Global Sites
異形のホラーアクション『LOVE ETERNAL(ラブエターナル)』を送り出したパブリッシャーは、過去にビザ対応から人探しまで何でもやった。ゲームを売るために探偵すら雇ったり
Ysbryd Gamesは「BitSummit PUNCH」にて、『LOVE ETERNAL(ラブエターナル)』を出展。今回は、Ysbrydの創設者らにインタビュー。『LOVE ETERNAL』を含めた、ゲーム作品を送り出す上でのパブリッシャー側の知られざる苦労を訊けた。

Ysbryd Games(以下、Ysbryd)は5月22日~24日に開催された「BitSummit PUNCH」にて、『LOVE ETERNAL(ラブエターナル)』を出展した。弊社アクティブゲーミングメディアのPRブランド・Graphを通じての展示となっていた。今回は、Ysbrydの創設者らにインタビュー。『LOVE ETERNAL』を含めた、ゲーム作品を送り出す上でのパブリッシャー側の知られざる苦労を訊けた。
『LOVE ETERNAL』は、デベロッパーのbrlkaが手がけるナラティブホラーアクションゲーム。対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox Oneで、日本語未対応ながらSteamなどではリリース済。日本語版については、弊社パブリッシングブランドのPLAYISMより展開予定だ。

『LOVE ETERNAL』では、サイコホラーを基調にしたストーリーを背景に、スリルある横スクロールプラットフォームアクションが展開される。主人公マヤは、家族との食卓につく寸前、唐突に奇妙な世界に迷い込むこととなる。繊細なジャンプや重力反転を駆使して即死トラップをくぐり抜けていくうちに、プレイヤーはマヤをこの世界に閉じ込めた神の思惑を知り、思いもよらない展開に巻き込まれていく。

本作を出展したYsbrydは、ヒット作『VA-11 Hall-A』や『恐怖の世界』などの展開を支えたインディーパブリッシャーだ。今回は、同社の創設者であるBrian Kwek氏および、プロダクションリードを務めるRob Cocks氏に、『LOVE ETERNAL』を含めた、これまでYsbrydが取り組んできたパブリッシングの苦労や裏話を訊けた。
──自己紹介をお願いいたします。
Brian Kwek(以下、Brian)氏:
Brianです、インディーパブリッシャー・Ysbrydの創設者です。

Rob Cocks(以下、Rob)氏:
Robです、Ysbrydではプロダクションリードを務めています。

──Robさんは、プロダクションリードとしてどのようにゲームに関わっていますか。
Rob氏:
私はプロダクションリードとして関わる業務は多岐にわたります。開発においては、Ysbrydと開発者の橋渡し役となり、開発者のニーズに応じて手引きをしたり、開発プロセスにおける意思決定の手伝いをしたりします。また、開発に直接関係のない要件をサポートし、「何が可能で、何が不可能か」といった知見を提供するなど、多くの開発者たちが不慣れな分野を助けています。
ゲーム開発にあたっては、開発そのものとはあまり関係のないところで、さまざまなことが起こります。私たちが得意としているのは、そうした問題を解決することですね。
それから、Ysbrydの「顔」として、BitSummitやPAX East、PAX West、Gamescomといったイベントに参加する役目もあります。ほかのパブリッシャーや、ローカライズ・移植・マーケティング・グッズ制作などのサービスを提供している事業者と繋がり、ゲーム作品そのものの価値を高め、作品が最高の結果を出せると開発者に思ってもらえるよう努力しています。
パブリッシャー視点で見る『LOVE ETERNAL』の魅力
──『LOVE ETERNAL』は「万人向けゲーム」ではない……と思いますが、ユーザーからはどのような反響があると予測していましたか。また、実際の反響はどのようなものでしたか。
Rob氏:
私個人としての所感ですが、本作のようなプラットフォームアクションに親しみがない層には、本作のホラー要素が届かないのではないか、そして逆にプラットフォームアクションのファンはあまりホラー要素に興味がないのではないかと懸念していました。

