――『Robo Recall』とMODキットが無料提供されていることに驚いています。非常に高品質かつ、ゲームとしても非常に面白い『Robo Recall』を無料で提供しつつ、MODキットまで開放するというのはどういった意図があるのでしょうか?

河崎:
Epic Gamesが今までVR向けに作ってきたコンテンツって、最初は『Couch Knight』だったと思いますけど――『Robo Recall』につながる流れでいいますと、スローモーションで都会の街路をただ真っ直ぐ進んでいって警官隊とロボットが打ち合いしているのを見ているだけという『Showdown』から始まって、その次は『Bullet Train』というある程度ゲーム性があるものを出して、それから今回の『Robo Recall』に至りました。ここ5年くらいEpic Gamesが取り組んできたVR向けにゲームを作るというノウハウの蓄積と、あとはVR関係なくゲームを作るというビデオゲーム作りのノウハウを高いレベルで融合させるとどうなるのかっていうのを実証するというか、それを皆さんにお見せするために作ったのが『Robo Recall』です。

VRならではのノウハウとしては、やはり一番大きい問題である「酔い」を解決するために、『Bullet Train』では移動をワープにしてみたり、『Showdown』ではスローモーションで前に進むだけにしてみたりとか、いろいろ試行錯誤してきました。その結果として『Bullet Train』よりは自由度は高いんだけど、でも酔いはほぼほぼ感じないというところに『Robo Recall』では辿り着けたのかなと思ってます。あとは、今までのVRゲームってミニゲームになりがちだったので、ストーリー性、ドラマ性のあるエンターテインメントとして人が満足できるボリュームと中身の濃さというのを、こういう作り方をすれば楽しめるものができるというビデオゲーム作りのノウハウのアプローチですね。すごくわかりやすい例で言うと、『Robo Recall』って、遊んでいくうちにできることが増えていくんです。銃の種類が増えたり、敵のロボットを乗っ取ると強力なビームが撃てるようになって敵をなぎ倒すことができたりとか、その爽快感というのは、そこまでの苦労があったから得られるんですよね。そういったナラティブというかストーリー性というのは、今までの『Gears of War』とか『Unreal Tournament』を含めたシューターを作ってきたノウハウが活かされているのかなと。そういうゲームを、今まで20年30年作ってきたデベロッパーが本気でVRに5年くらい取り組んだ結果としての一つの到達点、と言うと偉そうかもしれませんが、こういうことができるんじゃないでしょうかという提案として、VR向けのゲームをここで一度定義してみようというのがきっかけですね。

無料という点に関しては、Oculus Touch購入者限定になります。MODも公開しているというのは、今言ったVR向けのゲーム作りのノウハウをできるだけたくさんのデベロッパーにも共有していただいて、我々が苦労して見つけた行き止まりには行かなくていいよ、こっちに行った方がスムーズですよというのをソースの形でみんなに見てもらって、MODや素材も提供することで、自分達のコンテンツを作りやすい環境を提供したいというのが一番の動機ですね。その背景として、アメリカのMOD文化というのが歴史も長くて大きいですし、Unreal Engine自体がもともとはシューターゲームである『Unreal Tournament』のMODツールからきているので、MODを作る人たちとデベロッパーたちが知識とか喜びを分かち合っていきたいというのがEpic Games創設時からの開発陣の思いだと思います。

 
――フォーラムとかを見ているとMODもいろいろありますけど、せっかくワープで酔いを克服したのにフリームーブに変えた『Robo Recall』を作っている方もおられましたね。あれはあれで楽しいと思うんですけど。

河崎:
そうですね、動いてみたいとは思っちゃうんですけど、なんで我々がそれをやっていないのかっていうのは考えてみるといいかもしれないですね。そこの取捨選択は試行錯誤の結果として、理由があってきているので。

