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“eスポーツオリンピック”が白紙となった今、「Esports Nations Cup」に高まる期待。「国別対抗戦がなぜ重要?」「日本代表は勝てる?」eスポーツキャスターが考えてみた
みなさんは今年11月、eスポーツ界にとって歴史的な大会が開幕することをご存じだろうか。

eスポーツキャスターの山野智三です。早速ですが、みなさんは今年11月、eスポーツ界にとって歴史的な大会が開幕することをご存じだろうか。
その名も「Esports Nations Cup」(以下、ENC)。Electronic Arts、Krafton、Tencent、Ubisoftといった世界を代表するゲームパブリッシャーが参画を表明し、サウジアラビアのリヤドを舞台に開催される、タイトル横断型の国別対抗eスポーツ大会だ。プロ選手たちが所属クラブではなく、「自国の代表」として戦う。
ちょうどこの原稿を書いている時、サッカーのワールドカップ(以下、W杯)が世間の注目を集めており、日本代表への期待が高まっているところである。W杯と同じように、ENCでも日の丸を背負った選手がeスポーツの各タイトルで脚光を浴びる機会になるだろう。
私自身は、この大会に非常に注目している。それは、本大会がeスポーツの人気を引き上げる起爆剤になってくれるかもしれないからだ。そんなENCへの期待を今回は語りたい。

頓挫した“eスポーツオリンピック”という夢
ENCを主催するEsports World Cup Foundation(EWCF)のCEO、Ralf Reichert氏は「国対国の戦いこそ、スポーツの究極の表現だ。ENCはそれをeスポーツで実現する。すべてのファンが旗を掲げ、すべての選手が自国を代表する誇りを持てる舞台になる」と力強く語っている。
ただ、ここで「おや?」と感じる人もいるかもしれない。国別対抗戦と言えば、オリンピックでもeスポーツが導入される計画があったことを思い出す方もいるはずだ。しかし、実はオリンピックでのeスポーツ計画は急遽白紙になる展開を迎えたばかりだ。
国際オリンピック委員会(以下、IOC)が2024年7月のIOCセッションで「Olympic Esports Games」の創設を承認。世界中のeスポーツファンにとって、夢のような発表だった。ゲームがオリンピックの舞台に立つ——長年検討されていた計画が、いよいよ現実のものになるかに思われた。

しかし、話はそう簡単には進まなかった。IOCとサウジアラビアのオリンピック委員会は、Olympic Esports Gamesについて協議を重ねた末、2025年10月に両者の協力関係を終了すると発表。それぞれが別々の道でeスポーツへの取り組みを進めることを選択した。
なぜ、ここでサウジアラビアが登場するのかというと、このeスポーツオリンピック構想はサウジアラビアが主要パートナーとして全面的にバックアップしていたからだ。現在、サウジアラビアは2030年までにエンターテインメント産業を自国の主要産業にしようと計画を進めている。第1回大会は首都リヤドで開催される予定だった。そんなIOCとサウジアラビアは、2024年に12年にも及ぶ長期契約を結んだのだが、eスポーツオリンピック計画のリセットと共に、わずか1年でこの契約も解消。驚きの展開となったことは間違いない。

計画が頓挫した理由ははっきりとは明かされていないものの、たとえばIOCが採用したいゲームタイトルは、大手パブリッシャーに当然権利があり、大会の完全な管理を前提とするオリンピックのモデルと相容れなかったことも一因とみられている。また、FPSタイトルをはじめとした「暴力的な表現のあるゲーム」などは採用できないという方針もあり、競技人口が多いシュータージャンルが採用候補として扱いづらかった状況も見受けられる。
こういった状況からIOCと袂を分かったサウジアラビアが、独自の国別対抗戦・ENCを急速に推し進めたわけである。そしてそこには、『Counter-Strike 2』、『VALORANT』といったFPSタイトルも名を連ね、全16タイトルが採用された。
eスポーツオリンピックが当面開催されないことが現実味を帯びたことで、国別対抗戦を待ち望んでいたeスポーツファンの視線が今ENCに注がれているわけだ。
トップスポーツに見る国別対抗戦の重要性
では、なぜ私が、国別対抗戦が今後のeスポーツにとって重要だと考えているのか。その理由は、国別対抗戦が持つパワーにある。
みなさんの中にも、普段Jリーグなどの試合は見ないが、W杯の試合は見るという方は一定数いるはずだ。そう、W杯の期間中、サッカーという競技は圧倒的な注目を集めるのである。

2018年のロシア大会では、世界全体で35億7200万人が大会のコンテンツを視聴したと発表されている。これは当時の4歳以上の全世界人口の過半数にあたる数字だ。さらに64試合の1試合あたりの平均視聴者数は1億9100万人。そして2022年カタール大会では規模がさらに拡大し、約50億人が何らかの形で大会に触れ、決勝戦の視聴者数は約14億2000万人に達した。
なぜW杯はここまで見られるのか。私が思うに、理由はシンプルである。「自分の国の選手が出場するので、応援先がはっきり分かっている」ことだ。普段はサッカーに縁のない人も、自国が戦う瞬間だけはテレビの前に座る。競技や選手、チームへの愛着よりも先に、「国を背負う戦い」への感情移入が発動するのだ。
さらに言えば、個人戦で見ても、東京五輪で初めて種目入りした「スポーツクライミング」やパリ五輪の「ブレイキン」など、オリンピックではそれまでメディア露出の多くなかったスポーツにお茶の間が沸く。このように大規模な競技大会には、「知らないものを世に知らしめる」装置としての働きがある。
従来のeスポーツ大会でも国際大会で国別のチームが出場することは少なくなかったが、視聴者層は作品ごとのプロシーンの文脈を知っているような、元から興味のある層に絞られるのが実情だろう。一方でENCではそうした予備知識がなくとも「国別対抗戦」として単体で楽しめる娯楽になるのではないだろうか。eスポーツは「見る娯楽」としてはまだまだマイナーな存在である。そこで、ENCが新しい風をeスポーツ界に吹き込んでくれると期待しているのである。
期待される日本の躍進
ではあらためてENCについて見ていこう。第1回大会は2026年11月2日から29日にかけて、サウジアラビアのリヤドで開催される。
採用タイトルは以下の全16種目。
『エーペックスレジェンズ』
『チェス』
『Counter-Strike 2』
『Dota 2』
『EA Sports FC』
『餓狼伝説 City of the Wolves』
『Honor of Kings』
『リーグ・オブ・レジェンド』
『モバイル・レジェンド: Bang Bang』
『PUBG: BATTLEGROUNDS』
『PUBG MOBILE』
『レインボーシックス シージ』
『ロケットリーグ』
『ストリートファイター6』
『TrackMania』
『VALORANT』

