『龍が如く』開発者インタビュー。「ばかみたい」「なんだと」など海外で『龍が如く』が巻き起こす“妙な日本語”旋風と、それらを意識しないマインドとは

 

English Version Here

セガは『龍が如く7外伝 名を消した男』(以下、『7外伝』)を2023年11月9日に、『龍が如く8』(以下、『8』)を2024年1月26日に発売する。『7外伝』は『龍が如く7 光と闇の行方』と『龍が如く6 命の詩。』(以下、『6』)の空白を埋める作品で、『6』本編中で、とある事情により死を偽装し「死んだはずの男」として姿を消した桐生一馬のその後が描かれる。また『8』は前作の主人公春日一番と、桐生一馬のダブル主人公となっている。

今回東京ゲームショウ2023にて、横山昌義氏と阪本寛之氏に話をうかがった。新作2作品の発売を控えている……が、今回は『龍が如く』シリーズの海外人気が著しいことを踏まえ、海外人気やそれにまつわる文化などを訊いた。

――横山さん阪本さんは今、新作にどう関わっているか教えていただけますか。

横山昌義氏(以下、横山):
作品全体の総合的な演出と、ストーリーの構成は僕がやっている、という関わり方ですね。あと、いわゆるマーケティングも含めたプロデュースワーク全部の総括です。


阪本寛之氏(以下、阪本):
私はチーフプロデューサーという立場で、両タイトルともにどちらかというとプロジェクトの設計だったり、細かい仕様だったりとか、チューニングなども、いろいろ調整役をしています。

――なるほど。阪本さんはやや現場寄りという感じですか。

阪本:
現場寄りというか3分の1くらい現場ですね。だいぶ他の人に委ねるようにはなってきたのですが。ただ作品の方向性みたいなところ、たとえばゲームの設計的な部分は、最初から結構手は入れています。


開発は1チーム制で複数ラインを動かす

――『龍が如く』シリーズについて、今年はまず『龍が如く 維新! 極』(以下、『維新!極』)をリリースされています。

横山:
ありましたね。

阪本:
つい最近みたいに思いますよね。

――そして『7外伝』と、そして『8』を出すということで、非常にリリースペースが速い。チームは3チームが別にあって全部が動いている感じでしょうか。どうしてそれほど早くリリースできるのでしょうか?

横山:
これね、ほぼ1チームなんですよね。

――1チーム……。

横山:
『維新!極』はUnreal Engineを採用しているので、たとえばプログラマーとかもUnreal Engine専用でいたりします。ただUnreal Engineで作っていたプログラマーたちも、元々はドラゴンエンジンで作っているチームなので一緒なんです。プログラマーが特にそうですけど、「龍が如くスタジオ」の一番の特徴としては、1人1プロジェクト専任じゃないんですよね。

阪本:
掛け持ちしてますね。

横山:
『7外伝』作るのも『8』作るのも一緒だから。たとえばこのミニゲームを担当しているから『維新!極』でもミニゲーム担当しています、といったようにプロジェクトをまたいで、カテゴライズでプロジェクトを見る。物理系の挙動が多いミニゲームだったらそれはすべてのプロジェクトでひとりの担当がやりますと。AIだったら全部のプロジェクトのAIをひとりが見ます。プロジェクトが縦に走っていると、みんな横に作品をまたいで担当を持っています。僕ら(横山、阪本)もそんな感じですよ。全部のタイトルやりますから。

――タイトルごとの取り合いにはならないんですか。

横山:
ないですね。タイトルごとにもプロデューサーは別じゃないですしね。実はプロジェクトの開始時期だけでいうと、『維新!極』ではなく『8』がプロジェクトとして走り出した最初のタイトルなんですよ。『8』が走って、『維新!極』が完了して、そこに『7外伝』も入ってきて一緒になって。『維新!極』のローカライズなどをしている間は『8』はちょっと休みになって、(翻訳が終わったら)またみんな『8』に戻ってくる。


――1チーム体制にはいつ頃なったのでしょうか。

横山:
初代『龍が如く』とか『龍が如く 2』の頃にリリースペースが早くて、1年に1本ペースで出しているときも、1チームでやってたので、だいぶ昔からそのままです。今はさすがに1年に1本とか出さなくなりましたけど、代わりに違うタイトルっていう形で出すような感じになっていますね。

――おふたりは同時に複数タイトルを担当されていて、ごちゃごちゃになってしまうことはないですか?

