フリーアナウンサー・松澤千晶氏の『FF14』に無自覚なネタバレをする人々と、それに憤る人々。千差万別のネタバレ観について考える

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ホリプロ所属のフリーアナウンサー・松澤千晶氏は3月1日に『ファイナルファンタジーXIV』(以下、『FF14』)のプレイを開始して以降、日々の冒険の記録をTwitterにしたためている。しかし、彼女の冒険の進捗報告に対して先の展開を匂わせるようなリプライを飛ばす人々に「ネタバレを送りつけているのではないか」と憤るプレイヤーもいるようだ。

松澤氏はアニメや漫画、ゲームなどのオタク文化に造詣が深いことで知られているフリーアナウンサーだ。『FF14』のプレイを始めたのも、自身がナレーションを務めたNHKの特集「全ファイナルファンタジー大投票」がきっかけだったようだ。『FF14』のキャラクターへの投票とともに寄せられた熱いコメントが気になり、光のアナウンサーの冒険は始まった。

同じ進行度のプレイヤーと仲良くなったり、キーボードを持っていないためジャンプで意思表示をしたりといった微笑ましいエピソードを報告しながら「新生エオルゼア」をクリアし、松澤氏の冒険は次の舞台・イシュガルドへ。2015年に発売された「蒼天のイシュガルド」は『FF14』大型拡張ディスクの第1弾。ダークファンタジーの色合いが強く、1000年の長きにわたって続けられてきた人とドラゴン族の戦争の歴史と、イシュガルドという国の欺瞞が暴かれていく。プレイヤーの間でも評価の高いシナリオに期待の新人冒険者が到達したとあって、日々更新される松澤氏の冒険録を待ちわびているプレイヤーも多かったようだ。

 

無自覚なリプライがネタバレとなる可能性

ネタバレではないかと物議を醸しているのは、物語が大きく進展する場面の直前に到達した松澤氏に対し、「あっ……」「気を確かに持ってくださいね……」など、その後に「何か」があることを匂わせるようなリプライを送る行為だ。このようなリプライはその後のイベント内容をはっきりと明言していなくとも、察しのいいプレイヤーであればそれまでの物語や登場キャラクターの布陣などから展開を予想できてしまう可能性があり、せっかくの盛り上がりに水を差す発言になりかねない。

「イシュガルド教皇庁」に到達したという松澤氏の報告ツイートには意味深なリプライが散見され、さらにはそのリプライに対して憤りのリプライを送るユーザーも現れる始末。松澤氏が竜詩戦争の真実に迫ろうとしている裏側で、無自覚にネタバレをする人間とネタバレを憎む人間も争いを始めてしまったのだ。

受け取り手がどの程度寛容かによるものの、場合によっては逆鱗に触れてしまうこともあるネタバレ問題。幸い、松澤氏は「現地で感じ取りたいだけなので、ネタバレは問題ない」と自身のスタンスを表明しており、匂わせリプライによって傷ついた様子はないようだ。しかし、「何をもってネタバレと判断するか」というラインは人によって全く異なってくる。何でもない単語でも過剰にネタバレだと騒ぐことで物語の鍵となる単語だとわかってしまうこともあるし、極端な話、アイテム名を話題に出しただけでネタバレだと感じる人もいる。ネタバレというのは気にしない人は全く気にしないものの、気にする人間にとっては親の仇に等しい存在だ。政治や野球の話題と同じくらい、取り扱いに注意すべき話題と言えるのではないだろうか。

 

公式のネタバレ配慮の手厚さも一因か

『FF14』では、かなり手厚くネタバレへの配慮を行っている。最新コンテンツ実装時のパッチノートでは、物語の根幹に関わるコンテンツ名は「????」と伏せられた状態で記載される。コンテンツ名から何が起こるか予想できてしまうことを避けた作りで、ネタバレに過敏なプレイヤーも安心というわけだ。また、パーティ募集一覧を開いた際もプレイヤーが開放していないコンテンツは名前が暗転されて見えなくなり、後続プレイヤーが思わぬところでネタバレを踏んでしまう可能性をできる限り潰そうという配慮が窺える。

プロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏は、生放送などの場で自身のネタバレ観について話すことがある。2019年に行われた「FINAL FANTASY XIV ORCHESTRA CONCERT 2019 -交響組曲エオルゼア-」のMCでは、アンコール楽曲のサプライズ性を高めるために最終公演終了まではSNSにネタバレを投稿するのを控えてほしいとコメント。その際に「アンコールに何かあると匂わせるのもNG」と話している。松澤氏へのネタバレリプライに否定的なプレイヤーと近い見解だろう。

一方で、第53回プロデューサーレターライブで着用していたTシャツに「ネタバレではないか?」というコメントを受けた際には、「ネタバレだとコメントすることで、逆にネタバレ要素があるものだとわかってしまう」と返しており、過剰に反応することで逆にネタバレだと気付いていない人に察させてしまうことも指摘していた。

吉田氏はミステリー小説を愛読していることも公表しており、残念ながら昨今の社会情勢から企画実施は未定であるものの、「十角館の殺人」などで知られるミステリー作家・綾辻行人氏との対談も予定されている。ミステリー好きというバックボーンも、同氏のネタバレ観の構築に一役買っていると思われる。

そんな吉田氏の英才教育を受けたプレイヤーたちもまた、ネタバレに対する意識が高いようだ。Twitterや公式フォーラムなどのコミュニティでも、スクリーンショットの投稿にワンクッションを置いたり、伏せ字で投稿できるサービスを活用して感想を話したりしている人々は少なくない。そして、ネタバレ意識の高いプレイヤーが少なくないということは、裏を返せば、匂わせネタバレについて違和感を抱く人口も少なくないということだ。公式がネタバレへの配慮をした結果、無自覚なネタバレをする人々に対して厳しい視線を向けるプレイヤーが増えたとも言えるかもしれない。

人によって匙加減が全く異なることから、ネタバレ問題には正解がない。しかし、物語の核心が素晴らしいものであるほど、その感想を共有したくなるのが人間というものだ。とはいえ、自分では思ってもいない発言がネタバレになってしまうことは往々にしてあることだ。そして筆者の懸念は、そもそもこの記事が「蒼天のイシュガルド」のネタバレになっているのではないかという点である。

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