世界最高峰『LoL』プロチームの栄光と挫折。ドキュメンタリー「Breaking Point」を観る

 

ここ数年、欧米や中韓で大きく盛り上がっている「e-Sports」。トッププレイヤーが華々しい戦いを繰り広げるe-Sports国際大会は、優勝賞金が100万ドルを超えることもあるほどで、実績を積み重ねた選手は注目の的として世界中からもてはやされる。日本でも近年はさまざまな組織がe-Sportsに参入し、所属選手への給与制度やゲーミングハウスでの生活支援といったシステムが徐々に整えられつつあり、単なる娯楽ではなく人に見せるためにゲームをプレイする職業として「プロゲーマー」の数が増えつつある。そんな華やかな栄光の裏に存在する、プロたちの挫折や苦闘をご存知だろうか。

今年3月に日本でもサービスが開始されたMOBA『リーグ・オブ・レジェンド(LoL)』は、2011年より世界規模でのプロシーンを展開するプレイヤー人口世界最大のe-Sportsタイトルだ。北米と欧州にはそれぞれ、Riot Gamesが直接運営する『LoL』の公式プロリーグ「League of Legends Championship Series(LCS)」が存在する。現在、両地域それぞれのリーグには10チームが参加しており、世界大会を目指してしのぎを削っている。

そんな世界トップの北米リーグに参戦している「Team Liquid」というチームがある。プロリーグ黎明期から存在していた古参チームである「Team Curse」を前身とするこのチームの歴史は長く、2015シーズンの夏期スプリット・レギュラーシーズンを1位という優秀な成績で終えたこともある。チームメンバーとしては、2013年の世界大会優勝チーム「SK Telecom T1」でADCを務めていたPiglet選手や、気鋭の若手トップレーナーであるLourlo選手、2016シーズン春期最優秀新人賞を獲得したジャングルのDardoch選手といった粒ぞろいの精鋭をそろえている。しかしながら、Team SoloMid、Counter Logic Gaming、Cloud9、Immortals、全盛期のTeam Impulseといったチームを前に、世界大会への出場を逃し続けてきたチームという側面も持っている。

本稿で取り上げるのは、このTeam Liquidについて11月2日に公開されたドキュメンタリー動画「Team Liquid | Breaking Point」だ。Breaking Pointというタイトルと共に、水底へと沈みながら砕けゆくチームロゴから始まるドキュメンタリー映像は、100分以上にわたる超大作。その長大さにもかかわらず、公開2日で24万再生を記録しており、その視聴回数は現在も増え続けている。ドキュメンタリーでは春期スプリット終了後から夏期スプリットが終了するまで、Team Liquidおよび二部チームである「Team Liquid Academy(TLA)」がどのような苦難を前にしたのか、どのように対処あるいは失敗していったのかを包み隠さずに映し出している。

 

最初のほころび

すべてを語る前に、春期スプリットを終えた時点でのTeam Liquidの状況を振り返ってみよう。レギュラシーズンをImmortals、CLG、C9に次ぐ4位で終え、プレイオフはCLGとImmortalsに敗れて4位という結果だった。しかしながら、ジャングルのDardoch選手は最優秀新人賞を獲得し、個々人のKDA(Kill/ Death/ Assist)順位も全員がリーグ中2位から3位にランクインする結果となっていた。他チームの状況に目を向けると、TSMは2016年初頭の補強が上手く機能せず低迷し、C9は要となっていたHai選手の去就から夏以降が不透明。Immortalsはプレイオフでのあまりにもあっけない敗退から、明確な弱点を突けば無敵ではないと露わになっている。「リーグ全体で見れば精鋭ぞろい」のTeam Liquidは、チームのレベルアップ次第ではImmortalsやCLGに続く第三のチームとして世界大会出場も狙えるであろうという位置につけていた。いよいよ呪い(*)を打ち砕こうと意気込んでミッドシーズンを迎えようとしていたことになる。

(*)Team Liquidは前身となるチーム名が Team Curse、すなわち「呪い」だったため、毎シーズンギリギリのところで世界大会出場に届かない状況をさして、「Curseの呪い」とコミュニティ内で言われるのが常だった。

