国内メーカーの「ゲーム実況配信の制限」に対する海外での反発続く。『ペルソナ5』『ダンガンロンパV3』が制限を緩和


ゲーム実況および配信文化は、近年本格的に根付き始めている。ネットワーク環境さえあれば、PCだけでなく、PlayStation 4やXbox Oneといったコンソール機からも複雑な設定なしで、手軽にゲーム実況がおこなえるようになっている。こうしたストリーミングを武器とするTwitchの躍進などを考えても、企業にとって無視できないコンテンツになりつつあると言えるだろう。一方で懸念となるのはネタバレだ。対戦ゲームの実況などは無関係であるが、シナリオが重要なタイトルを販売するメーカーにとっては、ゲーム実況を見ることで先の展開を知ってしまうユーザーが増えてしまうと、売り上げに影響をおよぼしかねない。

国内では「ニコニコ生放送」や「Peercast」を中心にゲーム実況配信人気が広まった

こうしたネタバレに対する対策として、一部の国内メーカーはユーザーにゲーム実況の配信に制限を強いている。禁止を公式で発表するほかにも、PlayStation 4ではメーカー側が配信区域を設定することで、見せたい/見せたくないゲームプレイシーンをコントロールすることができる。配信を全面的に禁止するもの、序盤のみを許容するものなどさまざま。国内では、こうした配信への制限に対しては、外部のビデオキャプチャなどを使ってでも強行突破するユーザーもいるが、作り手であるメーカー側に理解を示す人も多いだろう。

ただ、海外では作り手への理解よりも反発が生まれやすいようだ。もっとも代表的な例は『ペルソナ5』だろう。海外向けにはゲーム内の7月7日以降の配信を禁止していた。しかし、海外ではSNSを中心に、メディアを巻き込んだ大きな反対運動が生まれ、最終的にはゲーム内の11月19日までの配信が許可されるようになった。

米アトラスは、この問題に関するビデオや記事、メールを確認したと答えつつ、配信禁止令の告知は脅迫的であったと謝罪した。ゲーム内のすべてを配信できるようになったわけではないが、終盤以外の大部分を配信できるので、ぐっと自由度が高まり両者ともに一定の満足感が得られる結果となった。一方、『ペルソナ5』では国内向けにはオープニング以外のすべての映像の配信およびスクリーンショットの撮影を禁止しており、その方針は変わっていない。

また最近では『ニューダンガンロンパV3 みんなのコロシアイ新学期(以下、ニューダンガンロンパV3)』についても同様のケースが発生している。欧米向けに今月9月に発売された同作で配信できるのは、プロローグおよび第一章のみ。第二章からは配信禁止を呼びかけており、また第二章まで到達したセーブデータでプレイすればプロローグおよび第一章も配信できないと通達。この規則を守らなければ措置も辞さないと語気を強めている。このルールは海外発売元であるNIS America(NISA)ではなく、開発元であるスパイク・チュンソフトの要請であるという。このルールに対しても『ペルソナ5』と同様に批判が殺到。これに反応したNISAは、配信禁止という文言は配信“非推奨”へと変更。配信を許可するものの、それはあくまでネタバレであることを考慮してほしいと呼びかける方向へ転換している。なお、PS4からの配信は依然として2章以降も禁止されている。『ペルソナ5』における米アトラスほど明確な姿勢ではないが、配信制限を緩和したと言えるだろう。

『ニューダンガンロンパV3』

さらに来月10月に海外向け配信が予定されているPS4版『CHAOS;CHILD』の海外パブリッシャーであるPQubeが、ユーザーと配信禁止をめぐる議論を繰り広げている。これまでの流れを踏襲すると、PQubeが態度を軟化させるのは時間の問題であると考えられるだろう。国内では浸透しているシナリオ重視タイトルのゲーム実況の配信制限は、海の向こうでは新たな火種となりつつある。これはゲーム実況配信における文化の違いにほかならない。

しかし、この配信制限について反発は決して海外コミュニティの総意というわけではないようだ。たとえば、Redditの『ニューダンガンロンパV3』の配信制限について論じるスレッドでは「(NISの配信制限の決断は)とてもフェアだと思う。(配信で)ビジュアルノベルを見ることは、本質的にお金を払わずに完全なゲーム体験をできることと同じだ。海賊行為ではないものの、配信者は何をしているのか理解する必要がある。」というコメントがもっとも支持されている。このコメントに反論する声もあるものの、同意する声が優勢で、決して配信制限に反対する声が“圧倒的多数の声”というわけではないだろう。アドベンチャーゲーム『That Dragon Cancer』の開発者が「ゲーム実況による利益の還元はまったくない」と語り「配信をやめてほしい」という呼びかけたという事件も存在する。ゲーム実況の配信について嫌悪感を抱く開発者も少なくない。

名作と名高い『That Dragon, Cancer』

ではなぜ海外では配信制限が反発されるのだろうか。海外パブリッシャーおよびデベロッパー複数名にこうした疑問について問いかけたところ、その理由は複合的であるとの答えをもらった。ひとつめは、配信者が力を持っていること。海外のゲーム実況コミュニティは巨大で影響力を持ち、かつ近年ではゲーム実況により莫大な収益を得られることにより、その一声は無視できない存在になりつつある。ふたつめは、オンラインとゲームコミュニティが成熟したことにより、話題をシェアしたがるユーザーが増え、シェアできないコンテンツに対しては不満が生まれつつあること。みっつめはそもそも「制限」というものを嫌うユーザーの声が多いとのこと。Mod文化を代表に、欧米を中心に海外ではユーザーがさまざまなコンテンツをカスタマイズすることが主流であり、メーカー側が主導を持ち何かを制限すること自体に強い嫌悪感を抱くようだ。日本でも展開する一社のスタッフは、日本人は制限や規律を守る傾向にあるが、海外ユーザーはそうとは限らないと考察している。

もちろん、彼らの意見はあくまで彼らの考えであるので、それが普遍的なものかどうかはわからない。ただ、どの理由もそれなりに説得力があるのも事実だろう。前出のRedditのスレッドのとあるユーザーは「配信を見て買わなくなるだけでなく、こうした制限を置くことにより生まれる怒りも売り上げの影響を与えるんじゃないか」と述べており、前述の理由を考慮するとこの意見もまったく的外れというわけでもなさそうだ。不平や不満はあっという間にシェアされ、瞬く間に広まっていく。それがプロモーションになる場合もあるが、怒りの声をシェアされることが好影響を及ぼすと考えるのは危うい。人が集まり記事を見るだけで目的を達成できるメディアなどとは異なり、ゲームメーカーはユーザーのゲームの購買という金銭が絡んだ能動的な行動を目標としているからだ。ただ、それがコミュニティの総意ではなかったとしても、今配信制限に対する反発は高まりつつあり、国内向けの制限仕様のまま、タイトルを海外向けに発信するのはリスクが高いと言わざるをえない。

存在感を見せるTwitch

これらの差異はあくまで文化の違いであり、どちらかが正解というわけではないだろう。国内メーカーが開発したゲームを守ろうとするのは十分に理解でき、ユーザーがゲーム体験の共有を望んだり、制限を嫌うことも理解できる話だ。国々によって、それぞれの価値観があるといえる。国内で発売したゲームを他国で発売するには、いわゆる「ローカライズ」が必要になる。言語を中心に、時に文化などもうまく翻訳することが求められる。こうしたローカライズの一環として、ゲーム実況の配信といった、ゲームそのものには関係ないもののゲームに付随するコンテンツのルールも、現地の文化に合わせて変更していくことが必要になる時代が迫りつつあるのかもしれない。