 
――自分達が踏んできた地雷とかも踏ませないようにわざわざ親切に安全な道を通れ、と。他社では考えづらいことです。

河崎:
いたずらにボランティア精神というわけではないです。一般のビデオゲームやPCゲームに比べると、VR自体がまだビジネスとして成り立つレベルには達していないですよね。コンテンツがないと市場が生まれないのと、コンテンツがないと市場が生まれないというところでスタックしちゃっている今の現状を動かすために、こういうノウハウを共有することでもっといいコンテンツがたくさん出てきてVRの市場自体が盛り上がれば、我々ももっとビジネスがしやすくなるんじゃないかという期待があります。いいゲームがたくさん出てきて、たくさんの人がお金を使うようにならないと、市場自体がなかなか盛り上がっていかないと思っています。

 
――日本でもUE4ユーザーが確実に増えてきていると感じますが、現在ではどのようなところでUE4が活用されているのでしょうか?また今後UE4が使われているもので何か面白い発表があるようでしたら答えられる範囲で教えていただけますでしょうか。

河崎:
ゲームに関しては今、Nintendo Switchが小売り含めてすごく盛り上がっているので、開発のほうもお問い合わせが増えてきています。去年の末にはアイディアファクトリーさんの『四女神オンライン CYBER DIMENSION NEPTUNE』とかD3パブリッシャーさんの『スクールガールゾンビハンター』とか、コンソール向けのちょっと小さめのゲームで、しかも国内メインのタイトルでUnreal Engineを使っていただいて、発売に至るものがでてきました。今までUnreal Engine 4ってどうしても『ドラクエ』、『ファイナルファンタジー』、『キングダムハーツ』、『鉄拳』、『ストリートファイター』といったビッグタイトルばっかりだったので、すごく優秀なプログラマーがいる大型チームでないと使いこなせないと思われがちで敷居が上がってしまっているというのはありました。ですが最近は、わりと小さめのタイトル、小さめの開発チーム、小さめの予算なものでも使っていただいている事例がでてきたので、そこはありがたいなと思っております。ビッグタイトルは、まだ発表されていないものが年内にもいくつか新しい発表があるかなと思います。皆さん聞かれると、「あ、これUnreal Engineなんだ」とびっくりされるようなのがいくつかありますね。

ゲーム以外だと日本で最近よく耳にするのが、自動車の自動運転用AIのテストですね。古いやり方だと、車が実際に道を走って、録画した映像をAIに見せて危険が判断できるかというテストをやっていたのですが、それだと2時間の映像を作るために車を2時間走らせないといけないし、雨が降ってたりとか夜だったりとか、あと歩行者が飛び出してきたりとかって自由にできないじゃないですか。そこで、Unreal Engineで車が通るコースを作ってAIに見せることで、要はAIが実写を見ているのと誤認させるようなクオリティのものをUnreal Engineで作ることで、バリエーション出しだったりコースの変更だったり、あるいは事故の様子だったりも好きなように設定できるというような使い方をされているのがいくつかでてきていますね。あとは医療系の事例もいくつか聞いています。

最近聞いていて面白いと思ったのは建築系ですね。シミュレーションとはまた違うんですけど。たとえば壁を見たとき、内部のどこにパイプが通っているか見えないですよね。では壁に穴を開けようとなったとき、今までだとどこにパイプがあるかを図面を見て長さを測っていたのですが、BIM(Building Information Modeling)のデータをUnreal Engine側に持ってくることによって、ジャイロと位置検出で、架空の空間上でどこにあるのか計算できるようになります。タブレットやスマートフォンを通すと、壁を透視して見ているような感じですね。リアルタイムで、レントゲンのように透視で見れるというのを開発されているところもあります。

 
――そんなことが可能なんですね。

河崎:
まだもうちょっとかかるみたいですけどね。。BIMとかCADのビジュアライゼーション+位置認識みたいな技術ですかね。

 
――ここ最近の活動では教育活動にもとても力を入れておられる印象があります。GDCでは学生作品だけを集めたデモリールを公開されましたし、コミュニティでの生放送や多くのイベントも非常に活発です。そして日本でも教育者向けのイベントを行ったりしていますが、どういった意図があるのでしょうか?