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春期スプリットのプレイオフにて準決勝に臨むTeam Liquidのメンバーたち。画像出典:Riot eSports Flickr

春期スプリットを終え夏期スプリットでの飛躍に向け、チームとして初の韓国ブートキャンプを行うチーム。しかし北米での練習試合とは次元の異なる厳しい練習結果に打ちのめされ、チーム内には不協和音が生じる。自信を喪失する者、コーチからの指示を信じられなくなる選手、練習に対する態度の温度差で生じる溝。特にジャングルのDardoch選手とADCのPiglet選手、そしてコーチのLocodoco氏の関係悪化は後々までチームに暗い影を落とすことになる。

5月: Team Liquid、韓国ブートキャンプ実施。

 

シーズン開幕、苦渋の処方

韓国ブートキャンプでの振る舞いが目に余ったため、Dardoch選手に対しては謹慎処分が科された。チームの要であるジャングルが欠けた状態で開幕を迎えることとなってしまったTeam Liquidは、新規昇格チームである「Team EnVyUs」に対し0勝2敗で開幕初戦を落としてしまう。謹慎明けのDardoch選手をTeam SoloMid相手の第二試合に投入するも、韓国でのブートキャンプに成功していたTSMに対してなすすべなく敗退。最下位で夏期スプリットをスタートすることとなった。

第二週は一勝一敗だったが、対戦相手のEcho Foxがチーム作りに苦労していた面が大きかったゆえに得た勝利に過ぎなかった。また、Dardoch選手とPiglet選手のコミュニケーションの問題は解決不可能な水準に達しているようだった。ジャングルのプレイヤーはすべてのレーンに介入してゲームメイクを行う重要なポジションであり、レーンの選手とコミュニケーションに問題があっては勝つことが難しい。2015シーズンにおいてTeam SoloMidで不動のTopを務めていたDyrus選手も「上手くジャングルをコールできない」という点で非常に苦しんでいた。

選手間の問題に立ち戻ると、ここで非常に難しい判断を迫られたのがTeam Liquidの経営陣だ。コミュニケーションが崩壊してしまったDardoch選手とPiglet選手を一つのチームで使い続けることはできない。となればいずれかの選手は放出ないしサブへの降格、TLAへの移動を考えなければならない。ここで問題となったのは、Dardoch選手の価値が高くなり過ぎていた点だ。彼は18歳と若く、春シーズンに最優秀新人賞を獲得した北米出身ジャングラーという評価を得ていた。将来性があり、既に十分な技量を備えている上に「外国人選手枠(*)」を使わずに済む選手となれば、どんなチームも彼を歓迎し更なる補強を行いたいのは明白だった。この問題は結局、Piglet選手がTLAへの移動を申し出たことで、表面的には解決されることとなる。

(*)『LoL』プロリーグでは、チーム5名の選手のうち、外国人選手を入れられるのは2名までとなっている。3名は必ず当該地域在住の選手を入れなければならないため、どんなチームであっても才能ある地元選手の優先度は非常に高い。

夏期スプリット第二週、ヘッドコーチのLocodoco氏を囲んで舞台裏で作戦会議をするメンバーたち。画像出典:Riot eSports Flickr
夏期スプリット第二週、ヘッドコーチのLocodoco氏を囲んで舞台裏で作戦会議をするメンバーたち。画像出典:Riot eSports Flickr
6月1日: Dardoch選手が態度およびチームとの問題により4日間の謹慎処分。代理をTLAのMoon選手が勤める。
6月3-5日: LCS Summer Splilt 開幕 対Team EnVyUs戦、TSM戦をいずれも0-2で落とし2敗。最下位でのスタート1となる。
6月10-12日: LCS第二週 1勝1敗で7位へ浮上。
6月17日: 正ADCとしてFabbbbyyy選手が登録、Piglet選手はサブに退く。
6月17-19日: LCS第三週 初の2勝で5位へ浮上。
6月22日: Piglet選手がTLAの正ADCとして登録される。

 

解けぬ呪い、そして破断(Breaking Point)

