株式会社ワンコネクトは12月7日、『桃の華は鮮血に染まる』のNintendo Switch版を発売した。また、Nintendo Switch版の発売にあわせ、本作のSteam版にも大型アップデート「陰陽少女」が配信。物語の完結までが描かれる7章から12章までの追加をはじめ、立ち絵のリメイク、ボイスやイベントCGの新規追加などと、大ボリュームのアップデートとなっている。


『桃の華は鮮血に染まる』はダークな世界観を持ち味とする和風のビジュアルノベルだ。舞台となるのは人々に取り憑く奇怪な存在「妖」と陰陽師が戦う平安時代。双子の凄腕陰陽師に育てられた三人の陰陽少女たちの物語を描く作品だ。天才陰陽少女である長女の燿。燿と張り合って天才陰陽師を目指す三女の紬。そして、謎多き刀剣少女である次女の桃。

三姉妹は、危険な妖「鬼」が住まう鬼ヶ島に結界を張るために旅に出ることとなる。旅の中では、三姉妹たちは自らの過酷な運命と向き合い、成長していく。本作ではそんな三姉妹の過酷な旅が、美しいビジュアルと豊富なサウンドトラックと共に進められていくのだ。そんな本作の魅力はどこにあるのか。筆者的には「中ニ感」「2000年代深夜アニメ」だと考えている。


中二エッセンス満載の物語

本作を遊んだとき、筆者がまず感じたのは作品全体の設定や物語から放たれる「中二エッセンス」だ。本作には、いわゆる中二病的な設定や物語がふんだんに入り込んでいる。物語は、主に次女である桃の視点から進行するのだが、桃はまさしく中二エッセンスを詰め込んだキャラクターだ。三姉妹で唯一、陰陽術ではなく刀での近接戦闘を得意とするところや、左眼が常に閉じられていること、それにまつわる過去の残酷なエピソードなど、筆者が多感な時期であったら、憧れていたキャラクターのひとりとなっていたのではないかと思うほど、中二エッセンスが詰め込まれている。

加えて、本作は陰陽術を用いた激しい戦闘と、血しぶきが飛び散るようなグロ・スプラッター表現が多いのも、中二エッセンスを感じる要因のひとつ。プレイヤーの中二心をくすぐるダークな設定や残虐な演出は、舞台背景や設定こそ違うものの「ひぐらしのなく頃に」や「HELLSING」などをはじめとする2000年代深夜アニメの数々を彷彿とさせ、どこか懐かしい気持ちにもなった。


また、本作はいわゆる「日常パート」とされるものが少なく、常にテンポよく物語が動き続けるのも特徴。ビジュアルノベルではあるが、小気味のいい戦闘パートが続くため、少年誌に掲載されているバトル漫画を読み進めていくような気持ちでゲームを進めることができた。本作の物語や設定は、2000年代深夜アニメを彷彿とさせるようなダークな中二エッセンスが満載の内容だが、それを自然と吸収し楽しむことができたのは、このテンポのよいストーリーのスピード感があったからだろう。

また、グロ・スプラッター表現を含んだ少年漫画的な展開スピードは、「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」などの、昨今の人気少年漫画にも類似するところがあり、ライトに物語を楽しみながらも、2000年代深夜アニメのダークなフレーバーを味わうことができるのも、本作ならではの体験だ。


中二病から伝奇モノに

全12章ある本作の1〜3章は、先述したように中二エッセンスが満載の物語となっているが、4章以降はそのエッセンスを残しつつ、日本神話や民話をテーマとした伝奇モノへと変化していく。半妖半人の怪物「憑き人」の存在や、黄泉の国からきたイザナミノミコトとの出会い、そして謎多き陰陽少女たちの衝撃的な真実。

軽快なテンポで展開した妖との戦闘パートは、次第に真実を知った陰陽少女たちの葛藤へと変わっていく。陰陽師として自分に課された真実と向き合う三姉妹の描写は、これまでと変わってキャラクターの内面に寄り添ったものとなっており、その緩急の付け方に筆者は少し驚きつつも楽しめた。物語の中間地点となる6章では、陰陽少女たちはある決断を迫られることとなる。その時の少女たちの葛藤と決断の場面はイベントCGとアニメーションを効果的に使ったエモーショナルなものとなっており、思わず感情が揺さぶられた。

また、本作は伝奇モノとして日本神話や民話にリスペクトを持ちながらも、それをうまく掛け合わせたストーリーとなっている。陰陽師と妖、日本神話から来るイザナミノミコトの背景や、民話から着想を得ている設定の数々など、別々の伝承として存在しているものが、本作では深く絡みつき、ひとつの大きな世界を作り上げているのも、本作が伝奇モノとして楽しめる要因のひとつだ。


そして、Nintendo Switch版と、Steam版の大型アップデートにて追加されることとなった7〜12章は、さらに神話や伝承にふれることにより広がる世界観と、衝撃的な展開の数々が少女たちに待ち受けている。本作の持ち味である中二エッセンスや、テンポのいい戦闘シーンなどもしっかりと楽しめながら、物語はさらにダークになっていくので、持ち味そのまま、見どころマシマシと言ったところだろう。


ライトなのに土台がしっかり

本作は2000年代深夜アニメを連想するような、中二エッセンス満載のキャラクター設定や物語、バトル漫画のようなテンポの良い進行によってライトに作品を楽しむことができる。一方、日本古来の伝承が複雑に絡みつき融合したひとつの世界観と、後半に進むたびに陰陽少女たちに降りかかる真実とそれに向き合う心情描写にはグッと引き込まれた。ライトなのに意外と設定がしっかりしていたというのが、本作の魅力となっている。

ビジュアルノベルとして物語を彩るイベントCGやサウンドトラックが豊富な点も筆者としては推したいポイント。特にサウンドトラックは使いまわしが少なく、シーンごとにさまざまな楽曲が流れた印象を受けた。また、主要人物である桃の声優を務めるのは、昨年大きな話題となったアニメ「ぼっち・ざ・ろっく!」で山田リョウ役を担当した水野朔さんとなっており、現代の深夜アニメ声優が2000年代深夜アニメチックな作品の声優を担当する感慨深さも感じる。本作はビジュアルノベルとして、インディー・同人作品のような挑戦的な部分もありながら、土台がしっかりとしているため安心して楽しむことができるのも、筆者にとっては良いところであった。


本作はビジュアルノベルプレイヤーだけでなく、中二病的設定や、ライトに楽しむことができるプレイフィールを好む場合はおすすめしたい1作へと仕上がっている。アツいバトルが続く中二エッセンス満載の物語と、その先にある伝奇モノとしての世界観のおもしろみ、そして少女たちの過酷な運命をぜひ見届けてほしい。 『桃の華は鮮血に染まる』は、PC(Steam)/Nintendo Switch向けに配信中だ。