ところが、『LOVE ETERNAL』をイベントに出展すると、嬉しい驚きがありました。日本のプレイヤーも含め、ホラーとプラットフォームアクションのプレイヤー層はとても近かったんです。どちらも挑戦を求めていて、どちらも普通じゃない状況や困難を好んでいる。なので、プラットフォームアクションのファンは魅力的なホラー要素や不穏なストーリーを楽しんでくださり、ホラーファンは高難度アクションを乗り越えてその先の展開を目指すことを楽しんでくれたようでした。『LOVE ETERNAL』は、「奇妙で理解しがたいホラー演出」を散りばめつつ、プレイヤーがステージを乗り越えて先を見たくなるようなデザインになっており、それが功を奏したと思っています。
──『LOVE ETERNAL』は作品の途中で「驚くべき変化」を見せます。この点についてRobさんはどう感じていますか。
Rob氏:
その要素については、品質保証(Quality Assurance)やローカライズ、移植に至るまでさまざまな困難の種になりました。マーケティング面でも難しく、私たちも気に入っているこの「どんでん返し」をネタバレしたくはありませんし、イベント出展の際には「ゲームのどの部分を見せるか」など、ゲームを印象深く見せつつ多くを見せすぎないよう慎重を期しました。
品質保証での困難については、ネタバレを避けるならば「挙動が大きく変わるためテストが極めて難しかった」とでも言いましょうか。
──『LOVE ETERNAL』のなかで、お二人が一番気に入っている要素はなんでしょうか。
Rob氏:
(しばし沈黙)それはとても難しい質問ですね、というのも『LOVE ETERNAL』は要素が組み合わさって相乗効果で素晴らしい作品になっていますし、また要素それぞれも非常によく練り込まれているので、どれを選んでも不公平になりそうで……。でも個人的には、サウンドデザインが特別気に入っていますね。本作のビジュアルは意図的にとてもミニマルに設計されていて、画面に現れる色の数も少なく、解像度も低く作られています。
その一方で、サウンドデザインはとても大きな音風景(Soundscape)を形作っています。これがプレイヤーが経験する旅に質感と深みを与えており、良いサウンドデザインを好むプレイヤーは『LOVE ETERNAL』のサウンドにもきっと満足いただけると思います。たとえば、主人公のマヤがジャンプしたり着地したりするだけでも「満たされる」音が楽しめますし、チェックポイントに乗って起動する時のスプラッシュ音も素晴らしい。部屋をクリアするごとに花火があがるようです。そして音楽も不気味で、アンビエント調なホラースタイルになっていて、個人的にもっとも印象深いお気に入りの部分ですね。
Brian氏:
私がもっとも好きなのは……。質問の答えになっていないかもしれないのですが、「**********の****(大きなネタバレのため編集部で伏せ字化)」の部分ですね。プレイヤーがまったく予想だにしない、シナリオの中でも突飛で面白い体験ができる部分です。また、ユーモラスで笑えますが、場違いながらもホラーの感覚を残したシーンだと思います。次に何が起きるかわからないのですから。
Rob氏:
ゲームのユーモアで笑うことは、危険にも思えますよね。というのも、プレイヤーはその時無防備になっていますし、次のシーンに入った瞬間笑ったことを後悔するかもしれません。ホラーとユーモアの間には、そういった奇妙な緊張感が走るんです。プレイヤーが「これって笑っていいの?それとも、次のシーンで笑ったことが気まずくなるような罰が待ってない?」と感じるような。

──なぜYsbrydは「奇妙でエキセントリックな、物語重視のゲーム」にこだわるのでしょうか。
Brian氏:
私が根暗だからですね。
一同:
(笑)
Brian氏:
冗談は置いておいて、私はずっと物語性を好んでいて、特に人間の闇の部分を描くゲームが好きでした。闇の部分が人をどう動かすのか、闇とどう戦い、暗い衝動にどのように抗うのかという部分ですね。たとえば、『YIIK: A Postmodern RPG』の主人公であるAlexはとんでもないろくでなしです。良いことをしようともするのですが、あまりにも多くの問題を抱えすぎています。そうした描き方は興味深いですよね。
あらゆる良い物語においては、多かれ少なかれそうした軋轢が描かれていると思いますし、問題や暗いパーソナリティを抱えたキャラクターは、探求しがいがある存在だと思います。そして個人的には、結末はバッドエンドがいいとは思っていません。ただ、ハッピーエンドでも悲しい結末でもいいですが、「暗い部分をもった人間が他者と関わるとはどういうことか」といったテーマに注力したゲームは少ないように感じます。
Ysbrydが関わっている作品は、さまざまな背景をもった開発者によって作られています。たとえば『VA-11 Hall-A』の開発元Skeban Gamesはベネズエラのスタジオだったりします。彼らは私たち北米に住まう人たちとも、アジアに住む人達とも違う人生を経験しているでしょう。そうした経験から作られる作品に、強く関心をもっています。
──「Ysbryd」は日本語話者にとってかなり発音しづらいと思いますが、どのように読めばよいのでしょうか。
Brian氏:
「イスブリード」でしょうか。英語の発音でいえば、「Y」を「I」に読み替えるかたちで発音してもらえればよいかと。実は元となったウェールズ語(*)の発音ではもっと違って……。
(*)「Ysbryd」の名はウェールズ語の「精霊」から取られている
Rob氏:
「ウスプリット」のような発音ですね。
Brian氏:
ええ、「Y」の発音は、日本語の「ア」と「ウ」の間のような音をしています。でも「イスブリード」で大丈夫です。
ゲームをきちんと届けるため、点と線を繋ぐ
──ゲーム制作全体において、Ysbrydはどのような役割を担っているのでしょうか。
Brian氏:
Robが大部分を説明してくれましたが、私もデベロッパーと関わる上で似たような役割を務めています。デベロッパーのかわりに、大枠での販売計画や、どのように届けるのがもっとも効果的か、『LOVE ETERNAL』のような作品を多くのゲーマーに届けるにはどうすればいいかなどを考えています。『Demonschool』や『YIIK: A Postmodern RPG』のような異なるゲームを、どのようなイベントに出展して、どのように宣伝すればよいかといったことですね。
たとえば最近ではVTuberと連携したのですが、個性豊かなVTuberたちのなかから、どのゲームが誰にもっとも合うかをリサーチして開発元と相談しました。そこから「このVTuber事務所と連絡を取ってコラボするにはどうすればいいだろう」といった部分を私たちで担いました。そうして、作品が出来る限り多くの人に届くよう、点と点を線で繋いでいくのが私たちの仕事ですね。
たとえば『LOVE ETERNAL』では、PLAYISMやGraphと連携しています。それは、過去に連携した『恐怖の世界』や『VA-11 Hall-A』での経験から、日本にいる『LOVE ETERNAL』を好みそうなゲーマーたちにアプローチできそうだと考えたからです。

