Steamカルト狩りFPS『カルトに厳しいギャル』の開発者、評判がいいと喜ぶ。「筋トレしよう」「ゲームは完成させると完成する」個人制作のコツを訊いた

 

個人開発者ばーすから氏は5月3日に『カルトに厳しいギャル-CULT VS GAL-』(以下『カルトギャル』)を発売した。同作は、ばーすから氏にとっては手応えを感じる出だしになっているようだ。開発の裏側を訊いた。

『カルトギャル』はステージクリア型のシングルプレイFPS。初代『DOOM』や『Wolfenstein 3D』の流れを汲む上下視点の概念がない2.5DのFPSであり。ジャンルとしてはいわゆるオールドスクールFPSにあたる。オタクに優しい、ならぬカルトに厳しいギャル「大獄院・スマッシャー・サキ」を操作し敵拠点に単独潜入。マチェットを片手に生首を量産する、キャッチーなビジュアルと爽快で血しぶきあふれるゴア要素が特徴だ。

本作は、ばーすから氏による個人制作のインディーゲーム。発売から約一週間でSteamユーザーレビューは60件が寄せられ、全体の98%が好評とするレビューを集めるなど、シングルプレイの短編FPSという狭いジャンルのなかでも好調な滑り出しを見せている。ジャンルとしてオールドスクールというのもあり、極端に新規性が高いわけではないにも関わらず、投稿されたレビューを見るとヘビーなFPSユーザーからライトなプレイヤーまで、幅広い層が本作を手に取り、好評を寄せているようだ。

実際にプレイしてみても、カルトに厳しいギャルが構成員を殺戮抹殺、という比較的キャッチ―な内容でありながら、ゲーム自体はステージクリア型のFPSとして実直に作られていることがわかる。奇をてらったインパクト重視のゲームではなく、操作性は良好で快適に作られており、ミニマップ表示や視点の中心に寄ったインターフェースの数々など、細かい配慮が行き届いている。武器の種類もツボを押さえた丁度よい塩梅となっており、FPSとしても出来が良い、といっても差し支えないつくりになっていると感じた。血とパンクとショットガンとマチェット、そこに垣間見える冷静さから、オールドスクールFPSを丁寧に見つめ直して構成しようとする試みがうかがえる。

ばーすから氏はSteamプラットフォーム上では2019年から作品を多数リリースしており、個人で制作していることを鑑みても、数をこなしているといえる。過去作としてはオールドスクールFPSである『HAZAMA_QUEEN』のほかにも、2Dプラットフォーマー『CYNOROID』シリーズをリリースしている。『CYNOROID』シリーズは同氏のSteamデビュー作。プレイしたユーザーからは好評が寄せられているものの、ユーザーレビューの数は少なく、その数自体にはあまり恵まれていなかったことがうかがえる。

そういった経緯がありながらも、同氏は兼業でゲーム制作をつづけていた。さらに2019年の初リリース以降、どの作品も約一年のスパンでコンスタントにSteamプラットフォームで一定のクオリティを保ってゲームを完成、発売している。そうして発売と主に話題を呼んだ本作に至るまで、ひたすらゲームを制作しつづけたその原動力やモチベーションはどこから来ているのか。その秘訣をばーすから氏に直接訊いた。


カルトギャルの作風はどのように作られたのか

まずキャッチ―な見た目とは裏腹に実直に作られている印象を受ける本作。本作のコンセプトとしては、オールドスクールFPSを遊びやすく翻案したものとばーすから氏は述べる。同氏の考えるジャンル内にありがち(しかしマニアには好まれがち)な問題点をチューンした結果とのことだ。そういった問題点の例として、ありがちな迷路探索、次ステージへの動機づけの薄さ、ステージの大型化、といった要素を挙げている。

本作ではゲームプレイ中に作戦を支援するオペレーターとの会話が挟まれる。それも次ステージへの動機づけの薄さに対する同氏なりの回答とのこと。オペレーターとの会話や主人公の独白によってカルトを殲滅する理由や次のステージで新たな会話を見てみたいというプレイヤーの動機につながっている。会話演出が本作ではフルボイスで展開されるのも、視点移動を最小限にする配慮となっているのだろう。なんとなくの演出ではなく、理由あっての仕様となっているようだ。ちなみにキャッチ―なキャラクターデザインは、同氏がトンチキなことをするのが好きなのも大きい、とのこと。