阪本・横山:
なります(笑)

横山:
一番すごかったときは、同じキャストの人が、『維新!極』の音声収録をやっている同じ日の午後に『8』を収録して、翌日『7外伝』を収録していました。そのときに「今どのタイトルを収録しているんだろう」って(笑)

一同:
(笑)

横山:
特に今回キャストが被っているじゃないですか。桐生一馬役の黒田崇矢さんのときに至っては、「今日どっちだっけ?」っていうのはよくありましたね。

――ふたつの作品を並行してマネジメントするにあたって、気をつけていることはありますか。

横山:
『7外伝』と『8』は大きな差がないというか。もともと『8』の派生で『7外伝』が生まれているような感じなので。『8』の中で桐生の過去を30分間回想シーンで語らせることもできますが、そうではなく、きちんと1本のゲームにした方が面白いだろうと思って、独立したゲームにしました。新作を1本追加することになりますけど、同じゲームエンジンなので、1から作るというわけではないからいけるんじゃないかと。なので、実質半年くらいで作りましたね。


――半年!

横山:
「作ろう」といいだしたのは僕なんですけど。「桐生の過去編をやるならゲーム作った方が早いと思うんだよね」と。ダウンロードコンテンツでやる話から始まって、そのうち面白いからパッケージにしちゃおうかと。最終的に「パッケージだとボリューム足りないから増やそう」という流れに。

阪本:
最初から、パッケージ販売すると決めていたわけじゃなかったので、そこからの調整が結構苦労しましたね。

――そういえば、以前は『龍が如く』シリーズは日本が出てから、時間を置いて海外版という流れでしたが、いまでは世界同発も標準的になりましたね。グローバルで同時展開は慣れましたか。

横山:
グローバル展開は、『LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶』が初めてでした。そこから『維新!極』もグローバルですし、ノウハウは溜まってきました。

――グローバルリリースをするとなると、ローカライズをしてもらう時間を確保するためにもスケジュールはよりシビアになるのでは。ゲーム開発やローカライズの速度と質はどのように両立させようとしているのでしょうか。

阪本:
マイペースに作るのであれば、日本版を全部作り終えてからローカライズして、10か月後ぐらいに海外で出すことが普通なのかなと。ただ『龍が如く』シリーズのボリュームがやっぱ相当大きくて、ローカライズがいつも問題なんですね。

横山:
テキスト量が多いんですよ。

阪本:
テキスト量も尋常じゃないですが、ムービーも全部で4時間とか。

横山:
このシリーズと『ペルソナ』シリーズはとても多いですよ。セガはテキスト量が多いゲームがエース級なので大変ですね。ローカライズが大変なのは間違いない。

阪本:
でも国内発売から10か月後に発売としてしまうと、鮮度もなくなってしまう。

横山:
『龍が如く』シリーズは常にリリースに焦っています。それは機会損益とかいう話ではなくて、“今”を切り取るタイトルだからです。ストーリートレイラーでも現代風の演出があって、一例をあげるとVTuberがいますけど、あれが半年ずれていたらもう古くなっているかもしれない。しかもそれを2~3年前に予想してやらないといけないので、すごく恐ろしいですね。だから、そういった演出が通じている今のうちに出したい、というのはあります。

なので今は、グローバルで同時発売を目指す体制です。同時発売をするための最善の方法を今模索しながらやっています。


――そういう意味では『龍が如く』は今やグローバルタイトルとなっており海外ファンも非常に多いと思うのですが、それにあわせてスタジオの規模も大きくしやすくなってきたなど、商業的な成功によってゲームが作りやすい環境になりましたか?あとは……わがままが通りやすくなったとか。

横山:
わがままなのは昔からです(笑)それと人は昔から多いです。ただ会社自体の採用規模も大きくなってきていますし、入ってきてくれる人はたくさんいます。最近は「『龍が如く』が作りたい」という人が世界中から中途社員などで来てくれるので、ありがたいです。

あと1年ぐらい前から「龍スタTV」などで、「龍が如くスタジオ」のメイキングを出しているんですよ。あれがいいリクルーティングビデオになっているようです。メイキングだとどういう作り方しているのかとか、どんな人がやっているのかという内情が見えるじゃないですか。狙ってやったわけではないですけれど、それを見て飛び込んできてくれる人がすごく増えています。


世界的人気ゲームになっても変えないのが『龍が如く』

――ちなみに、以前に「『龍が如く』のグローバル化が進んだのは『6』がきっかけだった」という話を聞いたことがありました。「これは海外でもいけるんじゃないか」というのを明確に肌に感じた瞬間はありますか。

横山:
『龍が如く0 誓いの場所』(以下、『0』)じゃない?

