ゲームで「心」をつくりたい。ゲーム開発者三宅陽一郎氏・北山功氏が語りあう、インディーシーンにおけるAIと哲学の可能性

 

『僕は森世界の神になる』『アガルタ』など、セル・オートマトンを活用した個性的なゲーム作りで知られるインディーゲームクリエイター北山功氏(神奈川電子技術研究所)。書籍『人工知能のための哲学塾』シリーズをはじめ、哲学をベースとした汎用AIの可能性について研究を進める三宅陽一郎氏(IGDA日本SIG-AI世話人)。次回作の構想のために哲学に目を向けている北山氏と、インディゲームにも造詣が深い三宅氏が、「インディゲーム×AI×哲学」をテーマに、その可能性について語り合った。

これまでセル・オートマトンを活用することで人工生命を作ってきた北山氏の夢は、ゲームの世界で心を生み出すこと。では、そのためには何が必要なのか。そもそもクオリアとはなんなのか。それらの理解を深めていくことが、今回の対談の狙いのひとつとなっている。そしてゲームAI開発者である三宅氏は、予測能力を持つAI、身体とセットとなった狭義の人工知能、自律的なエコシステムの中から湧き出てくる生態系といった研究分野への関心を示しつつ、北山氏からの問いに答えていく。

左:北山功氏 右:三宅陽一郎氏

◆プロフィール

北山功 ゲーム開発者/神奈川電子技術研究所代表

1996年から大阪電気通信大学情報工学部、大阪電気通信大学大学院情報工学専攻に在籍中に電子技術研究部、前田研究室、水本研究室に所属する。その間、人工知能やロボットに関して学んだ。2002年に同人ゲームサークル神奈川電子技術研究所を設立。人工生命、セル・オートマトンなどの技術を応用したゲームを創作している。

三宅陽一郎 ゲームAI開発者 / IGDA日本SIG-AI世話人

京都大学で数学を専攻、大阪大学大学院理学研究科物理学修士課程、東京大学大学院工学系研究科博士課程を経て、人工知能研究の道へ。ゲームAI開発者としてデジタルゲームにおける人工知能技術の発展に従事。日本デジタルゲーム学会理事、芸術科学会理事、人工知能学会編集委員。

司会・構成 小野憲史(ゲームジャーナリスト)

大学でロボットを作って心に興味を持った

北山:
やっと最新作『アガルタ』をリリースできました。持ってきましたので、よろしければ遊んでいただければ。

三宅:
ああ、わざわざありがとうございます。

北山:
今、次回作について構想中でして、ちょうど三宅さんがやられている「人工知能のための哲学塾」の内容にも被る感じなので、よかったら話を聞いてもらえないかと思いまして。聞きたいことがいっぱいあるんですよ。

ーー三宅さんの本は読まれました? 

北山:
「東洋哲学編」だけ読みました。最初の方はなんとなくわかりましたが、だんだんわからなくなっていきました。

ーー「西洋哲学編」が出ているのはご存知でしたか?

北山:
あとになって気づきました。「東洋哲学編」とあるので、何かのシリーズなのかなとは思ってましたが。

三宅:
「西洋哲学編」のほうがわかりやすいというか、あまり講演録から手を加えてないんですよ。

北山:
「西洋哲学編」には誰が出てくるんですか? 自分もデカルトとプラトンはちょっと勉強しました。

三宅:
フッサール、デリダ、レヴィ=ストロース、だいたい20世紀の哲学者ですね。

北山:
新しいですね。うちは実家が浄土真宗で、父親が推進委員みたいなものになっているんです。僧侶ではないんですが、サポーター的な感じです。

三宅:
高野山ですか?

