スクウェア・エニックスは11月4日(Steam版は11月5日)、生活シミュレーションRPG『ハーヴェステラ』を発売する。対応プラットフォームはNintendo SwitchとPC(Steam)。『ルーンファクトリー』シリーズや『Stardew Valley』など 、多くの有名タイトルが存在する農業RPGというジャンルにスクウェア・エニックスが参入するということで、注目している方もいることだろう。また、体験版を遊んだうえで購入を迷っている方もいるかもしれない。

今回、弊誌ではスクウェア・エニックスから『ハーヴェステラ』Steam版を先んじてプレイする機会をいただいた。筆者がプレイした印象として、本作は物語性に特化した生活シムであるといえる。シリアスな世界観や魅力のあるキャラクターたちが基盤にあり、そのうえで生活シミュレーションを楽しむタイトルなのだ。一方でアクション面など、比較的シンプルにまとまっており、過度に期待をかけると肩透かしとなる可能性のある要素もある。

本稿では『ハーヴェステラ』Steam版のプレイを踏まえ、本作のどの部分に期待するとより楽しめるか、どんな方におすすめかをお話していきたい。

シリアスながら、どこかノスタルジックな世界観

『ハーヴェステラ』の舞台は「シーズライト」と呼ばれる巨大な4つの結晶体が存在する世界だ。4つの結晶体は「春のシーズライト」「夏のシーズライト」のようにそれぞれ四季の名前を冠しており、そのシーズライトに近い都市ほどその季節の恩恵を受ける。人々はシーズライトの恩恵にあずかりながら毎日を過ごしているのだ。しかし、いつしかシーズライトに異変が生じ、定期的に作物が枯れ、人々が外を出歩けなくなる「死季」が発生するようになる。

とある死季の日に辺境の村で行き倒れていた主人公は、秋のシーズライト近郊のレーテ村に住む医者・クレスに助けられる。行く宛がなかった主人公は村の厚意で郊外の空き家と畑を与えられ、そこで自給自足の生活を営むことに。メインストーリーでは農業に勤しむかたわら、出会った人々とともにシーズライトの異変や死季に関する謎を解き明かしていくこととなる。


まず筆者が本作をプレイして感じたのは、同ジャンルのタイトルと比較して世界観やストーリーに特化した作りだということだ。農業の各要素や交流できるキャラクター、訪問可能なロケーションなどは、ほとんどがメインストーリーの進行に合わせて解放されていく。あらゆる要素がメインストーリーの上に成り立っており、物語を楽しんだうえでキャラクターと交流するツールとして生活シム部分がある印象だ。

物語はややシリアス寄りに描かれる。魔法や幻想的な生物が存在するファンタジー要素の強い世界ながら、ダンジョンなどの一部には文明の発達した近未来的な世界も融合している。それらの風景はあえてちぐはぐに見えるよう描かれており、メインストーリーではこの世界の成り立ちについての謎も解き明かされていく。それでも『ハーヴェステラ』の世界がファンタジックで郷愁的に感じられるのは、四季折々の豊かな背景グラフィックと、椎名豪氏が手掛ける壮大なBGMゆえだろう。荘厳で幻想的で、多くの謎をはらんだ『ハーヴェステラ』の世界は、あらゆる面から美しく描かれる。


メインストーリーは直線構造となっている。シーズライトの異変を調査し、世界の成り立ちや死季の問題を解決するのが大筋で、その過程で各シーズライト近郊の都市をめぐることになる。メインストーリーでは悲しい別れやシリアスな展開も多いが、優しい掛け合いやキャラクターたちの温かさもあって後味は爽やかな印象だ。生活RPGをしながら物語も楽しみたいという方には、本作は自信を持っておすすめできると言えるだろう。

交流するほど愛着のわくキャラクターたち

物語を通して主人公は、アリアという女性と旅路をともにすることになる。アリアはレーテの村に飛来した隕石のなかから見つかった、謎多き女性だ。人間からは魔族と呼ばれ敬遠されている彼女だが、隕石内で負傷していたため治療のために主人公の家に匿うことになる。つまり、ひとつ屋根の下で一緒に暮らすことになる。筆者はこの、パートナーでもないのにひょんなことから一緒に暮らすことになる、アリアという少し険のある女性との生活がとても楽しく感じられた。有り体に言おう、アリアは可愛いのだ。


生活シムという毎日を過ごすゲームにおいて、朝に畑に向かうとき「おはよう」、夜遅くに帰ってきたときに「おかえり」と言ってくれる彼女の存在は、ゲームを長く遊ぶほどに大きくなっていく。メインストーリーにおいてもキーパーソンとなるアリアだが、長く一緒に暮らすからこそ物語における彼女の立ち位置から目が離せなくなる。

