シリーズ新作を毎年発売することに意義はあるのか、Take-Twoが他社のブランド戦略を疑問視する理由とは

 

先日、米リサーチ会社MKM Partnersが投資家向けに主催する毎年恒例のイベントにて、Take-Two Interactive Software(以下、Take-Two Interactive)の最高経営責任者であるStrauss Zelnick氏は、同社が一部スポーツゲームを除いたフランチャイズの新作を毎年発表しない理由について改めて言及した。近年、トリプルA級タイトルの新作が毎年定期的に発表される潮流は、ゲーム市場における大手各社のトレンドとして定着している。そんな中、複数の開発ブランドで多くの看板シリーズを抱えるTake-Two Interactiveは、長年にわたりフランチャイズの恒例化を否定し続けてきた。

 

他社は恒例化でIPの寿命を縮めている

Take-Two Interactiveは、米国ニューヨークに本社を置く多国籍企業。『BioShock』『Borderlands』『Civilization』『Mafia』など多くのシリーズ作品を誇る2K Gamesや、『Grand Theft Auto』および『Red Dead Redemption』シリーズで知られるRockstar Gamesを傘下に有するトリプルA級パブリッシャーだ。これまで11件のフランチャイズでタイトル毎に500万枚を超えるセールスを記録しており、その内54作品が最低でも200万枚の売り上げを達成したと言われている。ナンバリングタイトルを含む多くのシリーズ作品を抱える一方で、今まで毎年更新される新作の定期発表は『NBA 2K』や『WWE 2K』といったスポーツゲームに留まってきた。

『Civilization』は25年続く長寿シリーズ
『Civilization』は25年続く長寿シリーズ

業界メディアGameSpotによると、CEOのZelnick氏は競合他社が毎年のように新作を発表することでフランチャイズを“焼き尽くしている”と指摘する。「全てのフランチャイズを毎年の恒例としてスケジュールに落とし込んで、残りを全部二の次にすれば数字の上では成長を期待できることは、概念的に理解しています。しかし、それが何を意味するか。開発チームの倍増につながり、次にクオリティが議題に挙がることでしょう。Take-Twoが最も誇れる点は、フランチャイズの永続性だと感じています。どれも末永く愛され続けてきました。一方で競合他社はフランチャイズを焼き払っている。いずれ新たなシリーズの創造を余儀なくされるでしょうし、それは決して容易なことではありません」。

Take-Twoが目指すのは特定のシリーズ作品を毎年更新することではなく、十分なフランチャイズを定着させることで毎年異なるシリーズの新作をリリースすることだと、Zelnick氏は語る。近年でも、2013年に『BioShock Infinite』『Grand Theft Auto V』、2014年に『Borderlands: The Pre-Sequel』『Sid Meier’s Civilization: Beyond Earth』、2016年に『XCOM 2』『Mafia III』『Civilization VI』といった具合に、主要なフランチャイズの新作をほぼ毎年交互にローンチしている。また、来年秋にはRockstar Gamesのシリーズ新作『Red Dead Redemption 2』の発売を予定している。このように看板タイトルを数年単位でローテーションすることで、IPを焼き尽くすことなく強力なリリース打線を組めることが、同社の強みというわけだ。

このほか、Take-TwoはM&A(Mergers and Acquisitionsの略、企業の合併および買収を指す)による事業拡大に対しても慎重な姿勢を示している。これまで多くのフランチャイズにおいて権利買収や開発スタジオの吸収合併を重ねてきたように、もちろんZelnick氏はM&Aによる企業の成長そのものを否定しているわけではない。しかし、将来的な見通しが確実に増加傾向にない限り、買収には踏み切らないという明確な規律を設けているのだ。その反面教師として、同氏はライバル社であるElectronic Arts(以下、EA)の買収劇を例に挙げている。EAは前CEO John Riccitiello氏の指揮の元、過去10年のM&Aで時価総額にして200億ドルを費やしてきた。その後、2013年に現CEOのAndrew Wilson氏が新たに就任。多額の出費を取り戻した経緯がある。こうしたM&Aの大半をZelnick氏は、数字に基づいた思考の欠如と経営者のエゴが招いた大企業の失態であると主張する。

