『サイレン』外山氏らが、新作『野狗子』について質問に答える。最新作は『サイレン』ほど難しくない?


国内ゲームスタジオのBokeh Game Studioは2月25日、同スタジオのQ&Aセッション動画を公開した。スタジオが開発する最新作『野狗子: Slitterhead(以下、野狗子)』について、国内外のユーザーから募った質問に回答している。 本企画はパート1がすでに先週公開されており(関連記事)、続編となる今回ではよりゲーム内容に踏み込んだ内容となっている。 

Bokeh Game Studioは、2020年に立ち上げられた国内ゲームスタジオ。『サイレントヒル』や『サイレン』などを手がけた外山圭一郎氏が中心となって立ち上げた。スタジオ第一弾タイトルとして発表されているのが『野狗子(やくし)』で、アジアの世界を舞台に異形の化け物と戦うホラーアクションゲームとなっている。 
 

 
今回の動画でも、プロデューサーの佐藤一信氏、クリエイティブディレクターの外山氏、ゲームディレクターの大倉純也氏の3人がさまざまな質問に答えている。 

まずは『サイレントヒル』を制作してきたことを踏まえ、『野狗子』はストーリー・アートスタイル・ゲームプレイにおいて、どのように異なるかといった質問。外山氏によると、『サイレントヒル』を作ったときには、「今はまだ世の中にないが、こういうものがあったら面白い」という着想がきっかけになったという。 

そこから時間が経ち、現代では良質なモダンホラーも数多く制作されている。そうした状況では、過去と同じことに取り組むのではなく、改めて「いま世の中にない」ものを作りたいという。そういった点では、作っている内容は異なっているが、根底にある理念は共通しているということのようだ。とくに従来のホラーファンだけでなく、若いプレイヤーに入りやすい設計を意識しているという。 
 

 
本作には、都市伝説や不思議な話、地域特有の風習などが扱われるか、との質問も寄せられた。外山氏によれば、直接的に描くというよりは、そうしたオカルトからインスパイアされた現代劇を取り入れており、漫画家の諸星大二郎氏などの影響を受けているそうだ。とはいえ本作では『サイレン』のような日本のフォークロアとは異なる伝承を取り入れているため、日々勉強が続いているとのこと(なお、野狗子は中国の妖怪)。 

また、これまでにメンバーが作ってきた作品と比べて、『野狗子』はどのような作品になるか、もっとも怖い作品になりそうか、といった質問も。ところが外山氏としては、「怖くないゲームを作ってしまった」とこぼしながら制作にあたっているという。ホラー的なシチュエーションへの憧れはありつつ、どう怖がらせるかよりも、没入できる演出を意識しているようだ。 

佐藤氏もコメントを寄せており、びっくりさせる演出を仕込んでいる自覚はないという。とはいえ結果的にユーザーとしては驚きをもって迎えられるそうだ。外山氏によれば、世界観をしっかり作って、そのなかでキャラクターとプレイヤーをシンクロさせる。そのとき、未知の世界に入ったときに恐怖感を覚える感覚を重視しているとのこと。 
 

 
また『サイレン』のストーリーテリングの完成度の高さを踏まえ、『野狗子』のストーリーにおけるこだわりについても尋ねられた。外山氏によれば、こだわりは変わらずあるという。『野狗子』については世界観やキャラクターのモチベーションなどを日々アップデート中。開発プロセスとしては『サイレン』『サイレントヒル』と変わらないため、同じように厚みのある世界になるだろうと伝えた。 

ゲームプレイに迫る質問も多く寄せられている。『野狗子』は一本道になるか、ある程度自由に探索できるかといった質問が尋ねられた。外山氏によると、いわゆるオープンワールド的な構造ではないが、一直線というわけでもない。ややトリッキーな仕組みを取り入れ、多面的な方向からストーリーの実像をあぶりだす構造にしたいとのことだ。また、プレイヤーは(敵に)やり返すことができるか、もしくはエンカウントから逃げることがメインとなるかといった質問も。ここでは大倉氏が回答しており、同氏としては、どちらのシチュエーションも想定しているという。さらには、プレイヤー側から敵に攻め込んでいく状況もあるそうだ。
 

 
本作の難易度設定についても尋ねられている。外山氏としては、これまでホラー作品を触ったことのないユーザーも楽しめる作品でありながら、緊張感や葛藤などを楽しめる点も両立する必要を感じているという。とはいえ大倉氏によれば、相反するレベルデザインを両立させるのは難しいチャレンジとのこと。難しくも、楽しんで乗り越えられる難易度を実現できるように努力しているそうだ。少なくとも『サイレン』のように、難しくてクリアできない事態にはならないという。 

また『野狗子』について、スタンドアローンで完結するゲームか、大きな話の一部となるのかといった質問も寄せられている。外山氏は、従来作った作品すべてにおいて、最初から大きな世界を作ろうという意図で取り組んだことはないという。まずは主人公が立ち向かうべきシチュエーションから考えるそうだ。ただし、作っている間にバックボーンを考え始め、結果的には単体のゲームでは描き切れない背景設定が生まれるとのこと。『野狗子』においても作っている間に大きな世界観が構築されているという。 
 

