとも記されている。

両者ともキャリアを積み始めたばかりの地位を確立できていないときに、権力者であるSoule氏から肉体関係を持つようプレッシャーをかけられたと主張しているわけだが、Soule氏はこれらの訴えを「ばかげている」と否定している。Brighton氏の見解には特に同意できないのこと。男女関係の実態はそう簡単に割り出せるものではなく、Brighton氏がKotakuに共有した両者の会話履歴からは、相互的にいちゃついているように捉えうる発言があったとも報じられている。ただ独自に調査を行ったKotakuによると、そのほか複数の女性からも、Soule氏から仕事をオファーするかわりに異性関係を求められたとの証言が得られたとのこと。Soule氏は騒動後、Twitter、Facebook、InstagramといったSNSアカウント上での活動を停止している。

 

Oculus共同創設者が「VRデモ中にスカートの中に手を入れた」

本件だけでも衝撃的なニュースであるが、先述したようにSoule氏の一件は、より大きなムーブメントのきっかけにすぎなかった。Lawhead氏の告発を受け、VRゲーム開発スタジオOwlchemy LabsのマーケティングディレクターであるAutumn Taylor氏は、Oculusの共同創設者Michael Antonov氏にセクハラされたと公表した(Kotaku)。2016年のGDCにてAntonov氏に手招きされたTaylor氏は、VRデモを試している間に、同意なくスカートの中に手を入れられたという。相手がVR業界で影響力のある人物だけに、彼女自身と彼女が勤める企業がブラックリストに入れられてしまう可能性を恐れて、立ち向かうことができなかったと伝えている。

Taylor氏はAntonov氏に限らず、ゲーム業界関係者から何度もハラスメントを受けていたとも語っている。イベント出展しても、身体に触れてきたり、ナンパしてきたりと、相手がVRやゲームに興味があって来ているのか判断しづらいときがあるという。そうしたTaylor氏の一連の投稿に対し、2018年からFacebookのVR/AR部門ヴァイス・プレジデントとしてOculusチームを率いてきたAndrew Bosworth氏が反応。Bosworth氏はハラスメント行為を許容しておらず、相談を受ければ全件調査しており、もしも現在のOculusおよびVR/ARチームからハラスメントを受けた場合は、Bosworth氏が責任を負うと伝えている(Bosworth氏のツイート)。

 

『ナイト・イン・ザ・ウッズ』開発者はチームを去る

大学中退ネコのモラトリアム・アドベンチャー『ナイト・イン・ザ・ウッズ』の開発者として知られるAlec Holowka氏にも性的虐待疑惑が浮上。開発元Infinite FallのScott Benson氏は後日、Holowka氏との関係を断ったと報告している。Holowka氏は同作のプログラマー、コンポーザー、デザイナーとしてゲームに大きく貢献してきた人物だ。Infinite Fallは3人構成の小さなチームであるがゆえに、Holowka氏の離脱による影響は甚だしい。現在進行中のプロジェクトは中止となり、『ナイト・イン・ザ・ウッズ』の海外パッケージ版の発売も延期となった。iOS版移植は外部スタジオに委託しているため、影響は及ばないとのこと。なお同作の物語は彼とライターのBethany Hockenberry氏が担当したもので、2人の人生から着想を得ながら作り上げられたものだと強調している。

同作のパブリッシャーであるFinjiのRebekah Saltsman氏も、ツイッター上で声明を出している。Infinite Fallの判断を支持すると同時に、過去にハラスメント被害を受けた経験のある身として、Quinn氏のように自身の経験を発信する行為をサポートすると述べた。

Holowka氏の性的虐待疑惑は、ゲーム開発者Zoe Quinn氏の告発により生じたもの。かつて2人は交際しており、肉体的・精神的な虐待を受け続けてきたと語っている。Holowka氏は暴行を繰り返しては謝罪するという、不安定な状態であったとのこと。

Quinn氏はかつてのゲーマーゲート論争の発端となった人物でもあり、発言内容を鵜呑みにしてよいのか懐疑的に捉える声もある。Quinn氏もそうした意見が出ることを理解しており、『ナイト・イン・ザ・ウッズ』という、自分が愛されし作品の開発者を告発しても聞き入れてもらえないだろうと、何も言えずに年月が過ぎていったと伝えている。だが結果として、Holowka氏の暴露話を公開したあとには、彼から似たような被害を受けたというメッセージが複数届いたという。
【UPDATE 2019/09/02 9:15】
現部下のAlbertine Watson氏も、Alec Holowka氏からの想いに応えなかったことにより、敵対的な態度をとられていたとTwitterにて明かしている。その後9月1日、Alec氏の妹Eileen氏より、Alec Holowka氏が死去したことが伝えられた(関連記事)。