北山:
そちらではなく、京都の大谷派です。だから、よく父親と浄土真宗とは何かについて、話しているんです。

三宅:
それはおもしろいですね。

北山:
今は大阪の実家に住んでいるんですが、目の前が寺で、住職さんが子供の頃からの友達なんですよ。

ーー生活の中に浄土真宗が根付いているんですね。

北山:
特に意識はしたことがなかったんですが、莊子の話を聞いたあたりから、意識し始めたんです。親の話にも興味が出始めて。

三宅:
あの本自体は、いま人工知能がすごい勢いで生活の中に入ってきていて、社会の側でどう受け止めていいかわからないみたいな問題意識が背景にあるのでは・・・という思いが執筆動機になりました。そもそも西洋的な人工知能と東洋的な人工知能で少し違いがあるんじゃないかと。西洋は召使いというか、マシン的な人工知能。東洋は八百万というか、人工知能も一つの生命という感じで。その背景に何があるかというと、東洋的な思想。ものをわけない。莊子とかそうですね。

北山:
僕もよくセル・オートマトンのプログラムでゲームを作るんですが、それもものをわけずに、粒子から作ってみて、シェイクしてみたらどうなるんだろうという発想でやっています。

三宅:
セル・オートマトン系のゲームはどちらかと人工生命ですよね。環境と知能を明確にわけない。明確に分けるのは西洋的な人工知能で。それをゲームの有機性と結びつけようということで、ずっとやっていらっしゃるんだと思うんですが。

北山:
そうですね。大学のときはロボットを作っていたんです。大阪電気通信大学に電子技術研究部というクラブがあるんです。部活で回路、学部でプログラムを勉強したんですよ。それで作ったのが障害物を避けて進むロボット。センサーを4つくらいつけたんですが、プログラムといってもIF文を16個くらい書いたら終わっちゃうんですね。

三宅:
16個。

北山:
前後のパターンを書いて、どう動かすかを書いたんです。障害物を回避するくらいだったら、それくらいですみました。

三宅:
逆にいうと障害物回避だけでも16個書かなくちゃいけないんですね。2の16乗だからものすごい数ですね。

北山:
ただ、そのときに「これじゃない」感があって。人間の心はもっと複雑だと思って、そこから人工知能を勉強し始めたんです。

三宅:
逆に言うと、心はロジカルな条件分岐の集合体ではないと。

北山:
自分の心のことを考えてみても、あきらかに違いがわかるというか。それで図書館に行って、いろんな本を調べてみたら、ファジーとかニューロンとか、いろいろ出てきて。

ーー北山さん何歳でしたっけ?

北山:
いま40歳で、ロボットを作っていた頃は20歳くらいでした。

三宅:
僕が43歳だから、少し上ですね。

ーー40歳をすぎたら、みんな同じですよ。70年代生まれですね。時代だなあ。

第二次AIブームとAIゲームの波

三宅:
いま言われたのはシミュレーティブな人工知能ですね。数値的というか。

北山:
西洋的な。

三宅:
IF文の序列というのは、ロジックですよね。その根っこには、さっきおっしゃられたプラトンとかアリストテレスとかがあって。

北山:
それで、だんだん行き詰まってくるので、東洋的な考え方がどうしても必要になってくるんです。だから仏教とかが気になるというか。

ーーそれを早くも20歳で。

北山:
そのときにこれだと思ったのが遺伝的アルゴリズムだったんですよね。形もおもしろいし、いろいろ出て来るじゃないですか。

ーーゲーム『がんばれ森川君2号』は、その時はまだ出ていなかったんですか?

北山:
まだプレイしてなかったなあ。

三宅:
ぎりぎり出たか、出なかったかくらいで。

北山:
それでも3年後くらいにはプレイしました。やっぱり気になっていたので。他に『パネキット』『カルネージハート』などはプレイしました。

三宅:
「ゲームやろうぜ」(SCEによる開発者をチームごと募集したプロジェクト)界隈ですね。

ーー『がんばれ森川君2号』は面白かったですか?

北山:
なんか、よくわからなかったですね。途中でよくわからないけど、先に進めないみたいな感じになって。けっきょくニューロンって目にみえないので。しつけるだけのゲームという印象でした。コンセプトはいいけど、遊びとしては。内情が見えたほうが良かったのかもしれない。

三宅:
当時の状況としては、AIの第二次ブームが93年くらいに終わっていました。でもゲーム業界には必ず少し遅れて人工知能が入ってくるので、第二次ブームの余波が90年台後半に残っていて。森川(幸人)さんも紀伊国屋に行って人工知能の関連書を一冊残らず購入して、それでもたぶん40~60冊くらいだったんですよね。