 
『野狗子』において、『サイレン』のアーカイブのような収集要素があるかも尋ねられた。これについても外山氏が回答。そうしたおまけ要素で世界観を掘り下げるのは同氏としても好みの手法だとしつつ、まずは本編を完成させることに注力したいと述べた。そのうえで、周辺的な要素にどれだけ余力をかけられるか、せめぎあっているそうだ。 

さらに、過去作に含まれていたジョークエンドなどの存在を踏まえ、『野狗子』にもそうしたオマケ要素が存在するかとの質問も尋ねられた。外山氏によれば、『サイレントヒル』のUFOエンディングなどは、手の空いたスタッフが追加していたそうだ。『サイレン』以降は、真面目に取り組んだ結果笑える結果になってしまった部分もあるという。『野狗子』でも隙があれば、何かを仕掛けたい意図はあるそうだ。 

また『サイレン』シリーズの屍人に見られた、「集合精神」などのコンセプトへのこだわりについて外山氏に尋ねるユーザーも現れた。外山氏によれば、ゲームの敵を作るうえで、単なる使いやすい駒としての敵ではなく、「人間とは違うが知性や社会性がある存在」との戦いの構図を表現したいという。そうしたコンセプトを表現するうえで、集合精神などの概念が用いられているようだ。 
 

 
あわせて、クリーチャーデザインについてのインスピレーション元を尋ねる質問も。外山氏としては、クリーチャーデザインは思い入れの深い部分のひとつ。単純な敵よりも、「人間とは異なるが、クリーチャーなりの文化や正義、知性がある」ことを表現し、せめぎ合いを演出したいという。モチーフとしては日常で身近に見かけるが、理解できない対象として、昆虫や水生生物などの集合意識に興味が湧くそうだ。 

『野狗子』のゲームエンジンについても尋ねられた。大倉氏によると、Unreal Engineを使用。SIEでは自社エンジンを使っていたが、自分たちの好きに作れるメリットがある一方、初動が遅くなるデメリットもあったそうだ。半面、Unreal Engineには必要なものが揃っているため、すぐに制作に取り掛かれるのが魅力だという。一方、「もう少しこうしたい」と思う部分については自分たちで作る必要があり、上手く使い方のバランスをとる必要があるとのことだ。 
 

 
サウンド面についても掘り下げられている。ティザー動画の楽曲がアクション寄りだったのに対し、雰囲気のある楽曲も用意されているかという質問だ。外山氏が語るところでは、実はトレイラーの楽曲は作曲家の山岡晃氏から6バージョンが送られてきていたという。そのなかでは、無難なホラー的なBGMもあったものの、山岡氏からは「違う感情を揺さぶりたい」という提案があったという。結果的には、「どういうゲームなんだ?」と思わせるような力がある方向性で、予定調和ではない音楽に仕上がったと述懐している。なお本編の楽曲については、緩急をつけて、抑えた楽曲やびっくりさせる楽曲も用意されるそうだ。 

またゲームだけではなく、スタジオについての疑問も寄せられた。あるユーザーは、Bokeh Studio Gamesで働けるチャンスはどれくらいあるかと直撃。一同によれば、まだしっかりした募集はおこなっていないという。募集についてはタイミングを計りかねている部分もあるようだ。しかし佐藤氏としては、連絡をもらえればスタートになりうるという。まずは待遇ではなく、スタジオのカラーにあったゲームを作り、楽しめる人材が望ましいようだ。 
 

 
ユーザーからは尖った質問も寄せられた。ゲーム業界は終わりのないフランチャイズ化やマルチプレイの運営で先行きが暗くなっているが、オリジナリティに可能性は残っていると思うか、と切り込む声だ。佐藤氏は、歴史のある大作タイトルも、オリジナリティのあるタイトルも、双方が必要だろうという回答を寄せた。また大倉氏も、オリジナリティにはまだ可能性があるとコメント。昔は大手デベロッパーだけだったが、現代ではインディーズも隆盛しており、まだまだ期待はできるだろうと見解を伝えた。 

外山氏としては、ゲーム業界全体の未来が暗いとする見方自体が、コンソールがすべてだった前時代的であるとコメント。現代ではPCで個人制作タイトルがヒットすることもあり、数年前にはなかった多様性の広がりがある。そうしたなかで、「ゲームがなくなる」と危惧することはナンセンスではないかと語っている。Bokeh Studio Gamesは完全なインディーでもなく、かといって大手スタジオでもない立ち位置で、前例のない位置づけにあると述懐。日々、自身のポテンシャルを発見することを楽しんでいるそうだ。 
 

 
『野狗子』の対応プラットフォームや発売日は今のところ未定。佐藤氏によれば、開発は日本語と英語ベースで、そのほかのローカライズも可能な限りおこないたいという。