しかし、グローバル展開においては、私たちがあらゆる手配をしなければなりません。マーケティングであったり、宣伝であったり、制作の面についても手助けをすることになります。ただ、『LOVE ETERNAL』の場合は、開発元と取り組み始めた時点ですでにほとんどゲームが完成していました。
なので、『LOVE ETERNAL』でもっとも苦労したのは移植でしたね。というのも、本作はよく使われるエンジンではなく、「HaxePunk」というフレームワークで開発されています。これは「Haxe」というプログラミング言語のブランチで、UnityやUnreal Engine、Godotといったよく使われるエンジンとはまるで違います。そうしたエンジンでは移植も簡単ですが、HaxePunkは移植方法を見つけ出すのが遥かに難しかったんです。なのでかなり苦労して、いろいろな人に聞きながらの作業となりました。とはいえ、これも私たちの点と点を繋げ、問題を解決する仕事のうちです。
Rob氏:
移植にあたっては、新たにHaxePunkフォーラムのアカウントを取り、フォーラムでXbox/PlayStation/Nintendo Switchに向けた移植の手法について聞き回りました。幸いにも、手がかりとなる会社を見つけて、手助けを受けることができましたが……。しかし、Haxeは本当に知る人ぞ知るプログラミング言語で、Flashゲーム時代の遺物といえます。とにかく古い言語なんですが、『LOVE ETERNAL』のようなゲームには向いているんですね。こうした取り組みもパブリッシング業務の一側面で、喜んで挑戦しています。開発者の必要とする繋がりや要望を叶え、知識と経験をもって最良の結果を出すことが私たちの仕事です。

ビザ問題や探偵依頼。幅広いパブリッシャーの苦労
──ほかに、Ysbrydが直面した挑戦はありますか。
Rob氏:
アジア向けローカライズのケースでは、その作品が使っているフォントに、必要となる特定の漢字がなく……。漢字フォントを作って作品に実装しました。ほかにも沢山、数え切れないほどの小さな挑戦は頻繁にありますね。
Brian氏:
プレイヤーからは見えないような細かいことや、ゲーム開発そのものとは関係ない挑戦もありますね。たとえば、ゲームをアメリカのシアトルやボストンなどで実施されるイベントに展示したいと思った時、私やRobのようにイギリス国籍、シンガポール国籍の人は特に困りませんよね。かなり前のことですが、『VA-11 Hall-A』のプロモーションの際に、開発元Sukeban Gamesをイベントに出席させようとしたところ問題が起きました。開発者がベネズエラ国籍なので、アメリカに入国するために必要なビザを取ることが極めて困難だったんです。「一体どうやってビザを用意したらいい?」と(笑)東京ゲームショウやGamescomには問題なく出展できてよかったです。
ほかには……。作品の名前は出しませんが「探偵を雇った」ことがありました。状況としては、開発を進めるために、とある人物の居場所を突き止める必要があったんです。まさか、ゲーム開発にそんなことも必要だとは思っていませんでした(笑)
Rob氏:
無事に見つかってね、ハッピーエンドでしたよ。