なんとか体勢を立て直し、新チームや新体制チームに対して勝ち星を重ねて順位を維持するTeam Liquid。とはいえ破竹の快進撃を続けているTSMやImmortals、着実に勝利を重ねるC9に追いつくことができない。そして迎えた夏期スプリットレギュラーシーズン最終週。残った対戦カードは、今夏からLCSに昇格しプレイオフ進出ギリギリのラインをさまようApex Gamingと、順位は上ながら過去の対戦で勝利しているC9となっていた。いずれにせよ、プレイオフに向けて勝って弾みをつけたい組み合わせだ。にもかかわらず、チームは2つの対戦カードを両方とも落とし、CLGに順位も追い抜かれて5位でシーズンを終えてしまう。特にApexに対する敗北はDardoch選手にとって耐えがたい結果であり、そのフラストレーションは限界に達していた。最終日には共同オーナーのLiQuiD112氏と口論に近い話し合いをするに至っていたのだ。

チームメイトを信頼できなくなっていたDardoch選手を含むチームは、プレイオフへの準備も結局は十分とはいかず、プレイオフ初戦であっけなくCLGに敗れる事となる。春夏ともそこそこの成績で終えていたTeam Liquidには、まだ最後の世界大会出場枠を決める「NA Regional Finals(北米地域代表選出大会)」が残されていたが、その前にDardoch選手はEcho Foxへの移籍を決めた。さらにPiglet選手に代わってADCを務めたFabbbyyy選手も同タイミングでチームを離脱。Team Liquidは夏期スプリット開始時とはまったく別の急造チームとなった状態でNA Regional Finalsに参加することになり、初戦で惨敗を喫する結果となった。

Regional Finalsにおいて、急造チーム内でもっともベテランだったミッドのFenix選手は、ヘッドコーチのLocodoco氏との間でチーム内のコミュニケーションについてこう訴えている。「5人の自信を保ちながら、コミュニケーションを取らせるためにチャンピオンピックを歪めるのか。(サポートの)Mattにバードを使わせた7試合はすべて負けている。何をすればいいかわからない5人すべての面倒を見ることなんてできない」。選手・スタッフ間の信頼関係が大きく損なわれていることが明らかになっていた。

Regional Finalsの選手席にて精神統一中のLourlo選手。正しい状況判断を行うためには安定したメンタルが求められるが、それを支えるはずのチームは瓦解しかけていた。画像出典:Riot eSports Flickr
Regional Finalsの選手席にて精神統一中のLourlo選手。正しい状況判断を行うためには安定したメンタルが求められるが、それを支えるはずのチームは瓦解しかけていた。画像出典:Riot eSports Flickr
6月24-26日: LCS第四週 1勝1敗ながら対APX戦の結果から単独5位。
7月1-3日: LCS第五週 2勝で4位へ浮上。
7月8-10日: LCS第六週 1勝1敗、順位変動なし。
7月15-17日: LCS第七週 1勝1敗、順位変動なし。
7月22-24日: LCS第八週 1勝1敗、CLGが2勝で同率4位に並ぶ。
7月29-31日: LCS第九週 夏シーズン2度目の2敗、順位を一つ落として5位でレギュラーシーズン終了。試合後に共同オーナーのLiQuiD112氏とDardoch選手が口論に近い話し合いを行う。もしこの週に2勝していればLiquidは3位でシーズンを終えることができた。
8月15日: Summer Playoff初戦、CLGに対し1-3で敗退。第三試合からFabbbyyy選手に代わってJynthe選手がADCとして起用され、1勝をもぎ取るも最終的に敗北する。
8月30日: Dardoch選手およびFabbbyyy選手がチームを離脱。Dardoch選手はEcho Foxへ移籍。ジャングルはミッドレーナーとしてサブ登録されていたArcsecond選手に変更。
9月4日: 2016 NA Regional Finals 初戦、EnVyに対し0-3で敗退。

 

