『イース セルセタの樹海』 / 近代イース入門向け [2nd hr]


何事も最初が肝心。プレイ開始後4時間段階での感想をお届けするのが[4 Hours Impression]です。第2回の今回は Vita『イース セルセタの樹海』。

初っ端が『Diablo III: Reaper of Soul』だったのにずいぶんな軌道修正だな、なにかもらったのか? と思われた方は冷静に PlayStation Plus の公式を確認してください。本作のフリープレイ配信期間は2014/3/19~2014/4/15。そう、今日までです。

というわけですので、PS Plus にきちんと加入している清廉なるユーザー各位にあられましては、拙稿をお読みになる前にまず DL 済みかどうかをご確認ください。本作のクオリティは低くなく、タダで配っていたという事実を後々になってから突きつけられたらきっと後悔するたぐいのものです。

 


シリーズ未経験者にとって

 

あらゆる続編ものの主人公は地に足がつかない旅路に不安があるものですが、イースの主人公「アドル」は折り紙つきです。シリーズが進むたびにレベルと各種装備にアイテム・スキル・その他、ほとんどのものをなくす江戸っ子ぶりに定評があります。さらに今回は記憶もロストするという追い打ちがかかりました。

これにより何が起こったのかというと、もはや前作以前のことをプレイヤーが忘れ去っていてすらかまわないという怪現象です。関連性をにおわせる描写はあるそうなのですが、直近のシリーズ作品をプレイしているはずの私はすくなくともゲーム開始4時間ではそれに気づけませんでした。やはり私自身の記憶も失われてしまったのかもしれません。

 


現代『イース』の”構文”と古典『イース』のピーキーさ

 

ゲームの骨格は『ナピシュテムの匣』以来の近代『イース』を踏襲しています。見下ろし型のアクション RPG というカテゴリに属する作品は少なくなく、視覚的には『セルセタの樹海』もまたそのなかに埋没しかねません。見てくれは”普通の ARPG”であり、それを否定する材料はありません。

また、アクション部分だけをピックアップしてもさほどシビアな操作が要求されるわけではなく、どちらかといえばゆるめの調整です。高難度であればザコ相手にいちいち死ねるのかもしれませんが、ノーマルでは最低限の回避さえすればあとはほぼボタン連打で突破できます。

 

ボス戦ですらそれほど死なない。 ようするに直ガもしくはジャスト回避のタイミングを学ぶゲーム。
ボス戦ですらそれほど死なない。

ようするに直ガもしくはジャスト回避のタイミングを学ぶゲーム。

 

しかし、古来より脈々と受け継がれてきた『イース』ならではのピーキーさは(部分的にという限定つきながら)健在です。わずか1マップ切り替えた直後にまったく歯がたたない敵が配置されていたり、装備を1つ上位のものに入れ替えただけでこちらの戦力が一気に上昇したりと、古くからのファンならば思わずニヤリとしてしまうような、良い意味での”雑さ”は絶えていません。

それをふまたうえで、現代的な成長要素もスパイスとしてくわえられています。武器防具を強化するシステムにより、極端すぎる(ほぼ真上)の成長曲線がいちおうカーブらしき軌道をえがくようになりました。とはいえ調味料はあくまでも調味料、やはりチマチマとキャラクターやアイテムを成長させるくらいならば一気に突破するほうが楽しそうでは有ります。

 


和製ファンタジーの典型的な世界にこめられた挑戦

 

スクリーンショットまたはキャラクターイラストを数秒ながめれば伝わるとおり、本作の世界観はいかにも日本製なテンプレートファンタジーです。これは『イース』シリーズ伝統であり、あまり強くメスを入れられても困惑せざるをえない部分ですので、とくに問題はありません。

ただし、1点だけとても高く評価したいところがあります。それは本作のおける女性キャラクターの扱いです。

どうもゲーム開始直後にルートが2つに分岐するようなのですが、すくなくともそれまでは操作キャラに女性不在の男2人組。また主要な登場人物にも「アドル」へ指令をくだす高官以外にはやはりキャラグラのついた女性はいません。

私がたまたまとったルートでは、3人目のキャラクターも男性(褐色属性)。もう片方では女性が加入するようなので4時間という時間内で「男・男・女」の無難なパーティーになることもありえたものの、すくなくとも今私の進行ではあと数時間はスマートに光る筋肉色のパーティーになりそうです。

 

冒険向きではなさそうな体つきの者(主人公)も混じりつつ、男3人パーティー。 媚びない精神性。
冒険向きではなさそうな体つきの者(主人公)も混じりつつ、男3人パーティー。

媚びない精神性。

 

非常にくだらないことのように思われるかもしれませんが、その実なかなかの野心を感じる部分です。普通であれば、ゲーム開始直後にいかにも誘拐されたり殺害されたり最終局面でキーとなったりしそうな女性が堂々と登場しますし、古典『イース』を思い返せばまず「アドル」が介抱されなければ始まらないという風情すらありました。そうした”お約束”がほとんどないのです。唯一の女性キャラである高官も中性的で、直接的にセクシャルなオーラはまとっていません。

「ファンタジーならとりあえず弓持った女性を操作できればいい」「主人公はぶっ倒れてから美女の献身に心を打たれろ」「もうとにかく幼女を出せ」……そんな風潮など存在しないと言い切れる方がいらっしゃるでしょうか。そして、『セルセタの樹海』は意図的か偶然かはともかく、そうした”常識”に軽く切りこんでいたのです。ちなみにゲーム開始直後瀕死の「アドル」を救うキャラクターも肉体派の男性。

性差がどうの、ましてや男女平等についてうんぬんする意図はありません。ただ事実として、(特殊な目的を保有した作品を除き)最序盤において男性多めとなる設定が比較的斬新であり、また、とにかく安直に男女のバランスをとろうとする傾向は逆にいびつであるということです。性的な要素にかかる議論やセクシャルマイノリティについて語りだすと非常に厄介なのですが、ことはそこほど複雑ではありません。

リアルさや現実の問題ではないのです。つまるところ、「これくらいの男女比のゲームがあってもいい」。また、本作のこんな地味な特徴が、男性プレイヤーとしての私にとって、女性キャラクターの魅力を引き立てることにもなるでしょう。ただそれだけです。

 


自然な楽しさ

 

本稿は男臭さの素晴らしさを説くことが主眼の文章ではありません。『セルセタの樹海』は、『イース』未経験者にも経験者にもなじみやすいであろう非常にオーソドックスなゲームであり、その”平らかさ”ゆえに評価に値します。また、いまから20年以上前の過去作品をプレイするのはなにかと無理が生じますが、本作はかつての『イース』が内包していた DNA をたしかに受け継いでいます。

PS Plus フリープレイタイトル選定基準は外様にはよくわかりません。ただ、『セルセタの樹海』は素直に・自然に楽しめる、まさしく「とりあえず Vita の中に入っている」にふさわしい内容です。

繰り返しますが、Plus ユーザー向け無償配布は本日4月15日までです。ダウンロードをお忘れなきよう。

 

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