これらタイトルの出場をかけて100を超える国・地域で予選が実施され、10万人以上のプレイヤーが出場権を懸けて争う見込みとなっている。また、ナショナルチームパートナーの申請には152カ国・地域から630件以上が寄せられた。このことからも、ENCへの期待度が伺える。
ここで気になるのが、「日本代表はどこまで戦えるのか」という点だ。はっきり言って、かなり期待できるのではないかと思っている。
まず、オリンピックの柔道ではないが、日本のお家芸といえる格闘ゲームタイトル『ストリートファイター6』も種目の一つ。このタイトルに関しては、日本代表の上位進出の見込みは高いと言える。
実際、出場に際しては現在行われている国際大会の成績に基づいて招待枠が決定するのだが、日本代表のさはら選手、ふ〜ど選手、ひぐち選手のポイントは、2位の韓国を大きく引き離している。

また、FPSタイトルにも期待が集まる。『エーペックスレジェンズ』においても、現在日本代表のランキングが1位である。

また、私がキャスターを担当している『レインボーシックスシージ』(以下、R6S)も期待できるのではないかと考えている。現在、『R6S』の世界大会におけるタイトルはヨーロッパ、アメリカ、ブラジルのチームが取り合っている。ENCにおいてもアメリカとブラジルは優勝候補筆頭であることは間違いない。ところがヨーロッパを見てみると、クラブチームで世界タイトルを争っている選手が、案外各国にバラけている。そのため、国によっては引退をした選手がENCのみカムバックするというケースもある。
こうなってくると、日本代表にもチャンスがあると考える。『R6S』日本代表は、5月末に行われたアジア予選に出場したが、見事突破を果たした。

私もこの予選の試合を見守ったが、いつもとは違う緊張感を味わった。改めて国別対抗戦であることを感じた、そんな瞬間だった。気合を入れて応援していたので、本当に良かった。

新たなる熱狂が生まれる予感
ここまで読んでいただいた方の中には、こんな疑問を持つ方もいるかもしれない。「eスポーツの国別対抗戦は、本当に盛り上がるのか?」と。
その問いに対して、私は正直に言うしかない。「わからない」と。ただ、ひとつだけ確信していることがある。熱狂というものは、作り出せるものではなく、「条件が揃ったとき」に自然と生まれるものだということだ。
W杯が数十億人を熱狂させたのは、FIFAが「熱狂してください」と命令したからではない。自国チームが世界の舞台で「国を背負って戦う」という文脈が競技に加わったことで、人間の本能的な帰属意識が刺激され、人々が競技に関わる理由が根本から変わったからではないだろうか。ENCはその「条件」を、eスポーツに初めて大規模かつ本格的に持ち込もうとしている。
もちろん課題は山積みだ。eスポーツはこれまで選手のストーリーや文化的背景を掘り下げるストーリーテリングが、伝統的スポーツと比べてほとんどできていなかった。国別対抗戦の熱狂を生み出すには、試合の結果だけでなく、選手個人の物語を届けるメディアやコンテンツの充実が不可欠だ。「日本代表の〇〇選手」という存在が、ゲームを知らない人にも届く形で語られるようにならなければ、熱狂の裾野は広がらない。

また、ENCは2年に1度の開催というサイクルを予定している。初回はリヤドで開催され、その後は開催地を変えながら世界各地に舞台を移していく予定だ。W杯やオリンピックが4年に1度という希少性によって熱狂を維持しているように、ENCもその周期が「待ち焦がれる大会」としての価値を支えるかもしれない。ただ、それが機能するかどうかは、第1回大会がどれだけの熱量を生み出せるかにかかっている。
私自身、ENCの採用タイトルに『R6S』が含まれているということで、キャスターとして何らかの形で関わりたいという気持ちは当然ある。しかし、それ以上に一人の日本eスポーツファンとして、各タイトルの日本代表を全力で応援したい。そして、国別対抗戦というきっかけを通して、他のタイトルの魅力をより理解したいと考えている。
eスポーツが誕生してから数十年。その間、このカルチャーは「ゲーム好きの趣味」から「世界規模の産業」へと変貌を遂げた。ただ、トップスポーツなどのエンターテインメントコンテンツと比べるとまだまだ小規模としかいえない。しかし「国を背負う」という戦いの装置を持つことで、大きく飛躍する可能性がある。
ENCは、eスポーツにとって最後のピースを埋めるかもしれない挑戦だ。うまくいくかどうかは、2026年11月のリヤドが答えを出してくれる。ただ、少なくとも私は、一人のeスポーツファンとして、その瞬間をとても楽しみにしている。
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