サッカー・プレミアリーグとリーガの試合中継に、“盛り上がり”を演出するため『FIFA 20』の技術を導入へ。今の状態だと不気味すぎる


イギリスのスポーツ放送局Sky Sportsは6月8日、プレミアリーグの中継において、Electronic ArtsのブランドEA SPORTS FIFAと協力し『FIFA 20』の技術を取り入れると発表した。具体的には、同作のサウンドを導入するという。それぞれのチーム特有の観客の騒音やチャントを持ち込むことで、にぎやかな雰囲気を演出する狙いだ。Sky Sports視聴者は、このサウンドのオンオフ切り替えが可能。


新型コロナウイルス感染拡大を受けて、世界各国のサッカーリーグが中断を強いられてきた。しかし5月中旬よりドイツ・ブンデスリーガがリーグ再開。イギリス・プレミアリーグは今月17日から、リーガ・エスパニョーラは20日からの再開に向けて動き出した。ただ、すべてがこれまでどおりというわけにはいかない。まだまだ新型コロナウイルスは収束しきっておらず、ファンを入れず試合をしなければならないのだ。いわゆる無観客試合である。

ただ観客がいないというだけであるが、観客がいなければスタジアムの雰囲気は大きく変わる。ブンデスリーガで先日おこなわれた白熱のルールダービーも、練習試合かのような雰囲気。3月に無観客試合をジャッジした主審デニス・アイテキン氏も「本当にまったく違うこと。何かが欠けていた。ものすごく大きいものがね。これが長期に渡って続けられないことを祈りたい。本当に(雰囲気が)不気味だったし、フットボールから程遠い感じだ。情熱が欠けていた。集中し続けるのが難しかった」とコメントしていた(Goal)。


スポーツ観戦においては、スタジアムの雰囲気は極めて重要。観客がいない試合では、魅力が薄れてしまう。運営側は雰囲気改善に努めており、ドイツ・ボルシアMGのファンは観客を模したダンボール写真を置いたり、韓国KリーグFCソウルはスタンドにラブドールを置いたりと、苦心しながらもアイデア出しを進めてきた。そうした不気味な状況を改善すべく、Sky SportsはEAと手を組んだわけだ。上のルールダービーの動画で気になるのは「音の不在」だろう。観客がいないことで、音が反響し、寂しさを際立たせる。音声面にテコ入れすることで、不気味さを払拭する狙いだ。

プレミアリーグだけでなく、リーガ・エスパニョーラも同様に演出面でのテコ入れをはかっている。国内中継においては、同じく『FIFA 20』による“バーチャル観客音声”を採用。EAが選ばれた理由としては、同社がプレミアリーグとリーガ・エスパニョーラとオフィシャルライセンスを結んでいる点が大きいとされている。EAは、チームによって異なるチャントや声援を公式から許諾を得て作っている。クオリティも高いので、実際の試合中継にも導入しやすい。


一方で、観客のグラフィックデータは採用されなかったという点は興味深い。リーガ・エスパニョーラではEAではなく、ノルウェーのVIZRT社による“バーチャル観客グラフィック”が導入されるという。ユニフォームを着たファンの姿が観客席にバーチャルで映し出されるそうだ。VIZRT社はもともとスポーツ観戦向けのグラフィックを開発している。『FIFA』シリーズの観客演出は年々進化しているが、ゲームよりもリアルな技術が存在しているということだろう。

なおすでにバーチャルサウンドを用いた観客演出が、BTスポーツのブンデスリーガ放送にて導入されており、現役時代は日本でも活躍した名物解説者ゲイリー・リネカー氏は「つくられた音でも静寂よりもずっといい」と高く評価している。しかしながら、偽物の音であるとの批判も寄せられている。『FIFA 20』のサウンドは、現実の試合にどこまで溶け込むのか、テクノロジー面でも気になるところだ。