 

数字上の利益とマンネリ化の道のり

フランチャイズを見直すため恒例を廃したUBI
フランチャイズを見直すため恒例を廃したUBI

近年、トリプルA級タイトルの新作を毎年決まった時期に発売するブランド戦略は、ゲーム業界における大手各社の恒例行事になりつつある。たとえば、いまやFPSタイトルの金字塔とも言えるActivisionの看板フランチャイズ『Call of Duty』シリーズは、2003年に第1作が発売されて以来、翌年を除いて2016年の現在にいたるまで毎年欠かすことなく新作がリリースされ続けている。Ubisoftのステルスアクションゲーム『Assassin’s Creed』シリーズも良例だろう。元々は3部作に仕上がる予定だったが、2007年の初作以降はさまざまな時代や国を背景にシリーズ続編を昨年まで毎年発表してきた。

こうした潮流が業界を覆う中、Take-Twoは以前からフランチャイズを恒例イベントにする傾向を否定し続けている。昨年ニューヨークで開催された同様の投資家イベントでも、CEOのZelnick氏はその実情を明かしていた。確かに市場の中には毎年新作を出さないことへ疑問を投げかける声もあるというが、同社は一貫して作品自体のクオリティとIPの寿命を最優先に掲げてきた。なお、2Kブランドの一角をなすスポーツタイトル『NBA 2K』および『WWE 2K』については、実在するスター選手のデータを更新して、タイトルの末尾に年数を記した新作を毎年発表している。Zelnick氏が指摘するように、シリーズ作品の恒例行事化は一部ではすでにゲーム性と品質のほころびとなって表れているのが現状である。

前述した『Call of Duty』シリーズは卓越したセールス記録の反面、一部ユーザーからはゲーム性のマンネリ化を指摘され続けており、新作発売時のレビューでは賛否両論の評価が後を絶たない。また、昨年まで毎年10月から11月頃にシリーズ続編をたて続けにローンチしてきた『Assassin’s Creed』シリーズも、2014年の『Assassin’s Creed Unity』で不具合を多く残したまま発売したことによる批判を受けて以降、ユーザーのフィードバックを真摯に受け止めると開発チームが明言。毎年リリースという伝統を撤廃して、シリーズのゲーム性を完全に見直すことを理由に、今年は新作を発表していない。加えて、EAの『Battlefield』シリーズが2013年の『Battlefield 4』において、粗末なローンチで世間を騒がせたことも記憶に新しい。同社は反省点を生かし、その後の開発態勢や運営方針を一新した。

IPの寿命を可能な限り永続させたいというZelnick氏の言葉を言い換えるならば、毎年決まった時期にシリーズ新作を発売し続けるビジネスモデルは、一種の焼畑農業のようなものということだろう。ブランド力は財産であり、フランチャイズの定着は大手企業にとっていわば金鉱の発掘。または油田を掘り当てるようなプロセスといえる。1作目がヒットしたからといって続編も浸透するという保証はなく、長期的にブランドの価値を高めていく道のりは長く険しい。Take-Twoはまさにフランチャイズという価値ある土地を早々に焼き尽くしてしまいかねない消費戦略そのものに警鐘を鳴らしているのだ。将来的にはより長いスパンで毎年の目玉タイトルをカバーできる基盤を整えたいとのことだが、『Evolve』や『Battleborn』のように必ずしも芽吹かない種があることも事実。究極的には、短期的な数字による利益を優先するか、Take-Twoのように長期的なIPの寿命を考慮するかの二択しかない。双方に目的と意義があり、正解はないのかもしれない。