「学校の怪談」にインスパイアされたホラーゲーム『TENOME』無料公開中。イギリスから「日本の学校」を丁寧に描く

戦時中の学校を舞台にしたというホラーゲーム『TENOME』がitch.ioにて公開中だ。『TENOME』は、学校に閉じ込められたプレイヤーが日本の妖怪「TENOME」に捕まる前に、懐中電灯を片手に校舎から脱出するというもの。

戦時中の学校を舞台にしたというホラーゲーム『TENOME』がitch.ioにて公開中だ。ユーザーが購入価格を指定できる「Name your own price」形式が採用されており、無料もしくは有料で同作品を入手することができる。このゲームは海外の自作ゲーム投稿サイトGAMEJOLTにて11月3日〜5日に行われたホラーゲーム開発イベント「Asylum Jam」において大賞を受賞した作品だ。わずか48時間にして制作されたにも関わらず、そのクオリティは目を見張るべきものに仕上がっている。

*海外のYouTuberであるJohn Wolfe氏による実況動画

イタズラの報復によって深夜の学校の教室に閉じ込められてしまったプレイヤーが、「てのひらに目がついている」といういかにもなビジュアルの日本の妖怪「TENOME」に捕まる前に、懐中電灯を片手に校舎から脱出するという内容だ。「TENOME」が出現するようになったのは、第二次世界大戦中の日本は国民学校令により多くの学校を設立する必要があり、その為墓地などの安い土地の上に学校を多く建てることが多かったからであるという。要するにお墓に学校を作ることで、霊たちを呼び込んでしまったわけだ。ホラーゲームには「よくある」タイプのシステムであり、ゲーム自体も数十分でクリアできる。だが作中随所に見られる製作者のこだわりを見れば、本作がなぜゲームジャムにて大賞に選ばれたのかが分かるだろう。

先ず特筆すべきはこのゲームの舞台となる学校、そのビジュアルへのこだわりである。このゲームを制作するにあたり、作者であるNyar氏は平山秀幸監督が手がけた日本の名作ホラー映画『学校の怪談』にインスパイアを受けたと説明している。その影響もあってか、戦時中かはともかく「日本の学校」の内装が見事に再現されている。肝心の妖怪はやや西洋っぽいほか、ところどころで散見されるアルファベット表記によってプレイ中の没入感を妨げられることが多少あるものの、少なくとも海外の作品で描かれているようなありがちな「日本っぽい」風景ではないことは確かだ。

ウレタンの樹脂素材で出来た白く細長い廊下に始まり、ひとたび教室に入れば壁には黒板が掲げられ、日本人にはおなじみの学習用の机椅子が綺麗に整列されている。黒板消しクリーナーやよく見たことのあるノート等といった小物も忘れてはならない。トイレの微妙にカビたタイル壁も、保健室のしわのあるベッドも、見たことのある日本の学校の風景が再現されており、プレイヤーによっては恐怖体験よりも懐かしさのほうが上回ってしまうのではないか。

恐怖を煽る演出も日本のホラー作品を参考にしているであろうものが多い。突然鳴るチャイム、曲がり角に消えていく影、電池が切れたかのように点滅する懐中電灯。タイポグラフィーを活用した瞬間的な演出。ジャンプスケア一辺倒ではなく、婉曲的で、皮膚感覚に訴える演出技法はまさしくジャパニーズ・ホラーのそれである。

また開発者であるNyar氏がイングランド・リバプール在住であるという点も見逃せない。東洋から離れた西洋の地でこれだけの熱量を持って日本の学校を描こうとしているのは、称賛に値するだろう。そういった点では、ホラーゲーム好きのみならず、ホラーが平気な日本人であればプレイしてほしい作品だ。このゲームをプレイすることで、恐怖と共に「海外の作品を通じて懐かしさを感じる」という奇妙な体験を得ることができるかもしれない。

Takayuki Sawahata
Takayuki Sawahata

娯楽としてだけではなく文化としてのゲームを知り、広めていきたい。ジャンル問わず死にゲー、マゾゲー大好き。

Articles: 276