人気ゲームパブリッシャー、「早期アクセス配信を正しくおこなう方法」という記事を公開し、「そんなものはない」と否定する

Kitfox Gamesは7月16日、「早期アクセス配信を“正しく”おこなう方法」と題した記事を公開した。

パブリッシャーのKitfox Gamesは7月16日、「早期アクセス配信を“正しく”おこなう方法」と題した記事を公開した。同社がパブリッシングを手がけたノウハウをもとにして「早期アクセス配信を適切におこなう定石などない」ことが伝えられている。

Kitfox Gamesはカナダに拠点を置くパブリッシャーだ。犬撮影ゲーム『Pupperazzi』やドワーフ生活シム『Dwarf Fortress』パブリッシングを担当してきた。昨年には、2015年からSteamでの早期アクセス配信が続けられているSFローグライクRPG『Caves of Qud』の開発元Freehold Gamesとパブリッシング契約を締結。同作は2024年内に正式リリース予定だ(関連記事)。


そんなKitfox Gamesの共同設立者兼代表のTanya X. Short氏、およびコミュニティ/マーケティングマネージャーのAlexandra Orlando氏により、「早期アクセス配信を“正しく”おこなう方法」と題した記事が公開。早期アクセス配信に関するノウハウが伝えられている。

記事によると、前提として、アップデートが用意かつ効果的でリプレイ性の高いゲームが早期アクセス配信に適しているとのこと。そしてこの条件を満たしていたとしても、早期アクセスで適切に開発するための成功の方程式(formula)はシンプルではないとも伝えられている。というのも、あらゆるゲームは異なっており、開発者も人それぞれだからだという。

そのため記事では『Dwarf Fortress』や『Caves of Qud』、そしてKitfox Gamesがパブリッシングしたタイトルではないもののローグライトアクションゲーム『Hades』を代表作品として例示。これらの例を踏まえて、ゲーム開発ではどのように早期アクセスをすべきか、そして何に気を付けるべきかが伝えられている。


「ゴール」が見えているかどうか

まずSupergiant Gamesが手がける『Hades』は、早期アクセスの代表的な成功例(gold-standard)とのこと。早期アクセス配信開始から正式リリースまでの明確な道筋が決まっており、開発チームも予測可能なアップデートに取り組むことができる作品であったとされている。とはいえ記事では、同作をローグライト作品として手堅い作りであると説明。たとえば非常に革新的かつ複雑なゲーム(extremely innovative or deeply complex)や、完成までにかかる期間がわからないゲームなどでは、参考にすることはできないという。

一方Freehold Gamesが手がける『Caves of Qud』については、かなり長期にわたって開発が続けられてきたタイトルだ。2007年に開発がスタートし、2010年の12月にはベータ版を公開。2015年からSteamでの早期アクセス配信が開始され、ついに今年中の正式リリースが見込まれている。先述したような、“完成までにかかる期間がわからない”まま開発が進められたゲームといえるかもしれない。

とはいえ記事いわく、同作も早期アクセス配信成功の定石に沿って開発がおこなわれてきたとのこと。ゲームのリプレイ性の高さのほか、フィードバックを反映したアップデートが毎週おこなわれつつも、ゲームの根幹となる持ち味が維持されてきたと説明されている。

『Caves of Qud』


ただそうした開発を長期的に続けることは誰にでもできるわけではないという。特に、コミュニティから寄せられる悪意のあるコメントや否定的なフィードバックを真に受けてしまうと、開発を続けることは困難になるそうだ。またアップデートの間隔が空いた場合にユーザーから急かされるといったプレッシャーも課題になりうる。さらに、もしメンタル面で問題が生じなくても、少数派の意見を取り入れすぎてプレイヤーの多くが好きな要素を台無しにしてしまったり、当初ゲームが目指していたビジョンから離れすぎてしまったりといったケースが考えられるという。

その点、記事によるとFreehold Gamesは元々開発経験が豊富であり、利益の最大化ではなく、良いゲームを作りつつ良いライフスタイルを続けることも重視してきたという。つまりユーザーの意見に大きく左右されることはなく、モチベーションを保ってペースや方針を守って開発が続けられてきたのだろう。そうした方針のもとコミュニティにうまく対応してきたことが、開発の長期継続に繋がったようだ。


定石などない

このほかBay 12 Gamesが手がける『Dwarf Fortress』は、2006年にフリーウェアとして配信され、2022年末に有料版がリリースされた作品だ。そのため、そもそも早期アクセスとしての販売がおこなわれていない。この背景にはリリース当時、Steamが今ほど普及していなかった状況もあるものの、記事によればあえて無料にすることでユーザーの期待値を抑える目的もあったのだという。

それでも『Dwarf Fortress』は着実に人気を高めていたものの、Bay 12 Gamesとしては商業的な成功には興味がなかったとのこと。ただただ快適な生活を送りつつ、ゲーム開発にも取り組み続けるスタンスだそうだ。そうした開発元の方針も尊重してパブリッシャーであるKitfox Gamesは『Dwarf Fortress』を“早期アクセス”とも“バージョン1.0”とも銘打たずにリリースしたという。同作では今後も「永遠に(forever)」アップデートが続けられていく方針のようだ。

結論として記事では、早期アクセス配信成功の方程式などないと締め括られている。先述のとおりゲームによってジャンル・目標・開発方針・想定される開発期間など、さまざまな違いがある。どの作品にも当てはまるような定石は存在しないのだろう。

『Dwarf Fortress』


一方で記事では、開発者へのさまざまなアドバイスも伝えられている。「利益の最大化を望むのかライフスタイルを守りたいのか、そのためにどのようなリスクを想定しているか」「根拠がないあるいは不当な批判に耐えられるか」「早期アクセス配信がゲームにもたらす利点と欠点は何か」。そうしたことを検討したうえで、開発中のゲームを早期アクセス配信とするかどうかを決め、結局は課題を克服しながらベストを尽くすことが必要だとされている。

これまでさまざまなゲームをパブリッシングしてきたKitfox Gameの知見から、「早期アクセスを成功させる方程式などない」と伝えられた点は興味深い。特に『Caves of Qud』の例では長期間の早期アクセスをおこなう際の問題点とともに、開発者が売上ではなくライフスタイルを重視した方が成功に繋がるといった見解も示されている。類似のトピックとして先日には別のパブリッシャーHooded HorseのCEO・Tim Bender氏が「早期アクセスではアップデートを急がず持続可能な開発をおこなうべき」といった考えを示していた(関連記事)。Kitfox Gamesとしても、そうした開発方針を支持する考えがあるようだ。

Steamを中心に、メジャーな開発方法のひとつとなった「早期アクセス」。開発元目線では、開発資金やフィードバックを得ながら開発を進められる利点があるだろう。一方でユーザーからすれば、もし開発スピードが遅い場合は、期待をかけて買った作品がなかなか新展開を見せずもどかしくなる場合もありうる。そうした背景から開発元にプレッシャーがかかる場合もあり、特に長期間の早期アクセス開発では大きな懸念にもなるようだ。早期アクセスでは開発元とコミュニティとの関わりが重要となるだけに、生じやすく対処も難しい問題となっているのだろう。

Hideaki Fujiwara
Hideaki Fujiwara

なんでも遊ぶ雑食ゲーマー。『Titanfall 2』が好きだったこともあり、『Apex Legends』はリリース当初から遊び続けています。

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