『カリギュラ』は「ペルソナ4×初音ミク」から始まった?「弱者には弱者の戦い方がある」 山中拓也氏が語る限られた予算で“一点突破”を目指したゲーム作り

『Caligula -カリギュラ-』がどのようにして生まれたのか、同作を手がけた山中拓也氏、フリューの渡辺拓道氏、集英社ゲームズの河合泰一氏に話を訊いた。

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フリューの学園ジュブナイルRPG『Caligula -カリギュラ-(以下、カリギュラ)』が、2026年に10周年を迎えた。同作の企画・プロデュース・ディレクション・シナリオなどを手がけた山中拓也氏は現在、集英社ゲームズの新作『UN:Me』(企画・開発:ヒストリア)の制作に携わっている。 今回AUTOMATONでは山中氏をはじめ、フリューのコンシューマゲームブランドマネージャー渡辺拓道氏、集英社ゲームズの『UN:Me』総合プロデューサー河合泰一氏を迎え、両タイトルについて語る鼎談を実施した。

本稿では、『カリギュラ』がどのようにして生まれたのか、企画背景や開発当時の苦労、限られた予算のなかで「他のタイトルにはない一点を尖らせる」という方針に至った経緯などを掘り下げている。また発売から10年を経た今だからこそ語れる、当時のゲームシーンにおける立ち位置や、山中氏が10年間のクリエイター活動を通して培ってきた制作思想について話を訊いた。

なお、『カリギュラ』シリーズの『Caligula Overdose/カリギュラ オーバードーズ』『Caligula2』は9月11日(金)よりニンテンドーストアで最大80%オフとなるセールを実施中。

『UN:Me』は、山中氏とヒストリアとの『カリギュラ』タッグで開発されているソウル・トリアージ アドベンチャーゲーム。Nintendo Switch 2/PS5/ PC(Steam)で発売予定だ。9月17日(木)から開催される「東京ゲームショウ2026」では国内初のプレイアブル試遊が展示されることも話題となっている。


「ペルソナ4×初音ミク」で企画を通す『カリギュラ』誕生の舞台裏

――自己紹介をお願いします。

山中拓也(以下、山中)氏:
ゲームクリエイターの山中です。今はゲーム以外にもアニメやYouTube作品の脚本などメディア問わずに制作をしています。よろしくお願いします。

――山中さんは今ではさまざまな作品の脚本やプロジェクト立ち上げで活躍されています
が、自身をどのようなクリエイターだと自認されていますか。

山中氏:
本当にさまざまな作品を作っていますが、原点はフリューにおけるゲーム制作が大きく影響しています。一人でなんでもやらなきゃいけない環境だったので、強制的に一人でいろんなことができるスキルが身についたというか。企画・プロデュース・シナリオから宣伝、営業までものづくりの最初から最後まで経験できたというのが今の自分の働き方にに繋がっているのだと思います。

現在はゲームで表現するのが適していればゲームにしますし、アニメのほうが適していればアニメにするなど、自分が実現したい体験やメッセージに合わせて最適なメディアを選んでいます。「どんな体験を届けたいのか」を起点に考えて最適な表現を選べることが、自分のスタイルであり強みだと考えています。

――ゲーム以外の活動も多いですが、「ゲームクリエイター」と名乗られていましたね。「マルチクリエイター」というと怪しい感じになってしまいそうですが(笑)

山中氏:
僕自身は軸足はゲームにあると考えていますし、「マルチクリエイター」を自称するのは、どうしても怪しさのほうが勝ってしまうので(笑)。ゲーム以外の仕事も多いですが、どこまでいっても自分はゲーム出身の人間ですし、ゲームのインタラクティブ性を体験に盛り込むのが好きなので、肩書の一番最初に「ゲームクリエイター」を名乗るようにしています。実はゲーム制作自体は他タイトルでもしていたんですが、世に出なかったので、『UN:Me』で『Caligula2(以下、カリギュラ2)』から5年ぶりに、ゲームクリエイターを名乗れて嬉しいです。

――おめでとうございます。山中さんといえば『カリギュラ』が代表作ですが、改めて『カリギュラ』ではどんなことを担当していたのか説明して下さい。

山中氏:
『カリギュラ』シリーズでは、企画・プロデューサー・ディレクター・シナリオ・4コマ漫画の制作・Twitter(現X)の更新までしていました。フリューは何でもできなければいけない環境だったので、プロデューサーやディレクターがすべきこと以外もしていました。企画の立ち上げや予算の確保など、渡辺さんにもご協力いただきながら、ゲームにおける始まりから終わりまで、すべての工程を見たと言っても過言ではありません。

