性差別の告発を受けていた『LoL』のRiot Gamesが、中核スタッフ2名を解雇。“男性不可イベント”に反発する声を厳しく批判した2人


今月9月8日にRiot Games(以下、Riot)の社員2名が解雇されたことが明らかになった。海外ゲームメディアKotakuの報道により、判明した形だ。9月初めに開催されたゲームイベントPAX WestでRiotが開催した一部セッションへの参加が「女性およびノンバイナリー(※)限定」とされていたことに関する2名の発言が、コミュニティでの継続的な批判を招いたためであると見られる。Riotといえば、先日性差別の文化が蔓延しているとの告発を受け(関連記事)、その文化を払拭すると約束したゲームメーカーである(関連記事)。新たな一歩を踏み出そうとしたRiotで、何が起こっているのだろうか。

(※)ノンバイナリー:性自認が男性・女性のどちらでもない人々を指す言葉。

 

Riot・コミュニティ・社員、三者間のミスコミュニケーション

きっかけとなったのは、ゲームイベントPAXだ。Riotはこれまでも英語圏で開催されるPAXに出展してきており、今回のPAX Westでも社員による講演にて、今後実装予定の新規要素が発表されるのではないかとコミュニティの注目を集めていた。イベント1週間前に行われた出展公式告知では、メインシアターでのストーリー関連講演、コスプレイヤー向け衣装修理&休憩所、ゲーム業界志望の女性およびノンバイナリー向けのセッションを行うと発表されていた。コミュニティ内で問題になったのは、最後のセッションが「ゲーム業界志望の女性およびノンバイナリー限定」とされていたことだ。これを「男性を締め出し、男性以外を優遇する、すなわちこれまでとは逆の性差別」と取ってしまった人々がいた。Redditではこの告知についてユーザーたちが大いに困惑し、あるいは怒る書き込みが見られた。

※今回のPAX WestでRiotがスポンサードした「ゲーミング産業における女性とノンバイナリーを支援する壁」。

この一件をめぐるRedditコミュニティの反応について、さまざまな『LoL』関係者がSNSでコメントを寄せていたが、その中でも際立っていたのがRiot社員であるDaniel Z. Klein氏の一連のツイートだった。「このRedditスレッドは、私が予期した通り有害行為の埋立地だ」から始まる一連のツイートで氏は、男性を排除したセッションを非難する人々を、強い語調でさらに非難。「君がこれまでの人生でこれ[性差別]についてちょっとでも考えたことがないのなら、おめでとう、君は地獄を生み出している社会システムから特権を授かっている人間だ。こういう[Redditの]スレッドにたむろしているガキどもがいつの日か成長してくれることを心から願っている」というツイートを投稿。投稿内の「ガキども(manbabies)」という表現はさらにRedditで連鎖的な批判を生むことになってしまった。“男性差別”と糾弾する声を批判することで、その騒動をさらに大きくしてしまった形だ。

前掲のKotaku記事によると、このPAX Westセッションに関する議論については、公の場で言及しないよう社内には一種の箝口令が敷かれていたという。実際、この議論について言及した他の『LoL』関係者は、非社員がほとんどであった。しかしKlein氏を擁護する形で発言したのが同じくRiot社員のMattias Lehman氏である。これまで社内で被差別マイノリティの力になり続けてきたKlein氏の言葉の揚げ足取りをするのではなく、異論があるのであれば正しいやり方で話す必要がある、とコミュニティに対して苦言を呈したのである。

翌日9月1日にRiot Games公式Twitterが行ったツイートでは、セッションを女性とノンバイナリー限定にした意図が語られ、コミュニティに対する社員の行き過ぎた振る舞いを咎めるような文言も含まれていた。

ゲーム業界志望の女性を助けるため、女性とノンバイナリーのためのPAXワークショップを開催しました。PAXでRiot社員と共にこれを行えたことを誇りに思います。どれだけ議論が過熱したとしても、Riot社員各位には、リスペクトをもった行動を期待しています。(Riot Games公式Twitterより引用訳)
【UPDATE 2018/9/12 18:20】
訳文を微修正しました。
 

この声明から約1週間後、Kotakuの記事にてKlein氏とLehman氏が解雇されたことが明らかになった。

PAXセッションを案内するRiotswimbananas氏のツイート。

そもそも、このセッションは男性差別を意図したものであったのだろうか 。PAX West出展を担当していたRiot社員Riotswimbananas氏の当日のツイートを見ても、女性とノンバイナリー限定としていた時間帯は、ゲーム制作についてのプレゼンテーションではなく、キャリア関連の面談や講演が実施されていたそうである。Riot公式のツイートと合わせて考えても、社内の性差別実態の改善を進めるための採用活動であったはずだ。8月初頭に性差別問題を告発されたRiotにとっては、多様性と包摂性(D&I)推進のために女性およびノンバイナリーの採用を積極的に推し進めるのは当然の動きであろう。

