『サイバーパンク2077』とヒトラーを同列視するかのような記事見出しに、開発者激怒。「無礼をとおり越している」


今年12月10日に発売されたCD PROJEKT REDの『サイバーパンク2077』。予約分だけで800万本、そして12月20日時点で合計1300万本以上を売り上げたと報告されており、好調な初動を見せているようだ。一方で、バグの多さやコンソール版の最適化不足などが明るみになり、コンソール版については異例の返金対応を実施。PS4版はPlayStation Storeから一旦取り下げられ、必ずしも成功したローンチとはいえない状況にある。

そんな本作に対しては厳しい意見も寄せられ始めており、米国メディアPaste Magazineもそのひとつ。ただ、本作を「ヒトラーと同様である」と評したことで物議を醸しているようだ。海外メディアForbesなどが報じている。


Paste Magazineは、ゲームだけでなく映画や音楽、カルチャーなどの話題を幅広く扱う米国の著名メディアで、『サイバーパンク2077』の各種ニュースについても取り上げてきた。同誌は12月23日、『サイバーパンク2077』が犯した間違いの数々は、ゲーム業界が抱える問題のすべてを反映していると指摘。その上で、アドルフ・ヒトラーが1938年にTIME誌から「パーソン・オブ・ザ・イヤー」を受賞したことを引き合いに、本作も同じ意味で“今年を象徴する作品(Game of the Year)”であると評した。

その本作の間違いについて同誌は、CD PROJEKT REDが発売日を優先して開発スタッフのワークライフバランスを犠牲にしたことのほか、何年にもわたる誇大広告、レビュアーに一定の制限を課すマーケティング手法や、“中学生レベル”の低俗なゲーム内表現、アクセシビリティ意識の欠如などを列挙。また先述したバグや最適化不足からの返金対応なども指摘している。本来であれば、そうした業界の構造を根底から改革する必要があると感じさせる状況にもかかわらず、この手法で1300万本も売り上げているようでは変化は期待できないだろうとし、哀れであると述べている。

これらを総括して、『サイバーパンク2077』は今年あるいは今世紀を象徴する作品であると同誌は評価した。今年最高のゲームを意味してのGame of the Yearではない。先述したTIME誌は、良くも悪くもその年の出来事にもっとも影響を与えた人物をパーソン・オブ・ザ・イヤーとして毎年特集していることで知られ、過去にはヒトラーも選出され議論を呼んだ。Paste Magazineは、本作の負の側面を“歴史上最大のモンスター”と比較しているわけではなく、栄誉を意味する賞ではないという意味での“Game of the Year”として、『サイバーパンク2077』はヒトラーと同様の賞を受賞したようなものだとしている。


同誌の主張は言葉のロジックとしては理解できなくもないが、ほかにも例として挙げられるものがある中であえてヒトラーを持ち出したことには、ゲーム業界関係者から反発の声が相次いでいる。SIE Santa Monica Studioのクリエイティブ・ディレクターCory Barlog氏は、『サイバーパンク2077』とヒトラーを比較することは間違いであり、すべてにおいて酷い記事だと切り捨てる。

BioWareのプロジェクトディレクターMichael Gamble氏は、「今も必死に本作に取り組んでいる開発者が、この見出しを見たらどう思うか考えたらどうなんだ。恥を知れ」とコメント。元VlambeerのRami Ismail氏も、ゲームの負の側面をヒトラーに例えるのは良いアイデアではないだろうと指摘している。また海外メディアIGNの元編集者で、EAにてライターも務めたMitch Dyer氏は、「このツイートは世界中の人が見ることになるんだが、理解しているのか」と述べている。

さらに当事者ともいえる、『サイバーパンク2077』のRPGデザインリードを務めたAndrzej Zawadzki氏は、「無礼をとおり越しており、思いやりのかけらもなくあんまりだ」とコメント。本作のシニアクエストデザイナーPhilipp Weber氏も、「ポーランドで働くドイツ人として、そうした比較は非常に不愉快に感じる」と述べている。


ビデオゲームの中においては、ヒトラーはある意味馴染み深い存在でもあるが、作品そのものをヒトラーと同列に語ることには納得できない人が多かったようだ。先述したように、あえてヒトラーを例に挙げなくとも同じ論点で語ることはできただろう。また、Paste Magazineはこの記事をSNSに投稿する際、当初はヒトラーに触れていなかったが、再投稿時には言及し注目を浴びた。クリック目当てでセンセーショナルな主張を展開したのではという見方もあり、この辺りも批判に繋がっている模様である。

『サイバーパンク2077』をめぐっては、CD PROJEKTが投資家に誤った情報を提供したとして集団訴訟を模索する動きがあり、ゲーム外でも難しい状況に直面している(関連記事)。一方で販売中のゲームについてはパッチが立て続けにリリース。2021年1月と2月には大型アップデートの配信も予定し、コンソール版の大きな改善が計画されている。