――『カリギュラ』を制作するときは、企画書を作って上層部に叩きつけたのでしょうか。

山中氏:
当時のフリューには、デベロッパー出身のクリエイターが少なく新規の企画書を書ける人間があまりいなかった分、「こういう作品を作りたい」と発信できる機会は多かったと思います。その頃のフリューは版権モノを中心にしながらとオリジナルゲームにも取り組んでいこうとしていたので、自分はオリジナルゲームの企画を作ることに決め、企画書を書いて『カリギュラ』を提案したら、宣伝の渡辺さんも企画に乗ってくれて、「一緒に作っていこう」という流れになったと記憶しています。

――渡辺さんは企画書を見たときどう感じましたか。

フリュー・渡辺拓道(以下、渡辺)氏:
『カリギュラ』の企画書はパッと見た瞬間に「このゲームをフリューから出せたら、勝ち筋が見えるのではないか?」と思いました。山中さんとは歳が近いこともあり、同じようなゲーム体験をしてきたので、「学生の頃、こういうゲームをやったよね」という共通の感覚があったというのも大きかったですね。フリューに入ってきたのも、別のゲーム会社から来た中途同士ということでシンパシーもあって、2人でこのタイトル成功させよう!という感じでした。

――面白い企画はパッと見た瞬間の反応は、やはり違いますか。

山中氏:
まだできあがっていないものの面白さを理解するのは、ある程度の経験が必要なんです。企画書を見るにも経験や素養が必要ですし、何を企画書に盛り込むべきかという感覚も、出身の会社によって違います。そのためすぐに企画が通ったというよりは、企画書を持って「ここが面白いんですよ」と説得して回る時間が、社内・社外を問わず長かった気がしますね。

――プロトタイプのゲームならまだしも、企画書は絵と文字ですもんね。

山中氏:
企画書を見慣れている人であれば、文字を見ただけでも頭の中で「こういうゲームになりそう」と想像が働きますが、そうでない人には言葉に落とし込んで説明しなければなりません。そもそもフリューはゲーム会社というより、プリクラで名を馳せた会社でゲームはその中の一事業です。ゲームに詳しくない方も多いので、企画を通すためにゲームの面白さを丁寧に理解してもらう必要がありました。

――どのような流れで『カリギュラ』の企画が通ったのでしょうか。

山中氏:
最終的に『カリギュラ』が予算会議を通過したのは、「ゲームとしてここを大事にしています」という本質的な部分が評価されたからではなく、分かりやすい“ガワ”の要素が大きかったと思います。当時PS Vitaで流行していた『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』と『初音ミク -Project DIVA-』を引き合いに出して、「流行っている『ペルソナ4』と初音ミクの音ゲーを掛け合わせたゲームなんです」と説明すれば、ゲームに詳しくない人にもイメージしてもらいやすい。経営側が分かりやすい謳い文句を用意しながら、内側に自分のやりたいことやエゴを忍ばせたんです。

一同:
(笑)

――上層部が納得しそうな甘いキャッチコピーの下の方に、ニッチなことが書かれていたと。

山中氏:
触れにくいニッチなことは、そもそも企画書には書いてなかった気がしますね(笑)。僕のこだわりの部分って必ずしも利益を最大化する方向ではないことが多いので、こっそりと。


「弱者には弱者の戦い方がある」限られた予算で“一点突破”を目指した理由

――その後企画が通ったときは欲しいと思っていた予算のうち、どれくらいをもらえましたか。

山中氏:
体感で言うとコンシューマーゲームにこれくらいベットすれば、勝負になるかもしれないという額の3分の1もなかったです。

――3分の1ですか……限られた予算をどのように使いましたか。

山中氏:
『カリギュラ』までに、フリューで版権モノのゲームを3本ほど関わっていた経験で、予算感からどういった作品が作れるのかは、ある程度わかっていました。それまでのフリューの予算の使い方は、いわゆる売れている王道タイトルの規模を小さくして作るという印象だったんです。ただそれだと他社のタイトルの中に埋もれてしまうので、予算が少ないなりに他のタイトルと並べたとき1点くらいは突出している作品を作るべきだと考えていました。それは渡辺さんも共通認識として抱えていた課題だったので、「この1点だけは負けないように作りましょう」と話しましたね。

――ちなみに今山中さんとお仕事されている河合さんは、開発中の『UN:Me』で、山中さんの予算感覚が垣間見える部分はありますか。

集英社ゲームズ・河合泰一(以下、河合)氏:
『カリギュラ』と『UN:Me』では、山中さんの関わり方は異なりますが、集英社ゲームズとしては、山中さんに予算をなるべく気にさせないようにしています。ただ山中さんはプロデューサー経験も豊富なので、会話のなかで言葉の節々から、「今、予算やスケジュールを気にしてくれているんだろうな」と感じるときはありますね(笑)。