 

『Sunless Sea』『Cultist Simulator』のクリエイターはハラスメント常習犯と指摘

『Sunless Sea』『Sunless Skies』で知られる  Failbetter Gamesの創設者であり、現在は『Cultist Simulator』の開発者として知られるAlexis Kennedy氏も、異性との関わり方に問題があると指摘されている。Failbetter GamesのライターOlivia Wood氏は、当時CEOであったKennedy氏と2年間交際していたと公表。同僚や、イベントで出会った者との浮気が続いたKennedy氏の方から別れが告げられたという。ただ、別れたあとは職場での態度が明らかに変わり、同僚の前で頻繁に怒鳴られ、見下されるようになったとのこと。

『80 Days』『Boyfriend Dungeon』『Sable』などのナラティブ・デザイナーとして知られるMeg Jayanth氏は、Kennedy氏のことを業界内では知られたハラスメント常習犯と表現。著名な女性開発者との良好な関係性をアピールしつつ、裏ではキャリアの浅い女性開発者を搾取してきたと指摘している。立場的に声をあげられない若手をターゲットにしてきたのだと。

なおKennedy氏はMeg Jayanth氏の主張に対し、悪意ある虚偽の供述であると否定。法的助言を受け、警察に被害届けを出すと回答している。

 

『Florence』クリエイティブ・ディレクターは、パワハラ指摘を受けて謝罪

一連のムーブメントは性的ハラスメントに限ったものではない。『Florence』の開発メンバーであったTony Coculuzzi氏は(『Cuphead』の元リード・プログラマー)、同作のクリエイティブ・ディレクターKen Wong氏が、開発チーム、とくに若手スタッフに精神的な圧力をかけ続けてきたと主張。Coculuzzi氏自身は2016年に入社してから2年間にわたり自殺を考えていたと述べており、現在はうつ病のため服薬中とのこと。Wong氏は女性スタッフにも、毎日のように泣き出すまで怒鳴りつけていたという。

一連の投稿を受けてKen Wong氏はツイッター上に謝罪文を投稿している。Coculuzzi氏に限らず、キャリアを通じて傷つけてきた人々に向けて謝罪。リーダーとして、同僚として大きな過ちであったと反省し、スタッフの信頼と共感を得るためにもっと努力すべきであったと後悔の念を伝えている。

そのほかにも、『Destroy All Humans!』のリメイク版を開発中のBlack Forest Gamesにてコミュニケーション・スペシャリストとして勤めているMina Vanir氏が、ゲームデベロッパー向けのコンサルタントとして活動しているVlad Micu氏からハラスメントを受けたと発信したりと、著名人にかぎらず告発が相次いでいる。海外メディアも調査を進めていることから、今後も告発事例が増える可能性は大いにあるだろう。ただ、Wong氏のように謝罪文を出しているケースもあるが、被害を主張する側の見解だけが出回っている状態で、疑惑の域を出ていないものも多い。

今回の告発ムーブメントは、ゲーム業界において一定の権力を持つ男性に向けられたもの。そして告発している者の多くは、業界内である程度のキャリアを積んだ開発者たちだ。キャリアの基盤が出来上がってきたからこそ、ようやく声をあげることができたのかもしれない。いずれにせよ、虚偽の告発と判断されればキャリア上のダメージも大きいと思われ、覚悟を持っての発言には違いないだろう。

リスクが伴うがゆえに、被害者全員が実名で公表すべきだとは言えない。マイクロソフトのデザイン・ディレクターLaralyn McWilliams氏は、被害を受けたからといって、自身の体験を公表する義務はないことを忘れてはならないと発信している。「あなたの体験や気持ちを公にするのか、沈黙を貫くのか、身内にだけ伝えるのか。それを決めるのはあなたです。あなた自身を、そしてあなたのキャリアを危険にさらすことを避けたからといって、罪悪感を抱く必要はありません。自らの体験を公表することによるリスクを測れるのは、あなただけです」。