アリアと主人公の距離は、メインストーリーを通じて少しずつ縮まっていく。主人公は会話イベントの選択肢によってはややボケ寄りになるためアリアはツッコミに回りがちで、なんだか妙に相方感が強い。本作ではキャラクターごとの親密度を上げることで、そのキャラクターを人生のパートナーとすることができる。筆者はプレイ当初、別のキャラクターと良い仲に……と思っていたのだが、ストーリーを進めるにつれてアリアの“相方感”にやられてしまい、彼女以外をパートナーにする選択肢がなくなってしまった。主治医のクレスと迷ったが、やはりアリアと一緒に暮らしたい。


筆者はアリアをパートナーに決めたが、本作には他にも魅力的なキャラクターが多数登場する。メインストーリーを通じて仲間になるキャラクターたちは、加入後に仲を深める個人クエストを受注できるようになる。クエストをクリアするごとに親密度が1ずつ上がるのだが、この親密度は10段階と長め。しかし、ボリューミーだが決して冗長ではなく、各キャラクターが抱える問題を少しずつ解決し、じわじわと仲を深めていく過程を楽しむことができる。親密度の高いキャラクターは主人公のことを恋愛的に好きになっていくというわけではなく、多数のキャラクターと親密度を深めても浮気のようになることはない。多くのキャラクターと交流しても、道徳的に申し訳ない気持ちにならないのはありがたい限りだ。


親密度がないNPCにも、サブクエストでスポットライトが当てられている。各都市で受注できるクエストには連続クエストが多く、ひとりひとりのNPCたちの関係を深掘りしていく。メインストーリーでは少ししか出てこないキャラクターにもしっかりと背景や行動理念があるのだ。筆者のお気に入りは、夏の街シャトラにある酒場のマスターのクエストだ。彼がなぜシャトラで酒場のマスターをしているのかや、酒場の歌姫であるエモとの関係など、メインストーリーでは描ききれなかった部分が補足的に描かれる。シャトラのメインストーリーをクリアしたら、是非マスターの物語にも耳を傾けてほしい。

自分のペースでのんびりプレイ可能

『ハーヴェステラ』には時限要素がほとんど存在しない。期間限定のクエストや特定の日のイベントなどはないため、好きなだけ農業に明け暮れてNPCと関わらないようなプレイをしても、取り返しがつかなくなる要素はない。新たな畑や作物、料理のレシピなどはメインストーリーを攻略することで解放されていくものの、急いで攻略するメリットもあまりない。作物を育ててお金を稼いでからストーリーを進めたり、装備をしっかり強化するためにじっくり素材採集をしたりなど、スケジュールはかなり自由に計画することができる。


農業パートは既存の農業RPGのお約束を守って、丁寧に作られている印象だ。土を耕し、種を撒き、水をやって作物の成長を見守る。オムドリやメーチェと呼ばれる家畜を飼って卵やミルクを生産する。獲得した生産物はマヨネーズやチーズにしたり、ジュースや小麦粉、燻製などに加工することができる。農業系RPGに触れたことがある方なら、おなじみの仕組みと言えるだろう。

作物の活用方法として、料理の種類が非常に多いのが『ハーヴェステラ』の特徴だ。料理のレシピは各都市で購入できるほか、クエスト報酬としても獲得できる。作った料理は各地の酒場に新メニューとして納品可能なものも。また、ダンジョン内で仲間と一緒に料理を囲み、会話イベントを楽しむこともできる。


本作のダンジョンは、ショートカットを開通させながら奥を目指すタイプだ。ファストトラベルポイントやショートカットはこまめに設置されており、1日の探索で「今日はここまで」とするポイントを決めやすくできている。キャラクターのレベルアップは毎日の就寝時にされることもあり、毎日家に帰り、こまめに料理や消費アイテムを補充しながら進めていくような設計になっている。

戦闘に関してはかなりシンプルだ。敵の攻撃を回避したり弾いたりといった要素はないため、基本的に殴り合いのようなかたちになる。敵の苦手属性に合わせるようにジョブを切り替えながら攻撃し、自宅で作ってきた料理や飲物で都度HPを回復するような雰囲気だ。アクションRPGのようなテクニカルな立ち回りを想像すると、少し物足りなさを感じてしまうかもしれない。逆にアクションが苦手だが農業RPGを楽しみたいという人は、安心してプレイすることができるだろう。

時間に追われることなく、育てた作物で料理を作り、家畜と戯れる。冒険の際も無理せず、何日かに分けてじっくりとダンジョンを探索する。メインストーリーに浸りつつゆったりとゲームを進めたい人に『ハーヴェステラ』はおすすめのタイトルと言えるだろう。


以上、スクウェア・エニックスの新作農業RPG『ハーヴェステラ』をご紹介した。シリアスな世界観と練り込まれたストーリーを基盤に、物語性に振り切った農業RPGであることが伝わっていたら幸いだ。ノスタルジックな世界観に浸りたい人や、時間に追われずじっくりとコンテンツを楽しみたい人には間違いなくおすすめできる作品である。

ハーヴェステラ』はNintendo Switch/PC(Steam)向けに7680円(税込)発売される。Nintendo Switch版の発売日は11月4日、PC(Steam)版の発売日は11月5日を予定している。

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