阪本:
『0』のSteamのリリースで、こちらが想定していた以上に海外で売れたというのが大きなきっかけだと思います。数字として表れていましたね。

――Steamユーザーに特徴を感じることはありますか。

阪本:
実はSteamではゲームの発売日に遊ぶプレイヤーはそれほど多くないんです。ただ、SteamユーザーはPCゲームを1日のうちにちゃんと時間を取ってPCを立ち上げてプレイしているので、インディーであろうと、AAAタイトルであろうと、面白ければ時間を割いてくれるユーザーが多い印象ですね。だからこそ、そこに珍しい日本のヤクザのゲームが入っていけた。今まで『龍が如く』シリーズを知らなかった海外ユーザーがインストールして遊んでみたら結構面白かった、という流れであるのは把握していました。

――『龍が如く』はSteamではあまりないタイプのゲームですよね。しかも長く遊べるタイトルでもありますよね。

阪本:
そうですね。かなり珍しかったと思います。

――海外ユーザーのフィードバックやファンアート作成も活発になってきてますよね。

横山:
だからといって、海外向けを意識しているかというと、そうでもないんです。セガの海外法人の『龍が如く』が好きなスタッフに「何も変えないで」と口を揃えて言われます。海外での売り上げが上がったら海外のキャラを出すとか、海外のステージ出すとかも、必然性がなかったらやらないでほしいと。「とにかく今まで通り横山さんの作りたいものを作ってくれ」と。下手な影響を受けないでといろんな人に言われるので、そこは大事なのかなと思っています。

――海外を意識しないというのは、横山さんとしても強く意識されているところですか。

横山:
どちらにせよ僕は他人の影響をあまり受けない人なんです。それにエンタメはそのときの気分でもあるので、乗るか乗れないかだけなんですよね。毎日ご飯を食べているときに理屈っぽく考えるかというとそうじゃない。ノリで食べると思うし、お客さんにとっては、エンタメはそういうのと同じだと思います。

阪本:
海外の人がなんて言おうが、気にしすぎないようにはしてます(笑)


意外な狭山人気、納得の「なんだと」人気

――続いて国内外のカルチャーについて訊かせてください。たとえば国内でいえば真島吾朗が定番のキャラクターだと思います。海外におけるキャラ人気で、意外に人気だと感じたキャラクターはいらっしゃいますか。

横山:
今夏に放送したRGG SUMMIT(2023年6月16日)で、桐生一馬がプロポーズをしたことがある、あるいはされたことがある、という会話を最後の方でちょっと出しまして、そのときに「狭山」と海外の人みんなから言われたんですね。そこで狭山が出てくるのかと驚きました。

※ 狭山……狭山薫。『龍が如く2』に登場し、桐生と共闘したキャラ。シリーズの中でも珍しく、明確にヒロインとして描かれている女性キャラ。


自分の中では、狭山は過去作の、“昔のオンナ”だと思っていたんですよ。でも海外の人から「狭山はまた出てくるのか」といったような声があってびっくりして。それで今回デリバリーヘルプの中に狭山を登場させたら「やっぱり出た」と盛り上がったので、不思議な感覚ではあります。日本ではあんまり狭山のことを言われた記憶はないですね。

なんといっても、『龍が如く2』は2006年発売ですからね……かなり昔です。『龍が如く 極2』(以下、『極2』)があったから、ピンとくる人が多いのかな。まあ、狭山以降、桐生には恋愛らしきことはないですからね。家族愛の方に話がすすんでいくので、そういうのも理由なのかな。それなら、誰かまゆみのことも言ってあげてよ、と思いますけどね(笑)同棲までしてたんですよ?

