対戦ゲームのプレイヤー維持には「スキル上達の場」も重要か。競技系モードとカジュアルモードの“異なる効果”示す研究結果

対戦ゲームにおける競技系モードとカジュアルモードの効果の違いに着目する研究結果が公開された。

ニューヨーク大学やシカゴ大学などの研究チームは今年3月、「ビデオゲームにおけるベイズ学習とスキルの蓄積(Bayesian learning and skill accumulation in video game play)」と題する論文を発表した。本論文は、経済学や市場分析に関する国際学術誌「Quantitative Marketing and Economics」に掲載され、オンライン版はSpringer Nature Linkより、誰でも無料で閲覧できる。本研究では対戦ゲームにおける競技系モードとカジュアルモードの効果の違いに着目しており、プレイヤーの維持において「スキル上達の場」をどのように設けるかが重要となる可能性が示されている。

研究チームは、世界的に人気のあるスポーツゲームシリーズの2012年版から2014年版までの3作品を対象に、プレイ時間や選択したゲームモード、購入履歴などの詳細なプレイデータを分析。プレイヤーが競技性の高いモードとカジュアルなモードをどのように選択するのかを調査した。さらに、プレイヤーは遊びながら自分の好みを学習し、同時にスキルを蓄積していくというモデル(考え方の枠組み)を構築。そのモデルを用いて、ゲームモードの構成や解禁時期の変更が、プレイ頻度やプレイ時間にどのような影響を与えるかをシミュレーションしている。


ハードコア“じゃない”層は少しずつ好みを把握していく

本研究の対象となったゲームタイトルは明かされていないが、毎年新作がリリースされ、全世界で一億本以上を売り上げている、コンソール向けスポーツシミュレーションゲームであるとのこと。まず、調査においてはプレイヤーがどのゲームモードをどれだけプレイしたかに焦点が当てられた。モードごとの細かな名称は年によって変わるため、競争性の高さで大きく2つに分類。ランクマッチなどを含む競争性の高い「競技モード」と、協力プレイやフレンドとの対戦、仲間とのチーム運営などを含む「カジュアルモード」の2つに分けて分析している。

研究チームは対象となったスポーツゲームの2012年版から2014年版までの3作品ごとに、「どれだけ競技モードをプレイしたか(share of time playing the competitive mode)」と「ゲームを始めてから何週間か(weeks since activation)」の関係を示したグラフを作成。プレイヤーは総プレイ時間に応じて、上位20%のヘビーユーザーと、それ以外の時折プレイするユーザー(occasional players)の二つに分類された。ヘビーユーザーは赤い線、それ以外の時折プレイするユーザーは青い線で示されている。

分析の結果、ヘビーユーザーは3作品をまたいで比較的安定して競技モードをプレイする傾向を示した一方、時折プレイするユーザーは作品ごとに異なるパターンを描き、シリーズを重ねるごとに徐々に安定していく様子が見られたという。これらの傾向は、対象としたユーザーの選定範囲を変更した場合や、より細かいプレイ時間の分類をした場合でも同様に示された。研究チームはこの違いについて、「遊ぶ時間が多ければ自分の好みを早く把握できる」という学習のメカニズムが関係している可能性を指摘している。

そこで研究チームは、プレイヤーがどのゲームモードを選択するのかについて、「元々の好み」と「プレイを通じた好みの学習」、そして「スキルの蓄積」の3要素から説明するモデルを構築。プレイヤーは遊びながら自分が各モードをどれだけ楽しめるのかについて理解を深め、同時にスキルを高めていくと仮定した。論文中では、実際のプレイデータを用いて各要素の影響を分析し、観測されたプレイヤー行動をどの程度このモデルで説明できるか検証している。


どれだけプレイするかは最初が肝心という可能性

本研究では、実データをもとに、先述した3つの要素を組み込んだいわば“プレイヤーの行動の再現モデル”を用いて仮想的なシミュレーションを実施。このシミュレーションでは、ゲーム運営側が何らかの施策を講じると、プレイヤーの40週間分の行動がどう変わるのかを再計算。「ゲームをプレイする確率(extensive margin)」と「プレイした場合の平均プレイ時間(intensive margin)」がどのように変化するのかについて検証している。結果として、プレイヤーの「ゲームをプレイする確率」にはスキルの蓄積が大きく関係している可能性が示された。

上の表は、モデルから導かれた2つのプレイヤー層(競技モードを好むコア層のsegment 1と、比較的カジュアルなsegment 2)について、「もしゲーム側が特定の施策を実施したらどうなるか」をシミュレーションした結果だ。表では、プレイヤーの「ゲームをプレイする確率(extensive margin)」と「平均プレイ時間(intensive margin)」の変化を示している。“pre”が施策前、“post”がその施策後となり、“change”は前後の変化率を表す。