河崎:
学生とかこれからゲーム業界を目指している若い人達にUnreal Engineを覚えてもらうというのは、今後5年先10年先を考えるとにすごく重要なことだと思っています。「Unreal Engineを使える人材を紹介してください」というお問い合わせがほぼ毎週のようにいろんなところからいただくんですけど、逆に「Unreal Engineをすごく使えるんですけど仕事はありませんか」という問い合わせは聞いたことがないので(笑)。幸いにしてすごくたくさんのゲームタイトルとかノンゲームとかで使っていただいている一方で、やはり使える人がまだまだ少ないので需給バランスの悪さというところは大いに反省しているところでして、そこを少しでも改善したいというのがあります。

Unreal Engineを使っていただいているデベロッパー向けには、Unreal Engineを使える人材を増やすということをしなければならないというのがEpic Gamesの考え方ですし、一方で学生とか学校に向けては、自分がやりたいゲームやCGの仕事を目指すにあたってUnreal Engineを使えるというのはすごく大きな武器になるんですよ、というメッセージを出しています。学校にとっては、優秀な学生を排出して、いろんなプロを育てるという意味でUnreal Engineの教育を充実させていますというのは、他の学校との差別化にもなります。というように、みなさんにとって良いことがある活動なので、すごく力を入れています。一方で、先程も言いましたが、Unreal Engineというのは大作指向というか、敷居が高いとか、とっつきが悪いとか、何から勉強していいかわからないといったお話はよく聞きますので、そこは我々も反省しているところです。教育カリキュラムを組むのをお手伝いしたり、授業の中でUnreal Engineを導入するのを我々の方で支援したり、少しでも敷居を下げて、まずはやってみようという環境をなるべくたくさん用意できればいいなというのが我々の想いですね。

実際海外のインディーだと、学生時代の友人たちのチームで作ったものが、そのまま商用になったという事例もたくさんあります。『ロケットリーグ』はたしか4~5人くらいで作ったはずですけど、あれもすごい大成功しているので、具体的な成功事例もどんどん出てきています。誰もがプロの開発者とかインディーを目指すわけではないのでしょうけども、学生から見ると何を将来的にやるにしろ、ひとつ大きな武器にはなるというのは間違いなくおすすめできるのかなと思います。

 
――GDCでは『Battle Breakers』といったEpic Gamesの新規ゲームタイトルが発表されました。他にも『Fortnite』、『Paragon』、『Unreal Tournament』、『Robo Recall』といったタイトルを制作されています。エンジンの開発をサポートをしながらこの数のゲームを制作することができるEpic Gamesという会社の開発体制についてお答えいただけるでしょうか?

河崎:
発表しているのだと『SpyJinx』というChAIR Entertainmentの開発しているタイトルも合わせると6タイトルで、まだ発表していないのも3タイトルくらい動いているのでかなりの数があります。『Robo Recall』の開発はもうほぼ終わっていますけど。やはり我々は「エンジンメーカー」ではなく、「ゲームデベロッパー」というのが根っこにあります。エンジンだけ作って提供しますというのが会社の目的ではなくて、いいゲームを作るためのツールを、もっといいものを作りたいという流れで、Unreal Engineを作っています。創業時から「ゲームを作る」というのがおおもとにあって、それは今も変わらないです。自分たちで作るゲームで使うからこそもっといいツールにしよう、もっといいエンジンにしよう、というフィードバックがゲーム制作側からエンジンチーム側にもいきますし、エンジンチーム側からもそれに応えていいツールを作ってまた戻してというループが社内だけで回っているというのが、エンジンを使っていただいている外部のユーザーさんにとってもEpic Gamesの一番の強みだと思います。

 
――全部が全力で回っているということはないと思うんですが、実際の1タイトルの開発規模というのはどのくらいなんでしょうか?