北山:
森川さんが書かれた書籍「マッチ箱の脳」は読みました。

三宅:
ああいう遺伝的アルゴリズムで作られた人工知能を動かすだけのパワーが、当時のプロセッサにはなかったんです。だからロジックのほうが効率的だったんですよね。IF文を1個書けばいいので。

北山:
あれって、自分の手で教えていたような気がするので。学習数も少なかったような。

ーー機械学習のように何万枚もの画像をわっと食べさせて、というわけにはいかなかった。自分で1つずつ試しては、試しては、というゲームでした。

北山:
その辺も一つあったのかなと。

三宅:
あの頃は森川さんだけではなくて、世界的にAIゲームがつくられていて。ちょっとブームだったんですよ。『Creatures』(Mindscape)という海外の育てゲームがあって。一体のキャラクターが1万個近いニューロンをつなげたニューラルネットワークを使って、Windows上で動いていました。キャラクターをしつけて、ボールを認識させたり、言葉を覚えさせたりとか。日本には入ってこなかったんですけど。

北山:
画像は見たことがあるかも。虫みたいなのが動くやつかな。

三宅:
グレムリンみたいなやつかな。そんな風に世界的なブームがあったんだけど、その後にグラフィックスを進化させていく方向に、業界全体がわーっとなってしまって。

北山:
AIゲームって見た目でわからないやつが多いんですよね。

三宅:
そこからテクスチャをきれいにしていく感じになっていきました。せっかくできた人工知能ゲームの流れも、空気みたいになくなった。

北山:
また、おもしろくしようとすると、目立たないんですよね。

三宅:
当時はゲームデザインと人工知能をどう絡めるかも、ほとんど知見がなくて。

北山:
人工知能ではないけど、『シムシティ』みたいなやつは、まだわかりやすかったじゃないですか。セル・オートマトンは見た目が派手なので。

ーーにょきにょきと。

北山:
しかも遊んでいると、なんとなく仕組みも見えてくるし。なんとなくゲームとの相性の良さみたいなものは感じていました。

三宅:
『ファイナルファンタジー』の坂口さんもミニゲームが好きらしいですよ。『ファイナルファンタジー』にミニゲームが多いのは、そのせいなんですね。『ライフゲーム』(Conway’s Game of Life)なんかも大好きだとインタビューで読んだことがあります。

ーーよくエクセルで作って遊びました。

コンピューティングパワーがようやく追いついてきた

北山:
(北山氏の開発した)『アガルタ』のラスボスもライフゲームなんですよ。ライフゲームと実際に戦うゲームは初めてかもしれないですね。

三宅:
『アガルタ』って小さいものがいっぱい動いているじゃないですか。90年代にできたかというと、無理ですよね。30フレームとか出せなかった。

ーーやっと今ごろになって、動かせるくらいにプロセッサパワーがおいついてきた。

北山:
僕はプログラムが下手なんですが、もっと上手い人がやれば、さらに4倍くらい速度が出せるかもしれませんね。

三宅:
昔ABA Gamesの長健太さんが、ライフゲームをベースとした全方位シューティングゲームを作ってましたよね。それでも、16X16とか、32X32だったような気がします。

北山:
小さい!

三宅:
その後で僕もGlobal Game Jamで『ライフゲームシューター』というゲームを作りました。『テトリス』のテトリミノみたいなやつと戦うという。それでも速度が出なくて。この前『アガルタ』を見たら、ものすごく動いていたので。2013年くらいからリッチな2Dゲームが作りやすくなったんですよね。

北山:
もっと前かな。うちも2005年くらいからリッチな2Dゲームを作り始めたので。

三宅:
Q-Gamesの『PixelJunk シューター2』では、ライフゲームじゃないんだけど、流体のシミュレーションとか…

北山:
ああ、ありましたね。

三宅:
流体って3Dでやるのはしんどいんだけど、2Dだったらできる。

北山:
そうですね。でも、あれは見た目がドットじゃなくて、もっとなめらかだったので、どうやっているのかなと思っていました。

三宅:
僕が面白いと思うのは、今の3Dゲームってゲームとは直接関係のない情報が大量に入っているんですよね。背景や岩とかも壊せないものが大量にあって。だったら箱で良くないかとも思いました。きれいだけれど、ゲームの中で世界に対してどれくらいインタラクションできるかというと、実はそんなにできなくて。

ーーそうそう。

三宅:
逆に『アガルタ』って2Dだから、世界といろいろインタラクションできますよね。水を蒸発させたりとか、地形を崩して水を流したりとか。プレイヤーから見ると、むしろ2Dなのに自由度が上がっている。

北山:
空気もシミュレーションしているんですよ。重たいので表示させていないだけで。

ーー逆にいうと、まだこれでもマシンスペックが足りない?

