ゲーム大会配信の「実況」と「解説」、実は“追ってる情報”から全然違う。『シージ』公式実況キャスターが伝えたい、高速連携プレイの肝

実況と解説は同じ試合のシーンを観ているにもかかわらず、収集している情報が根本から異なる。

Googleでお気に入り登録

熱戦が続く、サッカーワールドカップ(以下、W杯)。日本代表は惜しくも決勝トーナメント初戦で敗退してしまったが、熱気はまだ残っている。私も、ハイライトではあるが、日々追いかけている。

そんな中、W杯の中継において、本田圭佑氏の解説が大きな注目を集めた。ピッチ上の戦術から選手の心理状態まで、元日本代表選手ならではの鋭い解説も魅力だったが、何より人気を得たのが「本田節」と呼ばれる独特の表現。本人が「飲み屋でさんまさんとサッカーを観ている感じ」と話すとおり、「ウザい」や「やばっ!」など、親しみやすい言葉のチョイスでSNSでもバズる結果となった。

世間的にここまで解説という役割が注目されることは稀なのではないだろうか。そんなわけで、今回は実況と解説の話をしたい。

初めましての方もいるかもしれないので、軽くご挨拶。私は『レインボーシックス シージ』(以下、R6S)の公式eスポーツキャスターとして活動しており、ありがたいことに今年の夏で8年も続けさせていただくことになる。 

そんな私が日々、大会の配信やイベントを終えた後に視聴者の方々からよく「ともぞうさん、今日の解説お疲れ様でした!」という労いの言葉をいただく。本当にありがたいことだ。

しかし、実はその度に私は心の中で少しだけ居心地の悪さを感じている。なぜなら、私は「解説」はできない。私の役割はあくまで「実況」であり、「解説」ではないのだ。

実況が今起きていることをリアルタイムに描写し、解説が戦術や選手心理などを掘り下げる。役割が違えば当然、求められる能力も大きく異なる。そして、各タイトルで試合展開が複雑化・高速化するeスポーツ界では、実況と解説が新たなかたちで進化していると日々感じている。

実況と解説の役割分担

実況と解説。皆さんもこの両者の役割の違いはなんとなく理解していることと思うが、大会で実際に実況を担う私が、『R6S』の大会から具体的なシーンを切り出して直接説明したい。

今年2月に行われた『R6S』の年間王者を決める大会「Six Invitational 2016」において、ヨーロッパの強豪チームであるTeam FalconsとTeam SecretがLower Bracket Finalで激突した。

この試合の第1マップ第7ラウンドにおける実況・解説の一コマ(動画の4:54:25あたり)。このラウンドスタート時において、まず私がBriD選手がモンターニュをピックしたことに触れた。これに対し、解説を務めたCrazyPapiyoN氏は、モンターニュのピックがFalconsにとって良い選択なのではないかと説明してくれている。防衛側(Secret)のポジショニングをどかすにあたり、モンターニュが有効ではないかと言及しつつ、Secret側がエラ(モンターニュのカウンターとなるオペレーター)であることから、簡単にはポジショニングを明け渡さないのではないかという、これから起こると予想される試合展開まで語ってくれている。

またこちらは別のシーン。同じラウンドで両チームが1人ずつデスする展開となったタイミングでの実況・解説のやり取り(動画の4:55:49あたり)。私が両チーム1人ずつデスしたことを報告した際にCrazyPapiyoN氏は、FalconsのShaiiko選手がデスしたことで、カピタオという重要なオペレーターがいなくなり、今後の展開が苦しくなることを解説している。また、あわせて時間が少ないため、人数は同数でありながらもFalcons側が不利であることを示唆している。

先ほども書いたとおり、実況である私の仕事は、見えていることを視聴者に報告することだ。特に、eスポーツはゲームUIの関係上、画面の情報量が多い。そのため、私は主に、選手とオペレーターの構成、生存人数、経過時間、誰がキルしたか、誰が生き残っているか、ガジェットの数はどうか、といった画面に映っている情報を細かく拾うことを心がけている。

一方、解説のCrazyPapiyoN氏は画面に映らないところをつぶさに拾ってくれている。今後の展望やキルによるパワーバランスの変化、配信画面に映らなかった出来事の予測などである。

このように、実況と解説は同じ試合のシーンを観ているにもかかわらず、収集している情報が根本から異なる。そして、互いが取得した情報をやり取りし、場合によっては1つの共通点について話し合う。実況・解説のやり取りは、基本的にこの繰り返しなのである。

複雑化するeスポーツ観戦

『R6S』は現在11年目を迎えている。これだけの時間が経つと、当然ながらゲームは複雑化してくる。オペレーター数はリリース当初の20人から77人まで増えた。また、サブガジェットや銃の種類も増えている。