河崎:
もうピンキリというか時期とタイトルによって全然バラバラですね。今は『Paragon』が一番多いですし、逆に『Unreal Tournament』はコミュニティで作るというのがひとつの大きなテーマなので、もちろんうちの中にもいますけど、人数的にはかなり少ないと思います。『Fortnite』に関しては、『Paragon』に集中している間は減らしている感じですね。それぞれのタイトルに専属で働いている人がいたり、いくつかのタイトルを掛け持ちしている人がいたり、あるいはエンジンチームとゲームタイトルを掛け持ちしていたり、その間を時期によって移動したりする人もいれば、エンジンだけずっとやっている人も勿論います。そこは人によって濃淡があるというか、時期によって自分のスキルとニーズによって、編成が変わるというのはよくありますね。Epic Gamesのスタジオはアメリカだけでもノースカロライナに本社があって、シアトルにもスタジオがあって、ユタにはChAIR Entertainmentがあります。あとヨーロッパにも何箇所か拠点があって、人はかなり増えましたね。韓国は日本と同じで基本的にはライセンシー周りですが、韓国の場合は『Paragon』のオペレーションとかもやっているので、人はかなり増えましたね。中国は開発もやっているので、スタジオもあります。全体は今何人いるんでしょうね。たしか400人はいなくて、350から400の間だったと思います。

 
――350とか400って企業としては大企業というよりは中企業くらいですよね。

河崎:
これ以上あまり大きくしたくはないとはティム・スウィーニーもずっと言ってますね。500越えて、1000、2000みたいなことはやりたくないとは言ってます。僕が入ったころだとまだ100人ちょっとしかいなかったので、8年くらいで3倍くらいに増えましたね。あとは外注とかもたくさん使っています。特にゲームだと量産部分なんかはすごく外注使ってますし。

 
――今回の『Robo Recall』や『Paragon』も外注はいるんですか?

河崎:
はい。モデルとか背景とかキャラクターも含め、相当外注には出していますね。『Battle Breakers』とかは社内の人数は相当少ないと思います。あれは中国で作っているんですけど、中国のEpic Gamesのスタッフも相当少ないと思います。エンジンを使っているという利点のひとつとして、外注のコントロールがしやすいというのがあります。

 
――これからのUnreal Engineについて、注目してほしいところや今後について、言えることがあればぜひお聞きしたいです。

河崎:
まずはやはりNintendo Switch対応ですね。対応はすでにしているんですけど、これからももっと力を入れます。やはりNitendo Switchが盛り上がってくれるのはゲーム業界にとってもいいことだと思いますし、応援していきたいですし、たくさんNintendo Switch向けにタイトルを作っていただきたいなと思っているので、力を入れていきたいところです。あとはノンゲーム系、特にシーケンサーなんかはどんどん良くなってきていて、映像系の方が使いやすいように力を入れていますの。日本でもポリゴン・ピクチュアズの「Project LayereD」とかありましたけど、ああいう映像用途でUnreal Engineを使っていくという事例はもっと増やしていきたいと思っています。あとはデバイスの小型化とハイスペック化がまだ当分は止まらないと思うので、VRとかARもそうですけど、手元だったり身につけている小さなデバイスでもクオリティの高いCGをリアルタイムに、できればインタラクティブに描画したいというニーズは増えていくと思いますし、ひとつのレイヤーとしてゲームエンジンが活躍できる場所とか機会とかも増えていくと思いますので、そういうところで広げていければなと思います。

最後に少し宣伝を。毎年恒例の関西でのアンリアル・フェスですが、今年は4月15日(土)に京都で開催します。Epic Games Japanのスタッフによる講演や、任天堂からの特別ゲストをお迎えしてNintendo Switchの話なんかもします。
盛り沢山の内容で、もちろん無料ですので、お近くの方は是非お越し下さい!

http://unrealevent.jp/unreal_fest_west_17/

――ありがとうございました。

 

[聞き手: Masahiko Nakamura]
[写真: Mon Gonzalez]