──もしも自分たちでゲームを作るとしたら、どんな作品を作りたいですか。
Rob氏:
私は、どのパブリッシャーに携わる人もゲームを作りたいという気持ちがあると思います。多くのゲームに触れると、「ゲームに入れたい要素、入れたくない要素」といった感覚を強く持ちますから。長風呂にでも入りながら、「自分ならどういうゲームを作るだろう」と考え込むこともあると思います。
個人的に惹かれるのは、「現実に似ているけど、少し違う」といった世界観で、強い物語性をもったゲームでしょうか。『Disco Elysium』や『Dishonored』に少し似た、私たちが普段見ている現実のようで、可視にせよ不可視にせよ超常的な力が世界に存在している。そうしたテーマは興味深いです。
……それから、スクリプトは適切なフォーマットでエクスポートできるようにして、ローカライズをしやすく、パブリッシャーが労せずスムーズに移植を進められるようにします。それから、必ずゲームデザインドキュメントを作成して、みんながすぐゲームの仕組みを理解できるように。パブリッシャーが楽できるようにします。それが私の夢ですね。
一同:
(笑)
Brian氏:
私は最近ホラーゲームをよくプレイするんですね。『バイオハザード』を初代から通しで遊んでいるところで、今は『バイオハザード ヴィレッジ』を終わらせて『バイオハザード レクイエム』に進もうとしているところで。それから、私の友人のAl(*)が携わった『SILENT HILL f』に触れてみて面白かったのが、ホラー要素と、サバイバル要素でも『ダークソウル』のような戦闘を融合させていた点ですね。ホラーゲームは銃を使うことが多く、近接戦闘メインのホラー作品は、ほかにもありますが珍しく、とても楽しめましたね。そうした雰囲気のあるホラーゲームを作れたら嬉しいと思います。
(*)『SILENT HILL f』ディレクターのAl Yang氏
世界観やストーリーの面ですが、私は『極限脱出』シリーズなどを手がけた打越鋼太郎さんの大ファンでして。それから『ダンガンロンパ』シリーズの小高和剛さん、もちろん『HUNDRED LINE -最終防衛学園-』も大好きです。なので、「デスゲーム」というコンセプトがとても気に入っていて、自分がゲームを作るならおそらくその要素は入れますね。もちろんそのまま真似られるとは思っていません、小高さんにしか出来ないことがありますから(笑)。私はとにかく、「みんなを苦境に置いて、人間性がどう変わるか」といったシナリオが好きなので、そうした要素は入れると思います。
──AUTOMATON読者に伝えたいことはありますか。
Rob氏:
『LOVE ETERNAL』に触れた時、「今までのゲームにはない部分」があると感じました。同作の物語の伝え方はとてもユニークです。シュールで夢のようでありながら、ホラー要素もあり、ユーモア・美しさ・クリエイティビティも感じる。例を出すなら「パプリカ」や「パーフェクトブルー」の今敏監督作品のファンは『LOVE ETERNAL』を気に入ってくれるかと思います。
そして、遊んだ人の脳裏に『LOVE ETERNAL』がずっと焼き付いてくれるとよいと思います。数時間でクリアできる作品ですが、エンディングの後もずっと心に残る、忘れられない体験になってくれればと。
Brian氏:
もしかしたら、『LOVE ETERNAL』についてSteamユーザーレビューなどで「凄く難しい」という声を見るかもしれません。でも、恐れず挑戦し続ければ、必ずクリアできると私は思っています。練習や忍耐は必要ですが、途中でやめたとしても、諦めずまた遊び続けてくれれば必ずクリアできます。贔屓目もありますが、『LOVE ETERNAL』を最後まで経験して得られる「報酬」は、これ以上ないものです。
『LOVE ETERNAL』は、プレイした人の多くが、とにかくこのゲームについて誰かと話したくなる、さまざまな疑問をぶつけたくなる内容だと思っています。とてつもない映画を観た後に、「この映画について誰かと話したい!」となるような感覚を、多くのプレイヤーがもつでしょう。その感覚を、日本のゲーマーの皆さんとも分かち合いたいです。
Rob氏:
Ysbrydが過去に送り出した『恐怖の世界』や『VA-11 Hall-A』といった作品のファンの皆さんは、Ysbrydが尖ったパブリッシャーであることを知っていると思います。私たちがそうした過去作品のような「忘れられないゲーム」を出すパブリッシャーである、という信頼を得られるよう願っています。どうぞ信じてください。
──ありがとうございました。
『LOVE ETERNAL(ラブエターナル)』は現在海外向けに発売中、対応プラットフォームはPC(Steam)/Nintendo Switch/PS5/PS4/Xbox Series X|S/Xbox One。日本語版は近々リリース予定となっており、Steamで配信中の体験版はすでに日本語表示に対応している。
この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。