※ まゆみ……『龍が如く5 夢、叶えし者』に登場する女性。キャバ嬢であるが秘密をもち、成り行きで桐生と同棲する。


阪本:
(笑)でもキャラ人気については、そのうち日本のファンとそんなに変わらなくなっているなというのはあります。ただニワトリとか、動物とかは海外で人気ですね。

横山:
海外だけで異常に人気なキャラは動物系ですね。それ以外の人間は国内外で一緒だと思います。アクリルスタンドの売上とか見るとわかるんですよ。

一同:
(笑)

横山:
海外の現地の制作会社に「面白い映像を作ってほしい」とお願いすると必ずコケコッ子を入れてくるんですよ。あと『龍が如く7』の羊のやつとか。なんかツボなんですかね(笑)


――(笑)そのほか、海外でよく見るフレーズなどはありますか。

横山:
「なんだと?」です。黒田さんが海外に行ったときに、たとえばフランスでファンの人が集まってきて「あのセリフお願いします」といわれて「なんだと?」と喋って帰ってきた、という話があります。「なに?」「なんだと?」がすごく人気らしいです。

阪本:
あとは天啓のときの「ひらめいた」。日本に来た外国人に密着する日本の番組で海外の龍ファンの方がテレビで語ってましたね。

横山:
日本のユーザーの間ではあんまり出ないセリフですね。日本だったら「死にてえ奴だけかかってこい」とかあるじゃないですか。だけど、フランスに行ったらもう、みんな「なんだと?」ばっかり言う。

――意味が覚えやすく、一番聞く回数が多いからかもしれないですね。

横山:
実際「なに?」「なんだと?」はかなりの数(笑)最近は少ないですけど、『1』から『5』くらいまで数えたら528個検索に引っかかりました。「なに?」「なんだと?」「どういうことだ」、これが多いですね。

というのも、主人公はユーザーと同じ目線に立たないといけないので、聞き返したり、ユーザーと同じ疑問を同じ瞬間に返したりというのを心がけて脚本を書いていると「なに?」にいきつくんですよ。でも同じひとつの話の中で「なに?」が続くと不自然な感じになってしまうので、言い方だけ変える。「それは?」「つまり……」みたいに、変えながらやってるんですけど、500回くらい見ました。

――聞きなじみができると。

横山:
頭の中に残っちゃうんでしょうね。

――ではそういう意味では「ばかみたい」も、すごい人気になりましたね(関連記事)。

横山:
あれはもう、よくわからない(笑)異常なことにはなってます。あの曲、韓国で美容アプリのCMに使われてるんですよ。現地の芸人さんが「ばかみたい」を歌って、そのCMがよく流れているらしいです。単純にファンだからという理由で起用されたそうで。

阪本:
「ばかみたい」という言葉が聞きなじみがあるというのも理由なようで。

横山:
9月21日のセガの前夜祭パーティーでも、「ばかみたい」が流れて海外からきたインフルエンサーがみんなで歌ってました。自分ですらサビしか知らないのに、サビじゃないところも含めて歌ってましたからね。あれは……なんなの(笑)ただまあ、あの曲が『龍が如く』の曲だと知らないで歌っている人もいるので、ゲームシリーズに正しく還元される日を待っています。ちなみに新作では「ばかだろう」という曲が入っていて、PVの中で歌ったりしていますけど、多分流行らないですよ(笑)


――ネットミームは、そういうものかもしれないですね。「ばかみたい」も含めて、海外では結構『龍が如く』のネットミームは多くどんどん拡散されていきます。そのなかでおふたりの気に入っているものはありますか。

阪本:
「誓って殺しはやってません」は海外で人気ですけど、日本人としても面白いですよね(笑)ひとつがバズっているというよりは、いろんなところでいろんなシーンが使われている印象です。

――それほど『龍が如く』が文化として定着し始めているということなんでしょうね。

ゲームとしての領域を越えて、“文化”としても定着し始めている『龍が如く』。『7外伝』と『8』本編だけでなく、新作によってどこまで文化が広がるか、また新たな人気が生まれるかといった点も気になるところだ。

龍が如く7外伝 名を消した男』は2023年11月9日に、『龍が如く8』は2024年1月26日にPC(Windows/Steam)/Xbox Series X|S/Xbox One/PS4/PS5向けに発売予定だ。

[執筆・編集:Kosuke Takenaka]
[聞き手・編集・写真:Ayuo Kawase]





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