――『UN:Me』では予算自体に関わるわけではなく、クリエイティブに集中できていると。

山中氏:
アイディアが思いつくと同事にそれがいくらかかるかが浮かぶのが自分のいいところでもあり悪いところで。常に予算のことを考えているので、つい口に出してしまうんです。そういう意味で今の自分からすると、『UN:Me』は非常に贅沢なタイトルだと感じています(笑)。

――(笑)予算感も関係していると思いますが、正直フリューのタイトルについては、ピンキリというイメージがあります。特に『カリギュラ』が発売された2010年代中期は、新作に対して世間的に逆風があったのでは

山中氏:
率直にいうと、特に当時は「フリューのタイトルは粗製乱造のクソゲー」だと思われていた時代で、インターネットにおける評価も低かった。つまりブランドとしての信頼度がない地点からのスタートだったんです。だからこそ一番の課題は、逆風のなかでどのようにタイトルを売っていくかでした。当時、大企業のおじさんたちとお酒を飲みに行ったら、「10万本売ってからだな」と説教されることもありましたが、信頼と実績のある大きい会社で10万本売るのと、フリューで10万本売るのは違うスポーツなんですよと思いながら口に出さずにニコニコ聞いてました。(笑)

ブランドとしての信頼度が、売る難しさにどれだけ直結するのかは、僕らだけが知っている感覚かもしれません。ここまで逆風からスタートした人はなかなかいないという感覚が、渡辺さんとの仲間意識に繋がっていったのかなと思います。

――『カリギュラ』によって、「フリューも時々面白いゲームを作るじゃん」という感覚が生まれた気がします。

山中氏:
ありがとうございます。『カリギュラ』以外にも『レジェンド オブ レガシー』『アライアンス・アライブ』を作った松浦(正尭)くんの時代から「変えよう」という意識はあったようです。僕と渡辺さんの戦略で共通していたのは、「お金がない」のを隠さなかったことだと思います。我々は弱者でしたが、弱者はゲームを作る必要がない訳ではない。世間の最適解や王道を選ぶのではなく、弱者には弱者なりの戦い方があることを隠さずに活動していました。

予算のなさを逆手に取って「お金はありませんが、代わりに尖らせました」と、最初からユーザーに伝えることで、逆風に対して戦っていきましたね。


「PlayStationの匂い」を目指した『カリギュラ』らしさを形作った取捨選択

――『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』と『初音ミク -Project DIVA-』を掛け合わせたゲームだと説明して予算会議を突破したということでしたが、実際のベンチマークソフトはありましたか。

山中氏:
当然『ペルソナ4 ザ・ゴールデン』と『初音ミク -Project DIVA-』はプロモーションのためだけに要素を入れたのではなく、「ジュブナイル」「ボーカロイド音楽」が体験をより良くする要素として絡められると考えて名前を出していたんですけどね。一方で2タイトルを直接ベンチマークにしていたのではなく、僕も渡辺さんもPlayStation時代のゲームをしていた世代なので、「PlayStationの匂いがするゲームを作りましょう」というイメージでした。

当時『カリギュラ』も「電撃PlayStationっぽい」と言われたのですがそれはまさしく狙っていたとおりのもので、『ガンパレード・マーチ』『東京魔人學園』『サモンナイト』など、電撃PlayStation読者が「履修したくなる匂い」のするゲームを目指しました。特定のタイトルではなく、そうした作品群をベンチマークやリファレンスにして、自分が遊んでいたときの体感や匂い、味を『カリギュラ』にも落とし込んでいきましたね。

――そうした作品を参考にしながら、『カリギュラ』としての個性を形作っていったと思いますが、『カリギュラ』らしさを確立するうえで力を入れたもの、逆に捨てたものを教えてください。

山中氏:
真っ先に捨てたのは、3Dモデルのクオリティです。ゲームを作るうえで一番予算がかさむのが3Dモデルなので、費用対効果を考えて削りました。逆に言うと3Dモデルのクオリティが評価の指標である人はこの予算ではどうやっても満足させることはできないので、ある程度諦めるという方針です。『カリギュラ』を手に取るユーザーであれば、たとえ3Dモデルが良くなくても、頭の中の妄想で補完してくれるだろうと考えたんです。お客さんの想像力で補完できる部分には極力お金をかけず、キャラクターや楽曲など想像を掻き立てるものに予算を使っていました。