注目したいのは、「競技モード(competitive)」と「カジュアルモード(casual)」の存在が、それぞれプレイヤー行動に異なる影響を与えうる点だ。もしゲームがカジュアルモードのみになれば、1回あたりのプレイ時間は増加するものの、ゲームをプレイする確率は大きく低下してしまう。一方で競技モードのみを残した場合、プレイ時間の増加は限定的だが、ゲームをプレイする確率の低下は比較的小さい。

また、「競技モードを後から解禁する(Introduce the competitive mode at different weeks)」シミュレーションでは、競技モードを好むsegment 1においてゲームをプレイする確率の減少が顕著に見られたほか、カジュアル層であるsegment 2においても最終的に50%以上の大幅な減少が推定されている。研究チームはこの結果について、競技モードの遅延によって発売初期のスキル蓄積が妨げられた可能性があると分析している。

さらに、論文中でプレイ頻度とプレイ時間の双方を改善できる施策として挙げられているのが、「新モードの導入(Introduce a new mode with different weights on the casual mode)」だ。シミュレーションでは、「競技寄りの新モード(weight=0.2)」を追加した場合、プレイヤーがゲームを起動する確率の改善効果が大きく、とくにカジュアル層で顕著な増加が見られた。一方で、「カジュアル寄りの新モード(weight=0.8)」はプレイ時間の増加により効果的だったという。

研究チームは、競技寄りのモードはスキル蓄積を促しやすく、継続的なプレイにつながる一方、カジュアル寄りのモードはフレンドとの協力や交流を通じて、1回あたりのプレイ時間を伸ばしやすい可能性があると考察している。また論文では、競技モードを好むプレイヤーほどプレイ時間が長く、結果としてスキルの蓄積や、自らの好みについての学習も進みやすいと指摘。プレイの頻度・時間が伸びやすい循環に入ると見られている。モデルを用いたシミュレーションでは、ゲーム発売初期に競技モードでスキルを積む機会があるかどうかが、その後の継続プレイに大きく影響することも示されている。こうした結果から、研究者たちは、プレイヤーの定着を考える上で、リリース初期にスキルを蓄積できる機会をどのように設計するかが重要になりうると示している。

今回の研究では、シリーズの複数作品にまたがる膨大かつ詳細なゲーム内データを用いて分析が行われた。しかし、あくまで特定期間におけるコンソール向けスポーツゲームシリーズ1作品群を対象とした調査である点には留意されたい。今回得られた知見が、異なるジャンルやタイトル、プラットフォームでも確実に当てはまるとは言えないだろう。また、本研究で示された各種施策の効果は、実際のプレイデータをもとに構築されたモデルによるシミュレーション結果である。モデルは観測データとの整合性が検証されているものの、あくまで仮想的な条件下での推定結果であり、実際のゲーム運営において同じ結果が得られるとは限らない。

競争要素の強いゲームモードと、カジュアルなコンテンツのどちらを優先するのかは、ゲーム業界で長らく議論されてきたテーマでもある。またたとえばシューター作品を中心に、対戦ゲームではカジュアルモードでもプレイヤー間の腕前でマッチメイキングをおこなうSBMM(Skill-based matchmaking)が取り入れられることが一般的ながら、その存在はたびたび開発者・ユーザー間で議論を巻き起こしてきた。今回の研究ではスキルを蓄積できる機会をどのように設計するかがプレイヤーの定着に影響を与える可能性も示されたが、単にカジュアルに遊べる機会を減らすだけが最適解とはいえないこともうかがえる。

今回の研究は、競争的なコンテンツとカジュアルなコンテンツのどちらか一方が優れていると結論づけるものではない。むしろ競争的なモードはプレイヤーの継続率に、カジュアルなモードは1回あたりのプレイ時間の増加に、それぞれつながる可能性が示されたのは興味深い点だ。そしてプレイヤーは遊びながら自分のプレイスタイルを見つけ、蓄積されたスキルがその後のプレイ頻度と時間に大きく影響を与えうることも示された。こうした研究結果が、特に運営型ゲームやシリーズもののマルチプレイ作品の方針にどのように影響を与えていくかも注目される。

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Kei Kano
Kei Kano

キャラクリが出来て没入感のあるゲームが好きです。ゆっくり歩いて世界観を味わったり、自分なりに脳内設定を組み上げたりして遊んでます。

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