一方で、トッププロの試合においては長年の戦術的ノウハウの蓄積から、試合内容がどんどん複雑化、高速化している。1ラウンドは3分あるにもかかわらず、1分半ほどでどちらかのチームが全滅するというスピーディーな試合展開も当たり前になってきた。

こうした傾向については、『R6S』に限らず『Apex Legends』や『VALORANT』の試合を観ていても思うところがある。そのため、実況・解説キャスターにもゲームへの深いコミットメントが求められていると感じる。そして、それは特に解説側により求められているのではないだろうか。

実際、CrazyPapiyoN氏が解説にいなかったら、今の『R6S』の公式放送はどうなっていたのだろうと思うことがある。CrazyPapiyoN氏は、現役時代には世界大会にも出場し、GUT Gamingなどでリーダーを務めるなど、日本のトップで活躍した元プロ選手である。彼とコンビを組むようになって多くのことを学んだが、ターニングポイントになったシーンは今も鮮明に憶えている。

それは、日本トップリーグでのある試合を2人で担当した時である。いつもどおり、キルシーンが発生した。私はキルログを確認し、その場面を実況したのだが、CrazyPapiyoN氏はキルをしたAという選手ではなく、画面にほぼ映っていない別のBという選手を褒めたのである。その後、CrazyPapiyoN氏はそのシーンをこう解説してくれた。

「今のB選手のスタングレネード、めちゃくちゃ上手かったですね。B選手がスタンを投げて相手を釣ったことによって、相手はA選手ではなくB選手の方を見てしまった。その隙を見逃さず、A選手はピークして、相手を倒しましたね」、と。

B選手がスタングレネードを投げたのは画面の奥にシルエットとしてわずかに映っていた程度。そして情報としてあったのはスタングレネードが起爆する音くらい。その僅かな情報からCrazyPapiyoN氏は、B選手の素晴らしいプレイを見逃さず、言語化してみせた。

この「画面にほぼ映っていない選手が何をしていたか」という視点は、元プロ選手であった彼だからこそできることだと強く感じた。こういった経験があるからこそ、私は『R6S』において、解説をすることはできないと思っている。

『R6S』の実況解説において、「マクロ」と「ミクロ」という用語を使う時がある(他のタイトルではあまり使われていないかもしれない)。

「マクロ」とは、俯瞰的に盤面を見た時、両チームがどういった作戦を取っているかを指す。オペレーターの選び方から、マップでの広がり方などを指す。一方、「ミクロ」とは、選手ひとりひとりの細かな技術である。先程触れたスタングレネードの投げ方や、ピークの仕方、キャラクターの動かし方などのことを指す。

このうち「ミクロ」に関しては、プロ経験者と未経験者では大きな差があると、私は考える。実際、CrazyPapiyoN氏の解説を聞いて、『R6S』というゲームをここまで細かく見ているのかと何度も感心させられた。この「ミクロ」レベルでの解像度の違いがプロと素人の間にはあり、決して私にはできないと感じさせられた。そして、昨今、この「ミクロ」レベルでのプロの技術はどんどん進化している。それらを限られた情報から言語化しないといけない解説の負担は、日々大きくなっていると感じる。

また、別の観点で元プロ選手が解説をしてくれるメリットを感じたことがある。W杯の本田圭佑氏のように、同じ境遇を体験した人は選手の心理状態もよく理解している。『R6S』においても。世界大会を経験しているCrazyPapiyoN氏は、世界大会での試合以外での過ごし方や、負けた時のメンタルの切り替えなど、自らの経験からその難しさを視聴者に伝えてくれる。

これは、日本チームが強くなっていく上での貴重な情報であり、実際プレイヤーの中にはCrazyPapiyoN氏の発言が支えになっている人も多いと思う。

サッカーや野球などの伝統的なスポーツ中継では当たり前のことが、eスポーツにおいては、『R6S』のように10年以上経過したタイトルで、やっとその環境が整いつつある状況といえる。

進化を続けるキャスター業

ところで、実は海外の『R6S』配信では、日本のように実況・解説の役割を明確に分けていない場合も存在する。つまり、2人がほぼ実況の役割をこなすというパターンだ。

これには理由があって、先ほどから触れているとおり、ゲームテンポが速くなっていることへの対処だと考えられる。実際に聞いてみると、キャスターの2人が交互に実況をしているように聞こえる。これにより、速いゲームの展開を正確に伝えることができる。

