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「暇を持て余した少年少女の超能力者たちのバトル群像劇」。でも描かれるのは人間の内面。『ベオグラードメトロの子供たち』を今こそ遊んでみよう
PC-98を思わせるドット絵調のビジュアルを基調としながら、作者の隷蔵庫氏が実際にセルビアで撮影した写真を加工した背景や、エレクトロニックな楽曲を組み合わせることで、独特の退廃的な空気を作り上げている。

Steamでは日々数多くのゲームがリリースされている一方で、個人や少人数チームによる国産タイトルには大作の話題に隠れながらも、独創的なアイデアや強いこだわりを持つ作品が少なくない。本連載「見逃してない? 国産Steamタイトル発掘録」では、同人・インディーゲームを中心に、国産Steamタイトルを毎回1本ずつピックアップして魅力を伝えていきたい。
ベオグラードの地下に集う「持たざる者」たち
連載第8回となる本稿では、個人サークル「Summertime」が手がけるビジュアルノベル『ベオグラードメトロの子供たち』を紹介。本作は2020年9月にSteamで発売された「サイキックバトル&サイコサスペンスノベルゲーム」で、PC-98を思わせるドット絵調のビジュアルを基調としながら、作者の隷蔵庫氏が実際にセルビアで撮影した写真を加工した背景や、エレクトロニックな楽曲を組み合わせることで、独特の退廃的な空気を作り上げている。
物語の舞台は、旧ユーゴスラビア圏にあるセルビアの首都・ベオグラードだ。20XX年、セルビア各地で“超能力者”の存在が確認され、政府は能力を使用した者を罰する法律を制定。それから10年後、ベオグラードへ引っ越してきた無能力者の少年シズキは、家出をきっかけに建設中止で放置された地下鉄「ベオグラード・メトロ」へ迷い込む。そこは社会からはじき出された能力者たちが集まり、暇を持て余しながら暮らす場所だった。さらにベオグラードを牛耳る巨大企業ゴールデンドーン社による、「能力者狩り」が彼らを脅かしており、シズキは能力者たちと関わるなかで、事件へと巻き込まれていく。

『ベオグラードメトロの子供たち』の特徴は、「超能力」という題材を使いながら、能力自体を羨望の対象として描いていないことだ。本作にはサイコキネシスを持つデジャンや、巨大企業の令嬢であるマリヤ、少数民族の少女ネデルカなど、立場も性格も異なる人物が登場するが、彼らはそれぞれ異なる形で自分自身の欠落やコンプレックスを抱えている。主人公のシズキに至っては無能力者であり、能力者たちが集まるメトロのなかでは「普通の人間」でしかない。
ジュブナイル作品を思わせる背景だが、本作で描かれるのは、「特殊能力を手に入れて活躍する」というヒロイックな物語とは少し違う。むしろ他人が持っているものと自分が持っていないものを比較してしまう劣等感や、誰かに認められたいという欲求が、能力という設定を通して浮かび上がっている。だからこそ、シズキも能力者たちの世界へ入り込み、彼らの隣に立とうと奮闘し、能力を持っていても自分ではどうにもならない事情もある。そうした人物たちが集まることで、「特別な力があるかどうか」と「自分に価値があるかどうか」は別問題なのだと強調するストーリーに仕上がっていた。

一方で、本作は重苦しい心理描写だけに終始する作品でもない。能力者同士の戦闘や、巨大企業との対立、シズキとマリヤを中心とした人間関係など、エンターテインメントとしての大きな見どころも用意されている。また、ゲームを読み進めることで新聞や手紙、日記など、ベオグラードの能力者問題に関係するさまざまな資料が解放されていく。
物語を読むだけでなく、作中に残された資料を拾い集めることで世界の背景を知っていく構造になっており、巨大な事件の全体像を少しずつ組み立てていくサスペンスとしての側面も強い。そのため能力者をめぐる社会の構造や登場人物たちの内面を描きながら、サスペンスとして先を読みたくなる推進力も保たれており、ジャンル名の「サスペンス+サイキックビジュアルノベル」が指し示すように、両者が別々に存在するのではなく、物語の両輪として展開を動かしていく作品なのだ。

『ベオグラードメトロの子供たち』は、超能力者が登場するサイキックバトルであり、社会からこぼれ落ちた子供たちの青春群像劇であり、ベオグラードという土地を舞台にしたサスペンスでもある。だが作品を最後まで読み進めて強く残るのは、「特別な人間になりたい」という願望の内側にある、誰かに必要とされたい、自分にも価値があると思いたい、自分がいてもいい場所を見つけたいという切実な感情だろう。
こうした思いは超能力を持っているかどうかに関係なく、多くの人間が抱えており、登場人物たちの抱える劣等感や孤独が自分自身の感情と重なって見えてくる。キャッチーで派手な設定の裏側にある、人間の弱さまで描き切ろうとした姿勢こそ、『ベオグラードメトロの子供たち』最大の魅力なのではないだろうか。
『ベオグラードメトロの子供たち』はPC(Steam/BOOTH)向けに発売中。なお、山座一心氏によるコミカライズ版も講談社から2026年9月まで連載されており、原作を知るきっかけとして漫画から入ってみるのもいいだろう。
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