ただ、同氏によると本作の出来自体は前作『HAZAMA_QUEEN』とそれほど差はないと感じているという。本作が話題になったのも、前作が人気をうけて、そこで一年スパンで新作を出せたという点が大きいのだろうと同氏は推測している。ではどうやって作品リリースのペースを維持していたのだろうか。

モチベーションの軸をどこに置くか

前述したとおり、ばーすから氏は『カルトギャル』以前にも『HAZAMA_QUEEN』や『CYNOROID』シリーズをコンスタントにリリースしてきた。2019年にリリースした『CYNOROID -GENTAGELSE-』から本作までおよそ5年の期間を経ている。制作歴としては長いものの、出した作品がそれぞれずっと話題になりつづけてきた、というわけではないようだ。

この結果を受けて制作のモチベーションの低下に繋がらなかったのかというと、低下はしなかったようだ。『CYNOROID』シリーズを作っているときもそこまで悲壮感はなかったとのこと。そもそも売り上げは成果の指標としてまったく重視しておらず、『CYNOROID』シリーズも「売れるわけがないコンセプト」と認識していたということだ。『CYNOROID』シリーズからオールドスクールFPS『HAZAMA_QUEEN』に作風を変えた理由も、単に「2Dのフリーエイミングゲームを作るのに飽きた」からとのことらしい。

ただ『CYNOROID』シリーズのコンセプトで自身のマニアごころは満たせたようで、そういった広報として映えないゲームを、通常の広報手段を徹底することで、どこまで伸ばせるかというのを試していたとも同氏は語る。そういった、売上とは別の軸の成果を出し続けられる環境を作ることがモチベーションの維持につながり、コンスタントに作品を完成させるルーティンにつながるとのことだ。そういったマインドが、ひいては本作を完成させるにも至ったのだろう。

制作を継続するためにはとにかく完成させて数をこなすこと。そのためのルーティンと環境を作る事が重要と同氏は語っている。

ゲームは完成させると完成する

では完成させるためのルーティンはどのように作っていたのか。そのモチベーションはどのように維持しているのか。ばーすから氏は「ゲームを完成させるコツ」として、いくつかの目標を挙げている。

ゲームの完成点は全力の6割ぐらいに設定すること。
適宜デモ等を放出すること。
「私は完成させる」と暗示をかけること。
よく寝て、適宜運動をすること。
気晴らしの趣味や誰かと会ったり等々の時間を確保すること。
「どうにもならなくなった時にとりあえず出せるバージョン」を用意しておくこと。
プレイ時間の想定を可能な限り短くすること。
短期間のジャム等に参加し、メインとは別のゲームを成果として積んでおくこと。

いずれの部分にも共通するのは、とにかくどういった規模であれ、数をこなしまずは完成させること。そしてゲームを完成させることがルーティンとなるように、目標を定めてゲーム制作のサイクルを作ることだろう。


加えて同氏は、どういった形でもとにかく「完成」させることを重要視しているとも語る。「ゲームは完成させれば完成する」という、ある種マッチョな意見である。ゲーム制作と同じくらい筋トレが趣味とのことで、ゲーム制作の過程と同時に筋トレ(とくにスクワット)に対する熱いアドバイスもうかがう事ができた。残念ながらここではすべてを紹介できないものの、フォームの習得はJBBFかJPAの実績あるトレーナーに教わるのがよいそうだ。

作品を完成させるためのルーティンの組み方はある種、筋トレの継続にも近い部分があるように感じる。一時の結果に一喜一憂するよりも、まずはコツコツと継続を積み重ねることが大事であり、結果は後からついてくる、というようなマインドを意識しているのだろう。悩める個人開発者へも、「誰に評価してほしいか、あるいは自分が満足したいのか。そこがブレなければゲーム制作は楽しいんじゃないかなと思います。」というエールを送っている。

ギャルがマチェーテ片手に生首を飛ばすキャッチ―でパンクな内容ながら、きちんとユーザーへの配慮が見られる本作のバランス感覚。コツコツと筋トレとゲーム制作を積み重ねていく同氏のそういった性格も、ゲームに反映されているのかもしれない。

『カルトに厳しいギャル』はPC(Steam)で発売中だ。