北山:
できれば、もっとピクセルを狭くしたかったですね。これくらいがギリギリかなと。

三宅:
もし、画面のピクセルを超えてシミュレーションできるようになったら、すごいことになりそうですね。

ーー今は粗いドット絵レベルですが、もっとCPUの速度が速くなって、細かく世界が描写できるようになったら、写真みたいになるでしょうし。

北山:
それに対して、全部触れるようになる。

三宅:
ちょっとシンギュラリティっぽいですね。

北山:
僕がずっと考えているのも、ゲーム内でおきた現象で自然にエフェクトが発生するようなゲームなんです。いつかはできるはずなんですよ。

ーーそうすれば世界全体が有機体になって、シミュレーションできますね。

三宅:
『ソニック・ザ・ヘッジホック』の中さんも「A-Life」という概念を提唱されていて。

ーー『ナイツ』だ。

三宅:
当時、中さんも人工知能や人工生命に興味があって、それをベースに『ナイツ』を作られたと言われていましたね。

北山:
そんなのありましたっけ。輪くぐりとかをするゲームですよね。

ーーそうです。きれいにループを描いていくと、地面にいるナイトビアンというキャラクターが、どんどん増えていくんですよ。たしか中さんは『レミングス』が大好きだったんですよね。あんな風に小さい生命体がごちゃごちゃうごめいている世界が、ツボだったそうです。

北山:
『僕は森世界の神になる』でも、ごちゃごちゃとした生命体を出しました。ただ、本当はそこから何か創発的な行為が生まれてきてほしいんですよね。なかなか出ないんですよ。

三宅:
世界の側から創発的にゲームを作るということですか?それなりのシミュレーションパワーと実験を繰り返して、たまたまうまくいったパラメータを保存しておくとか。

北山:
狙って作ろうとしないと、なかなかうまくいかない。

三宅:
今のゲームの作り方って、ゲームプレイの体験を最初に決めて、ここをポンポンポンといったら楽しいんだとか、ここを叩くといきなり壁が崩れて、視界がひらけるみたいに、ギミックの側から作っていくので、世界の自律性みたいなものは、あまり入れないですよね。

北山:
そうですね。

三宅:
いってみれば遊園地的というか、仕掛け先行というか。『ゼルダの伝説』とか、『ICO』とか、そうですよね。どっちかというとギミック先行というか。

北山:
『アガルタ』ではそれをやりたくなくて。できるだけそういうのは入れずに、自然の中を通すようにしたんです。意図的な要素を少なくしているんです。

三宅:
北山さんは昔からそこを地道にやっていて、そこが好きなところです。

北山:
そういうのは、ほとんどないんですよね。

三宅:
アメリカのインディーも今、逆の方向に行ってます。少し前だと、まだインディーにもプロシージャルの流れがあって。GDCでもありましたし。ゲームとしてはよくわからないけれど、とにかくシミュレーションがすごいというものであったり、全部自動生成であったり。でもヒットしているゲームにそういったものがないので。

北山:
ないですね。

三宅:
あとインディゲームが儲かるようになったことも。

北山:
どうしても儲けに走るんですよね。

Part2につづく


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1971年生まれ。関西大学社会学部卒。「ゲーム批評」(マイクロマガジン社刊)編集長などを経てフリーランスのゲームジャーナリスト。GDC、E3をはじめ、国内外のゲームイベントへの取材・レビュー・インタビュー記事、書籍執筆、講演など、幅広く活動している。NPO法人IGDA日本名誉理事・事務スタッフ。主な書籍に「ゲーム開発者が知るべき97のこと②」(編著)がある。