『シェンムーIII』開発にアニメーション監督の増田俊彦氏が参加、作中ムービーの絵コンテを担当する


シェンムーIII』を手がけるYs Netは5月31日、Kickstarterのキャンペーンページを更新し、制作プロジェクトにアニメーション監督の増田俊彦氏が新たなメンバーとして加わったことを報告した。同氏は、長年にわたり様々な作品を手がけており、アニメーション監督のほかに演出や作画監督など、アニメ業界の最前線で活躍してきた人物だ。本作では、ゲーム中で再生されるリアルタイムムービーの絵コンテを担当する。今回の報告では、その制作風景も少しだけ紹介されている。

増田俊彦氏は、これまでトムス・エンタテインメント制作のアニメーションを中心に幅広く活躍しており、2016年のテレビアニメでは「おそ松さん」「ルパン三世 イタリアン・ゲーム」「GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」などで原画や絵コンテを担当。1997年に「The New Batman」「Superman Adventures」でエミー賞を獲得した実績の持ち主だ。近年のゲームでは、2011年の『キャサリン – CATHERINE -』でキーアニメーションを、昨年発売された『ポポロクロイス牧場物語』では原画を手がけている。

『シェンムーIII』の絵コンテでは、映像で何をどのように伝えるのかを念頭に置きながら作業を進めているとのことで、中でも遠近感を重視したカット割りと、視点を取り入れることが重要になってくると説明している。また、本作のヒロイン「莎花」を愛くるしく天真爛漫に描くことで、彼女に秘められた子供らしさを表現することを意識しているという。鉛筆の手書きでキャラクターに生命が吹き込まれるさまは、まさに“アニメーション”の語源そのものである。

 

シェンムーサーガの歴史

「その者、東の遠つ国より海を渡りて現れり。若者、秘めし力、いまだ知らず。彼の身を滅ぼすことも、彼の願い、かなえしことも、その者、勇み立つ時、我を求めん。ともに荒れ野の道を行かん。邂逅は我のいにしえよりのさだめなり。漆黒の夜は広がりしも、明星は一つ輝き、長き物語は今、始まれり」
「その者、東の遠つ国より海を渡りて現れり。若者、秘めし力、いまだ知らず。彼の身を滅ぼすことも、彼の願い、かなえしことも、その者、勇み立つ時、我を求めん。ともに荒れ野の道を行かん。邂逅は我のいにしえよりのさだめなり。漆黒の夜は広がりしも、明星は一つ輝き、長き物語は今、始まれり」

『シェンムー』は、1999年にセガ(現セガゲームス)からドリームキャスト向けに発売されたアクションアドベンチャーゲーム(ジャンルの正式名称はFull Reactive Eyes Entertainment、通称FREE)。『スペースハリアー』や『バーチャファイター』といった、セガ黄金時代のアーケードゲームを世に送り出した鈴木裕氏が総監督を務め、ハリウッドをはじめとした多種多様な業界から人材を起用した空前絶後のプロジェクトとして、一世を風靡(ふうび)した。特に、オープンワールドの先駆けともいえる斬新かつ能動的なゲームデザインが海外で高く評価され、業界の権威「The Academy of Interactive Arts & Sciences」から、「2000年の最も革新的なゲーム」に選ばれたこともある。また、「最も制作費が使用されたテレビゲーム」として、当時のギネス世界記録に登録された。

しかし、国内における販売本数は60万本程度と、巨額の制作費に見合わない結果に。2001年には、続編『シェンムーII』が発売されたが、セガがドリームキャストの撤退を発表した9ヶ月後という発売時期やプロモーション不足から、販売本数は15万本程度とさらに落ち込んだ。こうした要因が重なったことで、全11章までの構想があった『シェンムー』シリーズの続編は開発休止を余儀なくされ、ストーリー未完のまま忘却の彼方へ消えていった。2004年以降、PC向けMMORPG『シェンムーオンライン』を中国で展開する計画もあったが、2007年にセガが同国におけるオンラインゲーム事業の撤退を表明したことで、開発は事実上の終了を迎えた。また、2010年には「モバゲータウン」(現Mobage)の運営元DeNAが、シリーズの外伝的なソーシャルゲーム『シェンムー街』を発表。鈴木裕氏が2008年に立ち上げたYs Netが開発を担当し、セガの監修の元「Yahoo!モバゲー」にて配信された。こちらは2011年12月をもってサービスを終了している。

14年を経て再び動き出したシェンムーサーガ
14年を経て再び動き出したシェンムーサーガ

こうした経緯からシリーズ続編の実現が絶望視される中、昨年の「E3 2015」にて、かねてより『シェンムーIII』を制作したいと繰り返し語っていた鈴木裕氏が、Kickstarterによるクラウドファンディングを発表。10年以上待ち続けたシェンムーファンが世界中で歓喜した。キャンペーンが開始されるやいなや、わずか1時間44分で100万ドルの資金調達を達成。「最も短時間で100万ドルを集めたビデオゲーム」として、ギネス世界記録に認定された。さらに、およそ8時間半後には初期目標額の200万ドルに到達し、『シェンムーIII』の制作は同日中に現実のものとなった。開発を担当するのは、初代『シェンムー』でメインプログラマーを務めた平井武史氏率いる株式会社ネイロ。対応プラットフォームはPlayStation 4とPCの予定で、2017年末の完成を目指している。ちなみに、主人公「芭月涼」の担当声優は、日米版ともに、過去シリーズに出演した松風雅也さんとコーリー・マーシャルさんである。

Kickstarterキャンペーンは、同年7月17日をもって終了。その時点で総額633万ドルを獲得した。ビデオゲーム部門での記録を更新したほか、Kickstarter全部門では6位にランクインしている。また、キャンペーン中にTwitch配信で実施したQ&Aセッションでは、シリーズの物語が『シェンムーIII』では完結しないことを、鈴木氏が明言。全11章の構想は過去2作で始まったばかりであり、残り1作で凝縮するにはあまりにも壮大過ぎることを理由に挙げていた。加えて、続編の発売に先立って、初代『シェンムー』と『シェンムーII』をHDリマスター版で復刻することにも意欲を示しており、IPを所有するセガゲームスにアピールする姿勢を見せた。そのほか、昨年8月には、『シェンムーIII』の発表以降、過去シリーズの中古品に注文が殺到し、国内外で価格が上昇しているとも伝えられていた。