だからこそ2Dのキャラクターデザインにはこだわりがあって、当時大学生だったおぐちくんにお願いしましたが、これもフリューとは逆のやり方でした。当時のフリューは「ヒット作のある人を起用する」と企画が通りやすかったんです。元タイトルのファンにも注目してもらえるので当然といえば当然ですが。ただ『カリギュラ』では、別の作品のイメージがない人を選びたくて、「『カリギュラ』といえばこの人、この人といえば『カリギュラ』」という作品を背負ってくれる才能のある人を見つけようとしました。

――ほかに実際に作ってみて、結果的に『カリギュラ』らしさにつながった出来事はありましたか。

山中氏:
当時のゲームタイトルは「お色気要素を入れましょう!」というのがマストで、僕自身『カリギュラ』以前の開発を通して、「エロの強さ」をまざまざと体感した時期でもありました。ただ僕個人のこだわりとして、『カリギュラ』は性で売りたくなかったんです。渡辺さんからは「もう少しサービス精神を出しても良いのでは?」と言われ、そこが唯一衝突した部分ですね(笑)。そもそも当時ゲームハードの所持率は男性が圧倒的で、男性好みする要素を入れるのはマーケティング的には当たり前なんですが、そこも最終的にはワガママを通させてくれたので渡辺さんに感謝ですね。

ゲームにノルマのように存在していたお色気要素は徹底的に排除したかったですし、「男女がいれば恋愛をする」お約束も全部無くしました。それで生まれたある種の清潔感が、今でも多くの女性ファンに「推しても大丈夫なタイトル」として、支えていただいていることに繋がっていると考えています。

――たしかに『カリギュラ』にセクシャルな要素があったら、作品としての説得力が薄れていたかもしれません。

山中氏:
結果として女性キャラクターは体のラインを強調したり、胸元のボタンを1個開けるだけでゲーム売上が変わったりという当時の風潮に対する逆張りになった。あえて清潔さを保ったからこそ、女性がプレイしたときにノイズになる要素を排除できたのかなと思います。

――『カリギュラ』10周年を迎え、山中さんもクリエイターとして経験を積んだ今、あらためて作品を振り返ってみてどのように感じますか。

山中氏:
『カリギュラ』発売当時は心の闇や生々しさを描くことが、王道に対するカウンターでしたが、2020年頃になると今度はそれが王道になっていった感覚があります。ダークさや人間の生々しさ、しんどさが王道に成り代わって、売るときにブーストしやすい要素になっていきました。

そういった意味で『カリギュラ2』において、「どれだけ残酷にするか」というレースに付き合わなかったことは、シリーズを作ってきたなかでも特に自分を誇れる選択です。『カリギュラ』がリリースされた2016年は刺激で売ることが効果的でしたが、それから5年後に「いかに残酷か」「いかにしんどいか」「いかに悲しい過去があるか」というチキンレースが各作品で起きていました。それと同事に僕はカリギュラがそっちに向かってはいけないと思いました。誰かを楽しませるための刺激になってしまうと、カリギュラが扱っていたテーマの繊細さが失われてしまう、と。

正直『カリギュラ』から『カリギュラ2』への進化は刺激こそ薄れたかもしれませんが、そこを捨ててでも、『カリギュラ』という舞台設定でしか書けない話を書き、『カリギュラ』というテーマでしか救えない人を救おうとしました。現代の悩みや社会を描くのであれば、派手さよりもリアリティや俯瞰が重要だと考えていて、もし今『カリギュラ』を作るのであれば、今の時代から3年後を見据えながら、人間をたくさん観察して作る必要があります。描き方や捉え方は時代によって常に変わっても、『カリギュラ』は「今の人間・社会がどうか」に合わせたタイトルなのは変わりません。


別記事では、2026年内の発売を予定している『UN:Me』編として、企画の立ち上げから開発の経緯、独自のゲームシステムや「不安」をテーマとした表現などについて訊いている。こちらもぜひチェックしてほしい。

なお、『カリギュラ』シリーズの『Caligula Overdose/カリギュラ オーバードーズ』『Caligula2』は9月11日(金)よりニンテンドーストアで最大80%オフとなるセールを実施中。

『UN:Me』
対応機種:Nintendo Switch 2/PS5/ PC(Steam
発売日:2026年
価格:未定
公式サイト:https://unme.shueisha-games.com/
企画・開発:ヒストリア
企画・シナリオ:山中拓也
販売元:集英社ゲームズ
©SHUEISHA,SHUEISHA GAMES developed by historia

[聞き手・編集:Yuuki Inoue]
[執筆:Kei Aiuchi]
[聞き手:Ayuo Kawase]

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