ただの選手でいられない苦悩

一方で、TLAへと移ったPiglet選手はどうだっただろうか。彼はチームメイトからも多大な敬意を払われ、存分にプレイすることができるように思われた。しかし、その敬意は次第に単なるプレイヤーではなく、チームのリーダーとして機能することを求める流れへと変わっていった。自分のプレイに専念できないことに不満を抱えつつも、なんとかモチベーションを保って昇格戦までたどり着くことはできたが、接戦の末にEcho Foxに敗北。モチベーションの限界に達した彼は敗戦の翌日、韓国へと帰国することとなった。

7月7日: 2016 NACS Summer Round Robin TLAはチャレンジャーチーム中2位で終了。
7月20日: 2016 NACS Summer Playoffs、決勝戦においてTLAは Cloud9 Challenger に2-3で敗北。2位に終わるが昇格戦への出場権を獲得する。
8月4日: 2017 NA LCS Spring Promotion、 TLA対Echo Fox戦 最終戦までもつれ込むも2-3でTLA敗北。
8月5日: Piglet選手、帰国。

 

誰が、どうするべきだったのか?

こうして、春期スプリットには気鋭のメンバーを揃えていたはずのTeam Liquidはバラバラになってしまった。春に最優秀新人賞を獲得していたDardoch選手はEcho Fox(夏終了時には降格圏チーム)へと移籍。世界王者となった経験もあるPiglet選手は失意の内に帰国。最優秀コーチを受賞したこともあるLocodoco氏はヘッドコーチから降りる形となり、チームはまたしても世界大会への切符を手にすることはできなかった。それぞれが多くのものを失う結果に終わってしまったのだ。

『LoL』のチームは、複雑な力関係の上に成り立つ非常にデリケートなシステムだ。チームメンバー同士が建設的な関係を築き、コーチは常に権威をもって選手を公平に扱わなければならない。機能不全に陥ったチームの内情については、かつてCLGのLink選手が引退時に膨大な量のテキストで問題を訴えたこともあった。その文書内で当時「声が大きすぎる選手」として名前が挙がったDoublelift選手は、今春からTeam SoloMidに移籍した後、オーナーのReginald氏や北米きってのミッドレーナーであるBjergsen選手と良好なチームを作り上げている。リーグ黎明期の生きた伝説であるReginald氏は、態度に問題のある選手を放出する際の判断が非常に早く、キーとなってきた選手やスタッフであっても決断的に解雇を行い、即座に次のタレントを見出してきた。チームと選手の問題は解決することは可能なのだ。

とはいえ、選手の態度を諫めることができなかった上流スタッフがもう少しケアできれば良かったのか。Locodoco氏のチーム運営がもう少し建設的なら。Dardoch選手やPiglet選手がもう少しコミュニケーションで歩み寄りをできていたら。そういった「if」に意味はないだろう。2016シーズンはすでに終わり、かつてのTeam Liquidは砕け散ってしまったのだ。

画像出典:Riot eSports Flickr
画像出典:Riot eSports Flickr

 

破壊の先に見える希望

2016シーズンは終わり、Team Liquidは新たな姿に生まれ変わらなければならない。そのための布石は既に打たれている。新ジャングルであるArcsecond選手は元ミッドレーナーだが、その技術は北米サーバーのランキングで1位を獲ったことがある水準だ。技量に優れた元ミッドのジャングル選手として、Hai選手やAmbition選手のように地域リーグや国際舞台で活躍している例もある。これから2017シーズンに向けて本格的なロール転向が行われるだろう。

また、ヘッドコーチがDLim氏に変更されることで、スタッフと選手の関係も大きく変わるだろう。2016シーズンにTLAのコーチを務めていた同氏は、力強く建設的な言葉で常にTLAのメンバーを鼓舞し、敗れればそれは自らの力不足であると声をかけていた。声を荒げるシーンもみられた前任者とは、大きく違う印象を与えてくれるコーチだ。

Team Liquidは間違いなく生まれ変わる。その結末を2017シーズンにおいてぜひ見届けて欲しい。

9月28日: DLim氏のヘッドコーチ就任が発表される。
11月2日: ドキュメンタリー動画「Team Liquid | Breaking Point」公開。
2017年1月: NA LCS(北米リーグ)2017シーズン開幕

 

[執筆協力: ユラガワ@Wired-Lynx]