Riotが社内文化を改善すべく行った採用活動が、特定の ユーザーの反感を買い、その中の一部が敵意をもってその反感を表明した。それに対するごく一部のRiot社員の公的な反応もまた、敵意をむき出しにしたものであり、コミュニティとのコミュニケーションに関してRiotが定める基準を逸脱していた。コミュニティ・社員間の衝突を重く見たRiotは当該社員2名の解雇を行った……一連の経緯はこう総括できる。

 

解雇された2名を惜しむ声も

Klein氏はRiotで『LoL』のシステムデザイナーを、Lehman氏はコミュニケーション担当を務めていた。Klein氏はゲームシステム面の仕事にくわえてチャンピオンデザインを手がけたことも複数あり、最近アルファテストが行われた実験的ゲームモード「ネクサスブリッツ」の開発にも関わった古参の社員だ。Lehman氏は『LoL』に関する考察記事等のライティングで実績を積んだ後にRiotへと入社し、ここ2年ほどはパッチノートの執筆にも関わっていた。

日本時間9月12日朝に実装された8.18パッチノートは、Lehman氏が手がけた最後のパッチノートになると思われる。

コミュニティでは2人の仕事ぶりを惜しむ声が見られた一方で、特にKlein氏については日頃からTwitterでの発言が「正しいことを過剰な高圧さで語る」ことを疎んじていたという発言も一部に見られた。また他のRiot社員複数からは、社内の差別問題に立ち向かっていた2人の態度を称える発言もあった。

男性社会になりがちな企業や業界において、女性の採用や昇進を優遇する処置には男女双方から異論がある。今回反発が大きかったのは主に男性側からの書き込みであろうが、自分も女性だというあるRedditの書き込みは、「公平さを期すために一部の機会において男性を排除するのは正当だ」とするKlein氏の主張に対して「男性が排除されるのは不快だ。女性だからという理由でなく、持っているスキルや能力で選ばれたい。別のグループを抑圧して得られる機会は“対等”なんかじゃない」と批判する。女性を優遇するのではなく、平等な条件で平等に選ばれたいという願望を持つ人もいたのだろう。

だが一方で、少なくともこれまでのRiotに、性別や人種を基準とする差別があったのも事実である。Lehman氏は解雇前の9月3日に発表した文書「Riot Games Must *Be* Better」にて、契約を失うおそれがあったためにRiot社内での差別に異論を唱えられなかった時期があったことや、『LoL』登場キャラクターのジェンダー表現について意見し続けてきたことを明らかにしている。他にも、氏は続けてRiotと『LoL』が抱える現状の問題をも指摘する。当初コアゲーマー向けを目指して作られてきた『LoL』が大ヒットしプレイ人口が激増した今、「Player Experience First」が指す「Player」とは誰を指すのだろうか。多くの人を惹きつけるゲームは世界と彼らとの接点になるゆえに、いわば社会を映すメディアと同義であり、「ただのゲーム」にはなりえないのではないだろうか、といった問題提起は、氏がRiot内部の問題を真剣に見つめ取り組んでいた証左であろう。

Kotaku等のメディアの取材に応じたRiotは「2名の退職は社内文化改善とは無関係」という要旨のコメントを寄せている。Klein氏とLehman氏はKotaku等の取材に応じ、「 私は会社を去ることになりました。社ではたくさんの素晴らしい友人を得られ、今後待ち受けているものを楽しみにしています」という同一内容の公式声明を発表した。さらに、他メディアと同様に一連の騒動を報じたThe VergeがKlein氏に取材したところによると、氏は「Riotのソーシャルメディアポリシーに違反したため解雇された」と語っている。

解雇が公になると、Klein氏とLehman氏のもとには映画「ハンガー・ゲーム」で名誉ある出立を意味する、三本指での敬礼のGIFアニメが多くのリプライで寄せられた。

2名の解雇に関して、KotakuにてRiotにおける性差別文化問題をレポートし続けているCecilia D’Anastasio氏は、現社員の推測として「Klein氏の対応は広く悪感情を買い、女性およびノンバイナリー支援活動に差し障るため解雇されたのでは」「Lehman氏がD&Iを強く支援するとした公的な発言は、コミュニケーション担当にふさわしくないと判断された」とも書き加えている。また「2人が解雇されたのは、従来の差別文化を維持したい人間の意向ではないか」と感じている契約業者もいるそうである。現状のユーザー人口において大多数を占める「男性ゲーマー」の不興を買いたくない、買うべきではないという意図もあるのかもしれない 。今回、公空間における元社員2名の振る舞いに問題があったのは事実だろうが、彼らの実績や根本思想を考慮すると、解雇という判断が今後のRiotに及ぼす影響は非常に大きいと考えられる。