では、日本のCrazyPapiyoN氏のように、見えていない部分を説明する役割はなくなったのかという話になるが、これには別途「アナリストデスク」が設けられている。試合の折り返し、あるいはマップ間において実況キャスターの2人とは別のキャスターが画面などを使って、試合のポイントを詳しく解説している。このように、『R6S』という1つのタイトルだけをみても、視聴者に分かりやすく試合を観てもらえるように、各国の配信で試行錯誤が続いているのである。

『R6S』における海外との実況解説スタイルの違いをみて、私は日本の実況解説スタイルがなぜこうなったのかを調べてみたことがある。1950年代に入り、アメリカのメジャーリーグのスタイルを取り入れたことで、今の実況・解説という2人体制になったのだそうだ。

NHKの志村アナウンサーが1952年のヘルシンキオリンピックの現地実況の後、帰国前にアメリカに立ち寄ってメジャーリーグを観戦したことがきっかけと言われている(野球殿堂博物館)。志村アナウンサーは帰国後、NHKに提案し、元プロ監督の小西氏を解説に迎え、2人体制がスタートしたのだそうだ。ちなみに、これ以前は放送局のアナウンサーが1人で実況するという形式が普通だったとのこと。

ただ、そこから日本は独自の実況解説スタイルを形成していくことになる。それが、実況=生徒、解説=先生という構図だ。

アメリカでも実況と解説の役割は日本と同じなのだが、2人の掛け合いが少し異なる。日本では実況がホスト役となり進行し、解説に適宜質問を投げかけるが、アメリカでは実況と解説は対等なパートナー関係にあると言われている。試合が落ち着いている時間帯には、お互いにジョークを言い合ったり、意見をぶつけ合ったりするカジュアルな雑談が交わされることもある。

当然、スタイルに正解はないし、どちらもその国の実況解説における文化や歴史を反映したスタイルであり、尊重されるべきだと思っている。ただ、私は日本のスタイルを突き詰めることが、eスポーツの未来にとってよいのではないかと考えている。

日本の実況解説スタイルを極めたい

以前の私の記事を読んでいただいた方であれば、11月には国別対抗のeスポーツ世界大会「Esports Nations Cup」が開催されることはご存知だろう(関連記事)。競技タイトルには『R6S』が含まれており、私もキャスターとして何らかの形で関わりたいと思っている。

各タイトルにおける最高峰の技術がぶつかり合うのが世界大会になるわけだが、W杯同様、世界大会こそ、普段観ない人も観てくれるという矛盾をはらんでいる。つまり、いつも以上に分かりやすく、かつ、そのタイトルの魅力を最も伝えないといけない大会となるわけなのだ。

そうなると、実況が生徒となって視聴者の視点に立ち、解説である先生に質問を投げかけることによって、普段観ない人にも伝わりやすい実況解説ができるのではないだろうか。この点が、日本の実況解説スタイルが今後のeスポーツ観戦にとって相性がいいのではないかと考える理由である。

ただ、現時点でそれが十分にできているかというと、私はまだまだ力不足を感じている。

世界大会のようなハイレベルな戦いは予想のつかない熱狂的な展開が多い。そして私自身、そういった熱狂的な展開に巻き込まれてしまい、解説に的確な質問をすることを忘れてしまう。

ときに私の実況の熱さを褒めていただけることもあり、もちろん嬉しいのだが、それだけでは『R6S』のひとつの側面しか伝えられていない。そのプレイがなぜ熱いのか。「マクロ」「ミクロ」両面から、もっと解説の意見を引き出す必要がある。

そのため、私はもっと「質問力」を高めたいと思っている。視聴者が「今、それ聞きたかった」と毎回思うような絶妙なタイミングで、的確な質問を解説に投げかけたい。

現状はCrazyPapiyoN氏が丁寧な解説をしてくれることによって、私の質問力の低さをカバーしてもらっている場面が多いと感じている。『R6S』においては、彼がいてくれていることで成立しているかもしれないが、私自身、もっと幅広くキャスターとして活躍したいと思っている以上、今の質問力では不十分なのだ。

特に、今後は『R6S』以外のタイトルでも元プロ選手がキャスター席に来てくれるケースは増えると思う。その時に、私の的確な質問によって、元選手しか語れない経験や知識を披露してもらうことは、間違いなくファン獲得、競技シーンのレベルアップに繋がるはずである。

そのことを意識しつつ、これからもしっかりキャスター業に勤しんでいきたい。

この記事にはアフィリエイトリンクが含まれる場合があります。

Googleでお気に入り登録
Tomozoh Yamano
Tomozoh Yamano

ゲーム好きが転じて、eスポーツキャスターやってます。FPSだけではなく、なんでもプレイします

記事本文: 6